20 / 57
2巻
2-3
しおりを挟む
「王宮内司の長官から、相談を受けました」
「はあ」
俺の返事は困惑を隠しきれない。
王宮内司は王族の全てを取りしきるので、王族に届けられるものを検閲する。俺は王族ではないんだけど、リューイの所有物なので、リューイ宛と同じように処理されていた。
そのせいで、内容に困惑した検閲官が長官に采配を委ね、王宮内司内で処理するべきものではないと判断したらしい。
いったいどんな手紙なんだ。
「リュシー様は読んだの?」
「まだだ」
宰相府を経由したってことは、それなりの内容で、でも俺には読ませたいってことだよね。
甘い花のフレグランスを纏った女性らしい手紙は、シーリングが壊れていた。封筒を開いて便箋を取り出すと、さらに高らかに香る。招待状からも窺えたけど、とても丁寧な文字だ。
「香りも便箋も品があるし、文字もとても綺麗だし、本当に大事に育ててもらったんだろうなぁ」
「どこに嫁してもいいように、伯爵家の威信をかけて育てたのでしょうね。奉仕活動にも熱心ですし、妃候補でさえなければ理想的な花嫁だというのが、若い貴族の男の見解です」
宰相様が言うので、そんなものかと思う。そういえば『民のため』とか言っていたな。平民の俺を馬鹿にしなかったし……って、比べるご令嬢が、トンデモ令嬢ジュリエッタ・ピヒナと彼女に虐待されていた薄幸令嬢アイリス・ピヒナしかいないので、参考にならない。アイリス嬢はいい奥さんになると思うけどね。
気を取り直して手紙を読む。
「家出の相談?」
そうとしか思えない内容だった。これは王宮内司も困惑しただろう。
伯爵令嬢は俺が幸せだと言い切ったのを聞いて、祖父母の言葉に疑問を持ったのだと記している。同時に父の言葉にも。
スニャータの血を引く今上陛下が本当に穢れているのなら、幸せそうだった王弟殿下の叔父君の態度はおかしい。そもそも、穢れているとは、どういうことなのだろう。実の兄弟姉妹で情を交わすことには考えすら及ばないが、王太后様の夫は先代陛下であり、今上陛下は直接の近親婚からの子ではない。では、穢れとはどこまでなのか。
そんなことが延々と書いてある。
そして、陛下のお子を次代の王にはできないと言いながら、自分には子を産めと言う。国を支えるための次代ではなく、父が政を円滑に回すためのお子だとでも言うのだろうか。ならば自分はなんのために陛下に嫁さねばならぬのか、わからなくなったのだ、と。
祖父母、両親以外の大人の話を聞きたい。市井に紛れて、民が本当に必要としていることを知りたい。
「で、市井の民の伝手って、俺しか浮かばなかったわけだ」
三人でため息をつく。
「親の言いなりのお人形さんが生命を得た、というところでしょう」
宰相様の言葉は、言い得て妙だ。
王宮内司で手紙を処分した結果、令嬢がひとりで悩んで家出をしても困る……というか後味が悪い。祖父母なり父親なりに、お宅のお嬢さんこんな手紙寄越しましたよ、って言える? ……言えないよねぇ。
彼女は俺にこの相談をしたくて、再三招待状を送ってきたのか。
「……イゾルデ嬢、友達いるのかな?」
俺が言うのも変だけど。
相談する相手が、俺しかいないってどうなんだ?
「ルシオが私とフィンにこの手紙を見せたということは、何か考えがあるのだろう?」
「もちろんです」
うわぁ、リュシー様と宰相様――ルシオ様が悪い顔してる~。
「エルフィン様がイゾルデ嬢の茶会に赴かれた折の報告書を読みました。侍従官、近衛騎士、双方ほぼ同じ内容です。まぁウィレムとカインなら抜けや漏れはないでしょう。ホーパエル伯爵は、ずいぶん面白い教育をなさっておいでですね」
家族間での愚痴レベルで不敬罪を検挙していては恐怖政治になってしまう。王子の外戚になりたい者を罰していっては、いったい何人を検挙しなきゃいけないんだろう。
「これを機に、お灸を据えることくらいはできますよ。そのためにはイゾルデ嬢を保護して、話を聞く必要があります」
保護って、どうやって?
「ピヒナ侯爵家に頼みましょうか。伯爵家より高位ですし、アイリス嬢の相談役などと言われたら、ホーパエル伯爵も鼻が高いのではないですか?」
アイリス嬢は今をときめく社交界の花。悪辣な叔父に不当に扱われながら正当な跡取りである幼い弟を守った女性として話題の中心だ。それに宰相閣下の庇護を受け、国王陛下の覚えもめでたいなんて仲良くしておいて損はない。
「でも、アイリス嬢に悪くない?」
「アイリス嬢にとっても悪い話ではないのですよ。イゾルデ嬢は令嬢としての教育が行き届いた立派な淑女です。奉仕活動など、アイリス嬢が不慣れな面を補ってもらえばよいのです」
なるほど。アイリス嬢は十二歳までの下地があるとはいえ、年頃の貴族令嬢としての経験が浅い。イゾルデ嬢にはそこを補ってもらいつつ、考える時間を作ってあげるのか。
「じゃあ、リューイにお茶会を開いてもらう? オリヴァー様たちをご招待してお茶会の練習をするの。アイリス嬢もいきなり正式なお茶会は不安だろうから、経験値を上げるために参加してもらって、そこにイゾルデ嬢も招待しちゃダメかな? ちょっと参加理由を考えなきゃだけど」
「いい考えだ。ホーパエル伯爵は今のところリューイと接点がないから、飛びついてくるだろうな。茶会の趣旨を説明して、アイリス嬢の手本になる女性を探しているとでも言えば、イゾルデ嬢を勧めてくるだろう」
リュシー様が俺の意見を支持してくれた。
「では茶会後に、イゾルデ嬢を相談役として侯爵家に滞在させてほしいと頼むのは、私がいたしましょう」
宰相様が言って、方針が決まった。
俺はお茶会の席で蕩々と語っていた、美しい顔貌を思い出す。迷いなく、悲壮で、話の内容はトンチンカンだったけど。
でも、俺が幸せだって信じてくれたから、家族から聞かされてきたアレコレを疑問に感じたんだ。例えば内務大臣みたいな人がおじいちゃんだったら、イゾルデ嬢はどんなふうに育っていたんだろう。そう考えると、彼女がホーパエルの屋敷から出るのは良いことなのかもしれない。
それにしても、イゾルデ嬢も極端だよ。いきなり市井の民に紛れても、三日で儚くなりそうだ。
「いずれにせよ、ホーパエル伯爵令嬢が起爆剤になるのはありがたい。内容も見ずに私の政策全てを反対する反スニャータ派と、老害に逆らうことだけが改革だと思っている馬鹿どもを、一掃できそうだ」
あれ、そんな話だった?
そうか、令嬢の祖父母にも釘が刺せるんだ。元元老院議員だっけ。
「元老院の議員席がいくつ空きますかね? 見所がありそうな若いのが何人か、老害の陰で燻っているんですが」
「宰相府の書記官なんかどうだ? 議員になったら活躍しそうじゃないか」
「駄目ですよ、アレと補佐官は手放せませんね。それよりも子爵家の長男がいいです。次男は宰相府の文官ですし、末っ子はリューイ様の学友です」
……元老院って選挙とかで決まるんじゃないの? 推薦? 王様が推薦したら、投票なんて出来レースじゃない?
俺は今、聞いちゃいけない話を聞いているんじゃないか? ……逃げたいけど逃げられない、この二人羽織からは。
そうだよ、始めからずっと、この大事な話を二人羽織でしてるんだよ! 宰相様が来てもリュシー様が離してくれないんだもんッ。誰かこの王様に、時と場合って言葉を教えてください!
◇ ◇ ◇
早速、宰相様は言葉巧みにホーパエル伯爵に取り入り(笑)、王弟殿下のお茶会のレッスンに付き合ってほしいと打診した。伯爵には正式なお茶会ではないと、きちんと趣旨を説明している。
それでも自分の娘のマナーが王弟の手本となる誉に鼻を膨らませて、「お声がかかりましたら、喜んで」と彼は笑顔で答えたらしい。
実際、リューイは社交界へのデビュー前にはお茶会を経験しておかなければならないから、一石二鳥かもしれない。教授の授業時間に張り切って招待状を書き、学友たちと相談しながら、頑張って仕上げた。学友たちは自分のところに届く招待状の中身を知っていることになるんだけど、授業の一環だからそれもまた楽しそうだ。
ホーパエル伯爵令嬢宛の招待状は、教授が添削した後で宰相様も確認した。たまたま授業の様子を見に来た体で「殿下、字がお上手になられましたね」なんてニコニコして褒めまくりながら、内容をチェックしたらしい。リューイ付きの侍従官のジルさんが連絡ノートに書いてくれた。
そんな招待状を王宮内司に預け、お茶とお菓子の采配をジルさんやポリーさんと厨房に出す。俺たちの都合で早すぎるお茶会ホストデビューだから、ほとんどゴッコ遊びのノリでいいと思う。お店屋さんごっことか、お楽しみ会の企画な感じで。
そうして迎えたお茶会当日。流石に折り紙での飾り付けは止めた。初めてのお客様がいらっしゃるから、ユリン様のお茶会みたいにしましょうねって、ポリーさんが誘導してくれる。
今日のお茶会は主催のリューイが一番身分が上だ。朝、学習室で他の子どもたちと挨拶のおさらいをしてから、一番下位の子爵家のフレッド様から迎賓室に入った。リューイにはまだ個人の宮がないので、いつもの場所を使わせてもらう。
伯爵子息のアラン様、クリス様、そしてイゾルデ嬢が入室し、侯爵子息のナサニエル様の後、侯爵のオリヴァー様が姉のアイリス嬢をエスコートしてやってきた。
半月ぶりに会ったイゾルデ嬢は、ホストのリューイが社交界デビュー前なのを充分に理解して、可愛らしい雰囲気のデイドレスで現れる。
彼女はホスト側にいる俺に気付くと、あからさまにホッとした表情をした。
リューイがやってきて挨拶を交わし、お茶会をスタートさせる。
アイリス嬢には、イゾルデ嬢のマナーは完璧なのでお手本にすると良いと伝えてある。素直なアイリス嬢はイゾルデ嬢の美しさに感動し、マナーの素晴らしさに感銘を受けていた。イゾルデ嬢も穏やかに対応していて、相性は悪くない。これなら、ピヒナ侯爵家にご厄介になっても大丈夫そうだ。
子どもたちも綺麗なお姉さんふたりを相手に、楽しくお喋りしている。リューイはパン屋で培ったお愛想で、懐こい笑みを振りまいていた。イゾルデ嬢はそれに微笑んで返事をしている。そこへ教授が割り込んで、悪戯っぽく笑った。
「殿下、皆、よく聞きなさい。このお嬢さんには私が用意した、君たちの点数票をお渡ししている。茶会の後、全員のマナーに点数をつけてくれるんじゃ」
「ええーっ」
大きな声を出したのはやっぱりフレッド様だった。
「おや、減点になるやもしれませんぞ」
「イゾルデさま、おねがい」
目をうるうるさせてあざといぞ、フレッド様。でも可愛いから許す!
イゾルデ嬢も柔らかく微笑む。フレッド様の憎めないお調子者ぶりがありがたかったし、彼女の子どもへの対応がとても優しいのに好感が持てた。
お茶会はさほど時間をかけることなく終了した。まだ小さい子たちに、ダラダラお菓子を食べ続けさせるわけにはいかないので、教授が『お開き』を宣言したのだ。
授業の一環らしく子どもたちは席を立つと、全員並んでイゾルデ嬢にお礼を言って学習室に帰っていった。ひとまずの役目を終えたアイリス嬢も、イゾルデ嬢に丁寧に挨拶をして迎賓室を辞す。
「わたくしが侯爵家でお茶会を開いたら、遊びに来てくださいますか?」
「もちろんですわ」
最後にそんな会話をして微笑みあっていて、俺はやっぱり同じ年頃の友だちって大事なんだと思った。俺だってティムとトイ、それから滅多に会えないけどシルヴィーには、ウィレムさんやカイン卿に頼るのとは別の安心感を覚える。
さて、この場に残ったイゾルデ嬢とはこれからだ。むしろここからが本題だったりする。
「エルフィン様、お会いしとうございました」
イゾルデ嬢がお茶会中の可愛らしくて朗らかな様子とは一変して、深刻そうな表情を見せた。
「――会いたかったとは、言葉のままの意味なのだろうが、その言い方は愉快ではないな」
俺としては予定通り、イゾルデ嬢にとっては思いがけずリュシフォード陛下のご登場だ。
リュシー様は宰相様と書記官さん、それに女官長様と一緒だった。イゾルデ嬢と彼女の付添人が美しい礼をする。
企みに参加する人数は少ないほうがいいけれど、未婚女性のイゾルデ嬢のために女官長様においで願った。彼女がいれば王太后様にも正確な情報が届けられるだろうと言ったのは、弟の宰相様だ。
迎賓室の喫茶室から居間に場を移して、ローテーブルに腰を落ち着ける。移動する間、イゾルデ嬢はずっと強張った微笑みを浮かべたまま口を閉じていた。
リュシー様が大きな一人掛けのソファーに俺を誘導すると、ナチュラルに自分の足の間に座らせる。一人掛けにしては大きなサイズでも大人のひとりと半分ほどの幅しかない。一緒に座ろうとしたらこうなるのかもしれないけど、人前ですることではなかった。
「リュシー様、俺、あっちに座ります」
「何故? いつものことじゃないか」
「いつもは宰相様とウィレムさんしかいないじゃないですか!」
「……陛下、お行儀はどこへお忘れになりましたの?」
真っ赤になってアワアワとリュシー様に抗議していると、女官長様が美しい笑顔で割り込んでくる。うわぁ、いつか見た、宰相様の冷笑とそっくり! 流石、姉と弟……
「今日はホーパエル伯爵令嬢に、普段の私たちの姿を見てもらおうと思ったのだよ。令嬢は私とフィンの関係を誤解しているようなのでな」
チュッと顳顬にキスが落ちてくる。ますます顔が熱くなって、俺は身体を捻ってリュシー様の頭をグイグイと遠くに追いやった。が、体格差は如何ともしがたい。リュシー様はクスクス笑って、今度はおでこにキスをしてくる。
宰相様が生温い眼差しを向けてくるし、ウィレムさんは慈愛の表情、女官長様は能面のようだ。
そして、イゾルデ嬢と付添人はびっくりした表情で俺たちを見つめていた。さっきまで平坦な表情をしていたのに、とても人間味があって可愛い。
「……本当に、幸せでいらっしゃるのね」
イゾルデ嬢が茫然とした様子で、ポツリと言う。そして寂しげに微笑んだ。
「ばあやの言った通りでしたわ。お父様、お爺様の仰ることをなんでも鵜呑みにしてはいけませんと、折に触れて言ってくれていましたのに」
その言葉に、おばあちゃん侍女のポリーさんより若いけれど、肉屋のおばちゃんよりは年上かなっていう付添人がハンカチで涙を拭う。
居間に移動する前に、非公式な場であるため如何なる発言も不問にすると宰相様が宣言して、書記官さんが記録していた。
この世界、録音手段が発明されていないため、言った言わないは、書記官の記録が頼りなんだ。つまり、書記官が悪い人だと情報を改竄される恐れがある。そんなわけで書記官は、審査と試験をクリアして、なおかつ定期的に法務官との面談が必要という、エリート中のエリートさんだ。ティムの彼氏さん、すごい人なんだよ。
それはさておき、書記官さんがきちんと宰相様の宣言を記録しているので、イゾルデ嬢が王様より先に口を開いても無礼にはならない。
「……幼いころより父に言われておりましたの。『お前は殿下のお子を産むのだ。穢れた子は抱いてやらぬが、殿下のお子をお前が産めば、私が沢山の民を救う術を手に入れることができる』と」
殿下――リュシー様が王様になる前から、いや、イゾルデ嬢が物心ついてからずっとか。
「わたくし、父に尋ねましたの。『穢れた子を産んだわたくしは、穢れてしまいますか?』と。父の返事は『お前ひとりが穢れることで、この国の全ての民が救われる』でございました」
結局ホーパエル伯爵はスニャータの血を穢れたものと思っているんだな。そんな父親の下で育ったイゾルデ嬢は畳み掛けるように祖父母からスニャータの血族婚が忌むべきものだと教え込まれ、あのお茶会の日の発言になるわけだ。
「そのたびに、ばあやは教えてくれたのに……」
頑張ったね、ばあやさん。彼女は自分の雇い主の考えが極端すぎると理解していたんだ。
「ばあやさん、イゾルデ嬢には頼れる親戚はいないの?」
頼れる、つまりイゾルデ嬢を道具に使わない親族なんだけど。俺がハンカチで目元を押さえるばあやさんに聞くと、彼女は静かに首を横に振った。
「わたくしのような卑しき者が、陛下の御前で口を開きますこと、お許しくださいませ」
ばあやさんはそう前置きして言葉を紡ぐ。伯爵令嬢の付添人は、この場で俺の次に身分が低い。
「いらっしゃれば、とうの昔にお嬢様をお連れしております。あんな……お嬢様ご誕生の瞬間から、お嬢様のお胎にしか用がないような父君の傍からなど、一瞬でも早く連れ去りとうございました。父君の言うことに逆らわない従順な娘になるように、ただ、教養ばかりが詰め込まれたお人形さんを育てるように命令されておりましたので」
お人形さんを育てろって、言葉にして命令しちゃうんだ。貴族のお嬢様って、市井に比べたら窮屈である程度政略結婚を覚悟しなきゃならない。でも、人間だよ⁉
「……父に『陛下に愛されることは怖れと苦痛でしかないから、お前が嫁さねば他の誰かがそんな目にあうのだ』と言われましたわ。『伯爵の娘たるお前が、それを誰かに押し付けて良いのか』とも」
押し付けてるの、とーちゃんだろ⁉
顔も知らないおっさんだけど、会った瞬間脳内でグーパンかましそう! 王子の外祖父狙いにしては、娘の育て方が異常だ。
イゾルデ嬢、こんな教育方針で育ったのに最後の最後で疑問を持てたなんてすごいよ。ばあやさん、ナイスだ。表立って伯爵を非難すると解雇されちゃってイゾルデ嬢を護れなかったから、ギリギリのところで言い聞かせてたんだろうな。
多分、俺に頼るように進言したのはばあやさんだ。でなきゃ、あのお茶会のとき、王宮内司所属の侍従官の前でイゾルデ嬢があんなことを言い出すのを、止めないはずがないもん。
「エルフィン様は陛下の腕の中で、とても幸せそうですわ。わたくしに向かって『陛下のことが大好きすぎて、胸が痛い』と仰った言葉が心からのものであったのが、よくわかります」
もしもし、イゾルデさんや。なんで今、そんなこと言ってんの?
「不敬ながらわたくし、お慕いしていないという意味で、陛下の妃になるのは苦痛でございます。ただもう、父の言うような穢れが、なんなのかわからないのです。伯爵の娘程度の身分で、こうしてお話させていただくのを恐れ多いとは思いますが、かつて感じた恐怖はすっかりなくなりました。エルフィン様のような愛らしい方がすっかり甘えて寛いでいらっしゃるのですもの。優しい方なのでしょう?」
「え、あ、その」
なんでそんなところに着地するの? コレ、貰い事故⁉
「どうした、フィン。イゾルデ嬢が訊ねているよ?」
リュシー様、声が超ご機嫌なんですけど⁉ 言わせたいの? みんなの前で⁉ て言うか、リュシー様に向かって⁉
「…………今は、イゾルデ様の家出先の検討が先だと思います」
プシューッて音がしている気がする。顔が熱い。
「まぁ、そんなに赤いお顔をなさって、お可愛らしいことでございます。陛下、このような方に想われて、お幸せでございますね」
「故に、他の妃はいらぬのだ。私がフィン以外を迎えると、不幸になる者が増えると思わぬか?」
「ええ、どなたも幸せにはなりませんわね。それに、別の疑問もございますの。父は民の生活が良くなるためには自分の力が必要だと申しますけれど、それは陛下のご威光があれば良いのではありませんか? わたくしが陛下のお子をお産み申し上げたとしても、頂点に立たれるのは陛下ですし、次代はそのお子ですわ。お子が伯爵家の血を引いたとして、父自身が王家に連なるわけではないのに、なんの根拠があるのでしょう?」
妙な沈黙が居間に漂った。
イゾルデ嬢が可愛らしく首を傾げている。リュシー様や宰相様の前に立つには可愛らしすぎるドレスだけど、今の仕草にはぴったりだ。
「はっ、ははははははっ」
突然、何事かと思って顔を向けると、宰相様が身体をくの字に折り曲げて爆笑していた。……宰相様、大きな声で笑えるんだね! 冷笑がデフォルトだと思っていたよ!
「ホーパエル殿が手塩にかけて育てた人形が生命を得たのですよ。彼が知ればどんな表情をするのでしょうね。イゾルデ嬢、今のあなたは着飾った人形でしかなかったあなたよりも、何倍も魅力的ですよ!」
眼鏡の奥の切れ長の眦に涙を浮かべるほど笑い転げて、宰相様が眼鏡を外し薬指で涙を拭った。
「ホーパエル伯爵は議会で発言力がある。ルシオは若いと言うだけで、彼に蔑ろにされているんだ」
耳元でこそっとリュシー様が教えてくれた。……仕返しができそうで嬉しいんだ、宰相様。この方、案外大人気ないのかもしれない。
その後、宰相様は嬉々としてピヒナ侯爵家への避難を提案し、イゾルデ嬢はキラキラした瞳で宰相様の話を聞いていた。活発に意見交換もしていて、教育が行き届いているのがよくわかる。このお嬢様、ちゃんと育てたらそこらの男顔負けの政治家になるんじゃないか? ……女性に選挙権ないけどさ。
最後は、俺もリュシー様も要らないんじゃないかと思ったところでお開きになる。明後日あたり、アイリス嬢からイゾルデ嬢に招待状が届けられることになった。
その夜は精神的にひどく疲れて、俺はパンを捏ねるのをお休みした。明日の朝のパンを厨房に頼むようにウィレムさんにお願いして、ソファーに沈み込む。
そうしたらリュシー様にキスされた。
「フィンから誘ってくれるなんて、初めてじゃない?」
へ? いや、あの、その。ただ、疲れただけだよ。パンの支度をしなかったからって、俺から誘ったわけじゃない。
リュシー様の黄金の瞳がとろりと甘さを滲ませている。色気に怯んであたふたしているうちに距離を詰められ、えっちなキスと一緒に抱き上げられた。あっという間に王の私室に運ばれてしまう。夜の廊下に濡れたキスの音が響いてとても恥ずかしい。
「私のことが大好きすぎて、胸が痛いって本当?」
それも恥ずかしいから、忘れてーーッ!
「やっ、あん」
もがいても、逃げられない。慣れない行為は恥ずかしいことばかりだけれど、リュシー様と温もりは分かち合いたい。
「……今日はすっごいのじゃなくて、優しいのがいい」
「優しいのは、すごくないの?」
リュシー様がクスクス笑った。
「……そんなの、わかんないよ」
違いがわかるほど余裕なんかないし、全部がリュシー様との初めてだから。
ベッドに背中を沈められて、すぐに帳が下ろされる。全自動なわけがない。どうしてそうなるのかは考えちゃダメだ。きっとリュシー様と温もりを分かち合う行為ができなくなる。……主に羞恥で。
リュシー様の長い銀髪がさらさらと落ちかかってくる。それを彼は鬱陶しげに掻き上げてから、俺の黒髪に指を差し込んで頭皮をくすぐった。まだ短い俺の髪は、典礼用に伸ばすように言われている。リュシー様ほど長くなるには、いったい何年かかることだろう。
キスが首筋に落ちてきた。チュッと啄まれ、甘く噛み付かれ、丁寧に舐められる。全てをゆっくりと丁寧に施されて、背中にゾクゾクと快感が走った。
「待って……もどかしい……」
「どうして? 優しいのがいいんだろう?」
「あ……ッ」
鎖骨に歯を立てたまま喋られて、どうしようもなく震えてしまう。髪の毛を掻き回す指が時折耳の弱いところを摩って、再び身体が震えた。
リュシー様の手は魔法の手だ。俺の理性を容易く奪っていく。
「リュシー様……お胎の奥が変なの……」
背中がゾクゾクするたびに、胎の奥深くがザワザワと蠢いて切なくなる。大好きなひとに、もっともっと近づきたい。頭からがぶがぶ食べちゃいたい。そうしたらリュシー様の全部は俺のものだ。
そんな訳のわからない独占欲に駆られて、リュシー様の首に腕を回して引き寄せる。長い銀髪が絡んで、自分が蜘蛛の糸に捉えられた蝶々のように思えた。
リュシー様が蜘蛛で俺が蝶々なら、がぶがぶ食べられるのは俺のほうだ。それでもいいな。俺の全部はリュシー様のものだ。
「何を考えているの?」
熱のこもった甘い声が耳をくすぐる。
「リュシー様のことが好きすぎて……苦しい」
胸が痛すぎて、息もできない。この甘美な苦しみは俺だけのものだ。勝手に湧き上がってくる満足感に、ひとり忍び笑った。
「苦しいのに笑うの?」
「幸せな苦しさだから」
「本当に苦しくなったら、言って」
リュシー様の手が耳から肩を伝って滑り下り、柔らかなマットレスの隙間から俺の後ろを探りあてる。
「やっ……急に……ッ」
「あぁ、すまない。ゆっくり優しくだったね」
全然すまないなんて思っていないでしょ? それに苦しくなったらって、リュシー様が言っているのって物理的な苦痛じゃない? ホラ、喘ぎすぎて呼吸困難とかさッ!
「あっ、待って!」
「どうして?」
「あぁ……ッ」
返事なんかできない。だってリュシー様の指が俺を翻弄するから。なんでも口に出してって言ったのはリュシー様なのに。再び唇が素肌の上を彷徨い始めて、時々チクリと甘い痛みに苛まれる。そのたびに甲高い声が喉を通り抜けていく。
丁寧に後ろを弛められて、甘い花の香りが帳の中に広がった。俺を傷つけないように沢山使われた香油が、体温で温まって薫っているんだ。
くちゅくちゅと鳴る湿った音とリュシー様の囁き声に煽られそうで、俺はイヤイヤと首を振った。
「やッ……そこ、ダメなとこッ……変になっちゃうとこッ」
身体の中でコリッて音がする。実際の音じゃないんだろうけど、ダメな痼を揺らされるたびにお胎の奥で響き渡る気がする。
「も……ダメ……ッ、イっちゃう、もうイっちゃう! 来て……ひとりでイくの、やだぁ……!」
俺ひとりが乱れている。リュシー様もヨくなってくれなきゃイヤだ。
「あぁ、泣かせてしまったね。ごめんよ」
涙の滲んだ眦を吸いながら、リュシー様が俺の後ろから指を引き抜いた。その僅かな刺激にもイっちゃいそうになる。
すぐに膝が割られて腰を抱え上げられた。無駄に柔軟な身体は苦もなく膝裏をリュシー様の肩に担がれて、大事なところが全部丸見えになる。リュシー様に見られるのは恥ずかしいが、自分の目に入るのも恥ずかしい。彼のと比べたらささやかなモノが、健気に体積を増して揺れていた。
「フィン、楽にして」
リュシー様の声は甘い。
「あああ……ッ!」
俺の悲鳴じみた恥ずかしい声が、リュシー様の滾りを受け入れた瞬間に迸った。ポタポタと白い体液が俺の胸に落ちてくる。
「可愛いね、私を受け入れた衝撃で達してしまった?」
「……え?」
わかんない。もう何も考えられなかった。だってリュシー様が、ゆっくりと俺にリュシー様の形を刻むように往復し始めたから……。そうして、優しくてすっごいので、どろんどろんのぐっちゃんぐっちゃんにされた。
「はあ」
俺の返事は困惑を隠しきれない。
王宮内司は王族の全てを取りしきるので、王族に届けられるものを検閲する。俺は王族ではないんだけど、リューイの所有物なので、リューイ宛と同じように処理されていた。
そのせいで、内容に困惑した検閲官が長官に采配を委ね、王宮内司内で処理するべきものではないと判断したらしい。
いったいどんな手紙なんだ。
「リュシー様は読んだの?」
「まだだ」
宰相府を経由したってことは、それなりの内容で、でも俺には読ませたいってことだよね。
甘い花のフレグランスを纏った女性らしい手紙は、シーリングが壊れていた。封筒を開いて便箋を取り出すと、さらに高らかに香る。招待状からも窺えたけど、とても丁寧な文字だ。
「香りも便箋も品があるし、文字もとても綺麗だし、本当に大事に育ててもらったんだろうなぁ」
「どこに嫁してもいいように、伯爵家の威信をかけて育てたのでしょうね。奉仕活動にも熱心ですし、妃候補でさえなければ理想的な花嫁だというのが、若い貴族の男の見解です」
宰相様が言うので、そんなものかと思う。そういえば『民のため』とか言っていたな。平民の俺を馬鹿にしなかったし……って、比べるご令嬢が、トンデモ令嬢ジュリエッタ・ピヒナと彼女に虐待されていた薄幸令嬢アイリス・ピヒナしかいないので、参考にならない。アイリス嬢はいい奥さんになると思うけどね。
気を取り直して手紙を読む。
「家出の相談?」
そうとしか思えない内容だった。これは王宮内司も困惑しただろう。
伯爵令嬢は俺が幸せだと言い切ったのを聞いて、祖父母の言葉に疑問を持ったのだと記している。同時に父の言葉にも。
スニャータの血を引く今上陛下が本当に穢れているのなら、幸せそうだった王弟殿下の叔父君の態度はおかしい。そもそも、穢れているとは、どういうことなのだろう。実の兄弟姉妹で情を交わすことには考えすら及ばないが、王太后様の夫は先代陛下であり、今上陛下は直接の近親婚からの子ではない。では、穢れとはどこまでなのか。
そんなことが延々と書いてある。
そして、陛下のお子を次代の王にはできないと言いながら、自分には子を産めと言う。国を支えるための次代ではなく、父が政を円滑に回すためのお子だとでも言うのだろうか。ならば自分はなんのために陛下に嫁さねばならぬのか、わからなくなったのだ、と。
祖父母、両親以外の大人の話を聞きたい。市井に紛れて、民が本当に必要としていることを知りたい。
「で、市井の民の伝手って、俺しか浮かばなかったわけだ」
三人でため息をつく。
「親の言いなりのお人形さんが生命を得た、というところでしょう」
宰相様の言葉は、言い得て妙だ。
王宮内司で手紙を処分した結果、令嬢がひとりで悩んで家出をしても困る……というか後味が悪い。祖父母なり父親なりに、お宅のお嬢さんこんな手紙寄越しましたよ、って言える? ……言えないよねぇ。
彼女は俺にこの相談をしたくて、再三招待状を送ってきたのか。
「……イゾルデ嬢、友達いるのかな?」
俺が言うのも変だけど。
相談する相手が、俺しかいないってどうなんだ?
「ルシオが私とフィンにこの手紙を見せたということは、何か考えがあるのだろう?」
「もちろんです」
うわぁ、リュシー様と宰相様――ルシオ様が悪い顔してる~。
「エルフィン様がイゾルデ嬢の茶会に赴かれた折の報告書を読みました。侍従官、近衛騎士、双方ほぼ同じ内容です。まぁウィレムとカインなら抜けや漏れはないでしょう。ホーパエル伯爵は、ずいぶん面白い教育をなさっておいでですね」
家族間での愚痴レベルで不敬罪を検挙していては恐怖政治になってしまう。王子の外戚になりたい者を罰していっては、いったい何人を検挙しなきゃいけないんだろう。
「これを機に、お灸を据えることくらいはできますよ。そのためにはイゾルデ嬢を保護して、話を聞く必要があります」
保護って、どうやって?
「ピヒナ侯爵家に頼みましょうか。伯爵家より高位ですし、アイリス嬢の相談役などと言われたら、ホーパエル伯爵も鼻が高いのではないですか?」
アイリス嬢は今をときめく社交界の花。悪辣な叔父に不当に扱われながら正当な跡取りである幼い弟を守った女性として話題の中心だ。それに宰相閣下の庇護を受け、国王陛下の覚えもめでたいなんて仲良くしておいて損はない。
「でも、アイリス嬢に悪くない?」
「アイリス嬢にとっても悪い話ではないのですよ。イゾルデ嬢は令嬢としての教育が行き届いた立派な淑女です。奉仕活動など、アイリス嬢が不慣れな面を補ってもらえばよいのです」
なるほど。アイリス嬢は十二歳までの下地があるとはいえ、年頃の貴族令嬢としての経験が浅い。イゾルデ嬢にはそこを補ってもらいつつ、考える時間を作ってあげるのか。
「じゃあ、リューイにお茶会を開いてもらう? オリヴァー様たちをご招待してお茶会の練習をするの。アイリス嬢もいきなり正式なお茶会は不安だろうから、経験値を上げるために参加してもらって、そこにイゾルデ嬢も招待しちゃダメかな? ちょっと参加理由を考えなきゃだけど」
「いい考えだ。ホーパエル伯爵は今のところリューイと接点がないから、飛びついてくるだろうな。茶会の趣旨を説明して、アイリス嬢の手本になる女性を探しているとでも言えば、イゾルデ嬢を勧めてくるだろう」
リュシー様が俺の意見を支持してくれた。
「では茶会後に、イゾルデ嬢を相談役として侯爵家に滞在させてほしいと頼むのは、私がいたしましょう」
宰相様が言って、方針が決まった。
俺はお茶会の席で蕩々と語っていた、美しい顔貌を思い出す。迷いなく、悲壮で、話の内容はトンチンカンだったけど。
でも、俺が幸せだって信じてくれたから、家族から聞かされてきたアレコレを疑問に感じたんだ。例えば内務大臣みたいな人がおじいちゃんだったら、イゾルデ嬢はどんなふうに育っていたんだろう。そう考えると、彼女がホーパエルの屋敷から出るのは良いことなのかもしれない。
それにしても、イゾルデ嬢も極端だよ。いきなり市井の民に紛れても、三日で儚くなりそうだ。
「いずれにせよ、ホーパエル伯爵令嬢が起爆剤になるのはありがたい。内容も見ずに私の政策全てを反対する反スニャータ派と、老害に逆らうことだけが改革だと思っている馬鹿どもを、一掃できそうだ」
あれ、そんな話だった?
そうか、令嬢の祖父母にも釘が刺せるんだ。元元老院議員だっけ。
「元老院の議員席がいくつ空きますかね? 見所がありそうな若いのが何人か、老害の陰で燻っているんですが」
「宰相府の書記官なんかどうだ? 議員になったら活躍しそうじゃないか」
「駄目ですよ、アレと補佐官は手放せませんね。それよりも子爵家の長男がいいです。次男は宰相府の文官ですし、末っ子はリューイ様の学友です」
……元老院って選挙とかで決まるんじゃないの? 推薦? 王様が推薦したら、投票なんて出来レースじゃない?
俺は今、聞いちゃいけない話を聞いているんじゃないか? ……逃げたいけど逃げられない、この二人羽織からは。
そうだよ、始めからずっと、この大事な話を二人羽織でしてるんだよ! 宰相様が来てもリュシー様が離してくれないんだもんッ。誰かこの王様に、時と場合って言葉を教えてください!
◇ ◇ ◇
早速、宰相様は言葉巧みにホーパエル伯爵に取り入り(笑)、王弟殿下のお茶会のレッスンに付き合ってほしいと打診した。伯爵には正式なお茶会ではないと、きちんと趣旨を説明している。
それでも自分の娘のマナーが王弟の手本となる誉に鼻を膨らませて、「お声がかかりましたら、喜んで」と彼は笑顔で答えたらしい。
実際、リューイは社交界へのデビュー前にはお茶会を経験しておかなければならないから、一石二鳥かもしれない。教授の授業時間に張り切って招待状を書き、学友たちと相談しながら、頑張って仕上げた。学友たちは自分のところに届く招待状の中身を知っていることになるんだけど、授業の一環だからそれもまた楽しそうだ。
ホーパエル伯爵令嬢宛の招待状は、教授が添削した後で宰相様も確認した。たまたま授業の様子を見に来た体で「殿下、字がお上手になられましたね」なんてニコニコして褒めまくりながら、内容をチェックしたらしい。リューイ付きの侍従官のジルさんが連絡ノートに書いてくれた。
そんな招待状を王宮内司に預け、お茶とお菓子の采配をジルさんやポリーさんと厨房に出す。俺たちの都合で早すぎるお茶会ホストデビューだから、ほとんどゴッコ遊びのノリでいいと思う。お店屋さんごっことか、お楽しみ会の企画な感じで。
そうして迎えたお茶会当日。流石に折り紙での飾り付けは止めた。初めてのお客様がいらっしゃるから、ユリン様のお茶会みたいにしましょうねって、ポリーさんが誘導してくれる。
今日のお茶会は主催のリューイが一番身分が上だ。朝、学習室で他の子どもたちと挨拶のおさらいをしてから、一番下位の子爵家のフレッド様から迎賓室に入った。リューイにはまだ個人の宮がないので、いつもの場所を使わせてもらう。
伯爵子息のアラン様、クリス様、そしてイゾルデ嬢が入室し、侯爵子息のナサニエル様の後、侯爵のオリヴァー様が姉のアイリス嬢をエスコートしてやってきた。
半月ぶりに会ったイゾルデ嬢は、ホストのリューイが社交界デビュー前なのを充分に理解して、可愛らしい雰囲気のデイドレスで現れる。
彼女はホスト側にいる俺に気付くと、あからさまにホッとした表情をした。
リューイがやってきて挨拶を交わし、お茶会をスタートさせる。
アイリス嬢には、イゾルデ嬢のマナーは完璧なのでお手本にすると良いと伝えてある。素直なアイリス嬢はイゾルデ嬢の美しさに感動し、マナーの素晴らしさに感銘を受けていた。イゾルデ嬢も穏やかに対応していて、相性は悪くない。これなら、ピヒナ侯爵家にご厄介になっても大丈夫そうだ。
子どもたちも綺麗なお姉さんふたりを相手に、楽しくお喋りしている。リューイはパン屋で培ったお愛想で、懐こい笑みを振りまいていた。イゾルデ嬢はそれに微笑んで返事をしている。そこへ教授が割り込んで、悪戯っぽく笑った。
「殿下、皆、よく聞きなさい。このお嬢さんには私が用意した、君たちの点数票をお渡ししている。茶会の後、全員のマナーに点数をつけてくれるんじゃ」
「ええーっ」
大きな声を出したのはやっぱりフレッド様だった。
「おや、減点になるやもしれませんぞ」
「イゾルデさま、おねがい」
目をうるうるさせてあざといぞ、フレッド様。でも可愛いから許す!
イゾルデ嬢も柔らかく微笑む。フレッド様の憎めないお調子者ぶりがありがたかったし、彼女の子どもへの対応がとても優しいのに好感が持てた。
お茶会はさほど時間をかけることなく終了した。まだ小さい子たちに、ダラダラお菓子を食べ続けさせるわけにはいかないので、教授が『お開き』を宣言したのだ。
授業の一環らしく子どもたちは席を立つと、全員並んでイゾルデ嬢にお礼を言って学習室に帰っていった。ひとまずの役目を終えたアイリス嬢も、イゾルデ嬢に丁寧に挨拶をして迎賓室を辞す。
「わたくしが侯爵家でお茶会を開いたら、遊びに来てくださいますか?」
「もちろんですわ」
最後にそんな会話をして微笑みあっていて、俺はやっぱり同じ年頃の友だちって大事なんだと思った。俺だってティムとトイ、それから滅多に会えないけどシルヴィーには、ウィレムさんやカイン卿に頼るのとは別の安心感を覚える。
さて、この場に残ったイゾルデ嬢とはこれからだ。むしろここからが本題だったりする。
「エルフィン様、お会いしとうございました」
イゾルデ嬢がお茶会中の可愛らしくて朗らかな様子とは一変して、深刻そうな表情を見せた。
「――会いたかったとは、言葉のままの意味なのだろうが、その言い方は愉快ではないな」
俺としては予定通り、イゾルデ嬢にとっては思いがけずリュシフォード陛下のご登場だ。
リュシー様は宰相様と書記官さん、それに女官長様と一緒だった。イゾルデ嬢と彼女の付添人が美しい礼をする。
企みに参加する人数は少ないほうがいいけれど、未婚女性のイゾルデ嬢のために女官長様においで願った。彼女がいれば王太后様にも正確な情報が届けられるだろうと言ったのは、弟の宰相様だ。
迎賓室の喫茶室から居間に場を移して、ローテーブルに腰を落ち着ける。移動する間、イゾルデ嬢はずっと強張った微笑みを浮かべたまま口を閉じていた。
リュシー様が大きな一人掛けのソファーに俺を誘導すると、ナチュラルに自分の足の間に座らせる。一人掛けにしては大きなサイズでも大人のひとりと半分ほどの幅しかない。一緒に座ろうとしたらこうなるのかもしれないけど、人前ですることではなかった。
「リュシー様、俺、あっちに座ります」
「何故? いつものことじゃないか」
「いつもは宰相様とウィレムさんしかいないじゃないですか!」
「……陛下、お行儀はどこへお忘れになりましたの?」
真っ赤になってアワアワとリュシー様に抗議していると、女官長様が美しい笑顔で割り込んでくる。うわぁ、いつか見た、宰相様の冷笑とそっくり! 流石、姉と弟……
「今日はホーパエル伯爵令嬢に、普段の私たちの姿を見てもらおうと思ったのだよ。令嬢は私とフィンの関係を誤解しているようなのでな」
チュッと顳顬にキスが落ちてくる。ますます顔が熱くなって、俺は身体を捻ってリュシー様の頭をグイグイと遠くに追いやった。が、体格差は如何ともしがたい。リュシー様はクスクス笑って、今度はおでこにキスをしてくる。
宰相様が生温い眼差しを向けてくるし、ウィレムさんは慈愛の表情、女官長様は能面のようだ。
そして、イゾルデ嬢と付添人はびっくりした表情で俺たちを見つめていた。さっきまで平坦な表情をしていたのに、とても人間味があって可愛い。
「……本当に、幸せでいらっしゃるのね」
イゾルデ嬢が茫然とした様子で、ポツリと言う。そして寂しげに微笑んだ。
「ばあやの言った通りでしたわ。お父様、お爺様の仰ることをなんでも鵜呑みにしてはいけませんと、折に触れて言ってくれていましたのに」
その言葉に、おばあちゃん侍女のポリーさんより若いけれど、肉屋のおばちゃんよりは年上かなっていう付添人がハンカチで涙を拭う。
居間に移動する前に、非公式な場であるため如何なる発言も不問にすると宰相様が宣言して、書記官さんが記録していた。
この世界、録音手段が発明されていないため、言った言わないは、書記官の記録が頼りなんだ。つまり、書記官が悪い人だと情報を改竄される恐れがある。そんなわけで書記官は、審査と試験をクリアして、なおかつ定期的に法務官との面談が必要という、エリート中のエリートさんだ。ティムの彼氏さん、すごい人なんだよ。
それはさておき、書記官さんがきちんと宰相様の宣言を記録しているので、イゾルデ嬢が王様より先に口を開いても無礼にはならない。
「……幼いころより父に言われておりましたの。『お前は殿下のお子を産むのだ。穢れた子は抱いてやらぬが、殿下のお子をお前が産めば、私が沢山の民を救う術を手に入れることができる』と」
殿下――リュシー様が王様になる前から、いや、イゾルデ嬢が物心ついてからずっとか。
「わたくし、父に尋ねましたの。『穢れた子を産んだわたくしは、穢れてしまいますか?』と。父の返事は『お前ひとりが穢れることで、この国の全ての民が救われる』でございました」
結局ホーパエル伯爵はスニャータの血を穢れたものと思っているんだな。そんな父親の下で育ったイゾルデ嬢は畳み掛けるように祖父母からスニャータの血族婚が忌むべきものだと教え込まれ、あのお茶会の日の発言になるわけだ。
「そのたびに、ばあやは教えてくれたのに……」
頑張ったね、ばあやさん。彼女は自分の雇い主の考えが極端すぎると理解していたんだ。
「ばあやさん、イゾルデ嬢には頼れる親戚はいないの?」
頼れる、つまりイゾルデ嬢を道具に使わない親族なんだけど。俺がハンカチで目元を押さえるばあやさんに聞くと、彼女は静かに首を横に振った。
「わたくしのような卑しき者が、陛下の御前で口を開きますこと、お許しくださいませ」
ばあやさんはそう前置きして言葉を紡ぐ。伯爵令嬢の付添人は、この場で俺の次に身分が低い。
「いらっしゃれば、とうの昔にお嬢様をお連れしております。あんな……お嬢様ご誕生の瞬間から、お嬢様のお胎にしか用がないような父君の傍からなど、一瞬でも早く連れ去りとうございました。父君の言うことに逆らわない従順な娘になるように、ただ、教養ばかりが詰め込まれたお人形さんを育てるように命令されておりましたので」
お人形さんを育てろって、言葉にして命令しちゃうんだ。貴族のお嬢様って、市井に比べたら窮屈である程度政略結婚を覚悟しなきゃならない。でも、人間だよ⁉
「……父に『陛下に愛されることは怖れと苦痛でしかないから、お前が嫁さねば他の誰かがそんな目にあうのだ』と言われましたわ。『伯爵の娘たるお前が、それを誰かに押し付けて良いのか』とも」
押し付けてるの、とーちゃんだろ⁉
顔も知らないおっさんだけど、会った瞬間脳内でグーパンかましそう! 王子の外祖父狙いにしては、娘の育て方が異常だ。
イゾルデ嬢、こんな教育方針で育ったのに最後の最後で疑問を持てたなんてすごいよ。ばあやさん、ナイスだ。表立って伯爵を非難すると解雇されちゃってイゾルデ嬢を護れなかったから、ギリギリのところで言い聞かせてたんだろうな。
多分、俺に頼るように進言したのはばあやさんだ。でなきゃ、あのお茶会のとき、王宮内司所属の侍従官の前でイゾルデ嬢があんなことを言い出すのを、止めないはずがないもん。
「エルフィン様は陛下の腕の中で、とても幸せそうですわ。わたくしに向かって『陛下のことが大好きすぎて、胸が痛い』と仰った言葉が心からのものであったのが、よくわかります」
もしもし、イゾルデさんや。なんで今、そんなこと言ってんの?
「不敬ながらわたくし、お慕いしていないという意味で、陛下の妃になるのは苦痛でございます。ただもう、父の言うような穢れが、なんなのかわからないのです。伯爵の娘程度の身分で、こうしてお話させていただくのを恐れ多いとは思いますが、かつて感じた恐怖はすっかりなくなりました。エルフィン様のような愛らしい方がすっかり甘えて寛いでいらっしゃるのですもの。優しい方なのでしょう?」
「え、あ、その」
なんでそんなところに着地するの? コレ、貰い事故⁉
「どうした、フィン。イゾルデ嬢が訊ねているよ?」
リュシー様、声が超ご機嫌なんですけど⁉ 言わせたいの? みんなの前で⁉ て言うか、リュシー様に向かって⁉
「…………今は、イゾルデ様の家出先の検討が先だと思います」
プシューッて音がしている気がする。顔が熱い。
「まぁ、そんなに赤いお顔をなさって、お可愛らしいことでございます。陛下、このような方に想われて、お幸せでございますね」
「故に、他の妃はいらぬのだ。私がフィン以外を迎えると、不幸になる者が増えると思わぬか?」
「ええ、どなたも幸せにはなりませんわね。それに、別の疑問もございますの。父は民の生活が良くなるためには自分の力が必要だと申しますけれど、それは陛下のご威光があれば良いのではありませんか? わたくしが陛下のお子をお産み申し上げたとしても、頂点に立たれるのは陛下ですし、次代はそのお子ですわ。お子が伯爵家の血を引いたとして、父自身が王家に連なるわけではないのに、なんの根拠があるのでしょう?」
妙な沈黙が居間に漂った。
イゾルデ嬢が可愛らしく首を傾げている。リュシー様や宰相様の前に立つには可愛らしすぎるドレスだけど、今の仕草にはぴったりだ。
「はっ、ははははははっ」
突然、何事かと思って顔を向けると、宰相様が身体をくの字に折り曲げて爆笑していた。……宰相様、大きな声で笑えるんだね! 冷笑がデフォルトだと思っていたよ!
「ホーパエル殿が手塩にかけて育てた人形が生命を得たのですよ。彼が知ればどんな表情をするのでしょうね。イゾルデ嬢、今のあなたは着飾った人形でしかなかったあなたよりも、何倍も魅力的ですよ!」
眼鏡の奥の切れ長の眦に涙を浮かべるほど笑い転げて、宰相様が眼鏡を外し薬指で涙を拭った。
「ホーパエル伯爵は議会で発言力がある。ルシオは若いと言うだけで、彼に蔑ろにされているんだ」
耳元でこそっとリュシー様が教えてくれた。……仕返しができそうで嬉しいんだ、宰相様。この方、案外大人気ないのかもしれない。
その後、宰相様は嬉々としてピヒナ侯爵家への避難を提案し、イゾルデ嬢はキラキラした瞳で宰相様の話を聞いていた。活発に意見交換もしていて、教育が行き届いているのがよくわかる。このお嬢様、ちゃんと育てたらそこらの男顔負けの政治家になるんじゃないか? ……女性に選挙権ないけどさ。
最後は、俺もリュシー様も要らないんじゃないかと思ったところでお開きになる。明後日あたり、アイリス嬢からイゾルデ嬢に招待状が届けられることになった。
その夜は精神的にひどく疲れて、俺はパンを捏ねるのをお休みした。明日の朝のパンを厨房に頼むようにウィレムさんにお願いして、ソファーに沈み込む。
そうしたらリュシー様にキスされた。
「フィンから誘ってくれるなんて、初めてじゃない?」
へ? いや、あの、その。ただ、疲れただけだよ。パンの支度をしなかったからって、俺から誘ったわけじゃない。
リュシー様の黄金の瞳がとろりと甘さを滲ませている。色気に怯んであたふたしているうちに距離を詰められ、えっちなキスと一緒に抱き上げられた。あっという間に王の私室に運ばれてしまう。夜の廊下に濡れたキスの音が響いてとても恥ずかしい。
「私のことが大好きすぎて、胸が痛いって本当?」
それも恥ずかしいから、忘れてーーッ!
「やっ、あん」
もがいても、逃げられない。慣れない行為は恥ずかしいことばかりだけれど、リュシー様と温もりは分かち合いたい。
「……今日はすっごいのじゃなくて、優しいのがいい」
「優しいのは、すごくないの?」
リュシー様がクスクス笑った。
「……そんなの、わかんないよ」
違いがわかるほど余裕なんかないし、全部がリュシー様との初めてだから。
ベッドに背中を沈められて、すぐに帳が下ろされる。全自動なわけがない。どうしてそうなるのかは考えちゃダメだ。きっとリュシー様と温もりを分かち合う行為ができなくなる。……主に羞恥で。
リュシー様の長い銀髪がさらさらと落ちかかってくる。それを彼は鬱陶しげに掻き上げてから、俺の黒髪に指を差し込んで頭皮をくすぐった。まだ短い俺の髪は、典礼用に伸ばすように言われている。リュシー様ほど長くなるには、いったい何年かかることだろう。
キスが首筋に落ちてきた。チュッと啄まれ、甘く噛み付かれ、丁寧に舐められる。全てをゆっくりと丁寧に施されて、背中にゾクゾクと快感が走った。
「待って……もどかしい……」
「どうして? 優しいのがいいんだろう?」
「あ……ッ」
鎖骨に歯を立てたまま喋られて、どうしようもなく震えてしまう。髪の毛を掻き回す指が時折耳の弱いところを摩って、再び身体が震えた。
リュシー様の手は魔法の手だ。俺の理性を容易く奪っていく。
「リュシー様……お胎の奥が変なの……」
背中がゾクゾクするたびに、胎の奥深くがザワザワと蠢いて切なくなる。大好きなひとに、もっともっと近づきたい。頭からがぶがぶ食べちゃいたい。そうしたらリュシー様の全部は俺のものだ。
そんな訳のわからない独占欲に駆られて、リュシー様の首に腕を回して引き寄せる。長い銀髪が絡んで、自分が蜘蛛の糸に捉えられた蝶々のように思えた。
リュシー様が蜘蛛で俺が蝶々なら、がぶがぶ食べられるのは俺のほうだ。それでもいいな。俺の全部はリュシー様のものだ。
「何を考えているの?」
熱のこもった甘い声が耳をくすぐる。
「リュシー様のことが好きすぎて……苦しい」
胸が痛すぎて、息もできない。この甘美な苦しみは俺だけのものだ。勝手に湧き上がってくる満足感に、ひとり忍び笑った。
「苦しいのに笑うの?」
「幸せな苦しさだから」
「本当に苦しくなったら、言って」
リュシー様の手が耳から肩を伝って滑り下り、柔らかなマットレスの隙間から俺の後ろを探りあてる。
「やっ……急に……ッ」
「あぁ、すまない。ゆっくり優しくだったね」
全然すまないなんて思っていないでしょ? それに苦しくなったらって、リュシー様が言っているのって物理的な苦痛じゃない? ホラ、喘ぎすぎて呼吸困難とかさッ!
「あっ、待って!」
「どうして?」
「あぁ……ッ」
返事なんかできない。だってリュシー様の指が俺を翻弄するから。なんでも口に出してって言ったのはリュシー様なのに。再び唇が素肌の上を彷徨い始めて、時々チクリと甘い痛みに苛まれる。そのたびに甲高い声が喉を通り抜けていく。
丁寧に後ろを弛められて、甘い花の香りが帳の中に広がった。俺を傷つけないように沢山使われた香油が、体温で温まって薫っているんだ。
くちゅくちゅと鳴る湿った音とリュシー様の囁き声に煽られそうで、俺はイヤイヤと首を振った。
「やッ……そこ、ダメなとこッ……変になっちゃうとこッ」
身体の中でコリッて音がする。実際の音じゃないんだろうけど、ダメな痼を揺らされるたびにお胎の奥で響き渡る気がする。
「も……ダメ……ッ、イっちゃう、もうイっちゃう! 来て……ひとりでイくの、やだぁ……!」
俺ひとりが乱れている。リュシー様もヨくなってくれなきゃイヤだ。
「あぁ、泣かせてしまったね。ごめんよ」
涙の滲んだ眦を吸いながら、リュシー様が俺の後ろから指を引き抜いた。その僅かな刺激にもイっちゃいそうになる。
すぐに膝が割られて腰を抱え上げられた。無駄に柔軟な身体は苦もなく膝裏をリュシー様の肩に担がれて、大事なところが全部丸見えになる。リュシー様に見られるのは恥ずかしいが、自分の目に入るのも恥ずかしい。彼のと比べたらささやかなモノが、健気に体積を増して揺れていた。
「フィン、楽にして」
リュシー様の声は甘い。
「あああ……ッ!」
俺の悲鳴じみた恥ずかしい声が、リュシー様の滾りを受け入れた瞬間に迸った。ポタポタと白い体液が俺の胸に落ちてくる。
「可愛いね、私を受け入れた衝撃で達してしまった?」
「……え?」
わかんない。もう何も考えられなかった。だってリュシー様が、ゆっくりと俺にリュシー様の形を刻むように往復し始めたから……。そうして、優しくてすっごいので、どろんどろんのぐっちゃんぐっちゃんにされた。
54
お気に入りに追加
9,765
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
悪役令嬢の兄、閨の講義をする。
猫宮乾
BL
ある日前世の記憶がよみがえり、自分が悪役令嬢の兄だと気づいた僕(フェルナ)。断罪してくる王太子にはなるべく近づかないで過ごすと決め、万が一に備えて語学の勉強に励んでいたら、ある日閨の講義を頼まれる。
悪役令息に転生したけど…俺…嫌われすぎ?
「ARIA」
BL
階段から落ちた衝撃であっけなく死んでしまった主人公はとある乙女ゲームの悪役令息に転生したが...主人公は乙女ゲームの家族から甘やかされて育ったというのを無視して存在を抹消されていた。
王道じゃないですけど王道です(何言ってんだ?)どちらかと言うとファンタジー寄り
更新頻度=適当
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
シナリオ回避失敗して投獄された悪役令息は隊長様に抱かれました
無味無臭(不定期更新)
BL
悪役令嬢の道連れで従兄弟だった僕まで投獄されることになった。
前世持ちだが結局役に立たなかった。
そもそもシナリオに抗うなど無理なことだったのだ。
そんなことを思いながら収監された牢屋で眠りについた。
目を覚ますと僕は見知らぬ人に抱かれていた。
…あれ?
僕に風俗墜ちシナリオありましたっけ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。