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知らない話を語る人の、愛のお話。
始まりの一歩。8/8✳︎✳︎✳︎
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emergency‼︎
R 18回です。スピンオフで読者様を焦らしまくった補佐官さん、ようやっとえちえちです。十八歳未満のお嬢様と苦手な方はご自衛ください。待ちくたびれたぜコンチクショウなお姉様、お待たせいたしました(笑)。背後にご注意の上、ごゆっくりご堪能ください。
⁂ ⁂ ⁂ ⁂ ⁂
スノー子爵家の三男とノーマン准男爵家の長男の結婚式は、下位貴族の婚姻としてはごく普通の規模で行われた。
ランバート・スノー子爵子息は、この婚姻をもって子爵家から離籍し、新たに一代男爵の位を賜った。一代准男爵長子の妻という立場では宰相補佐官の位に不足が有る。准男爵が身罷れば平民になるからだ。ランバートの爵位が下がろうと国王をはじめ宰相も宰相府の人々も気にしないが、身分をつつく輩はどこかに必ずいる。
そうして迎えた小さな聖堂での結婚式は、両家の親族の他は僅かな招待客が招かれたこぢんまりしたものだった。⋯⋯ただし、その招かれた客が国の中枢を担う人々ばかりだったので、調整がちょっとばかり大変だったのだが。
元騎士のジョセフは堂々たる花婿で、そのとなりに立つランバートは可憐な花のようだった。上衣の裾から流れる長いトレーンが美しい。
后子殿下が成婚の際にお披露目した男性用の花嫁衣装は、宰相府の書記官が自分の結婚式で妻に真似をさせたことで流行した。ランバートは恥ずかしがったが、子爵家の姉妹からのプレゼントとあっては身に纏うほかはない。
准男爵邸での披露目のパーティーは主役が抜け出した後も、准男爵と子爵継嗣によって恙無く招待客がもてなされた。結婚披露のパーティーとはそんなものだ。主役のふたりはこれから、最後の儀式に挑まねばならない。
准男爵邸にも新婚夫婦のための客間は用意されていたが、花嫁がたいそう恥ずかしがった。ジョセフはガチガチに緊張するランバートを優しく馬車に誘って、ふたりの新居に向かった。ふたりは男爵夫妻となったので、新居には最低限の使用人が控えていた。寝室も浴室も万事整えられていて、ランバートは益々緊張して息も絶え絶えだった。
ランバートは婚約期間の間に親しくなった、准男爵家から呼び寄せられた従僕に手入れをされて、柔らかな夜着を纏って寝室に誘導された。従僕は「おめでとうございます」と微笑んで辞していき、ランバートはひとりで残された。ジョセフとふたりで選んだ寝台もシーツも、初めて使う。
潜り込んで待つべきか、ふたりで一緒にシーツに包まるべきか悩む。心の臓が口から出るかと思うほど高鳴って、ランバートは窓際の小さなテーブルセットに居場所を求めた。
寝室の扉が開いて廊下の灯りが差し込んだ。そこに伸びる影は、ジョセフだ。
「ランバートさん」
ジョセフはごく自然にランバートの傍に来て、立ったり座ったりと落ち着かなかった妻の膝裏を掬った。ランバートを寝台の片側にそっと下ろすと、その横に護身用の短剣が置かれる。
「ランバートさん、今夜はお疲れでしょうから、ゆっくり眠りましょう」
「え?」
「俺たちには時間はたくさんあります」
足元を照らす常夜灯以外の灯りはないが、ランバートはジョセフが微笑んでいるのがわかった。
ジョセフは優しい。
ランバートが勇気を出さなければ、彼はきっと一生ふたりの間に短剣を置き続けるだろう。彼は寝台の真ん中に置かれた短剣を手に取った。
「ジョセフは怖くないよ。ただ、恥ずかしいだけ。君が私のために待っててくれたことが、とても嬉しい。あのさ、私、どんなに愛されても恥ずかしいのだけはどうにもならないと思うんだ。⋯⋯だから、ね」
短剣を寝台の下に放った。絨毯の毛足が長くて、音は大して響かなかった。ランバートは自分で放り投げておいたくせに、大きな音がしなかったことに妙な安心をした。
「恥ずかしいのがわからなくなるくらい、あ⋯⋯」
愛して欲しいって、言いたかったのに。
大きな身体に息も出来ないほど強く抱きしめられて、ランバートは言葉を途切れさせた。
「優しくします」
熱い声が耳に直接流し込まれて、ランバートは自分の背中が震えたのを感じた。肩を掴まれて互いの身体の間に隙間が生まれる。身長差で自然に見上げる姿勢になると、上から口付けが降ってきた。聖堂で初めて触れ合った唇は一瞬だったのに、啄むように何度も繰り返されて、舐られ、甘噛みされた。
「まだ恥ずかしい?」
「恥ずかしいけど、ふわふわする」
「じゃあ、もっとふわふわになりましょうね」
再び唇が触れ合って、今度はぬるりと舌が差し込まれた。ジョセフは縮こまったランバートの舌を捉えて溜まった唾液を掻き回し、口蓋を撫でさすった。ランバートはわずかな隙間から懸命に空気を求めて、薄い胸を上下させる。
ジョセフの指が夜着のリボンにかかると、ランバートは胸元の薄い生地をぎゅっと掴んだ。
「大丈夫です。見えていませんよ。素肌で触れ合いましょう。そのほうがきっと安心します」
「うん」
強張って震える指をそっと包まれて、掴んだ生地が離された。リボンが解かれて肩から薄い衣が滑り落ちると、夜闇の中に白い身体がほんのり浮かび上がった。裾の長い上衣だけの夜着がシーツの上に広がる。ジョセフはランバートを怖がらせないように、ゆったりと口付けを繰り返しながら愛撫を始めた。
口付けの合間の苦しげな吐息の中に、時折甘い声が混じる。恐る恐るジョセフの首に回された腕が、胸が密着するように引き寄せられた。その仕草にジョセフは歓喜した。ランバートはジョセフに身体を明け渡すのが嫌ではなく、本当に恥ずかしいだけなのだと知れた。
口付けを解いて顎から喉、そして鎖骨へと唇を滑らせると、ランバートは背中を反らせた。胸が浮いて誘うようにジョセフの目の前に突き出されたので、躊躇いなく尖りを舌で突くと「んやっ」と小さな声が漏れた。
「ホントに、見えて、ない?」
まだ前戯とも呼べぬほどしか愛撫していないのに、ランバートの声は絶え絶えで、ひどく舌足らずだ。感じやすい身体にジョセフは、自身が高揚するのを感じて急ぎすぎないよう自制した。
「大きな灯りはないでしょう?」
「ん⋯⋯」
ジョセフは見えていないとは言わなかったが、ランバートは安心したように目を閉じた。
寝台のうえで座ったまま抱き合っていた身体がゆっくりと倒されて、シーツの上でランバートの脚が広げられた。チェストに用意されていた美しい化粧瓶から香油を垂らすと、甘い香りが広がった。刺激のない優しい香りで伸びがとても良い逸品で、書記官ギルバートからの内緒の結婚祝いの品だった。
最初にギルバートからそれを手渡されたジョセフは、眉間に皺を寄せて捨てようとした。他の男に渡された香油など、歓迎できるものではなかったからだ。しかし、ギルバートは単なる遣いで、実際の贈り主は書記官夫人であった。添えられた手紙には、おそらく初めてであるランバートを気遣う経験者からの言葉が添えてあったので、ありがたく使うことにしたのだった。
なにものをも受け入れたことのない後蕾を丁寧に弛められて、ランバートの口からは甘い吐息が忙しなく吐き出された。時折手の甲を噛んで嬌声を飲み込んでいるのは、声を出すのが恥ずかしいからだろう。
「怪我をするから噛んでは駄目ですよ。声を上げるのが恥ずかしいなら、俺の肩を噛んでください」
「ジョセフが、痛いの、やっ⋯⋯んぅッ」
押し付けられた肩を押しやる手に力はない。
「あぁッ⋯⋯‼︎」
くりっと胎内の痼を押し上げられて、ランバートの腰が反り返った。中心の花茎が覆い被さるジョセフの剛直に触れてぬちゃりと音を立てる。
「ああ、先走りですね。よかった、感じてくれているんですね」
言いながらもぬかるんだ花洞を弛める手は止めない。そうしているうちに、ランバートの様子が変わってきた。どこかぎこちなく強張っていた身体から力が抜け、素直に腰を揺らめかせ始めた。
「ジョセフぅ、なんか変⋯⋯だよぅ⋯⋯⋯⋯あんッ」
「上手ですよ。気持ちいいの、覚えましょうね」
「ヤダぁ⋯⋯恥ずかしい、⋯⋯怖い⋯⋯」
「なにが怖いのか、教えて?」
「お腹の奥が、キュウって、する⋯⋯ッ」
ランバートの返事を聞いて、ジョセフの唇の端がキュッと吊り上がった。愛しさが溢れて、平べったい腹を手のひらで覆う。
「閨指南は受けましたか? この後、どうするのか知っているでしょう? お腹の奥がキュウっとするのは、あなたの胎が俺を受け入れる準備が整った証拠ですよ」
「そ⋯⋯なの?」
甘く蕩けた声が可愛い。灯をともして赤く色付いているだろう顔を見たいが、それは今日でなくていい。
「よかった⋯⋯二年も待たせて、ごめんね。好きだよ、ジョセフ。⋯⋯⋯⋯⋯⋯来て」
噛むのを妨げられてシーツを掴んでいた手が、ジョセフの頬を挟んで引き寄せた。チュッと可愛らしい音がして唇が触れる。ランバートは完全に自分の全てをジョセフに委ねた。
ジョセフが後蕾から指を抜き去るとき、ランバートの口からは甲高い声が飛び出した。広げた両脚を抱え上げて、ジョセフの滾りがあてがわれる。芯を持った楔は後蕾を押し広げてメリメリと突き進んだ。入り口はきついのに、奥は熱くぽってりとして滾りを包み込む。
「あああぁッ」
ランバートは衝撃に身体を固くして、ジョセフの首に回した手に力を込めた。
「ランバートさん、これであなたは完全に俺のものです」
「あ⋯⋯あん、うん、そ⋯⋯な恥ずかしいこと、言わないで⋯⋯」
ゆったりと揺すられて、ランバートは身を捩った。首に回された手に力が込められたのを感じて、ジョセフは宥めるようにランバートの肋の窪みを辿った。「んぅ」と小さな声がして、細い肢体がくねる。
「いくらでも恥ずかしがってください。ふふふ、好きな人の前で裸になるのは恥ずかしいんですよね。あなたが恥ずかしがるたびに、俺を好きだと全身で伝えてくれるのが、とても嬉しい」
「ん⋯⋯怖くない。恥ずかしい、だけ。あぁん⋯⋯やん⋯⋯ぁあぁぁッ」
こくこくと頷いて、ジョセフの言葉を肯定する様が愛おしい。
くちゅりくちゅりと 腰を揺らめかせてゆっくりと、しかし確実に追い上げる。ランバートは細く声を上げて涙をこぼした。
「あん、やっ、なんか、変ッ⋯⋯あああぁッ」
胎内のひどく感じる場所を擦り上げられて、ランバートは高く高く昇りつめた。自分の中を占拠する逞しい楔にきゅうきゅうとしがみつくと、ぐっと押し込まれたそれから熱い情熱が吐き出された。
労るように唇を啄んで、ランバートの呼吸が整うのを待つ。吐息は落ち着いてきたものの、うっとりと微睡み始めたのを見てとって、ジョセフは情熱を吐き出してなお力強い滾りを引き抜いた。
「あぁ⋯⋯」
吐息のような嬌声を漏らしたのを最後に、ランバートは眠りに落ちた。
顳顬に、頬に、唇に。疲れ果てて眠る妻となった人に口付けを落として、ジョセフは自分を宥めることに集中する。慣れないランバートに二度目を挑むのは酷というものだ。
「明日の朝は、シーツから出てきてくれますか?」
恥ずかしがって寝台から出てこないかもしれない。それもまた愛おしいだろうけれど。
ジョセフは素裸のままのランバートを抱きしめて、満ち足りて目を閉じたのだった。
これは。
知らない話を語る人の。
婿取りにまつわる。
愛のお話。
〈おしまい〉
R 18回です。スピンオフで読者様を焦らしまくった補佐官さん、ようやっとえちえちです。十八歳未満のお嬢様と苦手な方はご自衛ください。待ちくたびれたぜコンチクショウなお姉様、お待たせいたしました(笑)。背後にご注意の上、ごゆっくりご堪能ください。
⁂ ⁂ ⁂ ⁂ ⁂
スノー子爵家の三男とノーマン准男爵家の長男の結婚式は、下位貴族の婚姻としてはごく普通の規模で行われた。
ランバート・スノー子爵子息は、この婚姻をもって子爵家から離籍し、新たに一代男爵の位を賜った。一代准男爵長子の妻という立場では宰相補佐官の位に不足が有る。准男爵が身罷れば平民になるからだ。ランバートの爵位が下がろうと国王をはじめ宰相も宰相府の人々も気にしないが、身分をつつく輩はどこかに必ずいる。
そうして迎えた小さな聖堂での結婚式は、両家の親族の他は僅かな招待客が招かれたこぢんまりしたものだった。⋯⋯ただし、その招かれた客が国の中枢を担う人々ばかりだったので、調整がちょっとばかり大変だったのだが。
元騎士のジョセフは堂々たる花婿で、そのとなりに立つランバートは可憐な花のようだった。上衣の裾から流れる長いトレーンが美しい。
后子殿下が成婚の際にお披露目した男性用の花嫁衣装は、宰相府の書記官が自分の結婚式で妻に真似をさせたことで流行した。ランバートは恥ずかしがったが、子爵家の姉妹からのプレゼントとあっては身に纏うほかはない。
准男爵邸での披露目のパーティーは主役が抜け出した後も、准男爵と子爵継嗣によって恙無く招待客がもてなされた。結婚披露のパーティーとはそんなものだ。主役のふたりはこれから、最後の儀式に挑まねばならない。
准男爵邸にも新婚夫婦のための客間は用意されていたが、花嫁がたいそう恥ずかしがった。ジョセフはガチガチに緊張するランバートを優しく馬車に誘って、ふたりの新居に向かった。ふたりは男爵夫妻となったので、新居には最低限の使用人が控えていた。寝室も浴室も万事整えられていて、ランバートは益々緊張して息も絶え絶えだった。
ランバートは婚約期間の間に親しくなった、准男爵家から呼び寄せられた従僕に手入れをされて、柔らかな夜着を纏って寝室に誘導された。従僕は「おめでとうございます」と微笑んで辞していき、ランバートはひとりで残された。ジョセフとふたりで選んだ寝台もシーツも、初めて使う。
潜り込んで待つべきか、ふたりで一緒にシーツに包まるべきか悩む。心の臓が口から出るかと思うほど高鳴って、ランバートは窓際の小さなテーブルセットに居場所を求めた。
寝室の扉が開いて廊下の灯りが差し込んだ。そこに伸びる影は、ジョセフだ。
「ランバートさん」
ジョセフはごく自然にランバートの傍に来て、立ったり座ったりと落ち着かなかった妻の膝裏を掬った。ランバートを寝台の片側にそっと下ろすと、その横に護身用の短剣が置かれる。
「ランバートさん、今夜はお疲れでしょうから、ゆっくり眠りましょう」
「え?」
「俺たちには時間はたくさんあります」
足元を照らす常夜灯以外の灯りはないが、ランバートはジョセフが微笑んでいるのがわかった。
ジョセフは優しい。
ランバートが勇気を出さなければ、彼はきっと一生ふたりの間に短剣を置き続けるだろう。彼は寝台の真ん中に置かれた短剣を手に取った。
「ジョセフは怖くないよ。ただ、恥ずかしいだけ。君が私のために待っててくれたことが、とても嬉しい。あのさ、私、どんなに愛されても恥ずかしいのだけはどうにもならないと思うんだ。⋯⋯だから、ね」
短剣を寝台の下に放った。絨毯の毛足が長くて、音は大して響かなかった。ランバートは自分で放り投げておいたくせに、大きな音がしなかったことに妙な安心をした。
「恥ずかしいのがわからなくなるくらい、あ⋯⋯」
愛して欲しいって、言いたかったのに。
大きな身体に息も出来ないほど強く抱きしめられて、ランバートは言葉を途切れさせた。
「優しくします」
熱い声が耳に直接流し込まれて、ランバートは自分の背中が震えたのを感じた。肩を掴まれて互いの身体の間に隙間が生まれる。身長差で自然に見上げる姿勢になると、上から口付けが降ってきた。聖堂で初めて触れ合った唇は一瞬だったのに、啄むように何度も繰り返されて、舐られ、甘噛みされた。
「まだ恥ずかしい?」
「恥ずかしいけど、ふわふわする」
「じゃあ、もっとふわふわになりましょうね」
再び唇が触れ合って、今度はぬるりと舌が差し込まれた。ジョセフは縮こまったランバートの舌を捉えて溜まった唾液を掻き回し、口蓋を撫でさすった。ランバートはわずかな隙間から懸命に空気を求めて、薄い胸を上下させる。
ジョセフの指が夜着のリボンにかかると、ランバートは胸元の薄い生地をぎゅっと掴んだ。
「大丈夫です。見えていませんよ。素肌で触れ合いましょう。そのほうがきっと安心します」
「うん」
強張って震える指をそっと包まれて、掴んだ生地が離された。リボンが解かれて肩から薄い衣が滑り落ちると、夜闇の中に白い身体がほんのり浮かび上がった。裾の長い上衣だけの夜着がシーツの上に広がる。ジョセフはランバートを怖がらせないように、ゆったりと口付けを繰り返しながら愛撫を始めた。
口付けの合間の苦しげな吐息の中に、時折甘い声が混じる。恐る恐るジョセフの首に回された腕が、胸が密着するように引き寄せられた。その仕草にジョセフは歓喜した。ランバートはジョセフに身体を明け渡すのが嫌ではなく、本当に恥ずかしいだけなのだと知れた。
口付けを解いて顎から喉、そして鎖骨へと唇を滑らせると、ランバートは背中を反らせた。胸が浮いて誘うようにジョセフの目の前に突き出されたので、躊躇いなく尖りを舌で突くと「んやっ」と小さな声が漏れた。
「ホントに、見えて、ない?」
まだ前戯とも呼べぬほどしか愛撫していないのに、ランバートの声は絶え絶えで、ひどく舌足らずだ。感じやすい身体にジョセフは、自身が高揚するのを感じて急ぎすぎないよう自制した。
「大きな灯りはないでしょう?」
「ん⋯⋯」
ジョセフは見えていないとは言わなかったが、ランバートは安心したように目を閉じた。
寝台のうえで座ったまま抱き合っていた身体がゆっくりと倒されて、シーツの上でランバートの脚が広げられた。チェストに用意されていた美しい化粧瓶から香油を垂らすと、甘い香りが広がった。刺激のない優しい香りで伸びがとても良い逸品で、書記官ギルバートからの内緒の結婚祝いの品だった。
最初にギルバートからそれを手渡されたジョセフは、眉間に皺を寄せて捨てようとした。他の男に渡された香油など、歓迎できるものではなかったからだ。しかし、ギルバートは単なる遣いで、実際の贈り主は書記官夫人であった。添えられた手紙には、おそらく初めてであるランバートを気遣う経験者からの言葉が添えてあったので、ありがたく使うことにしたのだった。
なにものをも受け入れたことのない後蕾を丁寧に弛められて、ランバートの口からは甘い吐息が忙しなく吐き出された。時折手の甲を噛んで嬌声を飲み込んでいるのは、声を出すのが恥ずかしいからだろう。
「怪我をするから噛んでは駄目ですよ。声を上げるのが恥ずかしいなら、俺の肩を噛んでください」
「ジョセフが、痛いの、やっ⋯⋯んぅッ」
押し付けられた肩を押しやる手に力はない。
「あぁッ⋯⋯‼︎」
くりっと胎内の痼を押し上げられて、ランバートの腰が反り返った。中心の花茎が覆い被さるジョセフの剛直に触れてぬちゃりと音を立てる。
「ああ、先走りですね。よかった、感じてくれているんですね」
言いながらもぬかるんだ花洞を弛める手は止めない。そうしているうちに、ランバートの様子が変わってきた。どこかぎこちなく強張っていた身体から力が抜け、素直に腰を揺らめかせ始めた。
「ジョセフぅ、なんか変⋯⋯だよぅ⋯⋯⋯⋯あんッ」
「上手ですよ。気持ちいいの、覚えましょうね」
「ヤダぁ⋯⋯恥ずかしい、⋯⋯怖い⋯⋯」
「なにが怖いのか、教えて?」
「お腹の奥が、キュウって、する⋯⋯ッ」
ランバートの返事を聞いて、ジョセフの唇の端がキュッと吊り上がった。愛しさが溢れて、平べったい腹を手のひらで覆う。
「閨指南は受けましたか? この後、どうするのか知っているでしょう? お腹の奥がキュウっとするのは、あなたの胎が俺を受け入れる準備が整った証拠ですよ」
「そ⋯⋯なの?」
甘く蕩けた声が可愛い。灯をともして赤く色付いているだろう顔を見たいが、それは今日でなくていい。
「よかった⋯⋯二年も待たせて、ごめんね。好きだよ、ジョセフ。⋯⋯⋯⋯⋯⋯来て」
噛むのを妨げられてシーツを掴んでいた手が、ジョセフの頬を挟んで引き寄せた。チュッと可愛らしい音がして唇が触れる。ランバートは完全に自分の全てをジョセフに委ねた。
ジョセフが後蕾から指を抜き去るとき、ランバートの口からは甲高い声が飛び出した。広げた両脚を抱え上げて、ジョセフの滾りがあてがわれる。芯を持った楔は後蕾を押し広げてメリメリと突き進んだ。入り口はきついのに、奥は熱くぽってりとして滾りを包み込む。
「あああぁッ」
ランバートは衝撃に身体を固くして、ジョセフの首に回した手に力を込めた。
「ランバートさん、これであなたは完全に俺のものです」
「あ⋯⋯あん、うん、そ⋯⋯な恥ずかしいこと、言わないで⋯⋯」
ゆったりと揺すられて、ランバートは身を捩った。首に回された手に力が込められたのを感じて、ジョセフは宥めるようにランバートの肋の窪みを辿った。「んぅ」と小さな声がして、細い肢体がくねる。
「いくらでも恥ずかしがってください。ふふふ、好きな人の前で裸になるのは恥ずかしいんですよね。あなたが恥ずかしがるたびに、俺を好きだと全身で伝えてくれるのが、とても嬉しい」
「ん⋯⋯怖くない。恥ずかしい、だけ。あぁん⋯⋯やん⋯⋯ぁあぁぁッ」
こくこくと頷いて、ジョセフの言葉を肯定する様が愛おしい。
くちゅりくちゅりと 腰を揺らめかせてゆっくりと、しかし確実に追い上げる。ランバートは細く声を上げて涙をこぼした。
「あん、やっ、なんか、変ッ⋯⋯あああぁッ」
胎内のひどく感じる場所を擦り上げられて、ランバートは高く高く昇りつめた。自分の中を占拠する逞しい楔にきゅうきゅうとしがみつくと、ぐっと押し込まれたそれから熱い情熱が吐き出された。
労るように唇を啄んで、ランバートの呼吸が整うのを待つ。吐息は落ち着いてきたものの、うっとりと微睡み始めたのを見てとって、ジョセフは情熱を吐き出してなお力強い滾りを引き抜いた。
「あぁ⋯⋯」
吐息のような嬌声を漏らしたのを最後に、ランバートは眠りに落ちた。
顳顬に、頬に、唇に。疲れ果てて眠る妻となった人に口付けを落として、ジョセフは自分を宥めることに集中する。慣れないランバートに二度目を挑むのは酷というものだ。
「明日の朝は、シーツから出てきてくれますか?」
恥ずかしがって寝台から出てこないかもしれない。それもまた愛おしいだろうけれど。
ジョセフは素裸のままのランバートを抱きしめて、満ち足りて目を閉じたのだった。
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愛のお話。
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