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小さな恋の物語とそれにまつわる大問題。
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女主人の部屋に移って半月、なんとか日常生活は無難に送ることができている。神殿の追手がうろついていることを集落の住人から伝え聞いたので、外には出ない。
ミヤビンはコニー君と一緒にパンを貰いに行く役目を仰せつかっていたけど、それも無しになった。神殿の奴らが探しているのは二十代前後の黒髪の女性だったけど、用心に越したことはない。なんて言うか、おっさんどもの欲望に忠実すぎる捜索に苦笑いしか出ない。好みのタイプじゃなかったらどうするんだろ?
「いってきます、ビン」
「気をつけてね、コニー君」
「行ってくるっすよ」
「ヤン兄ちゃんも気をつけて」
今日のパン係はヤンで、コニー君とふたりで共同パン焼き窯に出かけてくる。⋯⋯ミヤビンもだけど、コニー君もヤバくないか? 生贄にされそうだったんだよな。団長のフィーさんが『いつまでも逃げ隠れしてちゃ、いっぱしの男になれない』って豪快に笑ってたけど、まだ七歳なんだよな。
「いってらっしゃ~い」
ミヤビンはブンブン手を振っていて、俺も芋の皮剥きを止めて軽く手を振った。ふたりの姿が見えなくなると、ミヤビンは食堂の椅子に座って足をぷらぷらさせてつまらなそうにした。
ミヤビンは髪の毛はしばらく伸ばさないことにして、コニー君の服を借りている。コニー君とミヤビンは三歳違うけど体格に差はない。男の子の格好をして神殿を誤魔化そうって言うんだ。
奴ら、聖女召喚を失敗したとは思っていないだろうってギィが言った。今代の聖女が生きているうちは召喚陣が発動しないから、この世界に聖女が来てるってことはバレてるだろうってさ。
「ルン兄ちゃん、私にも出来そうなことある?」
お友だちが出かけてしまって退屈なんだろう。
「じゃあ、レタス千切ってくれる?」
この葉野菜、レタスじゃないかもしれないけど、何故か通じる言葉ではそう呼ばれている。変な翻訳機能が発動してるんじゃないかと思う。気になってギィに聞いてみたら、俺たちは普通にこの国の言葉を話しているように聞こえるって言ってた。ギィたちにも正しい日本語だけじゃなく、日本語英語も普通に喋ってるように聞こえるんだ。
お腹を空かせて帰ってくる傭兵の集団は、とにかくよく食べる。レタスだけでも十個は千切らなきゃならないから、手伝ってくれたら大助かりだ。土木屋の若衆も食べたけどそんなの目じゃない。大学のアメフト部の部室とかこんな感じかもしれない。行ったことないけど。
「聖女って、なんなのかなぁ。私、聖女じゃないよね?」
ぶちぶちとレタスをちぎりながら、ミヤビンが唇を尖らせた。外に出られないのは自分が『聖女』と間違われているからだと拗ねている。
「聖女っていいことをした人が、後になってからみんなに認めてもらってなるんでしょ? 私、なんにもしてないよ?」
ミヤビンはゲームをしないから、役職って言う意味での聖女を知らないのか。俺も詳しくないけど、聖なる力で怪我の治療とか仲間の体力を回復するキャクターのジョブだよな。ミヤビンが言ってるのは春休みに読んでたジャンヌ・ダルク伝のことだね。
「サイ兄ちゃんが私には魔力があるって言うけど、ルン兄ちゃんの怪我を直してくれたのはサイ兄ちゃんでしょ。そしたら、聖女はサイ兄ちゃんだと思うの」
「サイは男の人だから、聖女じゃなくて聖者か聖人って言うんだと思うよ」
「よくわからないけど、なんにもしてない私のことを聖女って呼ぶのは間違ってると思う」
「⋯⋯そうなんだけどなぁ。ビンちゃんが本当に聖女なのかはどうでもいいんだ。あっちがそう思い込んでいるのが大問題ってこと。人間違いで捕まって、お嫁さんにされるの嫌でしょう?」
本当はお嫁さんなんて可愛いものじゃなく、何人ものおっさんに酷いことされて子どもを生まされる可能性なんだけど、それは十歳のミヤビンにはとても言えない。
「ビンは難しい話をしてるなぁ」
俺がため息を漏らしたタイミングで、ギィが食堂に入ってきた。テーブルで芋の皮剥きをしている俺のとなりに座って、向かいにいるミヤビンに笑いかけた。
「泥、落としてきてよ。食堂に入る前にお風呂に入って来てっていつも言ってるでしょ」
「すまん。ちょっと気になる話題だったから」
笑うと目尻が下がって優しい表情になる。
「ここを引き払って拠点に移動するときまで、外に出るのは勘弁な。お前さんたちのおかげで作業が捗って、それより早く終わるかもしれない。十日後くらいになってはくれそうなんだけどな」
食事が改善されて、作業効率がアップしたんだって。まさかぁとか、お世辞ばっかりぃとか、言わない。だってあの謎スープ、マジで殺人級のシロモノだったから。あれに比べたらなんだって美味しい。
「そっか。半月より早まるんだって、ビンちゃん。あと十日、おとなしくしておこう。そしたら神殿から離れることが出来るね」
「悪いな。ルンの怪我が治ったら速攻で移動することも考えたが、こっちが作業を切り上げて移動を始めると、大事なものを隠してるんじゃないかと腹を探られかねん。痛くもない腹、とは言い難いからな」
すみません。腹痛の原因、俺たちですね。
「とにかく、ビンは変なおっさんどもの嫁さんになんかしないから、安心しろ」
「ありがとう、ギィ兄ちゃん。でもね、コニー君にお嫁さんになってって言われてるのは、どうしたらいいの?」
おお、小さな恋の物語だな。可愛い初恋じゃないか。思わず、ほやっと笑いが込み上げる。
「コニーが?」
ギィの声がちょっと低くなった。ミヤビンは気付いてないみたいだけど、笑顔がちょっと固い。小さな子どもの言うことなんだ、本当に結婚するかはわからないだろうに、ずいぶん深刻な表情してるな?
「それは、いつ?」
出会ってまだ、半月足らずだもんな。
「初めて会った日。私が自己紹介したら、その名前は他の人に言っちゃダメだよって言って、コニー君の長い名前も教えてくれたの」
なんてこった!
俺が最初にギィに名乗るとき、フルネームを教える相手は一生を共にする相手だけって教えてもらったぞ。
「ギィ⋯⋯小さな子どもの可愛い初恋じゃないか。なかったことにはならないかな⋯⋯⋯⋯」
コニー君が駄目とかじゃないよ。こんな小さなうちに結婚相手が決まるなんて、どんな封建社会だよってことで。それにミヤビンは名乗りがそんな重要なことだって知らないでいたわけだし、事故だよ、事故。
「⋯⋯ルン。今夜、ビンが眠ったら、俺の部屋でちょっと話をしよう」
「⋯⋯⋯⋯はい」
簡単に事故では片付けられないのかもしれない。爆弾を投下したミヤビンはキョトンとして俺とギィを交互に見た。
それからギィはお風呂に入りに食堂を出て行って、俺は厨房で角猪と格闘していたジャンと一緒にトンカツを揚げまくった。剥いた芋は胡瓜と人参と一緒にポテトサラダにしてミヤビンが千切ってくれたレタスの上にどーんと乗せた。
程なくしてヤンと一緒に帰ってきたコニー君は、ごく自然に俺たちに挨拶をして、ミヤビンのとなりに立った。
「コニー君、おかえりなさい」
「ただいま、ビン」
あー、和むわぁ。子どもっているだけで可愛いよね。わらわらと風呂上がりの厳つい集団がやってきたので、目の保養は直ぐに終わりになったけど。仕事を終えた傭兵たちを、ちびっこたちが『おかえりなさい』と『お疲れ様』で迎え入れている。おっさんたちがほにゃっと優しい表情になる。本当にこの人たちは剣を持って戦う人たちなのかと不思議に思う。
今夜の夕食もスープのひと匙も残らず食べ尽くされて、賄い夫はいい仕事をしたと嬉しくなった。得に初めて作ったトンカツは、味見をしたジャンの絶賛を受けただけあって、大好評だった。俺の隣で食べていたギィが難しい表情をしていたのが残念だったけど、この後のお話とやらがよほど重大なんだろう。
味の感想をもらえなかったことが残念だなんて、思ってないからな。
なんとなくモヤモヤした気持ちを抱えたまま、ギィの部屋に行く。ミヤビンの後にお風呂も入ってパジャマを着て眠る準備も万端だ。話が夜遅くまでかかっても、部屋に帰ったらすぐにベッドに潜り込める。ミヤビンを起こしたくないからな。
半月前はこの部屋で眠っていたけど、ほとんど覚えてない。怪我の場所が背中だったせいでうつ伏せ寝だったから、壁ばっかり見てた。
ギィがベッドにどっかり腰掛けて、俺はその傍らにある椅子に座った。この世界の規格は日本産の俺には大きい。足が床につかなくてブラブラする。子どもかよ。
どう話して良いのか迷っているみたいで、腕を組んで眉間に皺を寄せていた。
「まとまらないなら、明日の夜とかでもいいよ?」
沈黙に耐えられなくて、ギィに向かって言った。彼はなにかを振り払うように首を振ると「いい」と言って自分の髪の毛をぐちゃぐちゃとかき回した。
「ビンは真名をコニーに委ねた。⋯⋯ビンに他意がないのは分かっている。普通に自己紹介しただけなんだよな」
初めましての挨拶のとき、俺だって直前にギィが止めてくれなきゃ桜木薫って名乗ってたと思う。
「俺たちの故郷じゃ一般的だな」
「だからそれを責める気はない。むしろ謝るのはこっちだ」
「謝らなきゃいけない程なの?」
中高生が初恋の勢いに乗って突き進んでいくように、うっかり名乗りをしちゃう若者とかいないんだろうか? ものの道理がわかっていない乳幼児とかも、百パーセント守り切れる約束事なんかないよな。
「⋯⋯普通の子どもなら、笑い話だ」
「普通の?」
普通じゃない子ども。ミヤビンが聖女だから? 疑問は表情に出たようだ。ギィがもう一度悩みを吹っ切るように髪の毛をかき回した。
「問題は、ビンが聖女でコニーが王子だってことだ」
は?
それはどこのファンタジー小説ですか?
ミヤビンはコニー君と一緒にパンを貰いに行く役目を仰せつかっていたけど、それも無しになった。神殿の奴らが探しているのは二十代前後の黒髪の女性だったけど、用心に越したことはない。なんて言うか、おっさんどもの欲望に忠実すぎる捜索に苦笑いしか出ない。好みのタイプじゃなかったらどうするんだろ?
「いってきます、ビン」
「気をつけてね、コニー君」
「行ってくるっすよ」
「ヤン兄ちゃんも気をつけて」
今日のパン係はヤンで、コニー君とふたりで共同パン焼き窯に出かけてくる。⋯⋯ミヤビンもだけど、コニー君もヤバくないか? 生贄にされそうだったんだよな。団長のフィーさんが『いつまでも逃げ隠れしてちゃ、いっぱしの男になれない』って豪快に笑ってたけど、まだ七歳なんだよな。
「いってらっしゃ~い」
ミヤビンはブンブン手を振っていて、俺も芋の皮剥きを止めて軽く手を振った。ふたりの姿が見えなくなると、ミヤビンは食堂の椅子に座って足をぷらぷらさせてつまらなそうにした。
ミヤビンは髪の毛はしばらく伸ばさないことにして、コニー君の服を借りている。コニー君とミヤビンは三歳違うけど体格に差はない。男の子の格好をして神殿を誤魔化そうって言うんだ。
奴ら、聖女召喚を失敗したとは思っていないだろうってギィが言った。今代の聖女が生きているうちは召喚陣が発動しないから、この世界に聖女が来てるってことはバレてるだろうってさ。
「ルン兄ちゃん、私にも出来そうなことある?」
お友だちが出かけてしまって退屈なんだろう。
「じゃあ、レタス千切ってくれる?」
この葉野菜、レタスじゃないかもしれないけど、何故か通じる言葉ではそう呼ばれている。変な翻訳機能が発動してるんじゃないかと思う。気になってギィに聞いてみたら、俺たちは普通にこの国の言葉を話しているように聞こえるって言ってた。ギィたちにも正しい日本語だけじゃなく、日本語英語も普通に喋ってるように聞こえるんだ。
お腹を空かせて帰ってくる傭兵の集団は、とにかくよく食べる。レタスだけでも十個は千切らなきゃならないから、手伝ってくれたら大助かりだ。土木屋の若衆も食べたけどそんなの目じゃない。大学のアメフト部の部室とかこんな感じかもしれない。行ったことないけど。
「聖女って、なんなのかなぁ。私、聖女じゃないよね?」
ぶちぶちとレタスをちぎりながら、ミヤビンが唇を尖らせた。外に出られないのは自分が『聖女』と間違われているからだと拗ねている。
「聖女っていいことをした人が、後になってからみんなに認めてもらってなるんでしょ? 私、なんにもしてないよ?」
ミヤビンはゲームをしないから、役職って言う意味での聖女を知らないのか。俺も詳しくないけど、聖なる力で怪我の治療とか仲間の体力を回復するキャクターのジョブだよな。ミヤビンが言ってるのは春休みに読んでたジャンヌ・ダルク伝のことだね。
「サイ兄ちゃんが私には魔力があるって言うけど、ルン兄ちゃんの怪我を直してくれたのはサイ兄ちゃんでしょ。そしたら、聖女はサイ兄ちゃんだと思うの」
「サイは男の人だから、聖女じゃなくて聖者か聖人って言うんだと思うよ」
「よくわからないけど、なんにもしてない私のことを聖女って呼ぶのは間違ってると思う」
「⋯⋯そうなんだけどなぁ。ビンちゃんが本当に聖女なのかはどうでもいいんだ。あっちがそう思い込んでいるのが大問題ってこと。人間違いで捕まって、お嫁さんにされるの嫌でしょう?」
本当はお嫁さんなんて可愛いものじゃなく、何人ものおっさんに酷いことされて子どもを生まされる可能性なんだけど、それは十歳のミヤビンにはとても言えない。
「ビンは難しい話をしてるなぁ」
俺がため息を漏らしたタイミングで、ギィが食堂に入ってきた。テーブルで芋の皮剥きをしている俺のとなりに座って、向かいにいるミヤビンに笑いかけた。
「泥、落としてきてよ。食堂に入る前にお風呂に入って来てっていつも言ってるでしょ」
「すまん。ちょっと気になる話題だったから」
笑うと目尻が下がって優しい表情になる。
「ここを引き払って拠点に移動するときまで、外に出るのは勘弁な。お前さんたちのおかげで作業が捗って、それより早く終わるかもしれない。十日後くらいになってはくれそうなんだけどな」
食事が改善されて、作業効率がアップしたんだって。まさかぁとか、お世辞ばっかりぃとか、言わない。だってあの謎スープ、マジで殺人級のシロモノだったから。あれに比べたらなんだって美味しい。
「そっか。半月より早まるんだって、ビンちゃん。あと十日、おとなしくしておこう。そしたら神殿から離れることが出来るね」
「悪いな。ルンの怪我が治ったら速攻で移動することも考えたが、こっちが作業を切り上げて移動を始めると、大事なものを隠してるんじゃないかと腹を探られかねん。痛くもない腹、とは言い難いからな」
すみません。腹痛の原因、俺たちですね。
「とにかく、ビンは変なおっさんどもの嫁さんになんかしないから、安心しろ」
「ありがとう、ギィ兄ちゃん。でもね、コニー君にお嫁さんになってって言われてるのは、どうしたらいいの?」
おお、小さな恋の物語だな。可愛い初恋じゃないか。思わず、ほやっと笑いが込み上げる。
「コニーが?」
ギィの声がちょっと低くなった。ミヤビンは気付いてないみたいだけど、笑顔がちょっと固い。小さな子どもの言うことなんだ、本当に結婚するかはわからないだろうに、ずいぶん深刻な表情してるな?
「それは、いつ?」
出会ってまだ、半月足らずだもんな。
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「ギィ⋯⋯小さな子どもの可愛い初恋じゃないか。なかったことにはならないかな⋯⋯⋯⋯」
コニー君が駄目とかじゃないよ。こんな小さなうちに結婚相手が決まるなんて、どんな封建社会だよってことで。それにミヤビンは名乗りがそんな重要なことだって知らないでいたわけだし、事故だよ、事故。
「⋯⋯ルン。今夜、ビンが眠ったら、俺の部屋でちょっと話をしよう」
「⋯⋯⋯⋯はい」
簡単に事故では片付けられないのかもしれない。爆弾を投下したミヤビンはキョトンとして俺とギィを交互に見た。
それからギィはお風呂に入りに食堂を出て行って、俺は厨房で角猪と格闘していたジャンと一緒にトンカツを揚げまくった。剥いた芋は胡瓜と人参と一緒にポテトサラダにしてミヤビンが千切ってくれたレタスの上にどーんと乗せた。
程なくしてヤンと一緒に帰ってきたコニー君は、ごく自然に俺たちに挨拶をして、ミヤビンのとなりに立った。
「コニー君、おかえりなさい」
「ただいま、ビン」
あー、和むわぁ。子どもっているだけで可愛いよね。わらわらと風呂上がりの厳つい集団がやってきたので、目の保養は直ぐに終わりになったけど。仕事を終えた傭兵たちを、ちびっこたちが『おかえりなさい』と『お疲れ様』で迎え入れている。おっさんたちがほにゃっと優しい表情になる。本当にこの人たちは剣を持って戦う人たちなのかと不思議に思う。
今夜の夕食もスープのひと匙も残らず食べ尽くされて、賄い夫はいい仕事をしたと嬉しくなった。得に初めて作ったトンカツは、味見をしたジャンの絶賛を受けただけあって、大好評だった。俺の隣で食べていたギィが難しい表情をしていたのが残念だったけど、この後のお話とやらがよほど重大なんだろう。
味の感想をもらえなかったことが残念だなんて、思ってないからな。
なんとなくモヤモヤした気持ちを抱えたまま、ギィの部屋に行く。ミヤビンの後にお風呂も入ってパジャマを着て眠る準備も万端だ。話が夜遅くまでかかっても、部屋に帰ったらすぐにベッドに潜り込める。ミヤビンを起こしたくないからな。
半月前はこの部屋で眠っていたけど、ほとんど覚えてない。怪我の場所が背中だったせいでうつ伏せ寝だったから、壁ばっかり見てた。
ギィがベッドにどっかり腰掛けて、俺はその傍らにある椅子に座った。この世界の規格は日本産の俺には大きい。足が床につかなくてブラブラする。子どもかよ。
どう話して良いのか迷っているみたいで、腕を組んで眉間に皺を寄せていた。
「まとまらないなら、明日の夜とかでもいいよ?」
沈黙に耐えられなくて、ギィに向かって言った。彼はなにかを振り払うように首を振ると「いい」と言って自分の髪の毛をぐちゃぐちゃとかき回した。
「ビンは真名をコニーに委ねた。⋯⋯ビンに他意がないのは分かっている。普通に自己紹介しただけなんだよな」
初めましての挨拶のとき、俺だって直前にギィが止めてくれなきゃ桜木薫って名乗ってたと思う。
「俺たちの故郷じゃ一般的だな」
「だからそれを責める気はない。むしろ謝るのはこっちだ」
「謝らなきゃいけない程なの?」
中高生が初恋の勢いに乗って突き進んでいくように、うっかり名乗りをしちゃう若者とかいないんだろうか? ものの道理がわかっていない乳幼児とかも、百パーセント守り切れる約束事なんかないよな。
「⋯⋯普通の子どもなら、笑い話だ」
「普通の?」
普通じゃない子ども。ミヤビンが聖女だから? 疑問は表情に出たようだ。ギィがもう一度悩みを吹っ切るように髪の毛をかき回した。
「問題は、ビンが聖女でコニーが王子だってことだ」
は?
それはどこのファンタジー小説ですか?
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