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落下はスローモーション
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会長から花城さんを 引き剥がすために、渋々ふたりに歩み寄ると、会長があからさまにほっとした表情を見せた。
あれ? 俺様枠じゃなかったっけ? と思ったら花城さんが般若の顔相で睨んで来た。会長からは見えなくても、通りすがりの女子生徒には見られてますよ~。
「後で話を聞きたい。遣いをやるから生徒会室まで来てもらう」
イヤ。
心の声は口に出せない。曖昧に微笑んで肯定の返事をすると、会長にへばり付いた花城さんの顔が、益々恐ろしいことになった。会長は花城さんの大好物だろうけど、わたしは何の興味もないから勘弁してよ。
「お前、何組だ?」
呼び出しするのに必要な情報だもんね。わたし個人に興味があっての問いかけじゃない。
「一年百合組、三峰依子と申します。この度は大変なご迷惑をおかけして申し訳ありません。さ、花城さん参りま⋯⋯っ」
ひっ!
スローーモーーーショーーーンッ!
差し伸べたわたしの手を、花城さんが振り払った。バランスを崩したところに足までかけやがりました!
アホですか、アンタ!
階段の上でそんなことしたら、落ちるに決まってるでしょ!
ゆっくりと景色が流れていった。花城さんの歪んだ笑み、会長のびっくり眼(多分貴重)、寄り添う聡子さんと春香さんのあげる悲鳴。それから天井。
「ぐえっ」
全身に衝撃が走り、息が詰まった。可愛くない声が⋯⋯わたしの声じゃない?
胸が詰まって呻き声も出せないわたしに代わり、呻いた人がいる。体が強張って身動きが取れないけど、何かの上に乗っかってるのは感じられる。
「畜生、モブその三の呪いかよ」
男子の声が言った。
え?
「ツマキミありえねー」
ツマキミって言った! あなた誰よ! て言うか、わたし誰か下敷きにしてる! 退かなきゃ!
「階段でふざけちゃ、いけないんだぞ! 」
場違いな声が高らかに響いた。アフロボンバーだ。何で今、出てくるのよ。ややこしくなるから勘弁して! 目すら開けられない、声も出せない状態なのに、それはわたしに向けられているのだろうか?
「何とか言ったらどうだ! 無視はダメだぞ!」
「お前は馬鹿か! そんな場合じゃないだろう!」
また新しい声だ。でもありがとう、馬鹿を止めてくれるのね。
バタバタと足音がして人が寄ってくる気配がした。
「依子さんっ、依子さんっ」
「誰か先生に連絡を!」
聡子さんと春香さんだ。上品なふたりが階段を駆け下りてくれたのね。意識はあるのに動けない。大丈夫だよ、心配しないでって言いたいのに、唇が震えるだけ。
会長と知らない声の主が、周りの野次馬たちに指示を飛ばしているのが聞こえる。アフロボンバーがトンチンカンに騒ぎ立て、それがこの場を落ち着かなくしている。
「俺、大丈夫ですから。この子動かすと危険だから、救急車が来るまでこのままにしてください」
下敷きになったまま、男子生徒が言った。
私の意識はそこまでで、すうっと暗闇に吸い込まれたのを、後になって思い返した。
失神て人生で何度もあるものじゃないと思うんだけど、二回も経験するなんて。少なくとも、アラサーOLはしたことなかったよ、とほほ。
あれ? 俺様枠じゃなかったっけ? と思ったら花城さんが般若の顔相で睨んで来た。会長からは見えなくても、通りすがりの女子生徒には見られてますよ~。
「後で話を聞きたい。遣いをやるから生徒会室まで来てもらう」
イヤ。
心の声は口に出せない。曖昧に微笑んで肯定の返事をすると、会長にへばり付いた花城さんの顔が、益々恐ろしいことになった。会長は花城さんの大好物だろうけど、わたしは何の興味もないから勘弁してよ。
「お前、何組だ?」
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ひっ!
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アホですか、アンタ!
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ゆっくりと景色が流れていった。花城さんの歪んだ笑み、会長のびっくり眼(多分貴重)、寄り添う聡子さんと春香さんのあげる悲鳴。それから天井。
「ぐえっ」
全身に衝撃が走り、息が詰まった。可愛くない声が⋯⋯わたしの声じゃない?
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「畜生、モブその三の呪いかよ」
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え?
「ツマキミありえねー」
ツマキミって言った! あなた誰よ! て言うか、わたし誰か下敷きにしてる! 退かなきゃ!
「階段でふざけちゃ、いけないんだぞ! 」
場違いな声が高らかに響いた。アフロボンバーだ。何で今、出てくるのよ。ややこしくなるから勘弁して! 目すら開けられない、声も出せない状態なのに、それはわたしに向けられているのだろうか?
「何とか言ったらどうだ! 無視はダメだぞ!」
「お前は馬鹿か! そんな場合じゃないだろう!」
また新しい声だ。でもありがとう、馬鹿を止めてくれるのね。
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「依子さんっ、依子さんっ」
「誰か先生に連絡を!」
聡子さんと春香さんだ。上品なふたりが階段を駆け下りてくれたのね。意識はあるのに動けない。大丈夫だよ、心配しないでって言いたいのに、唇が震えるだけ。
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「俺、大丈夫ですから。この子動かすと危険だから、救急車が来るまでこのままにしてください」
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私の意識はそこまでで、すうっと暗闇に吸い込まれたのを、後になって思い返した。
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