主人公はふたりいる。

織緒こん

文字の大きさ
上 下
2 / 14

登校拒否を考える

しおりを挟む
 三峰依子を語ろう。
 
 ゲームにおいてはキャラクター表のビジュアルの他は、公式サイトで簡単な紹介があるだけなんだけど、わたしには生まれてきてから十五年の時間がある。

 三峰の家は御維新後に興した呉服屋から成った企業の創業者一家で、現在は程々の歴史と程々の業績の、さほど目立つ家ではない。
 
 前世のアラサーOLが育った家に比べれば物凄いお金持ちだけど、上には上がある。

 星稜学園に通う生徒は、大体が一般的なお金持ちの子で、ほんの一握りのとんでもないお金持ちの子がいる。わたしは一般的な方だ。

 そんな三峰家の二番目の子として生まれたわたしは、お金持ちの生活に首を傾げつつも順応し、突出した才能を開花させることもなく、お上品な家族とお友だちに囲まれて育った、ごくごく普通の良家の子女と言える。前世基準ではどこが普通じゃ、とつっこみたいけど、話が進まないから置いておく。

 朗らかな父、万年少女の母、シスコン気味の兄、そして地味なわたし。地味と言っても顔立ちは整っている。ほら、漫画原作ドラマのちょいブス設定を演じるのが、可愛い女優さんだったりするでしょ。そもそもお金持ちなんて、お金にモノ言わせて美人を嫁にしちゃうんだから、ある程度の美形遺伝子は代々受け継がれてるわけよ。

 自分で言うなんて、とんだナルシストだって? アラサーOLの意見です! 客観的に見てるんです!  整ってるってのは、顔面の左右の差が少なくて程々の凹凸って事だからね。別に美人だって言ってない。身長だって百五十五センチ、エスコートの相手に合わせてヒールで調節可能。ま、負け惜しみなんかじゃ、な、ないんだからね!

 中高一貫の星稜学園は、お金持ちのご家庭御用達の学校である。中等部入学の際に受験なるものは存在するけど、そこまで難しい試験ではない。ここで大事なのは学力じゃなくて財力。入学金も授業料もそこそこお高いので、学園側が想定する家格で線引きされる。ある程度の財力がないと、中等部三年間の学費は賄えない。
 
 そうして収められた潤沢な資金は、講師や教材に化ける。最高の教育は受験科目だけでなく、教養科目にも施される。中等部三年間で学力の底上げと社交界でのマナー習得を行うのである。言い換えれば、どんな野ザルでもお金さえ払えば紳士淑女の卵に変身させてくれるのが、星稜学園中等部ってところなわけ。
 
 とは言え、そもそも上流階級の子弟だから、そこまで酷いのはいないんだけど。

 そこから更に高等部に進学するときに、ちょっとふるいにかけられる。あまりに素行が悪かったりすると進学内定が降りないので、ほかの高校を受験することになるの。中等部で基本のマナーだけ学んで留学する生徒もいるから、減った人数を外部受験で補充する。

 中学受験して星稜学園に入ったわたしは、可もなく不可もなく中等部を終え、高等部に進学した。家を行き来する親しい友人も、前世レベルの気安さはない。
 
 ほとんどの生徒が自家用車通学なので、下校途中に公園で話し込むとか、十代半ばの普通の中学生がしそうなことは出来ないし、家に遊びに行くのも相手のお家の予定を聞いて、事前にお持たせを用意して⋯⋯ともかく面倒くさい。まず、ふらりと徒歩で行ける範囲に住んでいない。

 そんな星稜学園の高等部にやって来た『成金娘』は、名を花城アリスと言った。ゲームパッケージの髪色はぶっ飛びのピンク色だったけど、流石に現実には綺麗にカラーリングさせた茶色だ。見たところ、ピンクベースのカラー剤だけどさ。

 花城さんは入学式に遅刻してきた後、ホームルームの自己紹介で、どうでも良い個人情報をダダ漏れにした。

 曰く。

「この間まで、庶民生活してましたぁ。パパとママ、駆け落ちしてお爺ちゃんと縁切りしてたんだけど、仲直りして一緒に暮らすことになりました! 社交のこととか全然わからないから、色々教えてくださいね♡」

 なんですか、この方?

 この時のわたしは、まだアラサーOLに意識を占領されていなかったため、脳内ツッコミがやや丁寧だった。

 ご両親の駆け落ちって、ご祖父上としては大袈裟にしたくない出来事ではないのかしら?

 なんてポカーンとしてしまった。お爺ちゃんとしては孫に不自由させたことを悔いてるかもしれないし、十分なマナー教育が行き届いていないのは、社交界に出るつもりなら内緒にしとくものでしょ。とりあえずハリボテでごまかしつつ、ボロを出さないように中身を詰めるのが良いんじゃなかろうか。ハッタリ大事。
 
 て言うか、そう言うのってごく一部の仲良しの子に、こっそり打ち明けるものだと思ってた。

 複雑な家庭について同情を得たいのか、慣れない環境でも頑張る健気さをアピールしたいのか、さっぱりわからない。

 彼女はこの一件で内部進学組から距離を置かれた。そりゃそうだ。ちょっとした秘密を大声で吹聴されたらたまらない。かと言って外部受験組と仲が良いかというと、そうでもない。こっちは花城さんの方からシカトしてた。

 花城アリスと言う少女は、見事に内部進学組の男子にしか話しかけないの!

 どうやら 外部受験組は家格が低いと思っているらしい。帰国子女セレブだの地方に拠点を置く有力な旧財閥だの、お家の都合で中等部を受験出来なかった方々が大勢いるのにね。
 
 それに女同士の繋がりって馬鹿に出来ないのよ。アラサーOLを経た身としては、ほんっと強く思うわ~。

 入学式から二週間、クラスは内部進学組と外部受験組が馴染んで新しい友誼を結んだりしていたんだけど、花城さんは見事に浮きまくっていた。そんな時だ、アフロボンバーがやって来たのは。

 ⋯⋯明日、学校に行きたくない。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。 ★小説家になろうさまでも公開中

婚約者は、今月もお茶会に来ないらしい。

白雪なこ
恋愛
婚約時に両家で決めた、毎月1回の婚約者同士の交流を深める為のお茶会。だけど、私の婚約者は「彼が認めるお茶会日和」にしかやってこない。そして、数ヶ月に一度、参加したかと思えば、無言。短時間で帰り、手紙を置いていく。そんな彼を……許せる?  *6/21続編公開。「幼馴染の王女殿下は私の元婚約者に激おこだったらしい。次期女王を舐めんなよ!ですって。」 *外部サイトにも掲載しています。(1日だけですが総合日間1位)

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

処理中です...