神の末裔は褥に微睡む。

織緒こん

文字の大きさ
上 下
40 / 95

留守の間に。

しおりを挟む
前話で危険回避された方のための、一行補完。

『大人ぶろうとして失敗、そして返り討ち』

乙女オジサン、喰われました。

 ⁂ ⁂ ⁂ ⁂ ⁂

 やっちまった。

 行為そのものの後悔じゃない。

 なんで俺、あんな甘えた声で縋りついちゃったんだろう。大人の男として余裕を持って、導いてやる筈だったのに。

 経験の差か⋯⋯。

 よくよく考えてみたら、前世の奥さん初カノだった。クズ王はノーカンだから、実質ふたりめ。ジェムが童貞ってことないだろう。うおおぉッ! 勝てる気がしねぇ⁉︎ 

 結局夕食も摂らずに日付が変わる頃まで翻弄された。飲み物だけは口移しで満足するだけ与えられたけど、事前にシュリに軽食を用意してもらってなかったら、えっちの真っ最中に低血糖で失神したかもしんない。

 ⋯⋯シュリ、ありがとう。寝室は戦場いくさばだったよ。

 気づいたら馬車に揺られていた。座面にゆったり腰掛けたジェムの膝の上で。全身こざっぱりしてるしちゃんと服も着ている。眠っている間に誰かが身支度したってことだ。ジェムかシュリだよな。どっちにしたところでクソ恥ずかしい。

 残りの旅程は、シュリが移ってきて、三人で馬車に乗った。進行方向に背中を向けた席にシュリが座って、細々と俺の手助けをしてくれる。

 はじめてを終えた翌日は、全身筋肉痛で動けなかったんだよ!
 
 ジェムはご機嫌で俺を膝に乗せて、シュリがいるのも気にせずに、顳顬にキスを落としたりしている。あんたキャラ変わってないか⁈ ⋯⋯そうでもないか。最初から押されていた気がする。

 物見遊山の旅ではないから、途中の街で見物したりもしない。馬車の小窓から景色を見るのが精々だ。往路と違って外務卿がいないから、お喋りも弾まないけど、ジェムに背中を預けてトロトロうたた寝するのが心地いい。

 王都に近づくと大きな街が増えて、野営することもない。旅籠でくっついて眠って、たまに触られてドえらいことになって、旅の途中は勘弁してくれと泣いた。

 朝、護衛隊の生温い視線に耐えられなくて⋯⋯。

 おいこら、ジェムの野郎。満腹の熊みたいに満足そうな表情カオしてんじゃねぇ。

 シュトレーゼン領での滞在を短く切り上げたとはいえ、往復に二十日間もかけたので、王都はほぼ一ヶ月ぶりだ。侯爵家の玄関を見て、ほっとしたのは、ここが自分の家だと思っているからだろう。やっぱり我が家うちが一番ってヤツだ。

 家令の出迎えを受けて、当主のお義父様とお義母様に挨拶に向かう。今日は来客はなし。明日になったら宰相と内務卿が訪ねてくるそうだ。歩きながら家令とジェムがそんなことを話している。

「おかえりなさい。アリス」

 待ち構えていたお義母様が、こちらからの挨拶をかっ飛ばして駆け寄って来て、むぎゅっと。

 お胸様で窒息します!

 完全に無視されていた息子のジェムが、お義母様から俺を引き剥がしてくれたので、窒息死は免れた。

「なによ、ケチね。可愛い嫁が帰って来たんだから、堪能させなさいよ」

「これ、リズや。その可愛い嫁が窒息するぞ」

「えぇ~?」

 お義父様にも諭されてご不満そうですが、お義母様。お胸様を両手で掬い上げてたゆんたゆんするのはやめてください。一応お年頃のオトコノコなんです。トーニャもガン見してるな。掬い上げるジェスチャーはやめれ。落ち込むだけだから。君はこれから育つよ!

 それから俺たちは挨拶もそこそこにソファーに腰を落ち着けて、侍女が淹れたお茶を飲みながら、王都にいなかった間の話を聞いた。一番気になったのは、リリィナのことだ。

「リリィナさんはお元気です」

 トーニャが言った。

 半月ほど前に離宮に移って、厳重に警護されているそうだ。篤い警護にクズ王はご満悦らしいけど、軍務卿が選んだ精鋭の中には、リリィナの夫もいる。無事に再会して、リリィナが泣いたり夫から逃げようとしたり、ちょっとした騒動はあったけど、夫のアーシーさんのこれでもかと言う愛の告白に丸く収まったと。

 お義母様とトーニャがちょっとうっとりしながら恋バナめいた報告をしてくれた。キャッキャウフフとお花が飛んでいる。

 お義父様はキャッキャする妻の話を微妙な表情カオで聞いていて、ジェムは俺の手をそっと握った。魔獣クズ王に齧られた同士、無事がわかって安心した。アーシーさんも男を見せたようだ。

「三日に一回、陛下が離宮を訪れる以外は問題ないわ。レティシア医師が常駐してるから、理由をつけて長時間の面会は阻んでるし、一緒に来るハイマンがやたらと帰城を急かすのが面白いったら」

 どうせなら城から出すなよ。仕事させろや。

「マスクスが客を連れて訪ねて来なかったか?」

「来たよ。シュトレーゼン領にはなかなか面白い人たちが住んでいるんだね」

 気になっていることをジェムが聞いてくれた。父上はマッティとベリーにシュトレーゼンのタウンハウスに滞在するように言ったらしいけど、近くにいる方がいいって外務卿の屋敷に招待されたって聞いた。俺が正体不明だったときに相談がまとめられてるから、蚊帳の外なんだよな。

「獣人の彼にも驚いたが、赤毛の魔法使いがイェン神を呼んだのには度肝を抜かれたよ」

 いつも堂々としているお義父様がなんだか疲れたように言った。シュトレーゼンでは日常でも、王都では非日常のアレコレだ。尻尾も持たず魔法使いでもない俺の話で大騒ぎだったんだ。あのふたりに直に会ったのなら、どんな反応したんだろう。

「誰か、なにかやらかしました?」

「⋯⋯」

 お義父様が視線を明後日に飛ばして、トーニャが真っ赤になった。お義母様が目をキラキラさせて身を乗り出す。

「姉神イェンがブレント卿とケーニヒ卿の仲を取り持ってくださったのよ!」

 財務卿ブレント卿軍務卿ケーニヒ卿? 両思いなのに後継ぎ問題で財務卿が逃げ回ってるって言う?

「ブレント卿ってね、未分化の神子返りだったのですって。なよやかで繊細なのも頷けるわよね。一目でそれと見た姉神イェンが、成熟するようにお薬を授けてくださったのよ」

 ⋯⋯お薬?

「まさか⋯⋯」

神の甘露ネクタル?」

 俺とジェムが同時に呟いた。

「お薬を飲んだ途端、ブレント卿ったら立っていられなくなっちゃって、ケーニヒ卿が自分の邸宅まで連れて帰ったわ」

 お持ち帰りされてるーーッ!

「花嫁の純潔は⋯⋯?」

「女神エレイアを崇めてる教会が、エレイア神の娘神のしたことを非難すると思う?」

 イェン、なにをやらかしてんだーーッ!

 財務卿が聖女に認定される日も近いかもしれない⋯⋯。
しおりを挟む
感想 240

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...