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おれのマドマド落下事件から五日経ち、ロックウェルさんはすっかり孫馬鹿お爺ちゃんになってしまった。心に傷を負った稚い子供に無体を働く王太子さまは敵らしい(笑)。
アントニオさんは男手が必要な時もあるから、おれ付きのままだ。扉越しとか、おれが部屋の窓(三階)から、アントニオさんは庭みたいな状態なら話しもできるようになった。アクティブでお調子もので、侍従より田舎の駐在さんが似合いそうだ。
それから、辺境伯爵領から家令のロベルトさんと、ご領主さまの甥御さんのミカエレさまがやって来た。今回の随行員ではなかったけど、おれの輿入れ騒動で魔女さまの名代で王都に上ってきたとのことだ。魔女さまはおれの養い親だけど、森の封印(なにを封印してるのかは知らない)から離れられないので、岩城で一番身分あるミカエレさまが選出されたそうな。
ロベルトさんとはハグで再会を喜んだけど、ミカエレさまは握手が限度だった。るぅ姉とご領主さまの見解では、ロベルトさんは奥さんの立場だから安心しているのだろうということ。確かに決して女性的ではないのに柔らかな物腰は怖くない。⋯⋯ときどき、別の意味で怖いけど。
因みにミカエレさまはるぅ姉にプロポーズしている勇者だ。十日前に十八歳になったばかりで、婚姻可能年齢になったと喜んでいる。三年後にはご領主さまの跡を継いで辺境伯爵になることが決まっている。元々ご領主さまは、亡き兄上とミカエレさまの中継ぎなのだった。
王宮からの婚姻申し込みの御使者が来るのは明日だ。慣例により、王太子本人は来ることが出来ない。それでもブライトさまは毎日花やお菓子と手紙を届けてくださって、情報紙の紙面を賑わせてくれている。花の種類、お菓子の販売店が異常に正確に書かれているので驚いたけど、わざと情報を流して
溺愛ぶりをアピールしているんだそうだ。
内緒だけど、ブライトさま本人も夜にこっそり逢いに来てくれる。騎馬で往復だからたいしたことないって言うけど、王城を抜け出していいのかな。エッチなキスは何回かした。うわぁ、恥ずかしい!
ともあれ、るぅ姉とご領主さま、侍女さんトリオに追加してロベルトさんたちは、ツノを突き合わせておれの装いを吟味している。ミカエレさまとロベルトさんは領地に置いてきた振袖数着と和装小物を運んできたのだ。
その中に見たことのない帯があった。ジーンスワークの古代文様が織られている。
「試しに織ってみたんですが、着物にするには分厚くなりすぎたので、と粉屋の女将が持ってきました。針子のアンジェラが面白がって帯にしたら、思いの外良い出来で」
ぽこぽことした凹凸が陰影を作り、文様が立体的に浮かび上がっている。後染めの技術はまだないが、先染めの糸で織ったのか、淡いぼかしが美しい。全体的には天然絹の光沢だが、上品な仕上がりだ。
「明日の御使者さまは、こっちの振袖で銀系の帯にしましょう。明後日の陛下への婚約報告は、粉屋の女将さんの帯がいいわ」
辺境伯爵領は山間で、桑の木(に似ている)がたくさん生えている。おかげで養蚕を産業化してもなんとかなりそうだ。山からの湧水も豊富で染料の原料さえ取引できれば染物も出来るだろう。
美しい帯が出来上がったことで、おっかさんたちが俄然張り切っているらしい。
御使者として遣わされるのは宰相さまと女官長さまだ。王太子さまの婚姻は国家の公式行事なので、迎える俺たちも正装しなければならないのだ。お妃候補であるおれは、しきたりにより、御使者さまと直接会話してはいけないとか。従順と純潔を示すために、頭から全身を覆うヴェールをして、沈黙を守らねばならないそうだ。
一応おれ男だから、紋付き袴を提案してみたけど、全員に却下された。
「黒紋付きにヴェールはないわ。諦めなさい」
るぅ姉はこんなとき、味方になってくれない。シクシク。
ロックウェルさんに助けを求めたら、真面目な顔で「先の短い爺や奴に、愛らしゅうお姿をお見せくださいませ」と返された。
居間に置いた衣桁に掛かった振袖を見る。どうせならブライトさまに見てもらいたかったな。と思っていたら、夜になって見に来てくれた。
ブライトさまはソファーに座って、おれは定位置になってしまった膝の上。今日の出来事とかいろんな話をしながら、小鳥みたいなキスをする。
振袖を眺めていると、ブライトさまは明日のしきたりに同行できないことを残念がった。碧から裾に向けて黒のぼかしになっていて、色とりどりの華が描かれている。銀系の帯は控えめに花模様が織り込んであって、髪飾りと帯留めはブライトさまからの贈り物、帯締めは引き締めるために赤を選んで、重ね襟と帯揚げは山吹色だ。
「これで装った姿が見られないなんて、残念だな」
「明後日には違うの着るからね。それまで待ってて」
振袖を着ることの抵抗感が薄くなってきた。ダメじゃん、おれ。でもがっかりしてたブライトさまが、満面の笑みを浮かべたから、おれも嬉しくなってニンマリした。そしたら「可愛い」とか言いながらキスをしてきたので、もっともっと嬉しくなった。
るぅ姉はよくおれをアホの子と言うけど、間違いじゃなかったようだ。嬉しくなって調子に乗ったおれは、つい、ブライトさまの唇を舐めてしまった。そりゃもう、ペロッと。
ブライトさまは驚いておれの顔をまじまじと見た後、覆いかぶさるように唇を重ねた。何度か唇を舐め、隙間から歯列をつついて口を開かせられると、舌が滑り込んできた。
今日はエッチなの禁止って言ってたのに、何ていう抗議はできない。どう考えても調子に乗ったおれが悪い。横抱きにされていたのがブライトさまの腿を跨ぐように動かされて、両膝がソファーの座面についた。
るぅ姉が『裾が割られたらアウトだから』と言って、シャツとスラックスを出してくれてよかった。着物だったら行儀の悪いことになってた。今だって、充分に行儀悪いけど。
この何日かで、エッチなキスがちょっとだけ上手になった。まだ慣れないけど、おれからも舌を絡めたりブライトさまの舌を追いかけて歯列をなぞったりするようになった。おれがそうすると、決まってもっと凄いことをやり返されるけど。
時折、唇から離れて手のひらとか首にもキスされる。どこに唇が触れても背中がゾクゾクして焦燥感にも似た何かがわき起こる。お腹の奥が熱くなる。
「やっ、もう、苦しいっ」
キスの合間に声を上げると、ようやく唇を離したブライトさまは、最後の仕上げとばかりにおれの下唇を甘噛みした。
背中がぶるッと震えて、「はっ」と声のような呼気のような曖昧なものが口からこぼれた。
「どこもかしこも、真っ赤だ」
ブライトさまはクスクスと楽しそうだ。おれはいっぱいいっぱいで、返事もできない。
「明日はわたしも王城で儀式に臨む。夜も来ることができないから、もう一度、口づけさせて」
返事をする代わりに目を閉じた。
ゆるゆると舌をこすり合わせて、お互いの唾液をすする。
「あっは⋯⋯んん、あん」
ヤダ、変な声が出る。激しくされると声も出せないのに、ゆるりと舐られるとたまらない。こんな声がおれの口から出てるなんて、嘘みたいだ。
「⋯⋯んっふ、はふ⋯⋯んっ」
キスしてるだけなのに、もぞもぞと体が動く。気持ち良すぎて涙がにじむ。
上顎を舌先でくすぐられて、また、背中に震えが走った。唇が離されて耳元で囁かれる。
「玻璃の可愛いところが、涙をこぼしそうになってる。これより先は、婚約が無事に成立するまで我慢するよ」
なに? 可愛いとこ?
ブライトさまはおれを抱き上げると、危なげなく寝室に運び、ベッドに下ろしてくれた。おれはすっかり腰が抜けてふにゃふにゃになっていて、されるがままだ。
「まだ、帰っちゃヤダ」
「明後日、会えるよ。その時は正式にわたしの婚約者だから、王太子宮で玻璃の可愛いところ、全部見せて。だから今日はおやすみ」
熱い声音で言って、ブライトさまはおれのおでこにキスをして寝室を出て行った。お見送りなんて無理。立ち上がろうとして、大事なところが熱くなっていることに気がついた。
かかか、可愛いところって、ココ⁈
ななな、涙って⋯⋯涙って⋯⋯っ⁈
普通におっきくなってるって言ってくれたほうがマシなんだけど! 顔から火が出そうだ!
テンパリすぎて、ポヤポヤの頭が覚醒したのか、大事なところはすぐに落ち着いた。
おれはすっかり疲れていて、そのままベッドに潜り込んで眠ってしまったのだった。
目覚めると、朝から風呂の支度がされていて、ひとりで入浴する。ブライトさまがロックウェルさんに言ってくれて、王城でも必ずしも介助は必要ないと教えてくれた。ブライトさま自身が、ひとりで入浴するらしい。有事の際に、騎士がひとりでなにもできないのは困るからと言っていた。
浴室から出ると待ち構えていた侍女さんトリオが、半分濡れた髪にオイルを塗って整えて、魔法で乾かしてくれた。日本にいた頃より伸びた髪は前髪だけ整えて、女の子のショートとセミロングの中間みたいになっている。普段はチャラ男みたいにハーフアップにしてるんだけど、なぜかるぅ姉に『昭和のお嬢様みたい』と言われている。解せぬ。
それから簡単な朝食後、自分では中途半端な尻尾結びにしか出来ない髪をマーサさんにアップスタイルにしてもらう。
御使者さまは午前の遅い時間にいらっしゃる。王太子妃内定の宣旨を賜り、ご領主さまがそれを受け、魔女さまの名代のミカエレさまがお礼の口上を述べるのだそうだ。おれは辺境伯爵領の領民扱いなので、まずはご領主さまに、ということらしい。
るぅ姉が身も蓋もなく『大袈裟な結納だと思っときなさい』と言った。いや、結納ならブライトさまも来るから。
どんな魔法を使ったのか、襟足まで綺麗にアップされた髪は艶々としている。この十日間で侍女さんトリオの手入れが行き届いて、トリートメントのコマーシャルに出られそうだ。
今日の支度はドレッサールームではなく、居間で行われることになった。出入りする人が多いし、帯結びがあるからだ。
ドレッサールームで下から足袋裾除けと肌襦袢だけ身につける。これだけは練習した。長襦袢の襟が自分ではうまく抜けないので、ここからはるぅ姉に手伝ってもらう。男物は襟を抜かないから、やったことがないから仕方ない。
「半襟は寝かせ気味の方が、女らしく優しい感じになるからね」
「はい」
おれの襟元を整えながら、侍女さんトリオに解説している。なるほど、着付けの講習中らしい。だがしかし、おれに女らしさはいらん。
花の刺繍のついた半襟が、喉のくぼみを中心に左右均等に合わせられる。おれもここまでならできるんだけど、襟を抜いて紐をかけると、なぜか襟の抜けが元に戻っている。窮屈そうに詰まっちゃうんだな。ばあちゃんたちが、着物着てると首から風邪ひくと言っていたけど、そのくらい頸ががっぽり見える。
伊達締めをして振袖を羽織って、裾を合わせて腰紐締めて⋯⋯女の人は大変だ。男は慣れれば角帯一本でいける。
るぅ姉は凄いスピードで帯まで仕上げて、おれを侍女さんトリオに引き渡すと部屋を出て行った。自分の着付けに入るんだろう。残されたおれは鏡台の前に座らされて、再びメイクに入る。前回もそうだったけど、着付けよりメイクの方が時間がかかる。なんでだ? 顔面の土台から作り直すからか?
例によって平たい顔が恐ろしい変化を遂げた頃、桜柄の訪問着を着たるぅ姉が戻ってきた。大学の入学祝いにばあちゃんが仕立てた加賀友禅だ。るぅ姉の隣には上機嫌なミカエレさまが立っている。彼はるぅ姉の近くにいればいつでもご機嫌だ。おれよりひとつ年上なだけなのに、視線は遥か上だ。いつか旋毛見てやるから覚えてろ!
地味にミカエレさまを呪っていたら、るぅ姉が白いヴェールを持って来た。長いマリアヴェールだ。ふんわりとおれの頭に乗せて、満足そうに笑う。
『王都に来たときは、あなたをお嫁に出すなんて思ってなかったわ。多分わたしたちは日本には帰れない。この世界で、この国で、地に足をつけて生きて行かなきゃならない。幸せになることだけ、考えなさい』
『ありがとう、るぅ姉』
ふたりで腰に手を絡めあって、おでこをくっつける。ミカエレさまが「この姉弟は距離が近すぎる」と文句を言っているけど、聞こえないフリをする。ミカエレさまはるぅ姉がおれを構うときは、いつもぶつぶつ言う。慣れっこだ。
「では、時間だ。迎賓室に行くぞ」
ミカエレさまが合図をすると、控えていたロベルトさんがおれをエスコートしてくれた。本当はミカエレさまの役目なのだけど、怖くて腕に触れないので変更してくれた。御使者さまをお迎えするには身分が足りないらしいけど、女性のるぅ姉がするわけにもいかず、こうなった。ミカエレさまはかわりにるぅ姉をエスコートしてご満悦である。
迎賓室に着くと、おれはしばらく口を開いてはいけない。
待ちかまえていたロックウェルさんに恭しく先導されて、昨日教えられていた立ち位置に収まった。ロベルトさんは離れて扉近くに控え、かわりにミカエレさまが隣に来る。もともと見知った人なら、触れなければ平気みたい。るぅ姉はおれたちより少し下座に立つ。
程なくして、ご領主さまがジーンスワーク古代文様を施した昼間用の正装で現れて、おれたちの上座に立った。ロックウェルさんはご領主さまに礼をすると、御使者さまをお迎えするために玄関に向かった。使用人の中でもっとも身分の高いのが家宰だ。王家の御使者は陛下の名代でもある。礼を尽くさなければならない、とるぅ姉が教えてくれた。
すぐにロックウェルさんに導かれて宰相さまと女官長さまがおいでになった。女官長さまの後ろには何やら結納の品らしきものを捧げ持った男女がいておれたちの前を静々と進んでいく。
御使者のふたりがいちばん上座からこちらに向き直ると、そのまえに上品な設えの台が運び込まれ、結納の品が並べられた。男女が下がってロベルトさんの傍らに控えると、いよいよおれたちは御使者さまに対面する段となる。
ヴェール越しに見上げた宰相さまは初めて見る顔だった。少し神経質そうな五十代の男性で、真っ直ぐにおれを見る目が怖い。女官長さまはどっかで見たような⋯⋯王妃さまの私室で控えていた人だった。三十代後半かな? やっぱり美魔女だ。
「今日この佳き日に、そこなる異世界よりの華人に、国の次代の要たる、王太子の花嫁たる栄誉を授けることとあいなった。謹んで賜りませい」
「謹んで承ります。我が領の可憐なる蕾にございます。国の礎たらんこと、胆に命じさせてございますれば、殿下の庇護のもと、美しく咲かせてくださりませ」
宰相さまの尖った声が響き、ご領主さまの厳かな答辞が続く。
「これなるは王太子よりの婚約の印」
「謹んで拝領いたします。ありがたき幸せに存じます」
ミカエレさまが礼を述べた。
宰相さまが重々しく頷いて、結納の品が並べられた台が下げられると、退出される御使者さまを見送るために場所を開ける。これよりしばらく客間にて寛いでもらって昼餐になる。この昼餐は御使者を勤めてくださった宰相さまと女官長への礼だそうだ。
ふたりが迎賓室を出て行くと、力が抜けて座り込みそうになった。ただ立ってただけなのに、なんでこんなに緊張しているんだ。ご領主さまが全部してくださったのに、ミカエレさまとるぅ姉はここにいる必要があったのか? いや、心強いからいてくれて嬉しかったけど、ホラ、しきたり的にね。
「雁首揃ってるのが大事なんだ」
「枯れ木も山の賑わいよ」
聞いてみたら、なんとも言えない答えが返って来た。ご領主さまも否定しないので、そんなものなのか。
「面倒なんでかいつまんで言うとだな」
ミカエレさまが本当に面倒くさそうに言った。ご領主さまにそっくりの玲瓏たる美貌の持ち主なのに、いろいろ雑で残念な人なのだ。
要するに、王族の婚姻は他国との政略の場合が多々あって、帝国の宗主国である威厳と張ったりをしきたりとか、儀式とか言ってるだけなんだと。
うわー、ホントにかいつまんだなぁ。そしてご領主さま、やっぱり否定しないんだね。まぁ、御使者さまが他国まで赴くんなら、王太子さま本人は行けないよね。いろいろ納得したところで、昼餐の用意が整った。
昼餐は思いの外和やかに進んだ。なんとご夫妻だった宰相さまと女官長さま、奥さまにやり込められて、旦那さまがしょんぼりしていた。なんか可愛い。
「この人ったらね、両陛下と殿下に『お前は年齢が微妙なんだから、絶対にハリーに近づくな。万が一にも怯えさせないよう、内儀(妻)にしっかり見張ってもらえ』と釘を差されて、今日は始終変な顔してるんですのよ」
「わたくしも笑いが出そうで焦ったわ」
女官長さまがコロコロ笑って、宰相さまが重々しく頷いた。ご領主さまもちょっと意地悪な微笑みを溢している。なんか、仲良いな。それにしても、だからあんな怖い表情してたのか。ちょっとおかしくなって、笑ってしまった。
「あら、ハリーさま。ようやく笑顔でございますね。可愛らしゅうございますわ」
女官長さまが言った。
その後御使者さまは王城へ帰り、王太子さまに報告の儀を行い、さらに王太子さまに付き従って陛下に報告の儀をする、と。
ミカエレさまの言う通り、威厳と張ったりかますんだね。
アントニオさんは男手が必要な時もあるから、おれ付きのままだ。扉越しとか、おれが部屋の窓(三階)から、アントニオさんは庭みたいな状態なら話しもできるようになった。アクティブでお調子もので、侍従より田舎の駐在さんが似合いそうだ。
それから、辺境伯爵領から家令のロベルトさんと、ご領主さまの甥御さんのミカエレさまがやって来た。今回の随行員ではなかったけど、おれの輿入れ騒動で魔女さまの名代で王都に上ってきたとのことだ。魔女さまはおれの養い親だけど、森の封印(なにを封印してるのかは知らない)から離れられないので、岩城で一番身分あるミカエレさまが選出されたそうな。
ロベルトさんとはハグで再会を喜んだけど、ミカエレさまは握手が限度だった。るぅ姉とご領主さまの見解では、ロベルトさんは奥さんの立場だから安心しているのだろうということ。確かに決して女性的ではないのに柔らかな物腰は怖くない。⋯⋯ときどき、別の意味で怖いけど。
因みにミカエレさまはるぅ姉にプロポーズしている勇者だ。十日前に十八歳になったばかりで、婚姻可能年齢になったと喜んでいる。三年後にはご領主さまの跡を継いで辺境伯爵になることが決まっている。元々ご領主さまは、亡き兄上とミカエレさまの中継ぎなのだった。
王宮からの婚姻申し込みの御使者が来るのは明日だ。慣例により、王太子本人は来ることが出来ない。それでもブライトさまは毎日花やお菓子と手紙を届けてくださって、情報紙の紙面を賑わせてくれている。花の種類、お菓子の販売店が異常に正確に書かれているので驚いたけど、わざと情報を流して
溺愛ぶりをアピールしているんだそうだ。
内緒だけど、ブライトさま本人も夜にこっそり逢いに来てくれる。騎馬で往復だからたいしたことないって言うけど、王城を抜け出していいのかな。エッチなキスは何回かした。うわぁ、恥ずかしい!
ともあれ、るぅ姉とご領主さま、侍女さんトリオに追加してロベルトさんたちは、ツノを突き合わせておれの装いを吟味している。ミカエレさまとロベルトさんは領地に置いてきた振袖数着と和装小物を運んできたのだ。
その中に見たことのない帯があった。ジーンスワークの古代文様が織られている。
「試しに織ってみたんですが、着物にするには分厚くなりすぎたので、と粉屋の女将が持ってきました。針子のアンジェラが面白がって帯にしたら、思いの外良い出来で」
ぽこぽことした凹凸が陰影を作り、文様が立体的に浮かび上がっている。後染めの技術はまだないが、先染めの糸で織ったのか、淡いぼかしが美しい。全体的には天然絹の光沢だが、上品な仕上がりだ。
「明日の御使者さまは、こっちの振袖で銀系の帯にしましょう。明後日の陛下への婚約報告は、粉屋の女将さんの帯がいいわ」
辺境伯爵領は山間で、桑の木(に似ている)がたくさん生えている。おかげで養蚕を産業化してもなんとかなりそうだ。山からの湧水も豊富で染料の原料さえ取引できれば染物も出来るだろう。
美しい帯が出来上がったことで、おっかさんたちが俄然張り切っているらしい。
御使者として遣わされるのは宰相さまと女官長さまだ。王太子さまの婚姻は国家の公式行事なので、迎える俺たちも正装しなければならないのだ。お妃候補であるおれは、しきたりにより、御使者さまと直接会話してはいけないとか。従順と純潔を示すために、頭から全身を覆うヴェールをして、沈黙を守らねばならないそうだ。
一応おれ男だから、紋付き袴を提案してみたけど、全員に却下された。
「黒紋付きにヴェールはないわ。諦めなさい」
るぅ姉はこんなとき、味方になってくれない。シクシク。
ロックウェルさんに助けを求めたら、真面目な顔で「先の短い爺や奴に、愛らしゅうお姿をお見せくださいませ」と返された。
居間に置いた衣桁に掛かった振袖を見る。どうせならブライトさまに見てもらいたかったな。と思っていたら、夜になって見に来てくれた。
ブライトさまはソファーに座って、おれは定位置になってしまった膝の上。今日の出来事とかいろんな話をしながら、小鳥みたいなキスをする。
振袖を眺めていると、ブライトさまは明日のしきたりに同行できないことを残念がった。碧から裾に向けて黒のぼかしになっていて、色とりどりの華が描かれている。銀系の帯は控えめに花模様が織り込んであって、髪飾りと帯留めはブライトさまからの贈り物、帯締めは引き締めるために赤を選んで、重ね襟と帯揚げは山吹色だ。
「これで装った姿が見られないなんて、残念だな」
「明後日には違うの着るからね。それまで待ってて」
振袖を着ることの抵抗感が薄くなってきた。ダメじゃん、おれ。でもがっかりしてたブライトさまが、満面の笑みを浮かべたから、おれも嬉しくなってニンマリした。そしたら「可愛い」とか言いながらキスをしてきたので、もっともっと嬉しくなった。
るぅ姉はよくおれをアホの子と言うけど、間違いじゃなかったようだ。嬉しくなって調子に乗ったおれは、つい、ブライトさまの唇を舐めてしまった。そりゃもう、ペロッと。
ブライトさまは驚いておれの顔をまじまじと見た後、覆いかぶさるように唇を重ねた。何度か唇を舐め、隙間から歯列をつついて口を開かせられると、舌が滑り込んできた。
今日はエッチなの禁止って言ってたのに、何ていう抗議はできない。どう考えても調子に乗ったおれが悪い。横抱きにされていたのがブライトさまの腿を跨ぐように動かされて、両膝がソファーの座面についた。
るぅ姉が『裾が割られたらアウトだから』と言って、シャツとスラックスを出してくれてよかった。着物だったら行儀の悪いことになってた。今だって、充分に行儀悪いけど。
この何日かで、エッチなキスがちょっとだけ上手になった。まだ慣れないけど、おれからも舌を絡めたりブライトさまの舌を追いかけて歯列をなぞったりするようになった。おれがそうすると、決まってもっと凄いことをやり返されるけど。
時折、唇から離れて手のひらとか首にもキスされる。どこに唇が触れても背中がゾクゾクして焦燥感にも似た何かがわき起こる。お腹の奥が熱くなる。
「やっ、もう、苦しいっ」
キスの合間に声を上げると、ようやく唇を離したブライトさまは、最後の仕上げとばかりにおれの下唇を甘噛みした。
背中がぶるッと震えて、「はっ」と声のような呼気のような曖昧なものが口からこぼれた。
「どこもかしこも、真っ赤だ」
ブライトさまはクスクスと楽しそうだ。おれはいっぱいいっぱいで、返事もできない。
「明日はわたしも王城で儀式に臨む。夜も来ることができないから、もう一度、口づけさせて」
返事をする代わりに目を閉じた。
ゆるゆると舌をこすり合わせて、お互いの唾液をすする。
「あっは⋯⋯んん、あん」
ヤダ、変な声が出る。激しくされると声も出せないのに、ゆるりと舐られるとたまらない。こんな声がおれの口から出てるなんて、嘘みたいだ。
「⋯⋯んっふ、はふ⋯⋯んっ」
キスしてるだけなのに、もぞもぞと体が動く。気持ち良すぎて涙がにじむ。
上顎を舌先でくすぐられて、また、背中に震えが走った。唇が離されて耳元で囁かれる。
「玻璃の可愛いところが、涙をこぼしそうになってる。これより先は、婚約が無事に成立するまで我慢するよ」
なに? 可愛いとこ?
ブライトさまはおれを抱き上げると、危なげなく寝室に運び、ベッドに下ろしてくれた。おれはすっかり腰が抜けてふにゃふにゃになっていて、されるがままだ。
「まだ、帰っちゃヤダ」
「明後日、会えるよ。その時は正式にわたしの婚約者だから、王太子宮で玻璃の可愛いところ、全部見せて。だから今日はおやすみ」
熱い声音で言って、ブライトさまはおれのおでこにキスをして寝室を出て行った。お見送りなんて無理。立ち上がろうとして、大事なところが熱くなっていることに気がついた。
かかか、可愛いところって、ココ⁈
ななな、涙って⋯⋯涙って⋯⋯っ⁈
普通におっきくなってるって言ってくれたほうがマシなんだけど! 顔から火が出そうだ!
テンパリすぎて、ポヤポヤの頭が覚醒したのか、大事なところはすぐに落ち着いた。
おれはすっかり疲れていて、そのままベッドに潜り込んで眠ってしまったのだった。
目覚めると、朝から風呂の支度がされていて、ひとりで入浴する。ブライトさまがロックウェルさんに言ってくれて、王城でも必ずしも介助は必要ないと教えてくれた。ブライトさま自身が、ひとりで入浴するらしい。有事の際に、騎士がひとりでなにもできないのは困るからと言っていた。
浴室から出ると待ち構えていた侍女さんトリオが、半分濡れた髪にオイルを塗って整えて、魔法で乾かしてくれた。日本にいた頃より伸びた髪は前髪だけ整えて、女の子のショートとセミロングの中間みたいになっている。普段はチャラ男みたいにハーフアップにしてるんだけど、なぜかるぅ姉に『昭和のお嬢様みたい』と言われている。解せぬ。
それから簡単な朝食後、自分では中途半端な尻尾結びにしか出来ない髪をマーサさんにアップスタイルにしてもらう。
御使者さまは午前の遅い時間にいらっしゃる。王太子妃内定の宣旨を賜り、ご領主さまがそれを受け、魔女さまの名代のミカエレさまがお礼の口上を述べるのだそうだ。おれは辺境伯爵領の領民扱いなので、まずはご領主さまに、ということらしい。
るぅ姉が身も蓋もなく『大袈裟な結納だと思っときなさい』と言った。いや、結納ならブライトさまも来るから。
どんな魔法を使ったのか、襟足まで綺麗にアップされた髪は艶々としている。この十日間で侍女さんトリオの手入れが行き届いて、トリートメントのコマーシャルに出られそうだ。
今日の支度はドレッサールームではなく、居間で行われることになった。出入りする人が多いし、帯結びがあるからだ。
ドレッサールームで下から足袋裾除けと肌襦袢だけ身につける。これだけは練習した。長襦袢の襟が自分ではうまく抜けないので、ここからはるぅ姉に手伝ってもらう。男物は襟を抜かないから、やったことがないから仕方ない。
「半襟は寝かせ気味の方が、女らしく優しい感じになるからね」
「はい」
おれの襟元を整えながら、侍女さんトリオに解説している。なるほど、着付けの講習中らしい。だがしかし、おれに女らしさはいらん。
花の刺繍のついた半襟が、喉のくぼみを中心に左右均等に合わせられる。おれもここまでならできるんだけど、襟を抜いて紐をかけると、なぜか襟の抜けが元に戻っている。窮屈そうに詰まっちゃうんだな。ばあちゃんたちが、着物着てると首から風邪ひくと言っていたけど、そのくらい頸ががっぽり見える。
伊達締めをして振袖を羽織って、裾を合わせて腰紐締めて⋯⋯女の人は大変だ。男は慣れれば角帯一本でいける。
るぅ姉は凄いスピードで帯まで仕上げて、おれを侍女さんトリオに引き渡すと部屋を出て行った。自分の着付けに入るんだろう。残されたおれは鏡台の前に座らされて、再びメイクに入る。前回もそうだったけど、着付けよりメイクの方が時間がかかる。なんでだ? 顔面の土台から作り直すからか?
例によって平たい顔が恐ろしい変化を遂げた頃、桜柄の訪問着を着たるぅ姉が戻ってきた。大学の入学祝いにばあちゃんが仕立てた加賀友禅だ。るぅ姉の隣には上機嫌なミカエレさまが立っている。彼はるぅ姉の近くにいればいつでもご機嫌だ。おれよりひとつ年上なだけなのに、視線は遥か上だ。いつか旋毛見てやるから覚えてろ!
地味にミカエレさまを呪っていたら、るぅ姉が白いヴェールを持って来た。長いマリアヴェールだ。ふんわりとおれの頭に乗せて、満足そうに笑う。
『王都に来たときは、あなたをお嫁に出すなんて思ってなかったわ。多分わたしたちは日本には帰れない。この世界で、この国で、地に足をつけて生きて行かなきゃならない。幸せになることだけ、考えなさい』
『ありがとう、るぅ姉』
ふたりで腰に手を絡めあって、おでこをくっつける。ミカエレさまが「この姉弟は距離が近すぎる」と文句を言っているけど、聞こえないフリをする。ミカエレさまはるぅ姉がおれを構うときは、いつもぶつぶつ言う。慣れっこだ。
「では、時間だ。迎賓室に行くぞ」
ミカエレさまが合図をすると、控えていたロベルトさんがおれをエスコートしてくれた。本当はミカエレさまの役目なのだけど、怖くて腕に触れないので変更してくれた。御使者さまをお迎えするには身分が足りないらしいけど、女性のるぅ姉がするわけにもいかず、こうなった。ミカエレさまはかわりにるぅ姉をエスコートしてご満悦である。
迎賓室に着くと、おれはしばらく口を開いてはいけない。
待ちかまえていたロックウェルさんに恭しく先導されて、昨日教えられていた立ち位置に収まった。ロベルトさんは離れて扉近くに控え、かわりにミカエレさまが隣に来る。もともと見知った人なら、触れなければ平気みたい。るぅ姉はおれたちより少し下座に立つ。
程なくして、ご領主さまがジーンスワーク古代文様を施した昼間用の正装で現れて、おれたちの上座に立った。ロックウェルさんはご領主さまに礼をすると、御使者さまをお迎えするために玄関に向かった。使用人の中でもっとも身分の高いのが家宰だ。王家の御使者は陛下の名代でもある。礼を尽くさなければならない、とるぅ姉が教えてくれた。
すぐにロックウェルさんに導かれて宰相さまと女官長さまがおいでになった。女官長さまの後ろには何やら結納の品らしきものを捧げ持った男女がいておれたちの前を静々と進んでいく。
御使者のふたりがいちばん上座からこちらに向き直ると、そのまえに上品な設えの台が運び込まれ、結納の品が並べられた。男女が下がってロベルトさんの傍らに控えると、いよいよおれたちは御使者さまに対面する段となる。
ヴェール越しに見上げた宰相さまは初めて見る顔だった。少し神経質そうな五十代の男性で、真っ直ぐにおれを見る目が怖い。女官長さまはどっかで見たような⋯⋯王妃さまの私室で控えていた人だった。三十代後半かな? やっぱり美魔女だ。
「今日この佳き日に、そこなる異世界よりの華人に、国の次代の要たる、王太子の花嫁たる栄誉を授けることとあいなった。謹んで賜りませい」
「謹んで承ります。我が領の可憐なる蕾にございます。国の礎たらんこと、胆に命じさせてございますれば、殿下の庇護のもと、美しく咲かせてくださりませ」
宰相さまの尖った声が響き、ご領主さまの厳かな答辞が続く。
「これなるは王太子よりの婚約の印」
「謹んで拝領いたします。ありがたき幸せに存じます」
ミカエレさまが礼を述べた。
宰相さまが重々しく頷いて、結納の品が並べられた台が下げられると、退出される御使者さまを見送るために場所を開ける。これよりしばらく客間にて寛いでもらって昼餐になる。この昼餐は御使者を勤めてくださった宰相さまと女官長への礼だそうだ。
ふたりが迎賓室を出て行くと、力が抜けて座り込みそうになった。ただ立ってただけなのに、なんでこんなに緊張しているんだ。ご領主さまが全部してくださったのに、ミカエレさまとるぅ姉はここにいる必要があったのか? いや、心強いからいてくれて嬉しかったけど、ホラ、しきたり的にね。
「雁首揃ってるのが大事なんだ」
「枯れ木も山の賑わいよ」
聞いてみたら、なんとも言えない答えが返って来た。ご領主さまも否定しないので、そんなものなのか。
「面倒なんでかいつまんで言うとだな」
ミカエレさまが本当に面倒くさそうに言った。ご領主さまにそっくりの玲瓏たる美貌の持ち主なのに、いろいろ雑で残念な人なのだ。
要するに、王族の婚姻は他国との政略の場合が多々あって、帝国の宗主国である威厳と張ったりをしきたりとか、儀式とか言ってるだけなんだと。
うわー、ホントにかいつまんだなぁ。そしてご領主さま、やっぱり否定しないんだね。まぁ、御使者さまが他国まで赴くんなら、王太子さま本人は行けないよね。いろいろ納得したところで、昼餐の用意が整った。
昼餐は思いの外和やかに進んだ。なんとご夫妻だった宰相さまと女官長さま、奥さまにやり込められて、旦那さまがしょんぼりしていた。なんか可愛い。
「この人ったらね、両陛下と殿下に『お前は年齢が微妙なんだから、絶対にハリーに近づくな。万が一にも怯えさせないよう、内儀(妻)にしっかり見張ってもらえ』と釘を差されて、今日は始終変な顔してるんですのよ」
「わたくしも笑いが出そうで焦ったわ」
女官長さまがコロコロ笑って、宰相さまが重々しく頷いた。ご領主さまもちょっと意地悪な微笑みを溢している。なんか、仲良いな。それにしても、だからあんな怖い表情してたのか。ちょっとおかしくなって、笑ってしまった。
「あら、ハリーさま。ようやく笑顔でございますね。可愛らしゅうございますわ」
女官長さまが言った。
その後御使者さまは王城へ帰り、王太子さまに報告の儀を行い、さらに王太子さまに付き従って陛下に報告の儀をする、と。
ミカエレさまの言う通り、威厳と張ったりかますんだね。
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