神の末裔は褥に微睡む。

織緒こん

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謎の攻防戦。

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「そこまでされて三年耐えたのは、トーニャのこともあったけど、アリスレアが自死をしたらシュトレーゼン領とその隣領を取り潰すって言われてたからだ。それが突然放り出されて、三年間が無になった」

 どうせ飽きるのなら、初めから目に留めなければよかったのに。初恋の婚約者が別の女性と結婚したと聞かされても、たったひと夜のダンスの思い出に縋って耐えたのに。

 頑張ったのに!

 我慢したのに!

 本当は死にたかったのに!

 そうしてアリスレアは逃げた。

 そりゃ逃げるさ。魂の影でぼんやりと見ていた俺たちだって、キツかったんだ。

「それはひとまず、置いておく」

「⋯⋯置いておくべきことではないが、ガヴァナ夫人が先だな」

「そう言うこと」

 苦い表情カオをするジェムに、そっと笑いかける。納得してくれて助かるな。

 いやマジで、あのサイコヤンデレ野郎をなんとかしないと母子共に危険だから。

 クズ王はアリスレアを着飾ったり性交したりはしたが、一応は愛着を持っての行動だ。⋯⋯かなり一方的で独りよがりで暴力的だけど。アリスレアの意思を無視してる時点で犯罪だがな! ついでに言えばドレスを選ぶセンスも壊滅的だった。

 そしてゲス乳兄弟は、ひたすらにアリスレアを追い詰めた。実家の伯爵家を取り潰すとか、トーニャを殺すとか、婚約者に妻をあてがったと教えるとか、とにかく昼ドラも真っ青な嫁いびりをした。

「ハイマンは他者攻撃型の異常偏愛者ということか。陛下を溺愛する一方で陛下が心を寄せる者が許せない、なんとも迷惑なことだ」

 ジェム、迷惑で済む話じゃないよ。害悪だよ。まったくあのサイコヤンデレ野郎、他を攻撃してないで、クズ王を監禁してくれりゃよかったのに。

「アリス、彼はあなたに薬湯を飲ませたと言ったが、それが避妊薬だと確信しているのはなぜだ?」

「⋯⋯それが本当なら、国家叛逆罪にも問えますよ」

 ジェムが俺に問いかけて、宰相が思案顔でそれに言葉を被せた。王妃に避妊薬を飲ませるなんて、国を滅ぼすつもりかと問いたい。

「洗面器に吐き戻してる真っ最中の王妃に、笑いながら『子など流れてしまえば宜しいのです』って、囁いてる時点で真っ黒だと思うよ」

 流れるもなにも、まだ孕んでいなかったけど。

「クズ王は結構本気で子どもを欲しがってたみたいだ。女神の加護持つ血脈を、絶やすわけにはいかないから」

 あんな王でも自分の代で国が滅ぶのは困るらしい。むしろ自分だけが国を守れる自負だけが大きくて、他者を見下している。自分がいるから国が成り立つのだと。だから、仕事を押し付けた泣いてるだけの王妃が自分より評価が高いのが許せないし、子を孕まないのにも腹が立った。

 自分の乳兄弟が、なにをしているのかも知らないで。

「まずは愛妾がアーシーさんの奥さんだって、確認しよう。担当医は誰だ? 俺が診てもらってた奴はダメだ。あいつはハイマンの言いなりだから、ろくなことしない。奥宮の中は俺が一番詳しいから、侍従のふりして愛妾のところに行ってきたいんだけど」

「では、私も参ります。私なら、奥宮にも入れてもらえます」

 腰を浮かせながら言うと、財務卿が身を乗り出した。すぐに軍務卿が自分に引き寄せて、しっかりと肩を抱いた。

「そんな泣いた顔で行ったら駄目だろう」

 その前に、アリスレアと比較的交流があった人なので、一緒にいたら俺の正体がバレる。

「駄目だ。行かせぬ」

 ジェムが俺の足元に跪いた。

 俺の手を取る。

 ⋯⋯なにしてんだ、ヲイ。

「奥宮は陛下の領域だ。あなたが辛い目にあった場所に、ひとりで行かせるわけにはいかない。あなたはこの二月ふたつきの間ですっかり面変わりしている。生き生きと生命力に満ち溢れ、魅力的だ。陛下が取り戻したいと考えるかもしれない」

「待って待って待って! なに言ってるんだ、止めろ、みんなが聞いてるだろ‼︎」

 いーやーッ。

「危機感を持ってくれ。あなたはこんなにも、美しい」

 駄目だ、死ぬ。

 マジで死んでしまう。

「そんな場合じゃないから! ガヴァナ夫人が最優先だから! 頼むから正気に戻ってくれ!」

「私は元から正気だが」

「だったら阿呆なこと言ってないで、アーシーさんの奥さんを助けに行こう!」

「もちろん行くさ。だが、あなたが行く必要はないと言っているんだ」

 もうやだ、コイツ。恥ずかしすぎてホントに死んだらどうするんだ。

「驚いた⋯⋯。ヴィッツ将軍は、そんなに口が回るのか」

 宰相、感心してないで救出作戦進めろよ! 軍務卿、あんたの部下だろ、なんとかしろ!

 困り果てて内務卿に視線を移すと、背筋をまっすぐに伸ばした禿頭とくとうの老人は、小さく息をついてジェムを立たせた。

 立てば立ったで長身故の威圧感が凄いけど、居た堪れなさは半減した。眼差しの熱がコワイけど⋯⋯。俺も負けじと睨み返した。ジェムがデカくて首が痛い。なんの攻防だ、一体。

「私もアリスレア夫人には危ないことはして欲しくないが、いかんせん時間がない」

 コラコラ、ジェムさんや、内務卿を睨むんじゃない。

「妻の姪が医者をしていて、ちょうど愛妾の主治医に呼び寄せたところだ。陛下が可愛い愛妾の身体を男の医者に見せたくないと我儘を申されたのが、幸いしたようだ。今、その手続きをして控えの間に姪を待たせている」

「姪御さんと一緒に行く!」

 俺は一も二もなく叫んだ。渡りに船、御都合主義万歳だ!









※ 間違えて今日の更新しちゃいました⋯⋯。今夜の分です(汗)。店の隅っこで昼休みにちまちま書いてたら、やっちまいました(泣)。
 
 
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