8 / 14
心の底から行きたくない
しおりを挟む
三峰依子、絶体絶命のピンチです!
浦っちから衝撃の予想を聞かされて、半ば呆然として教室に帰ってきたわたしを待っていたのは、生徒会からのお使いだった。星陵学園生徒会には補佐の制度がないので、学年委員がその役割を担う。配布物の作成とか回収、ちょっとしたお使いなんかがその仕事だ。
「会長からご伝言です。放課後、生徒会室に行かれてください」
「はい、わかりました」
どう考えても階段落ちの件だ。それしか思い浮かばない。心の底から行きたくないけど、学年委員に駄々こねてもしょうがない。
退院してすぐ、聡子さんと春香さんとは連絡を取ったので、彼女たちが聴取を終えていることは確認済みだった。花城さんも呼ばれたらしいとも言ってたから、残すはわたしだけなんだろう。
花城さんといえば、今朝からずっとこっちを睨んでいる。ええ、今この瞬間も。ホラーだ、般若がいる。病み上がりゴールデンウィーク明けでコレじゃ、なにかがガリガリ削られていく。
そして放課後、絶体絶命のピンチなわけだ。
会長に成金の件で呼びだし食らったらアウト。
処女喪失に腹ボテエンド。
ルートまっしぐら?
「ご伝言を受けて参じました。藤宮会長はいらっしゃいますか?」
生徒会室の入り口で取次に伺いを立てたら、奥から会長本人の声で入室を促された。向かい合わせに置かれた椅子の片方を勧められ、残りに会長が座る。
なぜか風紀委員長もいて、少し離れた椅子に足を組んで座っていた。あとひとり、風紀の腕章をつけた女子生徒がいて「あなただけ女子だとマズイから」と微笑んでくれた。取次の学年委員は退出の挨拶をして出て行ったので、聴取の内容は広まらないだろう。
内心ガクブルだけど、お嬢スキルでゆったり椅子に腰掛ける。
「念のため、クラスと名前から」
会長の一言で聴取が始まった。わたしが語るのは、オリエンテーションが始まってからの一連の出来事だ。あの日は大ごとにしたくなかったから、見学中の花城さんの振る舞いは濁していたけど、今となってはその意味はない。もう十分大ごとになっている。
順を追って語ると、会長と委員長が手元の資料を見ながら頷いている。風紀さんは手元に資料がないんだけど、彼女は思案顔で視線を宙に向けていた。
話は会長が階段を上ってくるのが見えたってところまで来て、そこで一旦ストップさせられた。
「さて富野、ここまでで何があるか?」
会長が風紀さんに振った。富野さんと言うのか。
「気になる点は最初から最後まで、ですね。花城さんの聴取にも立ち会いましたが、泣いて震えて、三峰さんが言うような暴言を口にするようには見えませんでした。見学ルートなどは相違ないようですが、三峰さんは彼女の発言を大袈裟に捉えているように見受けられます。ですが、三峰さんのご様子にも嘘は感じられませんし、正直何と言っていいのか困ります」
まぁそうだろう。あの時の花城さんだって、会長にはそんな感じで伝えていたし、嘘だって言ってない。ただ、都合の悪いことは言ってないだけだ。わたしは花城さんが端折ったところを丁寧に広げただけだ。
「ではそれを踏まえて、三峰さん、続きをどうぞ」
再び会長に促される。こっからのアレコレはあんまり言いたくない。証拠がないから濡れ衣だって騒がれるかもしれない。花城さんが会長ルートに入っているなら、可愛いヒロインちゃんを陥れる憎っくきモブになっちゃうから。
どうオブラートに包もうか考えていたら、焦れた風紀委員長に急かされた。て言うか、わたしに構ってないで、ボンバーのところに行きなさいよ。
「花城さんが突然、自分の頰を打ったと思ったら、藤宮会長に向かって駆け出して行ったんです。わたしも一緒にいた一ノ瀬さん二木さんも驚いて言葉もありませんでした。藤宮会長と二、三お話しして、花城さんを教室に連れ帰ろうとしたのは、間違い無いですよね」
ここで会長に記憶違いがないか確認をする。彼は頷いて肯定してくれた。
「彼女が藤宮会長から離れないですし、失礼ですが会長もお困りのようでしたので、離れてもらおうと近くに寄りました。花城さんを促そうと手を伸ばしたところ、振り払われたんです」
一旦そこで切る。
「ついでに、足も引っ掛けられました」
「やっぱりな」
「「え?」」
意を決して言ったわたしに間髪入れず、高根沢委員長が言った。わたしと富野さんのびっくりした声が重なる。わたしは信じてもらえたことに驚いて、富野さんはわたしの発言そのものに驚いたんだろう。
「腕を払われたくらいじゃ、靴は脱げないだろ」
構内シューズ脱げてたんだ。知らなかったよ。
「富野、これ読んでみろ。風紀の報告書と三峰さんの友人の聴取だ」
高根沢さんが差し出した資料をひったくった富野さんは、読み進めるごとに眉間に皺を刻んで唸り声をあげた。
「バスケのシスコ⋯⋯ゴホンゴホン、妹溺愛部長を怒らせたですって? 彼、公明正大さでは定評がありますが、妹さんが関わると容赦という言葉を忘れるんです。女子バレーのエースは大人なので我慢してくれたんですね」
「かわりに彼女の小鳥たちがピーチク怒っている」
ヅカ系お姉様とその小鳥たち、小鳥が先にキレたものだから、お姉様は怒るタイミングを逃したらしい。
「どうやったら、こんなにトラブルを起こせるんですか? あら、でもバスケット以外は男子部からの苦情はないですね」
「他は女子マネが居ないんだ。苦情のかわりに自分に気がありそうと言う意見が多く出た」
さりげないボディタッチ、まるで売れっ子キャバ嬢のようだったわ。三峰家のお嬢様はキャバ嬢なんて知らないから、そんな事口に出して言えないけど。
「文化系は軒並みですね。あら、文芸部で証言してるの、三の桔梗の長谷川くんですか。根暗でオタク、貧乏ったらしいって言われましたのね」
富野さんの知り合いなのかな。誰だろうと思ってると、会長が教えてくれた。
「長谷川公彦、ペンネームはそのままハセガワキミヒコだ」
「その方の著作、前のクールでドラマ化されてませんでした?」
「そう、ベストセラー作家だ。今度デビュー作が映画化するらしいぞ、間違っても貧乏じゃないな」
会長が眼鏡の奥でニヤリと笑った。イケメンが一気に男臭くなって、心臓が跳ねた。て言うか、近い! なんでそんなに寄ってくるの!
「事故後すぐに証言を取ったから、口裏合わせは無理だな。信憑性がある。一条さん、二木さんの証言とも一致する」
「それにしても、同じ内容でも主観と客観でこんなに違うなんて。花城さん、嘘はひとつも言っていないのね」
富野さんの感想がわたしと同じだった。
「あの⋯⋯頬っぺたの件、花城さんはどう言っていました?」
気になったので、恐る恐る聞いてみた。花城さんが会長の目を盗んで、自分でつねってたのを思い出す。
「何も言ってない」
「何も?」
会長が苛立たしげに言った。
「そうね、わたしも赤かったから気になって、聞いてみました。でも、なんでもないんですって、いかにも何かありそうに言っただけで、具体的なことは何も。てっきり相手に怯えて言い出せないんだと思っていました」
富野さんは花城さんにも立ち会ってたから、彼女に直接聞いたのか。そっか、そんなんだったら、富野さんは、わたしたちが花城さんを虐めていると思ってもおかしくないんだ。それなのに、わたしの話を公平に聞いてくれたのね。
「誰にも何もされていないのなら、言えるはずもないですね」
「嘘をついて後からバレても面倒だからな。周りが勝手に勘違いしてくれれば、悲劇のヒロインだ」
会長、えらく辛辣なこと言ってるのね。会長ルートじゃないの? あれれ、もしかして風紀委員長ルート?
浦っちは同時進行っぽいように言ってたけど、ヒロインは花城さんで、大空くんはライバルとしてストーリーが進んで行くんだろうか。
「三峰さん、ぽやんとしているけれど、君は犯罪の被害者なんだぞ」
呆れたように言ったのは、高根沢委員長だった。犯罪って大袈裟な⋯⋯って傷害か!
「俺は今から、大空の身形指導に行かなきゃならん。大空ひとりでも冗談じゃないのに、花城アリスまで面倒見切れん。藤宮、こっちの件は任せた」
高根沢委員長、丸投げですか! あなたも花城さんの扱いはぞんざいなのね。やっぱり大空くんが風紀委員長ルートなのかな。
風紀委員長のタイムアップで、今日はひとまず終了した。だめだ、さっさと解決して会長の視界から消え失せたいのに、時間がかかりそう。
会長ルートだろうが委員長ルートだろうが、どっちでもいい。わたしを巻き込まないで!
浦っちから衝撃の予想を聞かされて、半ば呆然として教室に帰ってきたわたしを待っていたのは、生徒会からのお使いだった。星陵学園生徒会には補佐の制度がないので、学年委員がその役割を担う。配布物の作成とか回収、ちょっとしたお使いなんかがその仕事だ。
「会長からご伝言です。放課後、生徒会室に行かれてください」
「はい、わかりました」
どう考えても階段落ちの件だ。それしか思い浮かばない。心の底から行きたくないけど、学年委員に駄々こねてもしょうがない。
退院してすぐ、聡子さんと春香さんとは連絡を取ったので、彼女たちが聴取を終えていることは確認済みだった。花城さんも呼ばれたらしいとも言ってたから、残すはわたしだけなんだろう。
花城さんといえば、今朝からずっとこっちを睨んでいる。ええ、今この瞬間も。ホラーだ、般若がいる。病み上がりゴールデンウィーク明けでコレじゃ、なにかがガリガリ削られていく。
そして放課後、絶体絶命のピンチなわけだ。
会長に成金の件で呼びだし食らったらアウト。
処女喪失に腹ボテエンド。
ルートまっしぐら?
「ご伝言を受けて参じました。藤宮会長はいらっしゃいますか?」
生徒会室の入り口で取次に伺いを立てたら、奥から会長本人の声で入室を促された。向かい合わせに置かれた椅子の片方を勧められ、残りに会長が座る。
なぜか風紀委員長もいて、少し離れた椅子に足を組んで座っていた。あとひとり、風紀の腕章をつけた女子生徒がいて「あなただけ女子だとマズイから」と微笑んでくれた。取次の学年委員は退出の挨拶をして出て行ったので、聴取の内容は広まらないだろう。
内心ガクブルだけど、お嬢スキルでゆったり椅子に腰掛ける。
「念のため、クラスと名前から」
会長の一言で聴取が始まった。わたしが語るのは、オリエンテーションが始まってからの一連の出来事だ。あの日は大ごとにしたくなかったから、見学中の花城さんの振る舞いは濁していたけど、今となってはその意味はない。もう十分大ごとになっている。
順を追って語ると、会長と委員長が手元の資料を見ながら頷いている。風紀さんは手元に資料がないんだけど、彼女は思案顔で視線を宙に向けていた。
話は会長が階段を上ってくるのが見えたってところまで来て、そこで一旦ストップさせられた。
「さて富野、ここまでで何があるか?」
会長が風紀さんに振った。富野さんと言うのか。
「気になる点は最初から最後まで、ですね。花城さんの聴取にも立ち会いましたが、泣いて震えて、三峰さんが言うような暴言を口にするようには見えませんでした。見学ルートなどは相違ないようですが、三峰さんは彼女の発言を大袈裟に捉えているように見受けられます。ですが、三峰さんのご様子にも嘘は感じられませんし、正直何と言っていいのか困ります」
まぁそうだろう。あの時の花城さんだって、会長にはそんな感じで伝えていたし、嘘だって言ってない。ただ、都合の悪いことは言ってないだけだ。わたしは花城さんが端折ったところを丁寧に広げただけだ。
「ではそれを踏まえて、三峰さん、続きをどうぞ」
再び会長に促される。こっからのアレコレはあんまり言いたくない。証拠がないから濡れ衣だって騒がれるかもしれない。花城さんが会長ルートに入っているなら、可愛いヒロインちゃんを陥れる憎っくきモブになっちゃうから。
どうオブラートに包もうか考えていたら、焦れた風紀委員長に急かされた。て言うか、わたしに構ってないで、ボンバーのところに行きなさいよ。
「花城さんが突然、自分の頰を打ったと思ったら、藤宮会長に向かって駆け出して行ったんです。わたしも一緒にいた一ノ瀬さん二木さんも驚いて言葉もありませんでした。藤宮会長と二、三お話しして、花城さんを教室に連れ帰ろうとしたのは、間違い無いですよね」
ここで会長に記憶違いがないか確認をする。彼は頷いて肯定してくれた。
「彼女が藤宮会長から離れないですし、失礼ですが会長もお困りのようでしたので、離れてもらおうと近くに寄りました。花城さんを促そうと手を伸ばしたところ、振り払われたんです」
一旦そこで切る。
「ついでに、足も引っ掛けられました」
「やっぱりな」
「「え?」」
意を決して言ったわたしに間髪入れず、高根沢委員長が言った。わたしと富野さんのびっくりした声が重なる。わたしは信じてもらえたことに驚いて、富野さんはわたしの発言そのものに驚いたんだろう。
「腕を払われたくらいじゃ、靴は脱げないだろ」
構内シューズ脱げてたんだ。知らなかったよ。
「富野、これ読んでみろ。風紀の報告書と三峰さんの友人の聴取だ」
高根沢さんが差し出した資料をひったくった富野さんは、読み進めるごとに眉間に皺を刻んで唸り声をあげた。
「バスケのシスコ⋯⋯ゴホンゴホン、妹溺愛部長を怒らせたですって? 彼、公明正大さでは定評がありますが、妹さんが関わると容赦という言葉を忘れるんです。女子バレーのエースは大人なので我慢してくれたんですね」
「かわりに彼女の小鳥たちがピーチク怒っている」
ヅカ系お姉様とその小鳥たち、小鳥が先にキレたものだから、お姉様は怒るタイミングを逃したらしい。
「どうやったら、こんなにトラブルを起こせるんですか? あら、でもバスケット以外は男子部からの苦情はないですね」
「他は女子マネが居ないんだ。苦情のかわりに自分に気がありそうと言う意見が多く出た」
さりげないボディタッチ、まるで売れっ子キャバ嬢のようだったわ。三峰家のお嬢様はキャバ嬢なんて知らないから、そんな事口に出して言えないけど。
「文化系は軒並みですね。あら、文芸部で証言してるの、三の桔梗の長谷川くんですか。根暗でオタク、貧乏ったらしいって言われましたのね」
富野さんの知り合いなのかな。誰だろうと思ってると、会長が教えてくれた。
「長谷川公彦、ペンネームはそのままハセガワキミヒコだ」
「その方の著作、前のクールでドラマ化されてませんでした?」
「そう、ベストセラー作家だ。今度デビュー作が映画化するらしいぞ、間違っても貧乏じゃないな」
会長が眼鏡の奥でニヤリと笑った。イケメンが一気に男臭くなって、心臓が跳ねた。て言うか、近い! なんでそんなに寄ってくるの!
「事故後すぐに証言を取ったから、口裏合わせは無理だな。信憑性がある。一条さん、二木さんの証言とも一致する」
「それにしても、同じ内容でも主観と客観でこんなに違うなんて。花城さん、嘘はひとつも言っていないのね」
富野さんの感想がわたしと同じだった。
「あの⋯⋯頬っぺたの件、花城さんはどう言っていました?」
気になったので、恐る恐る聞いてみた。花城さんが会長の目を盗んで、自分でつねってたのを思い出す。
「何も言ってない」
「何も?」
会長が苛立たしげに言った。
「そうね、わたしも赤かったから気になって、聞いてみました。でも、なんでもないんですって、いかにも何かありそうに言っただけで、具体的なことは何も。てっきり相手に怯えて言い出せないんだと思っていました」
富野さんは花城さんにも立ち会ってたから、彼女に直接聞いたのか。そっか、そんなんだったら、富野さんは、わたしたちが花城さんを虐めていると思ってもおかしくないんだ。それなのに、わたしの話を公平に聞いてくれたのね。
「誰にも何もされていないのなら、言えるはずもないですね」
「嘘をついて後からバレても面倒だからな。周りが勝手に勘違いしてくれれば、悲劇のヒロインだ」
会長、えらく辛辣なこと言ってるのね。会長ルートじゃないの? あれれ、もしかして風紀委員長ルート?
浦っちは同時進行っぽいように言ってたけど、ヒロインは花城さんで、大空くんはライバルとしてストーリーが進んで行くんだろうか。
「三峰さん、ぽやんとしているけれど、君は犯罪の被害者なんだぞ」
呆れたように言ったのは、高根沢委員長だった。犯罪って大袈裟な⋯⋯って傷害か!
「俺は今から、大空の身形指導に行かなきゃならん。大空ひとりでも冗談じゃないのに、花城アリスまで面倒見切れん。藤宮、こっちの件は任せた」
高根沢委員長、丸投げですか! あなたも花城さんの扱いはぞんざいなのね。やっぱり大空くんが風紀委員長ルートなのかな。
風紀委員長のタイムアップで、今日はひとまず終了した。だめだ、さっさと解決して会長の視界から消え失せたいのに、時間がかかりそう。
会長ルートだろうが委員長ルートだろうが、どっちでもいい。わたしを巻き込まないで!
10
お気に入りに追加
240
あなたにおすすめの小説

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない
曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが──
「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」
戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。
そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……?
──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。
★小説家になろうさまでも公開中

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

婚約者に選んでしまってごめんなさい。おかげさまで百年の恋も冷めましたので、お別れしましょう。
ふまさ
恋愛
「いや、それはいいのです。貴族の結婚に、愛など必要ないですから。問題は、僕が、エリカに対してなんの魅力も感じられないことなんです」
はじめて語られる婚約者の本音に、エリカの中にあるなにかが、音をたてて崩れていく。
「……僕は、エリカとの将来のために、正直に、自分の気持ちを晒しただけです……僕だって、エリカのことを愛したい。その気持ちはあるんです。でも、エリカは僕に甘えてばかりで……女性としての魅力が、なにもなくて」
──ああ。そんな風に思われていたのか。
エリカは胸中で、そっと呟いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる