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ダンスと不穏な招待状。
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しばらくは穏やかな生活が続いた。俺はミヤビンとコニー君に混じって勉強したり、ダンスの練習をしたりした。⋯⋯ダンス、いらないんじゃないか? なんて思ったけど、ミヤビンには欠かせない運動だった。
基本的に上流家庭の子息は身の回りの全てを使用人に世話される。子どものうちから動かなくても生活できちゃうんだ。男児は外遊びや剣の稽古で動き回るけど、女児は外遊びは推奨されない。精々、日傘を差して庭の散歩程度らしい。そこでダンスなわけだ。
「大公家の領地は中央から離れておりますし、大公様ご自身が傭兵大公と呼ばれる方なので細かいマナーは気にしませんが、いずれ王都に上られる際には必要になりますわ」
リリーさんは侍女長を辞して、ミヤビンの専属教育係になった。いつかのときは、大公家を離れてミヤビンに着いて行くためらしい。フィー団長も傭兵団の訓練は抜けて、コニー君のお世話に集中している。傭兵団の団長をしていたときは胡麻塩頭だと思っていたのに、整えて片眼鏡をかけたら素敵なロマンスグレーだった。剣の稽古も身の回りの世話も、全部フィー団長が采配している。護衛兼教育係の本領発揮だな。甲斐甲斐しい姿を見て、確かにお母さんだなぁと納得する。
フィー団長⋯⋯って、もうフィーさんでいいか。フィーさんとリリーさんは親子なだけあって、コニー君とミヤビンの教育は上手く相談しあってスケジュールを組んでいる。俺はと言えば、シュウさんというお世話係をつけてもらって、日々折り合いをつけて生活している。
異世界から来た聖女の中には他人に世話をされることに慣れず、過干渉に辟易してノイローゼ気味になった人もいたらしくて、シュウさんはギィの指示で、付かず離れず絶妙な距離を保ってくれている。
ありがたいけど、解釈には疑問を持つ。異世界人だからお世話されるのが辛いのではなく、一般庶民だからだと思う。パンを分けてくれてた集落の女将さん達だって、靴まで履かせてくれようとするのはビビると思う。異世界人だって平安時代のお姫様なら、おとなしくお世話されてるはずだ。
「マイムマイムかコロブチカしか踊れないぞ」
「去年の運動会でソーラン節やったよ」
ミヤビン、さすがにそれはワンピースドレスじゃ踊れないぞ。
ワルツみたいなのを覚悟してたけど、全然違った。パートナーと礼をしたら、背中合わせになってクルクル回ったり床を踵で打ち鳴らしたりするダンスだった。男女でステップが違ったりもしない。同性同士のカップルもいるからそのほうが合理的だ。ホールドしないから体格差も関係ないしね。女性のリリーさんも俺より背が高いから、ワルツとかだったら踊れないもん。
ミヤビンと背中合わせに回る。両手はえっへんスタイルで腰に当てる。ワンピースの丈がマキシ丈のミヤビンの手は腰じゃなくてスカートを持ち上げている。
「ビン、可愛い。上手です。今度は僕と踊ってください」
「いいよ!」
俺はコニー君がミヤビンを誘うのを微笑ましく見た。この世界の理では、すでに番とやらのようだけど、ふたりともまだ子どもだ。コニー君は明らかにミヤビンが大好きだけど、ミヤビンは可愛い弟分かお友だちの枠でコニー君を見ている。ミヤビンの心がどう育つかは、見えない未来だ。コニー君が頑張るのを邪魔する気はない。ミヤビンの気持ちを無視するようなクソガキだったら説教かますけど、コニー君ってば本当にいい子なんだもん。
小さなふたりがクルクル回っている。とても可愛い。回っているだけなのに個性も出るんだな。コニー君はこんなに小さいのに優雅で、ミヤビンは軽やかだ。
練習室の大人たちが可愛いダンスに頬をだらしなくしているところに、仕事中のはずのギィがやって来た。お父上が王都で軟禁されているから、領地の管理をしなくちゃならないらしい。ダンスの伴奏をしていたシュウさんがリュートを弾く手を止めて礼をした。音が止んだので子どもたちもダンスを止める。
「宰相から招待状が来たぞ。陛下の快気祝いの夜会を開くそうだ。これを機会に、謀叛人の親父を見限って宰相の派閥に下れと言ってきたよ」
「父上は、ご無事だったのですね」
皮肉げに言ったギィにコニー君が微笑んだ。毒殺されかかって安否が気にかかっていたんだもんな。
「俺が王都に行って、宰相に内緒で陛下にお前の無事を知らせてくるから、しばらく大公領に隠れていろ」
「はい」
聞き分けが良すぎて、涙が出そうだ。駄々こねられても困るけど、グッと堪えるように拳を握って微笑む姿が胸に詰まる。
「ギィ兄ちゃん、大丈夫よ。私がコニー君と一緒にいるから!」
うちのお姫様、マジ天使! 聖女様だけど天使‼︎ どっちも神聖な存在だから間違ってない。
「ビン、頼むぞ」
それからギィは、コニー君とミヤビンをリリーさんに託して、俺たちを領主の執務室に誘った。コニー君に笑顔で手を振って振り向いた瞬間、難しい表情になった。フィーさんをコニー君から離してまでしたい話は、いい内容じゃないだろう。
マナー教室の一環と称してギィにエスコートされて昇降機に乗る。これもう完全にエレベーターだから。扉とか手動だし、吹き抜けに面してるのに腰高の柵しかないけど。動力が魔石とか魔力だっていう驚きより、安全面に考慮されていないのが恐ろしい。コニー君とミヤビンには、ひとりで乗らないようにキツく言っておかねばと、乗るたびに思う。
俺の行くところには基本的に一緒に来るシュウさんは、ギィの乳母の息子さんだそうだ。乳兄弟ではない。一緒の乳で育ったのはシュウさんのお兄さんで、その人は乳兄弟と呼ぶって⋯⋯色々細かい違いがあるんだね。
そんな縁で元々はギィの身の回りの細々したことをやっていたので、勝手知ったる場所に辿り着くなり、テキパキと場を整えて女中にお茶の支度をするように言いつけた。ちなみに女中さんや侍女さんにお仕着せはない。俺が思う女性のお手伝いさんイコールメイド服っていうのは幻想だった。
シュウさんは女中が用意してきたお茶の道具でお茶を淹れると、すっと後ろに下がって空気になった。侍従のスキル凄すぎる。忍者になれるんじゃないかと思う。
「陛下の快気祝いの夜会、と言うが、未だ足腰も立たず車輪のついた椅子で移動なさっておられるようだ」
宰相からの招待状と言われるきらびやかな手紙と一緒に、米粒みたいな字がチマチマと書き綴られた紙片が差し出された。こっちは忍び込ませている大公家のスパイみたいな人からの報告だって。忍者みたいな人、いたんだね。
「不自由な陛下を見世物にして、善人面して宰相が陛下をお支えしておりますと招待客に見せつけるんだろう。そのとき、大公の息子が宰相側に立っていれば完璧だ」
それはコニー君の前では話せないね。フィーさんが垂れ気味の優しい眦を細めていて、見たことのない怖い表情をしている。彼は王様が少年時代からお仕えしていて、コニー君が産まれたときに直々に教育を託されたそうだ。
「コニーが行方不明で大公が蟄居なら、次の王冠は大公の息子である俺だ。俺は日頃から継承権は放棄したいと言って憚らないから、聖女を手に入れた後で俺に王権を譲渡させる気だろう」
「うわ、ゲスい。とんだマッチポンプだな」
「マッチポンプ?」
スラングは通じないのか。
「着火と消火。自分で放火しておいて消火活動に励んで正義の英雄ぶるひとのことだよ」
「なるほど、ぴったりだな」
ギィが苦笑した。
「それで、俺にその話を聞かせる理由はなに?」
聖女であるミヤビンと間違われる可能性がある俺は、一緒に王都に行くことはないだろう。ひとりで行ってくるってギィも言ってたし。
「親父が蟄居という名目で軟禁されていて俺が王都に出かけると、この城に大公家の血筋の者がいなくなるんだ。領地管理のために家宰のキノは置いていくし、私兵団も半分置いていくが、留守を狙って仕掛けてくる可能性は零ではないんだ」
「それはコニー君を探しにくるってこと?」
「そういうことだ」
宰相たちはあのドサクサの中でコニー君が逃げたのを知っただろう。あの大男がどうなったのかは怖くて聞いてないけど、俺が無事だってことはギィがなにかしてる。見張りの男が怪我をして見つかってコニー君が居なくなってたら、探すよね。
「コニーが頼れるのは、王妃殿下のご実家と伯父にあたるうちの親父の家、つまり大公家しかないんだ」
心当たりが二箇所しかないなら、どっちも調べるよね。
「陛下の快気祝いをコニーが行方不明のままで開くことがおかしい。祝い事を陛下のお心を無視してまで開き、俺を誘き寄せて城砦を手薄にする算段だろう。行かねば親父と共に、俺も謀叛人だ」
ギィのお父上、まだ謀叛の疑いなんだっけ。ここでギィが下手を打つと、大公家全てが謀叛の企てに加担していることにされるだろう。だからバックれるわけにはいかない。
「ヤンとジャンは置いていくから安心していい」
あのふたり、大公家の私兵団の中ではトップクラスの実力者だった。たまに会うと爽やかだし礼儀正しいし、本当にあの謎スープの製作者だとは思えない。謎スープであのふたりを一生揶揄えそうだ。
「それから、一番大事なことなんだが⋯⋯。サイを連れていくんだ。サーヤを城砦に招くから、話し相手になってやってくれないか?」
出産予定日は二ヶ月後。王都までの往復と滞在で、何事もなくてもギリギリの日程だって。領民の腕の良い産婆さんをお願いしてるけど、初産だから夫がいないのは不安だろうって。
「うん、わかった」
「頼むぞ」
ギィが城砦を離れる。
鳩尾のあたりにモヤモヤとしたつかえを感じた。漠然とした不安が募る。俺はそれを表情に出さないように、笑った。
基本的に上流家庭の子息は身の回りの全てを使用人に世話される。子どものうちから動かなくても生活できちゃうんだ。男児は外遊びや剣の稽古で動き回るけど、女児は外遊びは推奨されない。精々、日傘を差して庭の散歩程度らしい。そこでダンスなわけだ。
「大公家の領地は中央から離れておりますし、大公様ご自身が傭兵大公と呼ばれる方なので細かいマナーは気にしませんが、いずれ王都に上られる際には必要になりますわ」
リリーさんは侍女長を辞して、ミヤビンの専属教育係になった。いつかのときは、大公家を離れてミヤビンに着いて行くためらしい。フィー団長も傭兵団の訓練は抜けて、コニー君のお世話に集中している。傭兵団の団長をしていたときは胡麻塩頭だと思っていたのに、整えて片眼鏡をかけたら素敵なロマンスグレーだった。剣の稽古も身の回りの世話も、全部フィー団長が采配している。護衛兼教育係の本領発揮だな。甲斐甲斐しい姿を見て、確かにお母さんだなぁと納得する。
フィー団長⋯⋯って、もうフィーさんでいいか。フィーさんとリリーさんは親子なだけあって、コニー君とミヤビンの教育は上手く相談しあってスケジュールを組んでいる。俺はと言えば、シュウさんというお世話係をつけてもらって、日々折り合いをつけて生活している。
異世界から来た聖女の中には他人に世話をされることに慣れず、過干渉に辟易してノイローゼ気味になった人もいたらしくて、シュウさんはギィの指示で、付かず離れず絶妙な距離を保ってくれている。
ありがたいけど、解釈には疑問を持つ。異世界人だからお世話されるのが辛いのではなく、一般庶民だからだと思う。パンを分けてくれてた集落の女将さん達だって、靴まで履かせてくれようとするのはビビると思う。異世界人だって平安時代のお姫様なら、おとなしくお世話されてるはずだ。
「マイムマイムかコロブチカしか踊れないぞ」
「去年の運動会でソーラン節やったよ」
ミヤビン、さすがにそれはワンピースドレスじゃ踊れないぞ。
ワルツみたいなのを覚悟してたけど、全然違った。パートナーと礼をしたら、背中合わせになってクルクル回ったり床を踵で打ち鳴らしたりするダンスだった。男女でステップが違ったりもしない。同性同士のカップルもいるからそのほうが合理的だ。ホールドしないから体格差も関係ないしね。女性のリリーさんも俺より背が高いから、ワルツとかだったら踊れないもん。
ミヤビンと背中合わせに回る。両手はえっへんスタイルで腰に当てる。ワンピースの丈がマキシ丈のミヤビンの手は腰じゃなくてスカートを持ち上げている。
「ビン、可愛い。上手です。今度は僕と踊ってください」
「いいよ!」
俺はコニー君がミヤビンを誘うのを微笑ましく見た。この世界の理では、すでに番とやらのようだけど、ふたりともまだ子どもだ。コニー君は明らかにミヤビンが大好きだけど、ミヤビンは可愛い弟分かお友だちの枠でコニー君を見ている。ミヤビンの心がどう育つかは、見えない未来だ。コニー君が頑張るのを邪魔する気はない。ミヤビンの気持ちを無視するようなクソガキだったら説教かますけど、コニー君ってば本当にいい子なんだもん。
小さなふたりがクルクル回っている。とても可愛い。回っているだけなのに個性も出るんだな。コニー君はこんなに小さいのに優雅で、ミヤビンは軽やかだ。
練習室の大人たちが可愛いダンスに頬をだらしなくしているところに、仕事中のはずのギィがやって来た。お父上が王都で軟禁されているから、領地の管理をしなくちゃならないらしい。ダンスの伴奏をしていたシュウさんがリュートを弾く手を止めて礼をした。音が止んだので子どもたちもダンスを止める。
「宰相から招待状が来たぞ。陛下の快気祝いの夜会を開くそうだ。これを機会に、謀叛人の親父を見限って宰相の派閥に下れと言ってきたよ」
「父上は、ご無事だったのですね」
皮肉げに言ったギィにコニー君が微笑んだ。毒殺されかかって安否が気にかかっていたんだもんな。
「俺が王都に行って、宰相に内緒で陛下にお前の無事を知らせてくるから、しばらく大公領に隠れていろ」
「はい」
聞き分けが良すぎて、涙が出そうだ。駄々こねられても困るけど、グッと堪えるように拳を握って微笑む姿が胸に詰まる。
「ギィ兄ちゃん、大丈夫よ。私がコニー君と一緒にいるから!」
うちのお姫様、マジ天使! 聖女様だけど天使‼︎ どっちも神聖な存在だから間違ってない。
「ビン、頼むぞ」
それからギィは、コニー君とミヤビンをリリーさんに託して、俺たちを領主の執務室に誘った。コニー君に笑顔で手を振って振り向いた瞬間、難しい表情になった。フィーさんをコニー君から離してまでしたい話は、いい内容じゃないだろう。
マナー教室の一環と称してギィにエスコートされて昇降機に乗る。これもう完全にエレベーターだから。扉とか手動だし、吹き抜けに面してるのに腰高の柵しかないけど。動力が魔石とか魔力だっていう驚きより、安全面に考慮されていないのが恐ろしい。コニー君とミヤビンには、ひとりで乗らないようにキツく言っておかねばと、乗るたびに思う。
俺の行くところには基本的に一緒に来るシュウさんは、ギィの乳母の息子さんだそうだ。乳兄弟ではない。一緒の乳で育ったのはシュウさんのお兄さんで、その人は乳兄弟と呼ぶって⋯⋯色々細かい違いがあるんだね。
そんな縁で元々はギィの身の回りの細々したことをやっていたので、勝手知ったる場所に辿り着くなり、テキパキと場を整えて女中にお茶の支度をするように言いつけた。ちなみに女中さんや侍女さんにお仕着せはない。俺が思う女性のお手伝いさんイコールメイド服っていうのは幻想だった。
シュウさんは女中が用意してきたお茶の道具でお茶を淹れると、すっと後ろに下がって空気になった。侍従のスキル凄すぎる。忍者になれるんじゃないかと思う。
「陛下の快気祝いの夜会、と言うが、未だ足腰も立たず車輪のついた椅子で移動なさっておられるようだ」
宰相からの招待状と言われるきらびやかな手紙と一緒に、米粒みたいな字がチマチマと書き綴られた紙片が差し出された。こっちは忍び込ませている大公家のスパイみたいな人からの報告だって。忍者みたいな人、いたんだね。
「不自由な陛下を見世物にして、善人面して宰相が陛下をお支えしておりますと招待客に見せつけるんだろう。そのとき、大公の息子が宰相側に立っていれば完璧だ」
それはコニー君の前では話せないね。フィーさんが垂れ気味の優しい眦を細めていて、見たことのない怖い表情をしている。彼は王様が少年時代からお仕えしていて、コニー君が産まれたときに直々に教育を託されたそうだ。
「コニーが行方不明で大公が蟄居なら、次の王冠は大公の息子である俺だ。俺は日頃から継承権は放棄したいと言って憚らないから、聖女を手に入れた後で俺に王権を譲渡させる気だろう」
「うわ、ゲスい。とんだマッチポンプだな」
「マッチポンプ?」
スラングは通じないのか。
「着火と消火。自分で放火しておいて消火活動に励んで正義の英雄ぶるひとのことだよ」
「なるほど、ぴったりだな」
ギィが苦笑した。
「それで、俺にその話を聞かせる理由はなに?」
聖女であるミヤビンと間違われる可能性がある俺は、一緒に王都に行くことはないだろう。ひとりで行ってくるってギィも言ってたし。
「親父が蟄居という名目で軟禁されていて俺が王都に出かけると、この城に大公家の血筋の者がいなくなるんだ。領地管理のために家宰のキノは置いていくし、私兵団も半分置いていくが、留守を狙って仕掛けてくる可能性は零ではないんだ」
「それはコニー君を探しにくるってこと?」
「そういうことだ」
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「コニーが頼れるのは、王妃殿下のご実家と伯父にあたるうちの親父の家、つまり大公家しかないんだ」
心当たりが二箇所しかないなら、どっちも調べるよね。
「陛下の快気祝いをコニーが行方不明のままで開くことがおかしい。祝い事を陛下のお心を無視してまで開き、俺を誘き寄せて城砦を手薄にする算段だろう。行かねば親父と共に、俺も謀叛人だ」
ギィのお父上、まだ謀叛の疑いなんだっけ。ここでギィが下手を打つと、大公家全てが謀叛の企てに加担していることにされるだろう。だからバックれるわけにはいかない。
「ヤンとジャンは置いていくから安心していい」
あのふたり、大公家の私兵団の中ではトップクラスの実力者だった。たまに会うと爽やかだし礼儀正しいし、本当にあの謎スープの製作者だとは思えない。謎スープであのふたりを一生揶揄えそうだ。
「それから、一番大事なことなんだが⋯⋯。サイを連れていくんだ。サーヤを城砦に招くから、話し相手になってやってくれないか?」
出産予定日は二ヶ月後。王都までの往復と滞在で、何事もなくてもギリギリの日程だって。領民の腕の良い産婆さんをお願いしてるけど、初産だから夫がいないのは不安だろうって。
「うん、わかった」
「頼むぞ」
ギィが城砦を離れる。
鳩尾のあたりにモヤモヤとしたつかえを感じた。漠然とした不安が募る。俺はそれを表情に出さないように、笑った。
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