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君がいなくなる前に エンバーマーのヤンデレ×あの子(注 死ネタとなります)

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「最愛の人が亡くなった時、君ならどうする?」

学生時代、教授に言われたことがあった。
その時の僕は、その問いになにも返すことができなかったし、そんな僕に教授も答えらしい答えをくれなかった。
でも、今ならその答えが言える。

「亡くなる前に殺して、傍にいてもらいます」

「ひとつも答えになっていない」と教授なら怒るだろうな、と苦笑する。
亡くなった人の尊厳を守るエンバーミングの本質とは大きく外れていることなのだろうが、僕がたどり着いた答えはこれだ。
今までに、何十、何百とご遺体のエンバーミングを施してきたが、きっとこれが僕の最後の処置になるだろう。

体に入れた薬液には防腐剤が入っているから、そう簡単には体は傷まない。
抜いた体液の代わりに入れた薬液には血色を良くするよう色もついてある。
だから遺族はエンバーミングを施された故人を見たときに、まるでただそこに眠っているようだと言う。

目の前の彼女もただ深い眠りについているだけのようだ。
命を刻む心音も、穏やかに聞こえる寝息もないだけ。

目も開かない。
笑うこともない。
声は聞こえない。

それでも、僕は君に傍にいて欲しい。
この時ほど、自分がエンバーマーでよかったと思うことはない。
知らない人間が彼女に触れるなんて赦せない。
髪の毛から、手足の先まですべて僕が整えてあげたい。
処置をしている時はまるで、再生の神聖な儀式のようだと心が震えた。

「愛してる、僕だけのかわいい人」

ただひたすらに眠る彼女を見つめて言う。

病でその命の灯火が消されてしまう前に、僕がこの手で掻き消した。

後悔の念などない。
願うとすれば、もっと生きた君を見ていたかったということかな。
でも、もう良い。
きっと生きていても、彼女は僕をその瞳に映すことも、僕の名前を呼ぶこともなかったのだから。
たとえ、生きていなくても、傍に彼女がいてくれるならそれで心は満たされた。

「好きだよ、愛してるんだ」

冷たい手に口付ければ、少しだけ熱をもった気がした。

ずっと、ずっと僕の傍にいてね。
 
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