神の末裔は褥に微睡む。

織緒こん

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心の在処。

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 父上との再会も無事に終え、幼馴染みたちも帰って行った。ベリーは『お泊まりするぅ。恋バナするのぉ!』とじたじたしながらジェムを見ていたけど、マッティに軽々と抱き上げられて連行されて行った。

「坊っちゃま、お部屋の用意が整いました」

 爺やに案内されて客間に通される。父上は名残惜しそうにしてたけど、まずは休息を、と爺やが押し通した。うん、俺はともかく客人のジェムと外務卿は寛いでもらわなきゃね。

 爺やとジェムが連れてきた侍従はテキパキと連携して、納采の品を納めたり俺たちの荷物を解いたりしている。初めて会ったはずなのに、なにこのツーカー。出来る人たちは誰と何をしても出来るんだな。

「爺や、俺は自分の部屋に行けばいい?」

 まさか荷物置き場とかになってないよな。前世の実家の部屋が夏休みに帰省したらそんな扱いで、リビングのソファーで寝たんだよ。

「お部屋ですか?」

 爺やがにっこり微笑んだ。

「ご夫君とご一緒ですとも」

 へ?

 そう言えばこの部屋、夫婦連れのお客さんが泊まれるようになってるんだっけ。隣領の伯爵夫妻がたまに泊まってたな。となりの外務卿に使ってもらう部屋は、兄様⋯⋯隣領の継嗣が使ってたね。

「それでは夕食までお寛ぎください」

「爺や、ちょっと待ッ」

 全部言う前に逃げられた!

 確認してないけど確かこの部屋、寝台はキングサイズのベッドがひとつしかなかったような⋯⋯。

「アリス」

「ひゃいッ」

 ぎゃっ、舌噛んだ!

 待て、意識するな、俺! ここは居間リビングだ‼︎

「伯爵は寛ぐよう言ってくださったが、野盗のことをなんとかしてこねばならぬ。面倒ごとを持ち込んで知らぬふりはできぬからな」

 たしかに。

 野盗とはいえ飯は食わせなきゃならないし、ある程度清潔は確保してやらないと、最終的に俺たちが困る。垂れ流されて汚れた牢屋、掃除するのイヤじゃん。⋯⋯ウチ、牢屋とかあったっけ?

 荷馬車に九人の野盗を押し込めて来たんだけど、ちゃんとご飯は与えてたよ。全員捕まえたってことだけど、俺のこと追いかけてたおっさん、居たかな? 暗くて顔を覚えてないからイマイチわからん。

「俺も行こうか?」

 ゲス乳兄弟が黒幕なら、無関係じゃない。

「いや、利用されただけのチンピラ集団だ。直接ハイマンとは繋がっていないようだ。ただ強盗行為に躊躇いがないから常習だと思われる。余罪を追求して突き出す先を決めねばならん」

 なるほど。襲われたのは絶妙にシュトレーゼン領じゃなかった。どうも普段は王都を拠点にやらかしてるみたいだから、指名手配とかされてるかも。

 それにしても、阿呆なヤツらだなぁ。よりにもよってジェムと一緒のときを狙うなんて。同情の余地はないけど、ゲス乳兄弟はやっぱりゲスだ。将軍が一緒にいるって情報はわざと与えなかったんだろう。知ってたら行動を起こさなかったに違いない。

「私は行軍に比べたら、たいした道行きでもなかったが、アリスは違うだろう。夕食まで少し眠っておくといい。元気な顔でお父上を安心させて差し上げねば」

 気遣いの人だ⋯⋯!

 その心配り、クズ王に爪の垢を煎じて飲ませてやりたい!

 言葉に甘えて一眠りすることにして、部屋の入り口まで見送って「いってらっしゃい」って手を振った。そしたらデコチューされた。

「なんだなんだ、おでこはダメだろ⁉︎」

 瞬間湯沸かし器みたいにプシュッと熱くなる。おでこを抑えて頭をブンブン振ると、くらりと目が回った。

「では頬か。唇はまだ早いのだろう?」

「当たり前だ! したことないんだ、どさくさに紛れて奪われてたまるか!」

 この場合はアリスレアの唇な。流石におっさんはある。そういや、清く正しいお付き合いをしてたら、焦れた嫁に奪われた。

「したことがない⋯⋯?」

 前の夫(とも呼びたくないけど)とのアレコレを新しい夫に言うのはマナー違反だけどさ、あのクズ後ろから突っ込むだけだったから、ハグとかチューとかしたことないんだよ。

「あのさ、この身体。あんたがどう思うか知らないけど、俺は魔獣に齧られて怪我を負っただけで、汚れてなんかいないと思ってる。でもアリスレアは違うんだよ。だからせめてキスだけは、アリスレアが自分の意思で、好きな人と初めてを交わして欲しいんだ」

「⋯⋯それは、あなたが消えるということか?」

「アリスレアが表に出られるまで回復すれば、それもあると思ってたけど、わからなくなった。融合しかかってるってことは、ふたりでひとつってことになるんだろう?」

 そうなんだよなぁ。俺がジェムの妻ってことは、離縁しない限りはむにゃむにゃの相手は俺がするしかないんだ。ジェムに一生右手を恋人にしておけとも言えないし、この生真面目な堅物が愛人を囲うとも思えない。俺に⋯⋯こ、好意を抱いているらしいことは(ぎゃー、自分で言うてもうた!)言葉でも態度でも示されている。

 アリスレアの意思を無視して、俺が勝手にジェムに身を許していいわけがない。

 と思っていたんだけどさ。

 ①アリスレアが消える、②アリスレアが復活する、の二択だと信じてたところに、③アリスレアと融合する、が追加されたんだよ。俺がアイツでアイツが俺で? 同じ存在なら俺の意思で進んでもいいのか?

 進むってなんだ?

 わからん。

「駄目だ、こんがらがってきた。一寝ひとねして頭をスッキリさせてから考えるよ。ひとまず、いってらっしゃい」

 俺はうんうん頷きながら、扉を閉めた。

 振り返ったら、ジェムの侍従がなんだか可哀想なものを見る目でこっちを見てた。

「そうだよな、ジェムも、ゆっくりすればいいのにって思うよな」

 あれ、侍従がもっと可哀想なものを見る目になった。

 なんでだ?
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