神の末裔は褥に微睡む。

織緒こん

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理不尽なため息。✳︎

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emergency‼︎

⋯⋯てほどでもなく。R 15微エロです。真ん中あたり背後注意です。

 ⁂ ⁂ ⁂ ⁂ ⁂

 魔獣討伐隊の出陣式は省略された。クズ王が臨席を拒否したためだ。ふざけてんじゃねぇ、命懸けで魔獣を倒しに行く臣民の生命を軽んじやがった。

 イレギュラーな時期の討伐にもかかわらず、特別予算の申請も通らなかったらしい。生命を軽んじただけじゃなく、生命を値切りやがった。

 理由は『ヴィッツ将軍に王妃を略奪されたことへの抗議』って、罵詈雑言を浴びせたいのに怒りが過ぎて言葉が出ない。そんな理不尽かつ個人的な報復のために、討伐隊全体を危険な目に合わせるなんてありえない。

 これでは災厄に備えるために組まれた予算も、どうなるかわからない。もう、クズのOKなんかいらないから、宰相と内務卿で回しちゃえよ。もう、体裁なんか取り繕ったって無駄だろ? 王妃に譲渡された決裁権、さらに内務卿に譲渡すればいいのに。

 このままじゃ困るのは臣民だ。道路の補修の予算が降りないから王都ですら道が悪くなってきた。他にもたくさん陳情は来てるだろう。

 出兵の準備は二日で整って、出立の前日は例によって軍務卿が泊まりに来た。レントが不安がってたから、来なかったら呼びに行くとこだったよ。

「いつの間に、ブレント卿を愛称で呼ぶようになったんだ?」

「この二日。ママ友だし、仕事を離れて子育ての相談したいのに、財務卿って呼ぶのもね」

「それはそうか」

 夫婦の寝室で一緒に上掛けにくるまって、眠りが訪れるまで他愛もない話をした。

「しばらく、あなたにもこの子にも会えないから」

 ジェムはそう言ってキスをしてくる。やば、ベロチューかよ。

 覆い被られて唾液を流し込むようなエロいキスをぶちかまされる。胸がキュウとなった。キスは顎から喉を伝って、身体の中心を降りていく。ガウンのような寝巻きはとっくに前を開かれて、キスは臍の下まで辿り着いた。

 膨らんだお腹に、チュッチュッと小鳥のキスが落とされる。

「国ごと、あなたとこの子を護ろう」

 繰り返されるキス。

「そこ、恥ずかしいから、ダメ」

 もうちょっと下、めちゃくちゃダメなとこじゃん。

「可愛いよ、アリス」

「んッ、おっさんに可愛い言うな」

「あなたはきっと、老人になっても可愛い」

「なら、俺が爺さんになるとこ、見ないとな。絶対に帰ってこいよ⋯⋯ひゃんッ」

 こら、そんなとこ、触んな⋯⋯。

 それから俺は、恥ずかしくて、暖かくて、気持ちのいいことをされて、ジェムの腕の中で微睡んだ。

 翌日ジェムたちは、お城で出陣式をすることなく、軍務が管轄する騎士団の練兵場から直接出立して行った。見送りには行けないから、侯爵邸の玄関で挨拶をする。レントも大きなお腹を抱えて軍務卿を送り出していた。

 胸が詰まるかと思ったけど、討伐隊に同行するベリーが「いっぱい落とし穴、掘ってくるねぇ!」と手をブンブン振って、何度も振り返りながら出かけて行ったので、俺もレントも涙がどっかに行ってしまった。マッティ、つがいの手綱はしっかり握っておけよ。

 そうして俺とレントの夫が俺たちのそばに居られなくなったのが、周知の事実となった後のこと。

 城からの使者が、めっちゃ増えた。

 ジェム旦那の留守宅、狙うなや。

 お義父様とお義母様が追い払ってくれるけど、どうしたもんか。女医のティシューが俺を馬車に乗せるのは危険だと言い張って、義父母に加勢してくれている。

 何度来られても俺が出て行かないので、初めは丁寧な物腰だったのに、だんだん使者の態度が尊大になってきた。近頃は大声で喚き立てるので二階にいる俺にも声が聞こえる。流石に内容まではわからないけど、後でシュリが全部教えてくれる。使者を迎えている侍従に聞いてくれてるんだな。

 影の一族は、王族の言うことしか聞かない。お城で雇ってるんじゃないからだ。王家の私財から禄が出ている。

 女官だったトーニャは内務府管轄の女性文官の地位にあって、馴染みのある言葉で言うと王妃の女性秘書官だったんだ。だから内務卿の采配で何とでもなった。

 つまり影の一族と官職につく人々は全く違う。彼らにとっては王族の血脈のみが大切なのであって、それ以外はどうでもいい。その基準で言うと、王妃は外の血だからどうでもいい存在なんだよ。

 だから使者として来ている影の一族の男も、俺はどうでもいい。クシュナ王が『アリスレアは僕の妃だ』と言うから連れて行く。ただ、それだけ。

 クズ王的には俺はそろそろ臨月だと思ってるから、影の一族が焦ってるんだろう。大事な王家の血脈が、高位貴族家とはいえ王家よりも格下の家で産まれることがあってはならないから。

 はん、ジェムの子はまだ七ヶ月目だよ! 臨月のリリィナの子もアーシーの子だよ!

「いたッ」

 イライラしながら縫い物をしてたら、思い切り指に針を刺した。

「アリス様、お気持ちはわかりますけど、赤様に障ります。落ち着かれてください」

 レントがよいしょと身を乗り出して、俺の手から針と布を取り上げる。暇に飽いてリリィナに教わって産着を縫おうと計画して挫折した。

 レントは長時間座っていられなくて。

 俺は激しく不器用で。

 理由の違いが切ない⋯⋯。

 仕方なく、ひたすらお襁褓むつを縫っている。ただの三角の布だから真っ直ぐ縫えばいい。誰だ、縫い目が真っ直ぐじゃないって言ったヤツ!

 シュリがさっと俺の指を見て、消毒だけして離れた。針の一突きなら舐めときゃ治る。

 階下が静かになって暫くすると、お義母様がやってきた。

「ようやく帰ったわ。また明日来るでしょうけど。シュリ、お茶を淹れてくれる?」

 ツカツカと入ってきて、ソファーに腰を下ろす。ここはレントに使ってもらっている客間の居間なんだが⋯⋯。屋敷が公爵家のものだから、侯爵夫人なら我が物顔でもいいのか⋯⋯。

「リリィナ、ちょっと顔が強張ってるわよ」

 お義母様がリリィナの様子を伺いながら声をかけた。

「お腹、痛いんじゃなくて?」

 え?

「⋯⋯本日は、お暇させていただいてよろしいですか?」

 え? リリィナ、本当にお腹痛いの⁈ それって陣痛⁈

「なんで黙ってるの⁈」

「初産なので、もう少し時間がかかると⋯⋯」

「初産だからこそ、慎重になろうよ! アーシー! 君も今日は上がり‼︎ 誰かティシューを呼んで!」

 エーレィエンには救急病院ってないんだよ! そんなに悠長に構えてて、万が一があったらどうすんのさ!

「アリス様、ご心配していただきありがとうございます。それでは僭越ながらこのリリィナ、お二方の先陣を斬らせていただきます。アリス様の乳兄弟、元気に産んでまいります」

 リリィナ、スゲー。

 初めて会ったときの、絶望して泣いていた姿はどこにもない。晴れやかに微笑んで堂々としてさえいる。

 それから一夜明けて、侯爵邸に元気な産声が響いた。
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