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ラピスラズリの溜息 04
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花柳瑠璃、二十歳。弟と別口で面倒くさいことになっていますが、なにか?
法務大臣が罷免され、逃亡した犯罪者となったコンラッド・チェスターは捕縛された。王都に護送されてきて、本人確認を父親にさせ、虚偽がないかの二重確認のため、わたしは牢に足を運ぶことになった。
黒いドレスを着て黒いヴェールを被る。まるでお葬式ね。この装いはわたしを守るためのもの。マジックミラーのようなものがないので、牢の中に明かりを入れて、通路を真っ暗にする。闇がわたしを隠してくれる。
闇に紛れて顔を見る。酷薄そうな薄い顔は、見ようによってはいい男なのかもしれない。茶色い髪に氷の青をした瞳。こいつがはーちゃんを苦しめた。
王城には牢はない。そりゃそうでしょ。陛下のお住まいに罪人を置いておくわけないじゃない。王都にほど近い収容施設の最奥に、法務大臣、チェスター親子が収監されている。もちろん部屋は別々だ。
想像では鉄格子に石畳の寒々しい牢だったけど、普通に扉のついた個室だった。扉の上部に覗き窓があって、そこから覗いた限りでは、三畳くらいの広さの空間にベッドがポツンとあるだけだ。
ドキュメンタリー番組で見る刑務所みたいだった。
わたしの身長では覗き穴には届かないので、踏み台が用意してあった。確認して降りると法務官と騎士が間違いないかと聞いた。
頷いて、さて帰ろうかとなった時、収監エリアの入り口が騒がしくなった。怒号となだめる声と、なにかを殴る音。隣の騎士がチッと舌打ちした。
「あの野郎、火薔薇姫のご寵愛をいいことに」
ガンガン打ち付ける音が一向に止まないので、諦めてこの場を立ち去ることにした。入り口で止められていたのは、豪奢な赤毛が目を引く、縦も横も大きい男だった。⋯⋯世紀末に救世主が死を予告する世界にいませんでしたか?
「バルダッサーレ・ヴィンチ殿ですか?」
ご領主さまの元部下で傭兵、暁の獅子バルダッサーレ。野性的で色気のある男だわ。
「おう、お前は何もんだ? 罪人塔にその格好でいるなんざ、訳ありだろ?」
およそ元騎士とは思えない粗野な口調だけど、わたしが話しかけたことで壁を殴る手を止めた。宥めていた扉の番人があからさまに安堵している。
「名乗らずに失礼いたしました。ジーンスワーク辺境伯爵さまの被後見人、瑠璃・花柳・シュトーレンでございます」
ドレスの裾を引いてカーテシーをする。着物じゃないから、お辞儀はしない。
「ロッタさまの被後見人? あんた蝶々さんかい、花華さんかい?」
「⋯⋯多分蝶々です」
「蝶々ってタマじゃねぇみたいだな。女王蜂なんてどうだ?」
「失礼ですね」
でも嫌いじゃない。笑顔に屈託がない、気持ちのいい性分の男とみた。
「本当に失礼な奴だ。火薔薇姫を愛称で呼ぶなんて、うらや⋯⋯無礼千万!」
ご領主さまの下僕がブツブツ言ってる。アンタ羨ましいって言いかけたでしょ。
「で、被後見人の嬢ちゃんは、何しに来たんだ?」
「拘束された下手人の面通しです」
「⋯⋯チェスター伯爵のクソガキか?」
周りの温度が下がった気がする。この人、コンラッド・チェスターがマウリーノ・ロレッタにしたこと、聞いたのね。
「一発殴ってやろうと思ってな」
「あなたがそれをしたら、死んでしまいます。死なずにじわじわ苦しめる方法を、一緒に考えませんか?」
今殺されては困る。バルダッサーレさんが喜びそうな提案をして、罪人塔から離れることを了承させると、扉番が拝むように感謝の意を伝えてきた。
詰所の一室で待たせていた付添人役の侍女と合流して、ジーンスワークの王都邸に先触れを出してもらう。バルダッサーレさんを招いてお話しするためだ。
その辺の喫茶室とかで話せる内容じゃないでしょうしね。
王都邸では家宰のロックウェルさんが万事整えてくれて、サロンで腰を落ち着けることができた。お供の騎士はご領主さまの下僕なので(笑)、何を聞かせてもいい事になっている。
バルダッサーレさんがコンラッド・チェスターを殴りに行った理由、聞いてよかったんだか、悪かったんだか。
奴の罪状が増えた。
ロレッタ男爵領に自ら赴いて、マウリーノを父親から預かったバルダッサーレさんは、ひどく怯えられて内心落ち込んだ。
バルダッサーレさんは傭兵の稼ぎで王都にちょっと良い家を持っていて、マウリーノをそこに連れ込んだは良いものの、泣いて震えて話どころじゃない。戸籍上はとっくに婚姻が成立しているけど、話もできないようでは生活もままならない。
ゆっくり慣らして行こうと思っていたら、家の事を任せている女中に怒鳴りつけられたらしい。
その女中、スゴイわね。暁の獅子を箒で叩いたんですって。
「あんな細っこい坊ちゃんを鞭で打つなんて、旦那さまは人でなしです!」
風呂の手伝いをしようとして見てしまったと言った。
初老の女中はバルダッサーレさんを叱りつけながら容赦なく叩き、マウリーノの背中がどんなにひどいか、言いつのった。
驚いたのはバルダッサーレさんよね。可愛いマウリーノの背中がそんなだなんて、知らないんだから。
すぐさまマウリーノのもとへ駆け込み、泣いて暴れる相手の服を毟り取ると、背中一面、古いものから治りかけのものまで、さまざまなミミズ腫れで埋め尽くされていた。
「⋯⋯クソガキの野郎、獲物が見つからねぇ時はリーノを嬲っていやがった」
絞り出す言葉に怒りが滲む。
「リーノが、泣きながら言うんだ。怖い、自分は汚い、殺して、ってな。部屋の隅で誰かに向かって謝り続けてる。俺のことなんて見てやしないのに、時々、バル兄さまごめんなさいって」
汚れてしまってごめんなさい、か。
「リーノは継嗣だった。綺麗なまんまで、嫁さんを迎えさせてやりたかったんだ」
愛しいがゆえに手放したのにと、悔いる姿は萎れた獅子だ。
はっきりしたのは、いちばんの被害者はマウリーノ・ロレッタと言うこと。
「マウリーノ・ロレッタの罪状を知ってる?」
「⋯⋯婦女暴行」
「そうね、ひとりかふたりは、本当に乱暴してると思うわ。脅されて自分が被害者を生み出すって、どんな恐怖かしら? わたしね、マウリーノに押し倒されたわ。⋯⋯でも、それだけ。蔑むような事を言いながらソファーに押しつけられたけど、衣服にはいっさい手をつけられなかったの」
コンラッド・チェスターがはーちゃんを殴ったり首を締めたりするあいだ、マウリーノはただ、わたしを抑えていた。
助けてくれる、つもりだったのかしら?
「傭兵のあなたが取り乱すくらい、酷い鞭打ちの痕だったのでしょう? 訓練も受けていないマウリーノが逆らう気力を持てると思う?」
拷問まがいの虐待と洗脳じゃないの。
「騎士団の懲罰だって、あんな酷い事しやしねぇ」
吐き捨てるように言ったバルダッサーレが、遠くを見た。
「騎士さま、ご領主さまは騎士団の詰所にいらっしゃる? 今の話、伝えてくださるかしら?」
「ではお嬢様の警護は、屋敷の方に引き継ぎます」
ご領主さまの下僕⋯⋯じゃない、崇拝者に言付ける。あまり広めたい話じゃないから、直接ご領主さまに伝えてもらおう。
「ヴィンチ殿。コンラッド・チェスターに乱暴された被害者の中に、未遂ですが王太子さまと婚約したわたしの弟がいます。弟の名誉のため事件は公にしないことが決まっています。マウリーノの名前も世に出ることはありません」
加害者から被害者に書き換えられて、安心できる保護者に預けられるだろう。
「弟は王太子さまに愛されて、少しずつ立ち直っています。マウリーノを助けられるのは、どなたでしょうか?」
「俺に決まっているだろう」
暁の獅子がニヤリと笑った。
「リーノが世話かけた礼だ。困った時は格安で雇われてやる」
無償と言わないところがいい。
「あまり遅くなると、マウリーノが不安になるのではなくて?」
多分近づき過ぎてもダメだけど、姿が見えないのも不安だろう。マウリーノは、恐怖で縛っていたコンラッド・チェスターと引き離されて、心が壊れている。暁の獅子の腕の中じゃないと生きていけない。
バルダッサーレが邸を辞すと、ぐったりと疲れが襲ってきた。
被害者の話を聞いているだけでも、マウリーノ・ロレッタに同情心が沸いていたのに、もうダメだ。脅されながら少女を犯したって、体がついてくるのか疑問があったけど、脅されながらではなく、犯されながらなんだろう。
バルダッサーレは言葉を濁していたけど、マウリーノは乱暴されている。コンラッドは少年を犯すことに躊躇いがなかった。
考えるほどに、気が滅入る。
気を取り直して、法務大臣とチェスター伯爵だ。伯爵は息子の数々の所業を知っていて、法務大臣に賄賂を送り、事件を全て揉み消していた。被害者の中には法で裁いてもらおうと訴え出た者もいたんだけど、法務が汚れたお金を持っていちゃ、きちんと裁かれるはずもない。
法務大臣はチェスター伯爵だけじゃなく、ちょいちょい悪さをする小悪党数名から、それぞれ賄賂を受けていて、そのお金で北の連邦国家と繋がっていたらしい。本人は否定しているけど、小悪党がペロッと喋ったみたい。
北かぁ。ジーンスワークは北の辺境警備を担っている。仮想敵国っていうか、完全に連邦国家を想定した訓練をしてるんだけど、チェスター伯爵はなぜ、息子をそこに逃さなかったんだろう。繋がりがバレるから?
わざわざむさ苦しい犯罪集団に繋ぎを取ってまで、南に行くメリットはなにか。
日が変わって、騎士団の鍛錬場に犯罪集団のおっさんが来ると聞いて、立ち会いたいと申し出た。わたしの担当になってしまった下僕さんが迎えに来てくれた。ご領主さまのそばにいられなくなった事を詫びると、満面の笑顔を返された。
「お嬢様の警護の日は、報告にあがると直々に労いのお言葉をいただけるのであります!」
全力でこき使おうと決めた。
犯罪集団のおっさんたちは、なんて言うか、すっごい間の抜けたおっさんたちだった。
「おう、別嬪さんの姉ちゃんかい。別嬪さんの飯うまかったよ。ごっそうさん!」
開口一番それですか⁈ 一緒に立ち会っていたご領主さまが、怪訝な顔をしてたわ。美人はどんな表情してても美人だけど。
「この人たちの取り調べ、罪人塔じゃダメなんですか?」
「この中に鳥使いがおってな、他の獣魔が従うのか検証しようと思うてな。ちょうどいい、騎士団の獣魔使い、獣王の眼の持ち主のアルノルド・ステッラじゃ。むさ苦しい騎士団の中で、爽やかな風のようであろ?」
「はじめまして、ステッラと申します」
眼のくりっとした、可愛い感じの人だった。騎士団の青い制服を着ているけど、この中の誰よりも細い。身長もはーちゃんより少し高いくらいだ。
「ステッラは剣を持たぬ騎士じゃ」
「さすがに持ってますよ。使いませんけど」
ほにゃっと笑うと、ぐっと幼く見える。
「わたしの剣はこの子たちです。おいで!」
騎士たちの背後から、のっそりと大きな獣が現れた。二頭だ。
刀の刃紋のような鋭利な狼と、新品の銅貨の色をした熊。四つ足で歩いていた熊は試すようにこちらを見た後、後ろ足で立ち上がった。ーー大きい!
ステッラさんは『わたしの剣』と言った。つまり、完全に飼い慣らしているってことだ。それに獣王の眼とやらの持ち主でもある。
「シュザネットの三人目の獅子ですね。ニホンでは獅子を百獣の王と言います。獣の王の瞳の持ち主、三人目の獅子の君、あなたの剣に触れてもいいかしら?」
「もちろん!」
ステッラさんの声に歓喜が宿る。わたしはそっと二頭の獣に近づいた。
「この子たちのお名前は? モフり倒してもいいかしら?」
「魔狼がユーリャ、魔熊がエリシャ、ついでに魔兎がレアンだよ」
熊の後ろから白い毛玉が飛び出して、わたしの胸に飛び込んできた。
「うさぴょん? うさぴょんね⁈ レアンちゃんて言うのね。ユーリャちゃん、エリシャちゃん、はじめまして。瑠璃よ」
カーワーイーイーッ♡
個人的に『はぁと喋り』する小悪魔系女子大生は好きじゃない。でも、モフモフの前に、そんな些細な矜持は要らないのだよ! 可愛いは正義! モフモフも正義!
レアンちゃんを抱っこしたまま、エリシャちゃんに抱きついた。ちょっと毛が傷んでるなぁ。どれどれユーリャちゃんの毛並みは? ゴワゴワしてる。なんてもったいない!
「ステッラさん、ブラッシングしてあげたいんですけど、専用のブラシってお持ちですか?」
あら? 騎士さんたちが静かね。
「お嬢様、あのですね」
あら下僕さん、いたの?
「獣魔は基本、主人以外には懐きません。魔力がある分、普通の動物よりは賢いと言われますが、肉食獣ですから」
「わたしはステッラさんの許可をいただいたわ。許してくれたってことは、この子たちは人を襲わないって自信があるんでしょう? 全然怖くないもの。ねーーっ♡」
最後はレアンちゃんにチュウだ!
「ル、リィ嬢、お友達になってください!」
うひゃあ。背中からアタックですか! 声が涙声になってる。下僕さんが気不味げに視線を逸らすところを見ると、モフモフちゃんたちを怖がってステッラさんを遠巻きにしてたんでしょうね。
「ピューロロロ」
甘え声を響かせて、空から大きな鳥が降りてきた。鷹? 鷲? ダメだ、猛禽類の区別がつかない。とにかく人が乗れそうな巨鳥だわ。
わたしの背中でグスグス泣くステッラさんに、頭を擦り寄せている。慰めているかのようだ。
どこかからおっさんの声で「俺の鳥がぁ」と呻き声がした。騎士たちの肉壁で、おっさんの姿は見えないけど、ご領主さまが言っていた鳥使いなんだろう。
「この子のお名前は?」
「ま、まだ、うちの子になったばかりだから⋯⋯ル、リィ嬢が名付け親になってくれますか?」
「いいの? 空を翔ける、飛翔する、疾風。疾風。決めた、あなたの名前はハヤテよ」
「ピルルルーーッ!」
ハヤテが高く鳴いて、名前を受け入れてくれた。
「ありがとう、ル、リィ嬢」
「ルーリィと呼んでください」
「では、わたしもアルノルドと」
シュザネットの発音では瑠璃と発音するのが難しいみたい。ルリと発音してくれるのはミカさまだけよ。ステッラさんにも名前呼びを許してもらって、王都での対等なお友達を手に入れた。
さてさて、あとは下僕さんには、お仕置きが必要だわね。
「ご領主さま、こちらの騎士さまにお願いがあるのですが、よろしいですか?」
「申してみよ」
「南の保養地に、北と繋がりのある人物がいないか調べていただきたいのです。やはり、コンラッド・チェスターが南に向かったのには、理由があると思います」
温泉地で次の被害者を物色するためだったとか、わかりやすい理由なら良い。計画は潰えているのだから。
モフ友を得て数日、彼の非番の日には獣魔ちゃんたちをモフり倒して堪能していたら、下僕さんがシェランディア王国の大使からの旅行案内を持って来た。南の保養地だけじゃなく、シェランディア全土の観光地が紹介されていて、ついでに大使の面会申し込みもついて来た。
ご領主さまと王妃さまの了承を得て、夜会の日に会うことにした。会場なら人の目もあるし、大使自身も招待されれば鼻も高いだろう。
そうして夜会のホールで挨拶にやって来たのは、頭に何本も羽を差して、身体中に輪っかや鎖をジャラジャラ下げた、極楽鳥みたいな男だった。エルメル・ダビと名乗ったその男は、大袈裟にシュザネット風の挨拶をすると、せっかちに本題に入った。
「我が国の保養地に、ご旅行を計画して居られると聞きました。是非ともわたしに案内をさせてください」
「大使さま御自らなど、恐れ多いことでございます」
「ご遠慮めされるな、黄金の蝶々姫。美々しい黄金の姫とそぞろ歩くなど、誉こそあれ何を恐れることがございましょう」
あ、こいつ嫌いだ。
「これほど珍しい黄金の姫なら、是非とも王の妃に迎えたいものです。ご旅行と言わず、お輿入れくださいませんか?」
いきなり何を言ってるの? この人、ホントに大使なの? この人なりのユーモアのつもりなのかしら。下手なことは言えない。控える付添人役に目配せすると、さりげなく招待客に混じった男性が場を離れた。あからさまに護衛の下僕さんはわたしを後ろに下がらせた。
「これは大事にされておいでだ。異世界よりの迷い子と申しておられるが、どこぞの亡命貴族であられるのでは?」
「不躾が過ぎましょう。大使殿、これ以上はお控えください」
あら、下僕さん。ご領主さまが絡まないと、良い仕事するのね。けど相手が悪いかも。
「王の妃⋯⋯シェランディアの後宮には数多の美姫が寵を競っておられますが、黄金の蝶々姫なら大丈夫でございますよ。そのような美々しいご衣装の寵姫は他においでになりませんから」
控えろって言われた端から阿保なこと抜かすわ。人の話しを聞きやしない。この手のタイプは自分の思い込みだけで物事を進めるし、自分に都合の良いことしか聞かない。
「蝶々姫を後宮にとおっしゃるか。なんたる無礼。挨拶はここまです。大使殿、お下がりください」
「おや、後宮はダメですか。あぁそうだ。わたしはまだ妃がおりません。わたしの正妃にお迎えするのがよろしいか。ふむ、なかなか良い考えやもしれません。わたしの隣にいれば、いずれ王妃だ。我が妃としてシェランディアに参られよ。美々しい衣装のまま微笑んでいてくださればいいのです」
ぞっとした。数々のストーカー被害に遭って来た経験からすると、コイツはそうだ。
大体わたし自身は、最初に断りの言葉を言ってから、コイツを無視しまくっている。この手の阿保は照れてるだけとか解釈するから、トドメを刺しとかなきゃダメだ。
「郷里の民族衣装を気に入ってくださって、ありがとうございます。大使さまがお国で素敵な花嫁を迎えられたら、お贈りしますわ。では、ご機嫌よう」
返事は待たない。アイツに口を開かせたら、延々と喋り倒すに違いない。黄金のとか、美々しい衣装をとか、上っ面しか褒めてこないけど。
下僕さんと付添人役さんを引き連れて、会場から引き上げる。今日はもう、何もする気が起きない。アルノルドさんはハヤテと訓練のために王都を離れているし、モフモフで癒されたいのにそれもままならない。
それにしても、大使はハズレかしら。あれだけベラベラ喋られたら、秘密もペロッと漏らしそうだから、悪巧みの片棒を担ぐ相手には向かないかな。
日本人としては温泉地には非常に興味があるところだけど、極楽の怪鳥とは二度と会いたくない。
とか思っていたのだけだけど。翌日から外出する先々に極楽の怪鳥が現れるのだった。
面倒くさいことこの上ない!
法務大臣が罷免され、逃亡した犯罪者となったコンラッド・チェスターは捕縛された。王都に護送されてきて、本人確認を父親にさせ、虚偽がないかの二重確認のため、わたしは牢に足を運ぶことになった。
黒いドレスを着て黒いヴェールを被る。まるでお葬式ね。この装いはわたしを守るためのもの。マジックミラーのようなものがないので、牢の中に明かりを入れて、通路を真っ暗にする。闇がわたしを隠してくれる。
闇に紛れて顔を見る。酷薄そうな薄い顔は、見ようによってはいい男なのかもしれない。茶色い髪に氷の青をした瞳。こいつがはーちゃんを苦しめた。
王城には牢はない。そりゃそうでしょ。陛下のお住まいに罪人を置いておくわけないじゃない。王都にほど近い収容施設の最奥に、法務大臣、チェスター親子が収監されている。もちろん部屋は別々だ。
想像では鉄格子に石畳の寒々しい牢だったけど、普通に扉のついた個室だった。扉の上部に覗き窓があって、そこから覗いた限りでは、三畳くらいの広さの空間にベッドがポツンとあるだけだ。
ドキュメンタリー番組で見る刑務所みたいだった。
わたしの身長では覗き穴には届かないので、踏み台が用意してあった。確認して降りると法務官と騎士が間違いないかと聞いた。
頷いて、さて帰ろうかとなった時、収監エリアの入り口が騒がしくなった。怒号となだめる声と、なにかを殴る音。隣の騎士がチッと舌打ちした。
「あの野郎、火薔薇姫のご寵愛をいいことに」
ガンガン打ち付ける音が一向に止まないので、諦めてこの場を立ち去ることにした。入り口で止められていたのは、豪奢な赤毛が目を引く、縦も横も大きい男だった。⋯⋯世紀末に救世主が死を予告する世界にいませんでしたか?
「バルダッサーレ・ヴィンチ殿ですか?」
ご領主さまの元部下で傭兵、暁の獅子バルダッサーレ。野性的で色気のある男だわ。
「おう、お前は何もんだ? 罪人塔にその格好でいるなんざ、訳ありだろ?」
およそ元騎士とは思えない粗野な口調だけど、わたしが話しかけたことで壁を殴る手を止めた。宥めていた扉の番人があからさまに安堵している。
「名乗らずに失礼いたしました。ジーンスワーク辺境伯爵さまの被後見人、瑠璃・花柳・シュトーレンでございます」
ドレスの裾を引いてカーテシーをする。着物じゃないから、お辞儀はしない。
「ロッタさまの被後見人? あんた蝶々さんかい、花華さんかい?」
「⋯⋯多分蝶々です」
「蝶々ってタマじゃねぇみたいだな。女王蜂なんてどうだ?」
「失礼ですね」
でも嫌いじゃない。笑顔に屈託がない、気持ちのいい性分の男とみた。
「本当に失礼な奴だ。火薔薇姫を愛称で呼ぶなんて、うらや⋯⋯無礼千万!」
ご領主さまの下僕がブツブツ言ってる。アンタ羨ましいって言いかけたでしょ。
「で、被後見人の嬢ちゃんは、何しに来たんだ?」
「拘束された下手人の面通しです」
「⋯⋯チェスター伯爵のクソガキか?」
周りの温度が下がった気がする。この人、コンラッド・チェスターがマウリーノ・ロレッタにしたこと、聞いたのね。
「一発殴ってやろうと思ってな」
「あなたがそれをしたら、死んでしまいます。死なずにじわじわ苦しめる方法を、一緒に考えませんか?」
今殺されては困る。バルダッサーレさんが喜びそうな提案をして、罪人塔から離れることを了承させると、扉番が拝むように感謝の意を伝えてきた。
詰所の一室で待たせていた付添人役の侍女と合流して、ジーンスワークの王都邸に先触れを出してもらう。バルダッサーレさんを招いてお話しするためだ。
その辺の喫茶室とかで話せる内容じゃないでしょうしね。
王都邸では家宰のロックウェルさんが万事整えてくれて、サロンで腰を落ち着けることができた。お供の騎士はご領主さまの下僕なので(笑)、何を聞かせてもいい事になっている。
バルダッサーレさんがコンラッド・チェスターを殴りに行った理由、聞いてよかったんだか、悪かったんだか。
奴の罪状が増えた。
ロレッタ男爵領に自ら赴いて、マウリーノを父親から預かったバルダッサーレさんは、ひどく怯えられて内心落ち込んだ。
バルダッサーレさんは傭兵の稼ぎで王都にちょっと良い家を持っていて、マウリーノをそこに連れ込んだは良いものの、泣いて震えて話どころじゃない。戸籍上はとっくに婚姻が成立しているけど、話もできないようでは生活もままならない。
ゆっくり慣らして行こうと思っていたら、家の事を任せている女中に怒鳴りつけられたらしい。
その女中、スゴイわね。暁の獅子を箒で叩いたんですって。
「あんな細っこい坊ちゃんを鞭で打つなんて、旦那さまは人でなしです!」
風呂の手伝いをしようとして見てしまったと言った。
初老の女中はバルダッサーレさんを叱りつけながら容赦なく叩き、マウリーノの背中がどんなにひどいか、言いつのった。
驚いたのはバルダッサーレさんよね。可愛いマウリーノの背中がそんなだなんて、知らないんだから。
すぐさまマウリーノのもとへ駆け込み、泣いて暴れる相手の服を毟り取ると、背中一面、古いものから治りかけのものまで、さまざまなミミズ腫れで埋め尽くされていた。
「⋯⋯クソガキの野郎、獲物が見つからねぇ時はリーノを嬲っていやがった」
絞り出す言葉に怒りが滲む。
「リーノが、泣きながら言うんだ。怖い、自分は汚い、殺して、ってな。部屋の隅で誰かに向かって謝り続けてる。俺のことなんて見てやしないのに、時々、バル兄さまごめんなさいって」
汚れてしまってごめんなさい、か。
「リーノは継嗣だった。綺麗なまんまで、嫁さんを迎えさせてやりたかったんだ」
愛しいがゆえに手放したのにと、悔いる姿は萎れた獅子だ。
はっきりしたのは、いちばんの被害者はマウリーノ・ロレッタと言うこと。
「マウリーノ・ロレッタの罪状を知ってる?」
「⋯⋯婦女暴行」
「そうね、ひとりかふたりは、本当に乱暴してると思うわ。脅されて自分が被害者を生み出すって、どんな恐怖かしら? わたしね、マウリーノに押し倒されたわ。⋯⋯でも、それだけ。蔑むような事を言いながらソファーに押しつけられたけど、衣服にはいっさい手をつけられなかったの」
コンラッド・チェスターがはーちゃんを殴ったり首を締めたりするあいだ、マウリーノはただ、わたしを抑えていた。
助けてくれる、つもりだったのかしら?
「傭兵のあなたが取り乱すくらい、酷い鞭打ちの痕だったのでしょう? 訓練も受けていないマウリーノが逆らう気力を持てると思う?」
拷問まがいの虐待と洗脳じゃないの。
「騎士団の懲罰だって、あんな酷い事しやしねぇ」
吐き捨てるように言ったバルダッサーレが、遠くを見た。
「騎士さま、ご領主さまは騎士団の詰所にいらっしゃる? 今の話、伝えてくださるかしら?」
「ではお嬢様の警護は、屋敷の方に引き継ぎます」
ご領主さまの下僕⋯⋯じゃない、崇拝者に言付ける。あまり広めたい話じゃないから、直接ご領主さまに伝えてもらおう。
「ヴィンチ殿。コンラッド・チェスターに乱暴された被害者の中に、未遂ですが王太子さまと婚約したわたしの弟がいます。弟の名誉のため事件は公にしないことが決まっています。マウリーノの名前も世に出ることはありません」
加害者から被害者に書き換えられて、安心できる保護者に預けられるだろう。
「弟は王太子さまに愛されて、少しずつ立ち直っています。マウリーノを助けられるのは、どなたでしょうか?」
「俺に決まっているだろう」
暁の獅子がニヤリと笑った。
「リーノが世話かけた礼だ。困った時は格安で雇われてやる」
無償と言わないところがいい。
「あまり遅くなると、マウリーノが不安になるのではなくて?」
多分近づき過ぎてもダメだけど、姿が見えないのも不安だろう。マウリーノは、恐怖で縛っていたコンラッド・チェスターと引き離されて、心が壊れている。暁の獅子の腕の中じゃないと生きていけない。
バルダッサーレが邸を辞すと、ぐったりと疲れが襲ってきた。
被害者の話を聞いているだけでも、マウリーノ・ロレッタに同情心が沸いていたのに、もうダメだ。脅されながら少女を犯したって、体がついてくるのか疑問があったけど、脅されながらではなく、犯されながらなんだろう。
バルダッサーレは言葉を濁していたけど、マウリーノは乱暴されている。コンラッドは少年を犯すことに躊躇いがなかった。
考えるほどに、気が滅入る。
気を取り直して、法務大臣とチェスター伯爵だ。伯爵は息子の数々の所業を知っていて、法務大臣に賄賂を送り、事件を全て揉み消していた。被害者の中には法で裁いてもらおうと訴え出た者もいたんだけど、法務が汚れたお金を持っていちゃ、きちんと裁かれるはずもない。
法務大臣はチェスター伯爵だけじゃなく、ちょいちょい悪さをする小悪党数名から、それぞれ賄賂を受けていて、そのお金で北の連邦国家と繋がっていたらしい。本人は否定しているけど、小悪党がペロッと喋ったみたい。
北かぁ。ジーンスワークは北の辺境警備を担っている。仮想敵国っていうか、完全に連邦国家を想定した訓練をしてるんだけど、チェスター伯爵はなぜ、息子をそこに逃さなかったんだろう。繋がりがバレるから?
わざわざむさ苦しい犯罪集団に繋ぎを取ってまで、南に行くメリットはなにか。
日が変わって、騎士団の鍛錬場に犯罪集団のおっさんが来ると聞いて、立ち会いたいと申し出た。わたしの担当になってしまった下僕さんが迎えに来てくれた。ご領主さまのそばにいられなくなった事を詫びると、満面の笑顔を返された。
「お嬢様の警護の日は、報告にあがると直々に労いのお言葉をいただけるのであります!」
全力でこき使おうと決めた。
犯罪集団のおっさんたちは、なんて言うか、すっごい間の抜けたおっさんたちだった。
「おう、別嬪さんの姉ちゃんかい。別嬪さんの飯うまかったよ。ごっそうさん!」
開口一番それですか⁈ 一緒に立ち会っていたご領主さまが、怪訝な顔をしてたわ。美人はどんな表情してても美人だけど。
「この人たちの取り調べ、罪人塔じゃダメなんですか?」
「この中に鳥使いがおってな、他の獣魔が従うのか検証しようと思うてな。ちょうどいい、騎士団の獣魔使い、獣王の眼の持ち主のアルノルド・ステッラじゃ。むさ苦しい騎士団の中で、爽やかな風のようであろ?」
「はじめまして、ステッラと申します」
眼のくりっとした、可愛い感じの人だった。騎士団の青い制服を着ているけど、この中の誰よりも細い。身長もはーちゃんより少し高いくらいだ。
「ステッラは剣を持たぬ騎士じゃ」
「さすがに持ってますよ。使いませんけど」
ほにゃっと笑うと、ぐっと幼く見える。
「わたしの剣はこの子たちです。おいで!」
騎士たちの背後から、のっそりと大きな獣が現れた。二頭だ。
刀の刃紋のような鋭利な狼と、新品の銅貨の色をした熊。四つ足で歩いていた熊は試すようにこちらを見た後、後ろ足で立ち上がった。ーー大きい!
ステッラさんは『わたしの剣』と言った。つまり、完全に飼い慣らしているってことだ。それに獣王の眼とやらの持ち主でもある。
「シュザネットの三人目の獅子ですね。ニホンでは獅子を百獣の王と言います。獣の王の瞳の持ち主、三人目の獅子の君、あなたの剣に触れてもいいかしら?」
「もちろん!」
ステッラさんの声に歓喜が宿る。わたしはそっと二頭の獣に近づいた。
「この子たちのお名前は? モフり倒してもいいかしら?」
「魔狼がユーリャ、魔熊がエリシャ、ついでに魔兎がレアンだよ」
熊の後ろから白い毛玉が飛び出して、わたしの胸に飛び込んできた。
「うさぴょん? うさぴょんね⁈ レアンちゃんて言うのね。ユーリャちゃん、エリシャちゃん、はじめまして。瑠璃よ」
カーワーイーイーッ♡
個人的に『はぁと喋り』する小悪魔系女子大生は好きじゃない。でも、モフモフの前に、そんな些細な矜持は要らないのだよ! 可愛いは正義! モフモフも正義!
レアンちゃんを抱っこしたまま、エリシャちゃんに抱きついた。ちょっと毛が傷んでるなぁ。どれどれユーリャちゃんの毛並みは? ゴワゴワしてる。なんてもったいない!
「ステッラさん、ブラッシングしてあげたいんですけど、専用のブラシってお持ちですか?」
あら? 騎士さんたちが静かね。
「お嬢様、あのですね」
あら下僕さん、いたの?
「獣魔は基本、主人以外には懐きません。魔力がある分、普通の動物よりは賢いと言われますが、肉食獣ですから」
「わたしはステッラさんの許可をいただいたわ。許してくれたってことは、この子たちは人を襲わないって自信があるんでしょう? 全然怖くないもの。ねーーっ♡」
最後はレアンちゃんにチュウだ!
「ル、リィ嬢、お友達になってください!」
うひゃあ。背中からアタックですか! 声が涙声になってる。下僕さんが気不味げに視線を逸らすところを見ると、モフモフちゃんたちを怖がってステッラさんを遠巻きにしてたんでしょうね。
「ピューロロロ」
甘え声を響かせて、空から大きな鳥が降りてきた。鷹? 鷲? ダメだ、猛禽類の区別がつかない。とにかく人が乗れそうな巨鳥だわ。
わたしの背中でグスグス泣くステッラさんに、頭を擦り寄せている。慰めているかのようだ。
どこかからおっさんの声で「俺の鳥がぁ」と呻き声がした。騎士たちの肉壁で、おっさんの姿は見えないけど、ご領主さまが言っていた鳥使いなんだろう。
「この子のお名前は?」
「ま、まだ、うちの子になったばかりだから⋯⋯ル、リィ嬢が名付け親になってくれますか?」
「いいの? 空を翔ける、飛翔する、疾風。疾風。決めた、あなたの名前はハヤテよ」
「ピルルルーーッ!」
ハヤテが高く鳴いて、名前を受け入れてくれた。
「ありがとう、ル、リィ嬢」
「ルーリィと呼んでください」
「では、わたしもアルノルドと」
シュザネットの発音では瑠璃と発音するのが難しいみたい。ルリと発音してくれるのはミカさまだけよ。ステッラさんにも名前呼びを許してもらって、王都での対等なお友達を手に入れた。
さてさて、あとは下僕さんには、お仕置きが必要だわね。
「ご領主さま、こちらの騎士さまにお願いがあるのですが、よろしいですか?」
「申してみよ」
「南の保養地に、北と繋がりのある人物がいないか調べていただきたいのです。やはり、コンラッド・チェスターが南に向かったのには、理由があると思います」
温泉地で次の被害者を物色するためだったとか、わかりやすい理由なら良い。計画は潰えているのだから。
モフ友を得て数日、彼の非番の日には獣魔ちゃんたちをモフり倒して堪能していたら、下僕さんがシェランディア王国の大使からの旅行案内を持って来た。南の保養地だけじゃなく、シェランディア全土の観光地が紹介されていて、ついでに大使の面会申し込みもついて来た。
ご領主さまと王妃さまの了承を得て、夜会の日に会うことにした。会場なら人の目もあるし、大使自身も招待されれば鼻も高いだろう。
そうして夜会のホールで挨拶にやって来たのは、頭に何本も羽を差して、身体中に輪っかや鎖をジャラジャラ下げた、極楽鳥みたいな男だった。エルメル・ダビと名乗ったその男は、大袈裟にシュザネット風の挨拶をすると、せっかちに本題に入った。
「我が国の保養地に、ご旅行を計画して居られると聞きました。是非ともわたしに案内をさせてください」
「大使さま御自らなど、恐れ多いことでございます」
「ご遠慮めされるな、黄金の蝶々姫。美々しい黄金の姫とそぞろ歩くなど、誉こそあれ何を恐れることがございましょう」
あ、こいつ嫌いだ。
「これほど珍しい黄金の姫なら、是非とも王の妃に迎えたいものです。ご旅行と言わず、お輿入れくださいませんか?」
いきなり何を言ってるの? この人、ホントに大使なの? この人なりのユーモアのつもりなのかしら。下手なことは言えない。控える付添人役に目配せすると、さりげなく招待客に混じった男性が場を離れた。あからさまに護衛の下僕さんはわたしを後ろに下がらせた。
「これは大事にされておいでだ。異世界よりの迷い子と申しておられるが、どこぞの亡命貴族であられるのでは?」
「不躾が過ぎましょう。大使殿、これ以上はお控えください」
あら、下僕さん。ご領主さまが絡まないと、良い仕事するのね。けど相手が悪いかも。
「王の妃⋯⋯シェランディアの後宮には数多の美姫が寵を競っておられますが、黄金の蝶々姫なら大丈夫でございますよ。そのような美々しいご衣装の寵姫は他においでになりませんから」
控えろって言われた端から阿保なこと抜かすわ。人の話しを聞きやしない。この手のタイプは自分の思い込みだけで物事を進めるし、自分に都合の良いことしか聞かない。
「蝶々姫を後宮にとおっしゃるか。なんたる無礼。挨拶はここまです。大使殿、お下がりください」
「おや、後宮はダメですか。あぁそうだ。わたしはまだ妃がおりません。わたしの正妃にお迎えするのがよろしいか。ふむ、なかなか良い考えやもしれません。わたしの隣にいれば、いずれ王妃だ。我が妃としてシェランディアに参られよ。美々しい衣装のまま微笑んでいてくださればいいのです」
ぞっとした。数々のストーカー被害に遭って来た経験からすると、コイツはそうだ。
大体わたし自身は、最初に断りの言葉を言ってから、コイツを無視しまくっている。この手の阿保は照れてるだけとか解釈するから、トドメを刺しとかなきゃダメだ。
「郷里の民族衣装を気に入ってくださって、ありがとうございます。大使さまがお国で素敵な花嫁を迎えられたら、お贈りしますわ。では、ご機嫌よう」
返事は待たない。アイツに口を開かせたら、延々と喋り倒すに違いない。黄金のとか、美々しい衣装をとか、上っ面しか褒めてこないけど。
下僕さんと付添人役さんを引き連れて、会場から引き上げる。今日はもう、何もする気が起きない。アルノルドさんはハヤテと訓練のために王都を離れているし、モフモフで癒されたいのにそれもままならない。
それにしても、大使はハズレかしら。あれだけベラベラ喋られたら、秘密もペロッと漏らしそうだから、悪巧みの片棒を担ぐ相手には向かないかな。
日本人としては温泉地には非常に興味があるところだけど、極楽の怪鳥とは二度と会いたくない。
とか思っていたのだけだけど。翌日から外出する先々に極楽の怪鳥が現れるのだった。
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