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2巻
2-2
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「内定の宣旨って、議会の承認がないとダメなんでしょう?」
トンデモお嬢様の騒動のとき、そんな話を聞いた。ピヒナ侯爵家を乗っ取っていたガルフ・ピヒナの娘のジュリエッタが、議会の承認もないのに自分が王妃になるって声高に宣言して場を凍りつかせていたもの。
議会は貴族中心の元老院と、平民代表の代議院で構成されている。両院で可決されれば俺は陛下から内定の宣旨を賜って、晴れて婚約者としてお披露目されるのだろう。
「代議院は、市井の少年が后子に立つことは自分たちの有利に働くと考えるだろう。リューイも市井の出身だと人気が高いしな。ただ、元老院の過半数の承認が得られるかは微妙だ。もし否決されれば、代議院で可決されていても否決になる」
元老院と代議院で意見が割れた場合、元老院の決定が優先されるんだって。
「議会に正妃選定の議案を出せば、ザカリー伯爵が言っていたように、フィンの身に危険が及ぶかもしれぬ。出かけるときはウィレムとカインを離してはならぬぞ」
「はい」
カイン卿は護衛騎士だ。俺は神妙に頷いた。
「それと、フィンにとってはもっと重大な話だ」
これ以上?
振り仰ぐと真面目な、でもどこか悪戯っぽい光を黄金の瞳に浮かべたリュシー様の顔がある。
「私とフィンの結婚をリューイに報告せねばな」
「あ」
待って! 心の準備が!
ずっと気にはなっていたものの、恥ずかしくて現実逃避していたんだよ~。なんて言えばいいんだ? リューイの兄上様と叔父さんが結婚するんだぞ? けっこうややこしい関係じゃね?
「真っ赤になっていて可愛いけど、大事なリューイにはきちんと伝えないと」
わかってる、わかっているけど。
「たぶんリューイに言ったら、お勉強会のときにみんなに言っちゃうと思う」
「いいさ、リューイに知らせたらすぐに、議会に提出するから。むしろ、それ待ちだ。宰相府からはせっつかれているしな」
「宰相府から?」
「婚儀の日程を組まねばならんからな」
婚儀。
日程……
テレビで見た女王陛下を戴くお国の、王子様の結婚式の映像が頭に浮かぶ。この世界にはテレビがないため中継とかの心配はないが、そこそこの見せ物になるんじゃないか?
「俺、男だし、籍だけ入れてこぢんまりお祝いするってのは……」
「フィンは側室ではなく、后子になるのだ。そんなわけにはいかぬだろう」
「いつごろを予定しているの?」
「フィンの十九歳の誕生日か、来年の秋の星林檎祭の日か、だな」
何その、記念日に結婚記念日を重ねてくるロマンチストぶりは⁉
ヤダ、胸がきゅうっとする。恥ずかしい、嬉しい、けれどあと一年もないじゃん。いやいやいや、どうすればいいの、俺⁉
「こら、また不思議なことを考えてないかい?」
「……また、不思議って言った。ホントはおバカさんて言いたいんじゃないの?」
身長差のせいで睨みつけても上目遣いになるし、地味に首が疲れる。俺はちょっとふてくされた気持ちになって唇を尖らせた。
チュッ。
「にゃっ」
キスをされて変な声が出る。
不意打ち禁止! いや、予告されても恥ずかしいけれど。
「可愛いことを可愛い表情で言わないの。それで、何を思ったの?」
「一年じゃ、お妃教育が間に合わないんじゃないかと」
恥ずかしくなって身体を前に向けて俯く。すると、頸をぺろりと舐められる。
「――っ!」
なんとか声を抑えて、慌てて両手を首の後ろに回した。
「悪戯はダメです」
「本気のやつならいいの?」
「――――っ。それもダメ」
だって、真面目な話をしていたでしょ!
「すまぬな。あんまり可愛いから、つい。妃教育であったな。問題ないと、女官長から聞いている。マナーや会話選びの覚えは及第点で、ぎこちなさは場数を踏めば問題ないそうだ。奉仕活動は大公夫妻からお墨付きを貰ったし、学問については……教授から面白いことを聞いたぞ?」
なんか俺、しでかした?
「子どもたちと街へ出かけたとき、買い物の数と支払う金額をそらで答えたそうじゃないか?」
俺、そんなことした?
そういえば、子どもたちの物見遊山のために尽力してくれた騎士さんや侍従さん、文官さんにお土産を買ったっけ。値段も数もバラバラに全部で百個くらい……
「パ、パン屋の倅ですから、金勘定は得意ですっ!」
なんだ、俺、この微妙な言葉遣いは⁉ 焦りすぎだ!
「うむ、パン屋の倅はすごいな。高等学問所で習うことも、独学で覚えたのだな。となると、その辺の貴族の出の者に劣るものは何もない」
「……公務とか、したことないけど」
「それは婚姻後の話だ。どの令嬢、令息も公務はしたことがないだろうな」
そんなものか……
「それを踏まえて、誕生日と星林檎祭、どちらがいい?」
あの、その、えと。
「星林檎祭がいい……デス」
だって、誕生日のお祝いはみんなとの思い出だけど、星林檎祭はふたりだけの秘密だもん。
「ではそれもあわせて、リューイに報告しようか」
うん。リューイも喜んでくれたらいいな。
ドキドキする。
いつもの食事の支度に、俺はちょっと張り切ってデザートを作った。普段は夕食後のデザートは、カットした果物を用意するんだけど、今日はリューイに大事なお知らせをするのだ。
フルーツたっぷりのタルトは、表面をゼリーでコーティングしてキラキラ輝いている。
サーモンのムニエルもニンジンのグラッセも美味しくできた。
リューイはニコニコして完食し、ちょっとだけ物足りなさそうな表情をする。量を加減したから、まぁ、そうだよね。
そこで俺がタルトをサーブすると、顔がパッと華やいだ。
「うわぁ、キラキラしてるぅ。でも、どうして?」
笑顔のまんま、俺を見る。タルトもキラキラしているが、リューイの瞳もキラキラしている。
「今日はね、お話があるの」
「おはなし? おはなしすると、ケーキなの? へんなの。そしたら、まいにち、ケーキたべなくちゃ」
キョトンとする仕草が可愛い。
「特別な話だよ」
リュシー様が微笑んだ。
「あにうえさま、しってるの?」
「私とフィンのふたりから、リューイにお知らせがあるんだ」
子どもにあわせて『お知らせ』だなんて、出会ったころの小難しい話し方はどこに行ったんだろうね。あのころだったらリューイに向かって『報告』とか言って、『ほうこくって、なに?』なんて聞かれていたんだろうな。
俺は緊張も忘れてリュシー様に委ねる。
「ふたりから? ぼくだけ、なかまはずれだったの?」
リュシー様は椅子を立って、しょぼんとするリューイの横で中腰になった。そんなことないよって、背中をさすってあげている。
「私とフィンがね、結婚するんだ」
「……けっこん? みんなでおいわいするの? エル、キレイなドレスきるの? うわぁい、エルがあにうえさまのおよめさん? じゃあ、もう、どこにもいかない?」
リューイが立ち上がった。子ども用のダイニングチェアの足掛けの上に乗って、テーブルに手をつく。それをリュシー様がさりげなく支える。
「エル、ずっとおしろにいる? あにうえさまと一緒に、おとうさんとおかあさんみたいに、ぼくの傍にいてくれる?」
大きな目に涙が溜まって、やがてふっくらしたほっぺを伝った。
その様子に俺はびっくりする。
リューイはいつか俺がいなくなることに気付いていた。俺の不安がそれを気付かせたのか、他の誰かに言われたのかわからないけど、ずっと不安だったんだ。
リューイは自分に両親がいない理由を、俺に尋ねたことはない。同じ家に住んでいるのに、祖父母とろくに会話もしない異常な環境にいて、それでもいい子に……物わかりの良すぎる子に育っていたんだよ。
やっぱり、父親と母親が恋しかったのか。リュシー様に、会ったこともない父親を重ねていたんだ。
俺、リューイの物わかりの良さに甘えていた。
「リューイが大人になって、素敵な人に出会うまで、リュシー様と一緒に傍にいるよ」
俺のほっぺたも涙で濡れる。リュシー様が少し迷う素振りをしてリューイを抱き上げた。そのまま俺が座っている椅子の横までやってきて、俺とリューイのおでこにチュッチュッとキスをする。
「私は兄だが、父のように感じてほしいと思っているよ」
「あにうえさま……」
ギュッとリュシー様の首に抱きついて、リューイがほろほろと泣いた。いつものわんわん泣くのと違って、とても切ない涙だ。
「だいすきなエルとあにうえさまが、けっこんするの、とってもうれしい」
「俺も、リューイが喜んでくれてとても嬉しい」
「リューイは、フィンが大好きだろう? 私も大好きなんだ。ふたりで一緒に大好きなフィンを守っていこう」
「うん!」
リュシー様の声が穏やかに響く。リューイが元気に応えて、笑みを浮かべる。俺も涙でほっぺたを濡らしたまま笑った。
「おとうさん、おかあさんって、はずかしくてよべないけど、こころのなかで、おもっていていい?」
「もちろんだ」
ちょっと待って?
「リューイ、お父さんがふたりはダメかな?」
「……? あにうえさまは、おとうさんのこどもで、エルはおかあさんのおとうと。だから、おとうさんとおかあさんなの」
わからない、子ども理論!
「あとね、あにうえさまは、ひろい、なつのおそらみたいなの。エルはね、ポカポカのもうふ」
詩的だ。そうか、俺はポカポカなのか。あったかいって、思ってくれているんだ。
止まっていた涙がまたあふれる。
「エルぅ、おめでとうなのに、かなしいの?」
「ううん、うれしい涙だよ。リューイだって泣き虫さんじゃないか」
「ぼくのも、うれしいなみだなの!」
ふたりで笑いながら泣くという器用なことをしていると、リュシー様が何度もおでこにキスを繰り返してきて、結局三人で大笑いした。
「あにうえさま、おでこ、とけちゃうよ」
「じゃあ、おでこが溶けるまえにタルトを食べようか」
テーブルにいつも用意してあるお手拭きで涙を拭いて、冷めたお茶を淹れ直した。リューイもすっかり笑顔になってフォークを握り、タルトの上の色とりどりのフルーツをニコニコして口に運ぶ。カスタードクリームのバニラビーンズが、甘く香った。
リューイはお風呂に入っても大興奮で、今日は久しぶりに一緒に眠ることにする。寝かしつけのために一緒にベッドに横になって、胸をポンポンした。
「けっこんしき、あした?」
「一年くらいしてからだよ」
「いちねんて、なんかいねたら、くる? さんかい? ごかい?」
「うーん、もっともっとだよ」
「……もっと?」
最後に呟いて、しばらく沈黙が続く。やがてすうすうとやわらかな寝息が聞こえて、俺は一旦ベッドから這い出した。
「リュシー様、リューイを迎えに来てくれてありがとう。この子が親について何にも聞かないから、俺も目を逸らしてた。散歩の道行きで、行き交う親子連れのことを羨ましそうに見ていたのに」
リュシー様にすがりつく。
「一緒に育てていこうって言っただろう?」
「……うん。お母さんなのは、あれだけど」
この呟きに、リュシー様は何も言わなかった。
なんで?
◇ ◇ ◇
パン屋の倅を后子に迎える意思を議会に伝えると派閥ごとに意見が割れ、話し合いはわかりやすく混迷したらしい。
紛糾じゃなくて、混迷なのか。
そんな中、王宮内司を通じて正式に王弟の愛猫への招待状が届けられた。差出人はイゾルデ・ホーパエル。伯爵令嬢なんだって。
王宮内司って言うのは、王族の生活を管理・運営する役所で、公私に亘ってスケジュールを管理したり、王族予算をやりくりしたり、お城の内向きを管轄する。
厨房は王宮内司の管轄だし、侍従さん侍女さんも王宮内司の職員だそうだ。近衛騎士さんは騎士団所属だけど立場がちょっと一般騎士と違って、王宮内司とは密な協力関係にあるらしい。
ホーパエル伯爵令嬢は、その王宮内司を通じて常識と礼儀に則った招待状を送ってきた。行くべきか、行かざるべきか。
俺の立場は再び宙ぶらりんだ。以前のまったく後ろ盾のない不安定なものではない。王弟の愛猫と国王の恋人、どちらで扱うべきか、周囲が右往左往しているんだって。
俺にどういう態度を取るかで、今後、権力を手にできるか決まるらしい。
そこに届けられたこの招待状は、どう受け取っていいものなんだろうか。
「俺にそんな力、ないでしょ」
「そんなことなくても、うつけはそう思うのですよ」
うんざりした俺の声に、彼らを馬鹿にしきったウィレムさんが返す。
「ねえ、ホーパエル伯爵令嬢って、どんな方?」
身分で言ったら明らかにあっちのが上だ。
「ホーパエル伯爵は、元老院議員です。大臣職は賜っていませんが、政治手腕はなかなかだと評判です。野心家で隠居した元議員を煙たく思っていて、彼らの勢力を削ぐために日夜努力しておられます」
「ということは、令嬢はお妃候補ってこと?」
「一部の元老院議員がそう思っているだけで、正式なものでありません。自分で思うだけならジュリエッタ・ピヒナと同じですから、エルフィン様がご心配されることはありませんよ」
ジュリエッタ・ピヒナ、あのトンデモ令嬢。あの騒動が遠い昔の出来事のようだ。自分が侯爵令嬢だと信じて育ったジュリエッタは、身分を笠に着てリュシー様のお妃様になりたがった。我が儘で傲慢で、およそ淑女教育を受けたとは思えないトンデモぶりだったけどね。
「リュシー様がどうこうじゃなくて。令嬢にとっては俺って、突然出てきて陛下を盗んでいった泥棒なわけでしょ? 俺のこと嫌いなはずなのに、なんで招待状?」
盗むとか小っ恥ずかしい表現だけど、トンデモ令嬢に泥棒とか男娼とか面と向かって言われたもんねー。ホーパエル伯爵令嬢に同じように思われていても驚かない。
「相手がどう思っていようと、これって断るのは難しいよね」
受けても断っても、身の程知らずと陰口を叩かれそうだな。言いがかりをつけたい人は、重箱の隅をつつけるだけつつく。令嬢がそんなタイプでないことを祈る。
「リュシー様に相談してから返事をしようかな。日時と場所を王宮内司に伝えて、警護の目処が立ちそうならお受けする? 訪問が決まったら、令嬢のお好きなお菓子や話題を調べてほしいんだけど、誰に頼めばいいのかな?」
お土産はセンスが問われるし、お茶会中、会話が途切れるのは恐い。
「まずは私にお申し付けください。その後の采配をいたします」
ウィレムさんがニコニコして言った。今の会話のどこに、ご機嫌要素があるんだろうか。
「何か面白いこと、あった?」
ウィレムさんに限って思い出し笑いもないだろうけど、つい聞いてしまう。彼はますますニコニコした。
「エルフィン様が立派な后子になられる片鱗をお見せになるのが、嬉しいのですよ。警備を一番に考えられたこと、社交は情報収集が大切なことも、肌で感じていらっしゃる」
単なるビビリな庶民ですが。事前に調べておかなきゃ、王太后様と女官長様が固めてくれたハリボテにヒビが入っちゃうんだもん。警護はね、この間のリューイの行方不明事件で思い知ったの。何かあったら、お城中の人が眠らずに駆けずり回るかと思うと、ただ申し訳ない。
「石橋は叩きながら、杖を持って歩いたほうがいいと思って」
ひとりで解決しようとして、目を閉じたまま吊橋を歩くような真似はしないと決めていた。石橋は叩いて渡って、転ばないように杖を準備しておくんだ。でなきゃまた、『不思議なことを考える』って言われちゃうだろ。
「良い心がけです。私は石橋を叩くための槌であり、御身を支える杖です。ついでを申しますと橋をお渡りになるときは、かならず陛下に手を引いていただいてください」
そんな話をした夜。リューイを秘密基地に見送ってから、リュシー様にイゾルデ・ホーパエル伯爵令嬢について聞いてみた。例によって二人羽織スタイルでソファーに座っている。
「一言で言うと、慇懃無礼な令嬢だな」
リュシー様がうんざりした声で言った。
「母方の祖父が元元老院議員で、反スニャータ派の重鎮なのだ。伯爵は妻の父をいつまでも出しゃばる老害だと公言しているよ。令嬢は母親を通じて祖父の思想に染まっているが、父親の意向にも逆らえず、夜会で会えば嫌々媚びてくる」
そんなにあからさまなのか?
「自分の娘を売り込みたい他の貴族から、伯爵令嬢の悪口はいくらでも聞かされる。誇張はされているだろうが、彼女は常日頃言っているそうだよ。『わたくしは国の礎になるためなら、愛のない子でも産んでみせます』とね」
イラァ…………ッ。
自己犠牲と自己憐憫の塊か!
そんな気持ちでリュシー様の子どもなんて、産んでほしくない!
いやいやいや、ダメダメダメ。敵対勢力の悪口を鵜呑みにするところだった。先入観は持っちゃダメだと思うのに、イライラが止まらない。
俺は二人羽織から抜け出して、ソファーに乗り上げその首に腕を回す。
「リュシー様は、誰にもあげません!」
苛立ちまじりに言い放つ。
「………………」
沈黙が降りた。
あれ? リュシー様、呆れた?
「ん……あッ」
噛み付くようないきなりのキスから、横だっこ⁉
「覚悟して」
リュシー様の声が色っぽくかすれている。
何を? なんて問う間もなく、俺を抱き上げたリュシー様はスタスタと廊下に出て、王の私室へ真っ直ぐ向かった。
待って、パンが一次発酵中なんだけど⁉ 今日はそんな素振りなかったでしょ⁉
「私のことは、誰にも譲れないの?」
「うん」
「ふふ、私もフィンを誰にも譲らない」
黄金の瞳が蜂蜜の甘さで俺を見下ろす。そっと重ねられた唇も甘い。……あとは、もう、どろんどろんのぐっちゃんぐっちゃんで――
朝、パンが焼ける幸せの匂いで目が覚めた。ウィレムさん、パン生地を無駄にしないでくれてありがとう……って、恥ずかしいじゃないかッ!
◇ ◇ ◇
リュシー様は慇懃無礼な令嬢と言っていたけれど、イゾルデ・ホーパエル伯爵令嬢に対する俺の最初の感想は、掴みどころのない令嬢だなぁ、と。
王太后様と大公妃ケイトリン様から仕入れた事前情報によると、おふたりとはそりが合わないらしい。スニャータ出身であることや女性騎士であったことを、祖父母や両親から『嘆かわしいこと』と言い聞かせられているように見受けられるって。
王太后様は微苦笑って感じで、ケイトリン様はプンスカと、それぞれ思うところを話してくださった。
さて、訪れたホーパエル伯爵邸で俺は温室に案内される。手入れされた美しい花に囲まれた席が用意されていて、ウィレムさんの眉が一瞬上がった。理由がわからずこそっと聞くと、初めての訪問が温室なのがあり得ないんだって。
普通は屋敷内の喫茶室に迎え入れ、親しくなったら『趣向を変えて』『自慢の花を見て』と温室に案内するらしい。
大掛かりなお茶会で、沢山の招待客のうち幾人かが初訪問ならまだしも、本日のお呼ばれは俺だけだ。
初めから『親しくなりたい』アピールなのか、『母屋に入れる価値がない』のか図りかねて、ウィレムさんは眉を潜めたという。
ホスト役の令嬢はまだ姿を現さない。身分が上の者が後から来るから、これは礼儀に適っている。招待客がやってきた後、間髪容れずに入室するのも、待たせすぎるのもダメ。そろそろかな、と思った絶妙のタイミングで令嬢は現れた。
ほっそりした美しい人だ。年齢は俺と同じ十八歳と聞いている。国王陛下のお妃候補ということで、未だ婚約はしていない。
俺は立ち上がって、女官長様とウィレムさんに仕込まれた礼をした。名乗って名乗られて席に着くよう促される。
「初めておいでいただいたのに、不調法にも温室などにご案内して申し訳ありません。殿方とふたりきりにはなれませんもの」
馴れ馴れしいのでも蔑ろにされたのでもない、至極真っ当な理由だった。ガラス張りの温室では、やましいことは何もできない。
それにしても侍従さんや給仕さんは、人の数にカウントしないんだね。付添人も控えているのに、高位貴族の令嬢は、些細な噂が命取りになる。
「ご配慮に感謝いたします」
俺としてもこの令嬢と噂になる気はないので、本心からお礼を言った。
お茶と一緒に俺が持参したシュークリームが、伯爵家の用意したクッキーと一緒にサーブされる。令嬢が小さく、まぁと声をあげた。
ティム作のシュークリームはスワン型をしている。しばらく前にトイと三人でお喋りしたときに「こんなのあるよ」と話していたものだ。
招待状を貰ったときは自分でお土産を用意しようと思っていたが、微妙に苛ついて美味しいものが作れそうになかったんだ。すると、お城の菓子職人が作ったものなら箔が付く、と言ってティムが引き受けてくれた。
可愛らしいスワンのシュークリームに薄く微笑んだ令嬢は、それを最後に感情を揺らさなくなった。努めて冷静を保っているように見える。
和やかと言うより平坦に会話は進み、俺はいったいなんのために呼ばれたのかと不思議に思い始めたころ、ホーパエル伯爵令嬢が本題に入った。掴みどころがなかったのは、ここまでだ。
「あの陛下とのご結婚を決意なさったと聞きましたわ。……何か、弱みを握られておいでですの?」
は?
「まさか王弟殿下のご養育を盾に、おぞましい関係を迫られているのではありませんか? なんてお労しいことでしょう。わたくしが逃してさしあげますわ」
ごめん、話が見えない!
「このような愛らしい方が陛下に蹂躙されているだなんて、わたくし耐えられません」
「蹂躙?」
「あら、まだ、おわかりになりませんのね。そうですわ、こんなに稚い方ですもの。お閨教育はまだですわよね。……殿方を身のうちに受けるのは、とてもとても辛いことなのですって。初夜は地獄のようだと習いましたわ!」
俺のこと、何歳だと思っているの⁉
「愛し合うお相手なら耐えられても、あの陛下とだなんて! わたくしたち貴族が守るべき市井の民にそんな苦行を押し付けることは、間違っております。いいえ、市井の民だけではありませんわ! いかなる身分の方でも、あの陛下のお好きにさせてはならないのです。あんな、おぞましい近親婚の血で作られた子種を注ぎ込まれるなど、苦痛以外の何ものでもありません!」
それ、言っちゃう⁉ うわぁ後ろからお城のみんなの殺気が! ていうか『立板に水』すぎて、口が挟めない!
「そんなに怯えて、なんてお可哀想に」
あなたにですから!
「どうしても陛下に妃が必要というのなら、わたくしがなりますわ。ご安心なさって。わたくし、お子をお産み申し上げることも、民を思って耐えてみせますわ。……父が申しておりましたの。陛下にはお子をなしてもらわねばならぬと。穢れた血の子を王にはさせられないけれど、父が国を改革するためには必要なのですって。あなたは男の子ですから、お子が産めないでしょう? ということは、お子を産める女性も迎えねばならぬのです。あなたをお救いすることは、見も知らぬもうひとりの女性も救うことになるのです! 代わりに……わたくしが陛下のもとに参ります!」
悲愴な覚悟を見せて、ホーパエル伯爵令嬢イゾルデは涙を流した。俺は呆気にとられて馬鹿みたいに口を開ける。この令嬢、右耳と左耳で別々の思想を同時に吹き込まれて混乱しているんだな。
反スニャータ派の祖父母はひたすらスニャータの血は良くないものだと教え、父親は王子の祖父の座を狙って陛下の子を産めと迫ったんじゃないかな。そこに民を守るための真っ当な貴族教育が絡み合って、こんな支離滅裂なことになっちゃって。
でも基本的には、善意の人だ。
「陛下に対して不敬なことを言っているのはわかっておりますわ。でもわたくし、穢れを知る必要のない、まだ稚いあなたに、辛い目にあってほしくはないのです」
ただその善意は、思い込みと間違った教育で悪意にすり替わっている。死地に赴く覚悟をしなきゃいけないようなお閨教育ってなんだよ。
「イゾルデ様、お泣きにならないでください。私は幸せです」
「そう言えと、言い含められていらっしゃるのではない?」
「いいえ、辛いことと言ったら、私が陛下のことを好きで好きで大好きで、胸が痛くなることくらいです」
「そんなの嘘ですわ」
「イゾルデ様は陛下のお妃様になりたいのですか?」
「……わたくしが、ならねば」
「では、イゾルデ様は、私の恋のライバルです」
「恋⁉ わたくし、陛下のことなど好きではありませんわ!」
「それなら、私にください。私は陛下のことが大好きです」
不思議。
本人が目の前にいないと、こんなにはっきり『大好き』って言える。
それきり令嬢が黙り込んでしまったので、しばらくして付添人がお茶会のお開きを告げた。
聞いちゃいけないことを、いっぱい聞いた気がする。帰りの馬車に揺られながら、俺はぐったりと座席に身を沈めた。
「ウィレムさん、イゾルデ嬢が言ってた内容、精査しなきゃいけない気がするけど、報告書とかにまとめたほうがいいかなぁ」
「私がいたします」
ウィレムさんが請け負ってくれたので安心する。
それにしても今日のお茶会のこと、ホーパエル伯爵本人や伯爵夫人の実家は知っていたのかな。令嬢が口にした内容が普段から家族間で交わされているものだとしても、外には出したくないと思うんだけど。政治生命が終わりそうだったよ。
「お疲れでしょう、昼食はどうなさいますか?」
「シュークリームでおなかいっぱい」
可愛くてとても美味しいシュークリームは、現実逃避するのにもってこいだったんだ。ティムのスイーツがなかったら、耐えられなかったかも……
どうしよう、このモヤモヤをどこにぶつけようか。
よし、今夜は餃子にしよう! 力の限り皮を捏ねて、白菜を包丁で粉砕してやる! ……ストレスの発散方法が、カリスマ主婦に似てきた気がするのは気のせいだと思いたかった。
困ったことに、その後ホーパエル伯爵令嬢から度々お茶会のお誘いが来る。正直言って精神的にキツいので、なんだかんだと理由をつけてお断りしている。リュシー様も断って良いって言ってくれるし、王太后様は王妃の位にあった立場から、同じ方と続けて会わないほうが良いと仰った。
そうしたらある夜。宰相様が令嬢からの手紙を持ってやってきた。
トンデモお嬢様の騒動のとき、そんな話を聞いた。ピヒナ侯爵家を乗っ取っていたガルフ・ピヒナの娘のジュリエッタが、議会の承認もないのに自分が王妃になるって声高に宣言して場を凍りつかせていたもの。
議会は貴族中心の元老院と、平民代表の代議院で構成されている。両院で可決されれば俺は陛下から内定の宣旨を賜って、晴れて婚約者としてお披露目されるのだろう。
「代議院は、市井の少年が后子に立つことは自分たちの有利に働くと考えるだろう。リューイも市井の出身だと人気が高いしな。ただ、元老院の過半数の承認が得られるかは微妙だ。もし否決されれば、代議院で可決されていても否決になる」
元老院と代議院で意見が割れた場合、元老院の決定が優先されるんだって。
「議会に正妃選定の議案を出せば、ザカリー伯爵が言っていたように、フィンの身に危険が及ぶかもしれぬ。出かけるときはウィレムとカインを離してはならぬぞ」
「はい」
カイン卿は護衛騎士だ。俺は神妙に頷いた。
「それと、フィンにとってはもっと重大な話だ」
これ以上?
振り仰ぐと真面目な、でもどこか悪戯っぽい光を黄金の瞳に浮かべたリュシー様の顔がある。
「私とフィンの結婚をリューイに報告せねばな」
「あ」
待って! 心の準備が!
ずっと気にはなっていたものの、恥ずかしくて現実逃避していたんだよ~。なんて言えばいいんだ? リューイの兄上様と叔父さんが結婚するんだぞ? けっこうややこしい関係じゃね?
「真っ赤になっていて可愛いけど、大事なリューイにはきちんと伝えないと」
わかってる、わかっているけど。
「たぶんリューイに言ったら、お勉強会のときにみんなに言っちゃうと思う」
「いいさ、リューイに知らせたらすぐに、議会に提出するから。むしろ、それ待ちだ。宰相府からはせっつかれているしな」
「宰相府から?」
「婚儀の日程を組まねばならんからな」
婚儀。
日程……
テレビで見た女王陛下を戴くお国の、王子様の結婚式の映像が頭に浮かぶ。この世界にはテレビがないため中継とかの心配はないが、そこそこの見せ物になるんじゃないか?
「俺、男だし、籍だけ入れてこぢんまりお祝いするってのは……」
「フィンは側室ではなく、后子になるのだ。そんなわけにはいかぬだろう」
「いつごろを予定しているの?」
「フィンの十九歳の誕生日か、来年の秋の星林檎祭の日か、だな」
何その、記念日に結婚記念日を重ねてくるロマンチストぶりは⁉
ヤダ、胸がきゅうっとする。恥ずかしい、嬉しい、けれどあと一年もないじゃん。いやいやいや、どうすればいいの、俺⁉
「こら、また不思議なことを考えてないかい?」
「……また、不思議って言った。ホントはおバカさんて言いたいんじゃないの?」
身長差のせいで睨みつけても上目遣いになるし、地味に首が疲れる。俺はちょっとふてくされた気持ちになって唇を尖らせた。
チュッ。
「にゃっ」
キスをされて変な声が出る。
不意打ち禁止! いや、予告されても恥ずかしいけれど。
「可愛いことを可愛い表情で言わないの。それで、何を思ったの?」
「一年じゃ、お妃教育が間に合わないんじゃないかと」
恥ずかしくなって身体を前に向けて俯く。すると、頸をぺろりと舐められる。
「――っ!」
なんとか声を抑えて、慌てて両手を首の後ろに回した。
「悪戯はダメです」
「本気のやつならいいの?」
「――――っ。それもダメ」
だって、真面目な話をしていたでしょ!
「すまぬな。あんまり可愛いから、つい。妃教育であったな。問題ないと、女官長から聞いている。マナーや会話選びの覚えは及第点で、ぎこちなさは場数を踏めば問題ないそうだ。奉仕活動は大公夫妻からお墨付きを貰ったし、学問については……教授から面白いことを聞いたぞ?」
なんか俺、しでかした?
「子どもたちと街へ出かけたとき、買い物の数と支払う金額をそらで答えたそうじゃないか?」
俺、そんなことした?
そういえば、子どもたちの物見遊山のために尽力してくれた騎士さんや侍従さん、文官さんにお土産を買ったっけ。値段も数もバラバラに全部で百個くらい……
「パ、パン屋の倅ですから、金勘定は得意ですっ!」
なんだ、俺、この微妙な言葉遣いは⁉ 焦りすぎだ!
「うむ、パン屋の倅はすごいな。高等学問所で習うことも、独学で覚えたのだな。となると、その辺の貴族の出の者に劣るものは何もない」
「……公務とか、したことないけど」
「それは婚姻後の話だ。どの令嬢、令息も公務はしたことがないだろうな」
そんなものか……
「それを踏まえて、誕生日と星林檎祭、どちらがいい?」
あの、その、えと。
「星林檎祭がいい……デス」
だって、誕生日のお祝いはみんなとの思い出だけど、星林檎祭はふたりだけの秘密だもん。
「ではそれもあわせて、リューイに報告しようか」
うん。リューイも喜んでくれたらいいな。
ドキドキする。
いつもの食事の支度に、俺はちょっと張り切ってデザートを作った。普段は夕食後のデザートは、カットした果物を用意するんだけど、今日はリューイに大事なお知らせをするのだ。
フルーツたっぷりのタルトは、表面をゼリーでコーティングしてキラキラ輝いている。
サーモンのムニエルもニンジンのグラッセも美味しくできた。
リューイはニコニコして完食し、ちょっとだけ物足りなさそうな表情をする。量を加減したから、まぁ、そうだよね。
そこで俺がタルトをサーブすると、顔がパッと華やいだ。
「うわぁ、キラキラしてるぅ。でも、どうして?」
笑顔のまんま、俺を見る。タルトもキラキラしているが、リューイの瞳もキラキラしている。
「今日はね、お話があるの」
「おはなし? おはなしすると、ケーキなの? へんなの。そしたら、まいにち、ケーキたべなくちゃ」
キョトンとする仕草が可愛い。
「特別な話だよ」
リュシー様が微笑んだ。
「あにうえさま、しってるの?」
「私とフィンのふたりから、リューイにお知らせがあるんだ」
子どもにあわせて『お知らせ』だなんて、出会ったころの小難しい話し方はどこに行ったんだろうね。あのころだったらリューイに向かって『報告』とか言って、『ほうこくって、なに?』なんて聞かれていたんだろうな。
俺は緊張も忘れてリュシー様に委ねる。
「ふたりから? ぼくだけ、なかまはずれだったの?」
リュシー様は椅子を立って、しょぼんとするリューイの横で中腰になった。そんなことないよって、背中をさすってあげている。
「私とフィンがね、結婚するんだ」
「……けっこん? みんなでおいわいするの? エル、キレイなドレスきるの? うわぁい、エルがあにうえさまのおよめさん? じゃあ、もう、どこにもいかない?」
リューイが立ち上がった。子ども用のダイニングチェアの足掛けの上に乗って、テーブルに手をつく。それをリュシー様がさりげなく支える。
「エル、ずっとおしろにいる? あにうえさまと一緒に、おとうさんとおかあさんみたいに、ぼくの傍にいてくれる?」
大きな目に涙が溜まって、やがてふっくらしたほっぺを伝った。
その様子に俺はびっくりする。
リューイはいつか俺がいなくなることに気付いていた。俺の不安がそれを気付かせたのか、他の誰かに言われたのかわからないけど、ずっと不安だったんだ。
リューイは自分に両親がいない理由を、俺に尋ねたことはない。同じ家に住んでいるのに、祖父母とろくに会話もしない異常な環境にいて、それでもいい子に……物わかりの良すぎる子に育っていたんだよ。
やっぱり、父親と母親が恋しかったのか。リュシー様に、会ったこともない父親を重ねていたんだ。
俺、リューイの物わかりの良さに甘えていた。
「リューイが大人になって、素敵な人に出会うまで、リュシー様と一緒に傍にいるよ」
俺のほっぺたも涙で濡れる。リュシー様が少し迷う素振りをしてリューイを抱き上げた。そのまま俺が座っている椅子の横までやってきて、俺とリューイのおでこにチュッチュッとキスをする。
「私は兄だが、父のように感じてほしいと思っているよ」
「あにうえさま……」
ギュッとリュシー様の首に抱きついて、リューイがほろほろと泣いた。いつものわんわん泣くのと違って、とても切ない涙だ。
「だいすきなエルとあにうえさまが、けっこんするの、とってもうれしい」
「俺も、リューイが喜んでくれてとても嬉しい」
「リューイは、フィンが大好きだろう? 私も大好きなんだ。ふたりで一緒に大好きなフィンを守っていこう」
「うん!」
リュシー様の声が穏やかに響く。リューイが元気に応えて、笑みを浮かべる。俺も涙でほっぺたを濡らしたまま笑った。
「おとうさん、おかあさんって、はずかしくてよべないけど、こころのなかで、おもっていていい?」
「もちろんだ」
ちょっと待って?
「リューイ、お父さんがふたりはダメかな?」
「……? あにうえさまは、おとうさんのこどもで、エルはおかあさんのおとうと。だから、おとうさんとおかあさんなの」
わからない、子ども理論!
「あとね、あにうえさまは、ひろい、なつのおそらみたいなの。エルはね、ポカポカのもうふ」
詩的だ。そうか、俺はポカポカなのか。あったかいって、思ってくれているんだ。
止まっていた涙がまたあふれる。
「エルぅ、おめでとうなのに、かなしいの?」
「ううん、うれしい涙だよ。リューイだって泣き虫さんじゃないか」
「ぼくのも、うれしいなみだなの!」
ふたりで笑いながら泣くという器用なことをしていると、リュシー様が何度もおでこにキスを繰り返してきて、結局三人で大笑いした。
「あにうえさま、おでこ、とけちゃうよ」
「じゃあ、おでこが溶けるまえにタルトを食べようか」
テーブルにいつも用意してあるお手拭きで涙を拭いて、冷めたお茶を淹れ直した。リューイもすっかり笑顔になってフォークを握り、タルトの上の色とりどりのフルーツをニコニコして口に運ぶ。カスタードクリームのバニラビーンズが、甘く香った。
リューイはお風呂に入っても大興奮で、今日は久しぶりに一緒に眠ることにする。寝かしつけのために一緒にベッドに横になって、胸をポンポンした。
「けっこんしき、あした?」
「一年くらいしてからだよ」
「いちねんて、なんかいねたら、くる? さんかい? ごかい?」
「うーん、もっともっとだよ」
「……もっと?」
最後に呟いて、しばらく沈黙が続く。やがてすうすうとやわらかな寝息が聞こえて、俺は一旦ベッドから這い出した。
「リュシー様、リューイを迎えに来てくれてありがとう。この子が親について何にも聞かないから、俺も目を逸らしてた。散歩の道行きで、行き交う親子連れのことを羨ましそうに見ていたのに」
リュシー様にすがりつく。
「一緒に育てていこうって言っただろう?」
「……うん。お母さんなのは、あれだけど」
この呟きに、リュシー様は何も言わなかった。
なんで?
◇ ◇ ◇
パン屋の倅を后子に迎える意思を議会に伝えると派閥ごとに意見が割れ、話し合いはわかりやすく混迷したらしい。
紛糾じゃなくて、混迷なのか。
そんな中、王宮内司を通じて正式に王弟の愛猫への招待状が届けられた。差出人はイゾルデ・ホーパエル。伯爵令嬢なんだって。
王宮内司って言うのは、王族の生活を管理・運営する役所で、公私に亘ってスケジュールを管理したり、王族予算をやりくりしたり、お城の内向きを管轄する。
厨房は王宮内司の管轄だし、侍従さん侍女さんも王宮内司の職員だそうだ。近衛騎士さんは騎士団所属だけど立場がちょっと一般騎士と違って、王宮内司とは密な協力関係にあるらしい。
ホーパエル伯爵令嬢は、その王宮内司を通じて常識と礼儀に則った招待状を送ってきた。行くべきか、行かざるべきか。
俺の立場は再び宙ぶらりんだ。以前のまったく後ろ盾のない不安定なものではない。王弟の愛猫と国王の恋人、どちらで扱うべきか、周囲が右往左往しているんだって。
俺にどういう態度を取るかで、今後、権力を手にできるか決まるらしい。
そこに届けられたこの招待状は、どう受け取っていいものなんだろうか。
「俺にそんな力、ないでしょ」
「そんなことなくても、うつけはそう思うのですよ」
うんざりした俺の声に、彼らを馬鹿にしきったウィレムさんが返す。
「ねえ、ホーパエル伯爵令嬢って、どんな方?」
身分で言ったら明らかにあっちのが上だ。
「ホーパエル伯爵は、元老院議員です。大臣職は賜っていませんが、政治手腕はなかなかだと評判です。野心家で隠居した元議員を煙たく思っていて、彼らの勢力を削ぐために日夜努力しておられます」
「ということは、令嬢はお妃候補ってこと?」
「一部の元老院議員がそう思っているだけで、正式なものでありません。自分で思うだけならジュリエッタ・ピヒナと同じですから、エルフィン様がご心配されることはありませんよ」
ジュリエッタ・ピヒナ、あのトンデモ令嬢。あの騒動が遠い昔の出来事のようだ。自分が侯爵令嬢だと信じて育ったジュリエッタは、身分を笠に着てリュシー様のお妃様になりたがった。我が儘で傲慢で、およそ淑女教育を受けたとは思えないトンデモぶりだったけどね。
「リュシー様がどうこうじゃなくて。令嬢にとっては俺って、突然出てきて陛下を盗んでいった泥棒なわけでしょ? 俺のこと嫌いなはずなのに、なんで招待状?」
盗むとか小っ恥ずかしい表現だけど、トンデモ令嬢に泥棒とか男娼とか面と向かって言われたもんねー。ホーパエル伯爵令嬢に同じように思われていても驚かない。
「相手がどう思っていようと、これって断るのは難しいよね」
受けても断っても、身の程知らずと陰口を叩かれそうだな。言いがかりをつけたい人は、重箱の隅をつつけるだけつつく。令嬢がそんなタイプでないことを祈る。
「リュシー様に相談してから返事をしようかな。日時と場所を王宮内司に伝えて、警護の目処が立ちそうならお受けする? 訪問が決まったら、令嬢のお好きなお菓子や話題を調べてほしいんだけど、誰に頼めばいいのかな?」
お土産はセンスが問われるし、お茶会中、会話が途切れるのは恐い。
「まずは私にお申し付けください。その後の采配をいたします」
ウィレムさんがニコニコして言った。今の会話のどこに、ご機嫌要素があるんだろうか。
「何か面白いこと、あった?」
ウィレムさんに限って思い出し笑いもないだろうけど、つい聞いてしまう。彼はますますニコニコした。
「エルフィン様が立派な后子になられる片鱗をお見せになるのが、嬉しいのですよ。警備を一番に考えられたこと、社交は情報収集が大切なことも、肌で感じていらっしゃる」
単なるビビリな庶民ですが。事前に調べておかなきゃ、王太后様と女官長様が固めてくれたハリボテにヒビが入っちゃうんだもん。警護はね、この間のリューイの行方不明事件で思い知ったの。何かあったら、お城中の人が眠らずに駆けずり回るかと思うと、ただ申し訳ない。
「石橋は叩きながら、杖を持って歩いたほうがいいと思って」
ひとりで解決しようとして、目を閉じたまま吊橋を歩くような真似はしないと決めていた。石橋は叩いて渡って、転ばないように杖を準備しておくんだ。でなきゃまた、『不思議なことを考える』って言われちゃうだろ。
「良い心がけです。私は石橋を叩くための槌であり、御身を支える杖です。ついでを申しますと橋をお渡りになるときは、かならず陛下に手を引いていただいてください」
そんな話をした夜。リューイを秘密基地に見送ってから、リュシー様にイゾルデ・ホーパエル伯爵令嬢について聞いてみた。例によって二人羽織スタイルでソファーに座っている。
「一言で言うと、慇懃無礼な令嬢だな」
リュシー様がうんざりした声で言った。
「母方の祖父が元元老院議員で、反スニャータ派の重鎮なのだ。伯爵は妻の父をいつまでも出しゃばる老害だと公言しているよ。令嬢は母親を通じて祖父の思想に染まっているが、父親の意向にも逆らえず、夜会で会えば嫌々媚びてくる」
そんなにあからさまなのか?
「自分の娘を売り込みたい他の貴族から、伯爵令嬢の悪口はいくらでも聞かされる。誇張はされているだろうが、彼女は常日頃言っているそうだよ。『わたくしは国の礎になるためなら、愛のない子でも産んでみせます』とね」
イラァ…………ッ。
自己犠牲と自己憐憫の塊か!
そんな気持ちでリュシー様の子どもなんて、産んでほしくない!
いやいやいや、ダメダメダメ。敵対勢力の悪口を鵜呑みにするところだった。先入観は持っちゃダメだと思うのに、イライラが止まらない。
俺は二人羽織から抜け出して、ソファーに乗り上げその首に腕を回す。
「リュシー様は、誰にもあげません!」
苛立ちまじりに言い放つ。
「………………」
沈黙が降りた。
あれ? リュシー様、呆れた?
「ん……あッ」
噛み付くようないきなりのキスから、横だっこ⁉
「覚悟して」
リュシー様の声が色っぽくかすれている。
何を? なんて問う間もなく、俺を抱き上げたリュシー様はスタスタと廊下に出て、王の私室へ真っ直ぐ向かった。
待って、パンが一次発酵中なんだけど⁉ 今日はそんな素振りなかったでしょ⁉
「私のことは、誰にも譲れないの?」
「うん」
「ふふ、私もフィンを誰にも譲らない」
黄金の瞳が蜂蜜の甘さで俺を見下ろす。そっと重ねられた唇も甘い。……あとは、もう、どろんどろんのぐっちゃんぐっちゃんで――
朝、パンが焼ける幸せの匂いで目が覚めた。ウィレムさん、パン生地を無駄にしないでくれてありがとう……って、恥ずかしいじゃないかッ!
◇ ◇ ◇
リュシー様は慇懃無礼な令嬢と言っていたけれど、イゾルデ・ホーパエル伯爵令嬢に対する俺の最初の感想は、掴みどころのない令嬢だなぁ、と。
王太后様と大公妃ケイトリン様から仕入れた事前情報によると、おふたりとはそりが合わないらしい。スニャータ出身であることや女性騎士であったことを、祖父母や両親から『嘆かわしいこと』と言い聞かせられているように見受けられるって。
王太后様は微苦笑って感じで、ケイトリン様はプンスカと、それぞれ思うところを話してくださった。
さて、訪れたホーパエル伯爵邸で俺は温室に案内される。手入れされた美しい花に囲まれた席が用意されていて、ウィレムさんの眉が一瞬上がった。理由がわからずこそっと聞くと、初めての訪問が温室なのがあり得ないんだって。
普通は屋敷内の喫茶室に迎え入れ、親しくなったら『趣向を変えて』『自慢の花を見て』と温室に案内するらしい。
大掛かりなお茶会で、沢山の招待客のうち幾人かが初訪問ならまだしも、本日のお呼ばれは俺だけだ。
初めから『親しくなりたい』アピールなのか、『母屋に入れる価値がない』のか図りかねて、ウィレムさんは眉を潜めたという。
ホスト役の令嬢はまだ姿を現さない。身分が上の者が後から来るから、これは礼儀に適っている。招待客がやってきた後、間髪容れずに入室するのも、待たせすぎるのもダメ。そろそろかな、と思った絶妙のタイミングで令嬢は現れた。
ほっそりした美しい人だ。年齢は俺と同じ十八歳と聞いている。国王陛下のお妃候補ということで、未だ婚約はしていない。
俺は立ち上がって、女官長様とウィレムさんに仕込まれた礼をした。名乗って名乗られて席に着くよう促される。
「初めておいでいただいたのに、不調法にも温室などにご案内して申し訳ありません。殿方とふたりきりにはなれませんもの」
馴れ馴れしいのでも蔑ろにされたのでもない、至極真っ当な理由だった。ガラス張りの温室では、やましいことは何もできない。
それにしても侍従さんや給仕さんは、人の数にカウントしないんだね。付添人も控えているのに、高位貴族の令嬢は、些細な噂が命取りになる。
「ご配慮に感謝いたします」
俺としてもこの令嬢と噂になる気はないので、本心からお礼を言った。
お茶と一緒に俺が持参したシュークリームが、伯爵家の用意したクッキーと一緒にサーブされる。令嬢が小さく、まぁと声をあげた。
ティム作のシュークリームはスワン型をしている。しばらく前にトイと三人でお喋りしたときに「こんなのあるよ」と話していたものだ。
招待状を貰ったときは自分でお土産を用意しようと思っていたが、微妙に苛ついて美味しいものが作れそうになかったんだ。すると、お城の菓子職人が作ったものなら箔が付く、と言ってティムが引き受けてくれた。
可愛らしいスワンのシュークリームに薄く微笑んだ令嬢は、それを最後に感情を揺らさなくなった。努めて冷静を保っているように見える。
和やかと言うより平坦に会話は進み、俺はいったいなんのために呼ばれたのかと不思議に思い始めたころ、ホーパエル伯爵令嬢が本題に入った。掴みどころがなかったのは、ここまでだ。
「あの陛下とのご結婚を決意なさったと聞きましたわ。……何か、弱みを握られておいでですの?」
は?
「まさか王弟殿下のご養育を盾に、おぞましい関係を迫られているのではありませんか? なんてお労しいことでしょう。わたくしが逃してさしあげますわ」
ごめん、話が見えない!
「このような愛らしい方が陛下に蹂躙されているだなんて、わたくし耐えられません」
「蹂躙?」
「あら、まだ、おわかりになりませんのね。そうですわ、こんなに稚い方ですもの。お閨教育はまだですわよね。……殿方を身のうちに受けるのは、とてもとても辛いことなのですって。初夜は地獄のようだと習いましたわ!」
俺のこと、何歳だと思っているの⁉
「愛し合うお相手なら耐えられても、あの陛下とだなんて! わたくしたち貴族が守るべき市井の民にそんな苦行を押し付けることは、間違っております。いいえ、市井の民だけではありませんわ! いかなる身分の方でも、あの陛下のお好きにさせてはならないのです。あんな、おぞましい近親婚の血で作られた子種を注ぎ込まれるなど、苦痛以外の何ものでもありません!」
それ、言っちゃう⁉ うわぁ後ろからお城のみんなの殺気が! ていうか『立板に水』すぎて、口が挟めない!
「そんなに怯えて、なんてお可哀想に」
あなたにですから!
「どうしても陛下に妃が必要というのなら、わたくしがなりますわ。ご安心なさって。わたくし、お子をお産み申し上げることも、民を思って耐えてみせますわ。……父が申しておりましたの。陛下にはお子をなしてもらわねばならぬと。穢れた血の子を王にはさせられないけれど、父が国を改革するためには必要なのですって。あなたは男の子ですから、お子が産めないでしょう? ということは、お子を産める女性も迎えねばならぬのです。あなたをお救いすることは、見も知らぬもうひとりの女性も救うことになるのです! 代わりに……わたくしが陛下のもとに参ります!」
悲愴な覚悟を見せて、ホーパエル伯爵令嬢イゾルデは涙を流した。俺は呆気にとられて馬鹿みたいに口を開ける。この令嬢、右耳と左耳で別々の思想を同時に吹き込まれて混乱しているんだな。
反スニャータ派の祖父母はひたすらスニャータの血は良くないものだと教え、父親は王子の祖父の座を狙って陛下の子を産めと迫ったんじゃないかな。そこに民を守るための真っ当な貴族教育が絡み合って、こんな支離滅裂なことになっちゃって。
でも基本的には、善意の人だ。
「陛下に対して不敬なことを言っているのはわかっておりますわ。でもわたくし、穢れを知る必要のない、まだ稚いあなたに、辛い目にあってほしくはないのです」
ただその善意は、思い込みと間違った教育で悪意にすり替わっている。死地に赴く覚悟をしなきゃいけないようなお閨教育ってなんだよ。
「イゾルデ様、お泣きにならないでください。私は幸せです」
「そう言えと、言い含められていらっしゃるのではない?」
「いいえ、辛いことと言ったら、私が陛下のことを好きで好きで大好きで、胸が痛くなることくらいです」
「そんなの嘘ですわ」
「イゾルデ様は陛下のお妃様になりたいのですか?」
「……わたくしが、ならねば」
「では、イゾルデ様は、私の恋のライバルです」
「恋⁉ わたくし、陛下のことなど好きではありませんわ!」
「それなら、私にください。私は陛下のことが大好きです」
不思議。
本人が目の前にいないと、こんなにはっきり『大好き』って言える。
それきり令嬢が黙り込んでしまったので、しばらくして付添人がお茶会のお開きを告げた。
聞いちゃいけないことを、いっぱい聞いた気がする。帰りの馬車に揺られながら、俺はぐったりと座席に身を沈めた。
「ウィレムさん、イゾルデ嬢が言ってた内容、精査しなきゃいけない気がするけど、報告書とかにまとめたほうがいいかなぁ」
「私がいたします」
ウィレムさんが請け負ってくれたので安心する。
それにしても今日のお茶会のこと、ホーパエル伯爵本人や伯爵夫人の実家は知っていたのかな。令嬢が口にした内容が普段から家族間で交わされているものだとしても、外には出したくないと思うんだけど。政治生命が終わりそうだったよ。
「お疲れでしょう、昼食はどうなさいますか?」
「シュークリームでおなかいっぱい」
可愛くてとても美味しいシュークリームは、現実逃避するのにもってこいだったんだ。ティムのスイーツがなかったら、耐えられなかったかも……
どうしよう、このモヤモヤをどこにぶつけようか。
よし、今夜は餃子にしよう! 力の限り皮を捏ねて、白菜を包丁で粉砕してやる! ……ストレスの発散方法が、カリスマ主婦に似てきた気がするのは気のせいだと思いたかった。
困ったことに、その後ホーパエル伯爵令嬢から度々お茶会のお誘いが来る。正直言って精神的にキツいので、なんだかんだと理由をつけてお断りしている。リュシー様も断って良いって言ってくれるし、王太后様は王妃の位にあった立場から、同じ方と続けて会わないほうが良いと仰った。
そうしたらある夜。宰相様が令嬢からの手紙を持ってやってきた。
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