主人公はふたりいる。

織緒こん

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持つべきものはモブ友です

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 アフロボンバーは隣のクラスだった。
 
 大空おおぞらかけると言うらしい。無駄に少年漫画の主人公みたいな名前なのね。ともあれ、同じクラスじゃなくてよかった。花城さんとダブルで来られたら、学級崩壊は間違いない。

「おはようございます、依子さん。まだお顔の色が悪いみたい」
「いつでも声をかけてね。具合が悪い時は無理をしては駄目よ」

「ありがとう。昨日は心配かけてごめんなさい。倒れるなんて、自分でもびっくりよ」

 なごやかに朝の挨拶を交わし、体調を気遣ってもらう。お嬢さまたちは今日もおっとりと麗しい。一ノ瀬春香さんと二木聡子さんは、中等部からの友人で、お誕生日会には呼んで呼ばれての仲だ。気づけばモブ同志でお友達だった⋯⋯。ゲームの強制力とかいうやつかしら。
 
「そうだわ、依子さんに言っておかなければ」
「あら、なぁに?」
「オリエンテーションのことなんだけど、昨日グループ決めがあって、ご一緒させてもらったの。勝手してごめんなさい」

 聡子さんが申し訳なさそうに言った。
 
 ゴールデンウィーク直前に、オリエンテーションがあるんだっけ。そう言えば昨日の四時間目に決めるはずだった。

「勝手だなんてとんでもない。気にかけてくれて嬉しい」

 すっかり忘れていたから、助かった。新入生オリエンテーションは、グループごとに一日かけて学校施設、委員会や部活を見学する行事と説明を受けている。各所に活動説明する先輩がたがいるから、一年生だけでなく全校あげての行事になる。

「違うの、依子さん」

 今度は春香さんの眉が寄った。春香さんの困り眉、可愛い。

「花城さんも一緒なの」

⋯⋯は?

 花城さんと?

「各グループ、四、五人づつ組むんだけど⋯⋯」

 人数合わせでウチに来たのね⋯⋯。

 花城さんはゴネたらしい。男女混合でグループ分けした方が、平等だとかなんとか。結局、更衣室とか男女別の部活等を効率よく回るために、意見は通らなかったらしいんだけど、文句を言ってる間にお目当ての男子グループには混ざる余地なく、女子グループはさっさと定員を埋め、流れでウチしか無かったと。つまり、みんなが嫌がったわけだ。

 聡子さんも春香さんも、内心では花城さんを快く思っていないけど、口で嫌と言えるわけもない。和を乱すのも心苦しいし、特に聡子さんは面倒見が良いタイプだしね。
 
 そうよね、モブ三人組はヒロインの腰巾着だものね。その三が一番悲惨とは言え、その一その二もそれなりに巻き込まれるはずよ。

 これから否応なしに恋愛イベントに巻き込まれて行くんだろうけど、回避する術を知らない。『ツマキミ』は人気のゲームだったんだけど、実はやったことがない。前世のアラサーOLはやろう、と言いつつやらない女だった。

 気になるご飯屋さんを見つけてはいつかと思っているうちに閉店してるし、面白そうな漫画も完結したらまとめてと思っていたら大長編になりすぎて今更手が出せない。『ツマキミ』だってムック本とファンサイト巡りで満足して、モブに同情して終わった。メインキャラクターだって名前も覚えてない。

 四、五人いる攻略対象も、インテリ眼鏡会長、微笑み副会長、男前風紀委員長、みたいなザックリした認識だし、定番すぎて他のゲームとごちゃ混ぜになってる可能性も捨てられない。

 今まで花城さんとの接点はあまりなかったけど、このままなし崩しに取り巻き扱いされたりしないだろうか。出来れば攻略対象には近づきたくない。イベントに巻き込まれて怪我をするのは勘弁してほしい。

「ちょっと大変そうだけど、三人で頑張りましょうね」

 聡子さんがわたしの両手をとって、決意を込めて言った。春香さんの手がその上にそっと重ねられた。周りにいて会話を聞いていたクラスメイトも口々に激励の言葉をつぶやいている。花城さんと同じグループってのは、それだけ同情されることなのか。

 なら代わってくれ。

 もちろん、誰も花城さんの面倒なんて見たくない。わたし達モブ三人組は、仲良く諦めの溜息を漏らしたのだった。

 
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