神の末裔は褥に微睡む。

織緒こん

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留守の間に。

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前話で危険回避された方のための、一行補完。

『大人ぶろうとして失敗、そして返り討ち』

乙女オジサン、喰われました。

 ⁂ ⁂ ⁂ ⁂ ⁂

 やっちまった。

 行為そのものの後悔じゃない。

 なんで俺、あんな甘えた声で縋りついちゃったんだろう。大人の男として余裕を持って、導いてやる筈だったのに。

 経験の差か⋯⋯。

 よくよく考えてみたら、前世の奥さん初カノだった。クズ王はノーカンだから、実質ふたりめ。ジェムが童貞ってことないだろう。うおおぉッ! 勝てる気がしねぇ⁉︎ 

 結局夕食も摂らずに日付が変わる頃まで翻弄された。飲み物だけは口移しで満足するだけ与えられたけど、事前にシュリに軽食を用意してもらってなかったら、えっちの真っ最中に低血糖で失神したかもしんない。

 ⋯⋯シュリ、ありがとう。寝室は戦場いくさばだったよ。

 気づいたら馬車に揺られていた。座面にゆったり腰掛けたジェムの膝の上で。全身こざっぱりしてるしちゃんと服も着ている。眠っている間に誰かが身支度したってことだ。ジェムかシュリだよな。どっちにしたところでクソ恥ずかしい。

 残りの旅程は、シュリが移ってきて、三人で馬車に乗った。進行方向に背中を向けた席にシュリが座って、細々と俺の手助けをしてくれる。

 はじめてを終えた翌日は、全身筋肉痛で動けなかったんだよ!
 
 ジェムはご機嫌で俺を膝に乗せて、シュリがいるのも気にせずに、顳顬にキスを落としたりしている。あんたキャラ変わってないか⁈ ⋯⋯そうでもないか。最初から押されていた気がする。

 物見遊山の旅ではないから、途中の街で見物したりもしない。馬車の小窓から景色を見るのが精々だ。往路と違って外務卿がいないから、お喋りも弾まないけど、ジェムに背中を預けてトロトロうたた寝するのが心地いい。

 王都に近づくと大きな街が増えて、野営することもない。旅籠でくっついて眠って、たまに触られてドえらいことになって、旅の途中は勘弁してくれと泣いた。

 朝、護衛隊の生温い視線に耐えられなくて⋯⋯。

 おいこら、ジェムの野郎。満腹の熊みたいに満足そうな表情カオしてんじゃねぇ。

 シュトレーゼン領での滞在を短く切り上げたとはいえ、往復に二十日間もかけたので、王都はほぼ一ヶ月ぶりだ。侯爵家の玄関を見て、ほっとしたのは、ここが自分の家だと思っているからだろう。やっぱり我が家うちが一番ってヤツだ。

 家令の出迎えを受けて、当主のお義父様とお義母様に挨拶に向かう。今日は来客はなし。明日になったら宰相と内務卿が訪ねてくるそうだ。歩きながら家令とジェムがそんなことを話している。

「おかえりなさい。アリス」

 待ち構えていたお義母様が、こちらからの挨拶をかっ飛ばして駆け寄って来て、むぎゅっと。

 お胸様で窒息します!

 完全に無視されていた息子のジェムが、お義母様から俺を引き剥がしてくれたので、窒息死は免れた。

「なによ、ケチね。可愛い嫁が帰って来たんだから、堪能させなさいよ」

「これ、リズや。その可愛い嫁が窒息するぞ」

「えぇ~?」

 お義父様にも諭されてご不満そうですが、お義母様。お胸様を両手で掬い上げてたゆんたゆんするのはやめてください。一応お年頃のオトコノコなんです。トーニャもガン見してるな。掬い上げるジェスチャーはやめれ。落ち込むだけだから。君はこれから育つよ!

 それから俺たちは挨拶もそこそこにソファーに腰を落ち着けて、侍女が淹れたお茶を飲みながら、王都にいなかった間の話を聞いた。一番気になったのは、リリィナのことだ。

「リリィナさんはお元気です」

 トーニャが言った。

 半月ほど前に離宮に移って、厳重に警護されているそうだ。篤い警護にクズ王はご満悦らしいけど、軍務卿が選んだ精鋭の中には、リリィナの夫もいる。無事に再会して、リリィナが泣いたり夫から逃げようとしたり、ちょっとした騒動はあったけど、夫のアーシーさんのこれでもかと言う愛の告白に丸く収まったと。

 お義母様とトーニャがちょっとうっとりしながら恋バナめいた報告をしてくれた。キャッキャウフフとお花が飛んでいる。

 お義父様はキャッキャする妻の話を微妙な表情カオで聞いていて、ジェムは俺の手をそっと握った。魔獣クズ王に齧られた同士、無事がわかって安心した。アーシーさんも男を見せたようだ。

「三日に一回、陛下が離宮を訪れる以外は問題ないわ。レティシア医師が常駐してるから、理由をつけて長時間の面会は阻んでるし、一緒に来るハイマンがやたらと帰城を急かすのが面白いったら」

 どうせなら城から出すなよ。仕事させろや。

「マスクスが客を連れて訪ねて来なかったか?」

「来たよ。シュトレーゼン領にはなかなか面白い人たちが住んでいるんだね」

 気になっていることをジェムが聞いてくれた。父上はマッティとベリーにシュトレーゼンのタウンハウスに滞在するように言ったらしいけど、近くにいる方がいいって外務卿の屋敷に招待されたって聞いた。俺が正体不明だったときに相談がまとめられてるから、蚊帳の外なんだよな。

「獣人の彼にも驚いたが、赤毛の魔法使いがイェン神を呼んだのには度肝を抜かれたよ」

 いつも堂々としているお義父様がなんだか疲れたように言った。シュトレーゼンでは日常でも、王都では非日常のアレコレだ。尻尾も持たず魔法使いでもない俺の話で大騒ぎだったんだ。あのふたりに直に会ったのなら、どんな反応したんだろう。

「誰か、なにかやらかしました?」

「⋯⋯」

 お義父様が視線を明後日に飛ばして、トーニャが真っ赤になった。お義母様が目をキラキラさせて身を乗り出す。

「姉神イェンがブレント卿とケーニヒ卿の仲を取り持ってくださったのよ!」

 財務卿ブレント卿軍務卿ケーニヒ卿? 両思いなのに後継ぎ問題で財務卿が逃げ回ってるって言う?

「ブレント卿ってね、未分化の神子返りだったのですって。なよやかで繊細なのも頷けるわよね。一目でそれと見た姉神イェンが、成熟するようにお薬を授けてくださったのよ」

 ⋯⋯お薬?

「まさか⋯⋯」

神の甘露ネクタル?」

 俺とジェムが同時に呟いた。

「お薬を飲んだ途端、ブレント卿ったら立っていられなくなっちゃって、ケーニヒ卿が自分の邸宅まで連れて帰ったわ」

 お持ち帰りされてるーーッ!

「花嫁の純潔は⋯⋯?」

「女神エレイアを崇めてる教会が、エレイア神の娘神のしたことを非難すると思う?」

 イェン、なにをやらかしてんだーーッ!

 財務卿が聖女に認定される日も近いかもしれない⋯⋯。
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