神の末裔は褥に微睡む。

織緒こん

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意地悪な口付け。

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 前話を危険回避した方に、一行で補完。

『解毒のためにお医者さんごっこ』

 大体こんな感じ。最後までは致していません。

 ⁂ ⁂ ⁂ ⁂ ⁂

 けふけふっ。なんの音? ⋯⋯俺の咳か。あぁ喉が痛い。水が欲しい、でもこのぬくぬくした布団は出たくない。素肌に感じる絹の光沢と、逞しい筋肉に包まれて、安心感がハンパない⋯⋯。

 なにがハンパない?

 逞しい筋肉ってなんだよ⁈ 一気に覚醒すると、ジェムの腕枕ってぇの? 腕っていうか肩っていうか、絶妙なフィットポイントに頭を乗せて、抱き込まれて寝ていた。

「⋯⋯ッ!」

 叫びそうになって、必死で声を飲み込んだ。前にこんなことがあったとき、ジェムはすでに起きていた⋯⋯あぁやっぱり。見上げると優しい眼差しが注がれていて、頭に一気に血が上った。

「よかった。いつものアリスだ」

 誰か助けて!

 ジェムの声色が甘すぎて、耳が溶けそう!

 いつものじゃなかったアリスってどんなだ⁈

 居た堪れなくてジェムから離れようと身動ぐけど、中途半端に拘束されていて上手く起きられない。掛布の下で絹のシーツに包まれていて、それが手足の自由を奪っていた。⋯⋯シーツの下、すっぽんぽんなんだけど。

「(起きる)」

 声カッスカス。さっき無理して声を飲み込まなくても、大きな声は出なかったんじゃね?

 愕然としてたら唇の動きを読んだのか、ジェムが起こしてくれた。慢性的にあった倦怠感がなくなっている。いや、元気だと思ってたんだけど、健康になってみたら実は今まで体調不良だったことに気づいた、みたいな。特に下っ腹。

 居場所を確認すると、シュトレーゼン領主館の客間だった。いつの間に帰ってきたんだろう。まさか裸で帰ってきたんじゃないだろうな?

「アリス、まずは水を飲んで。シュリを呼んでいいか?」

 いやいやいや。首を横にブンブン振る。うぉ、目が回る。せめてなにか着てから! 自分を包んでいるシーツをぎゅっと掴んでジェムに目で訴える。

「駄目だよ。そんな目で見ては」

 どんな目だよ。あんたの甘ったるい目のほうこそなんとかしろや。

 顳顬にチュッと音のするキスをして、ジェムはベッドから降りた。部屋着だけど服を着ている。なんで俺だけ裸なんだ。

 寝室の扉を少しだけ開けて、誰かに話しかけている。大きな身体で室内が見えないようにしてくれていた。相変わらずの気配りさんだ。

 ジェムは用意された着替えを受け取って戻ってくると、それを渡してくれた。

「居間にいるから服を着たらおいで。手伝いが欲しかったら、そこのベルを鳴らせばシュリがくるから。⋯⋯私がしたいが、恥ずかしいだろう?」

 俺の頬に手を添えて、親指の腹で目の下をなぞられる。おでこにチュッとキスをした後、柔らかく微笑んで出ていった。

 気絶したい。

 なんだ、あの甘さは。

 蜂蜜か? メープルシロップか? パルスィートか? オリゴ糖か? 思いつく限りの甘ったるそうなものをブレンドされて、頭を抱えた。

 しばらくジタジタしていたけれど、あんまり時間がかかると心配して戻ってきそうだったから、取り敢えず着替える。
 
 居間に出るとちょうどシュリがお茶のワゴンを押して来るところだった。ジェムが俺に気づいて立ち上がる。座ってていいのに。

「(今、朝だよな。もう一日過ぎたのか?)」

 けふけふっ。無声音で喋るだけで、咳が出る。

「喉を湿らせよう。冷たい水と温かい茶、どちらが楽になりそうだ?」

「(お茶かな)」

「シュリ、茶を頼む」

「かしこまりました」

 シュリが手際良くお茶の用意している横で、ジェムは俺の膝を掬って抱き上げた。そのままソファーに座る。

「(自分で座る!)」

「⋯⋯聞こえないな」

 嘘つけ。さっきまでちゃんと通じてただろ!

 諦めてシュリに差し出されたお茶を飲む。ほんのり甘い。喉の炎症を鎮めるハーブティーだとさ。いつも世話になってすまんな。頼りになるよ。

「飲みながら聞いてくれ。さっきの答えだ。イェン神が顕現なされてから、二日経っている」

 二日ぁ⁈

 一体どれだけナニしてたんだ?

 とか思って慌てていたら、俺は殆どの時間、失神したように眠っていたらしい。目覚めては副作用に苦しんで、トんでは失神する、を繰り返したそうだ。いや、それもごめん。⋯⋯なんか朧げに思い出してきた。

「あの後すぐ、イェン神は世界中の神殿に神託を授けに行かれた。マスクスが宰相たちにことのあらましを説明するために、王都に向けて出立したよ。マティアス殿とベリンダ嬢が、警護兼説明役について行ってくださった」

 ついでに野盗も荷車に乗せて連れて行ったって。野盗⋯⋯すっかり存在を忘れていたよ。

「私たちはもう二、三日あなたの様子を見てから出立しよう。その前に、母上様の墓前に手向ける花を、庭で摘ませてもらってもいいだろうか」

「(一緒に摘む)」

 俺の旦那、ヤバイ。こんな騒動の中なのに、ちゃんと母上を大事にしてくれる。そんな誠実な男に、イェンに騙くらかされるみたいに告白っぽいこと言っちゃったけど、あれこそドサクサってやつじゃないか。もっとちゃんとしたほうがいいのか?

 恥ずかしいような、申し訳ないような気持ちになって、胸がキュウッとした。俯くと、俺の動きに合わせてカップの中のお茶が揺れた。

 ジェムがカップを攫ってテーブルに置いた。頬に手が添えられて上向かされる。やめろよ、今、絶対耳まで赤いから。

「アリス、元気になってよかった。唇に口付けてもいい?」

 ずるい。神の甘露ネクタルの熱に浮かされて、俺からねだったときはしてくれなかったのに。

『初めての口付けは、あなたが口付けてもいいと思ったときにしよう』

 そう言って、顳顬こめかみに、頬に、目蓋に優しいキスをして。堅物通り越して、意地悪して焦らされてるかと思ったよ。

 今だって、わざわざ確認して俺を恥ずかしがらせて意地悪だ。

「駄目か?」

「(駄目じゃない⋯⋯口付け、ちょうだ⋯⋯)」

 全部言う前に。

 噛み付くように、奪われた。

 
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