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次は誰が死ぬ?
しおりを挟む帰宅してからもパソコンを開いて仕事をする。
こうしていれば、眠気醒ましになる。
栄養ドリンクを流し込み、次の企画の役に立ちそうな情報をまとめていく。
何度か眠くなるが、その都度冷却シートをおでこに張り付け眠気を醒ました。
化粧ではごまかせない程、目の下のクマができてきたがそれでも眠るのが怖かった。
「また、夢で会えるよ」
あの男の声がよみがえる。
いやだ。
あんな夢はもう見たくない。
寝なければ夢は見ない。
ほっぺをばちりと叩いてまたパソコンへ向かった。
時刻は日付を越えて1時をまわっている。
朝までは長い。
気分転換にコーヒーでも入れよう、そう思って立ち上がった時だった。
バチン!と音がした後に、真っ暗になる。
一気に視界が奪われて身動きが取れなくなる。
「えっ!停電!?」
突然の停電にあわてふためく。
今日は雷も何も鳴っていなかった。電気の使いすぎでもないはず。
慌ててブレーカーを確認しようとするが、突然暗くなったため狭い部屋の中でも方向感覚が掴めない。
空腹と睡眠不足のせいだろうか、平行感覚もなくなってふらついてしまった。
「あっ…!」
気づいた時には床に倒れこんでしまった。
それと同時に頭部に激痛が走る。
ガチャン!という音が頭の上からした。
どうやら食器棚に倒れた拍子に頭をぶつけてしまったようだった。
「いたぁ…」
痛みで呻いた後、慌てて頭に触れる。
痛みはあるが、血は出ていない。
大丈夫だ…
でも、ひどく頭をぶつけたせいで、目の前がどんどん霞んでいく。
何も考えることができない。
せめて電気、つけなきゃ。
そう思った瞬間、私は意識を手放した。
「また、会えたね」
聴きたくなかった声がした。
「嬉しいよ」
にこりと男はこちらに笑い掛ける。
とても、とても楽しそうに笑っているのにその顔はとても冷たそうに見えた。
「君はとても賢いけど強情だな」
青白く細い手が、私の頬に触れた。
氷のように冷たくて背筋が粟立つ。
「眠らないと身体がもたないというのに」
そんなに、わたしと会うのが嫌かな?
そう言う男を見据えて私は頷いた。
「嫌よ、あなたと会いたくなんてなかった」
はっきり言えば男は一瞬だけ表情を固くした後に口許を吊り上げる。
「それは残念。せっかく君に会うために現世に干渉したのに」
「なんのこと…?」
私の問いを無視して、男は言った。
「可哀想に、痛かっただろう?」
頬に触れていた手が、するりと流れるように動いて頭を触る。
そこは、私が食器棚にぶつけたところだ。
「な…んで…!」
心臓が鷲掴みにされたように鳴る。
まさか、この男夢の中から出られるの?
部屋が急に暗くなったのは?
この男のせい?
「そうだよ。君は本当に賢い」
「なんで…どうして…」
寝なければ夢を見ない。
夢を見なければ不吉な夢も、この男と会うこともなかったのに…
だから今までずっと寝ずにいたのに…
寝なくても意味がないなら、私はどうしたらいいの…?
今までで信じていたものが、がらがらと崩れる。
我慢していたものが、堰をきって流れていくような気がした。
涙が溢れてくる。
「君は間もなく死ぬ」
ぼろぼろと涙をこぼす私を余所に、男は物騒なことを語る。
なのにその表情は恍惚に満ちていて、今までで一番楽しそうだ。
「どうせあなたが私を殺すんでしょ?」
「否、君が君を殺すんだ」
「なに言ってるの…」
私が私を殺す?
自殺をするとでも言いたいのだろうか?
死にたくなんてない。
そんなことはしない。
「本当だよ?近い未来、君は死ぬ」
「わたしが現世へ干渉できるようになったのも君の死が近いからだよ」
こんな男の言うことなんて何一つ信用できない。
けれど、もしあの停電が本当に男がしたことならば私はどうこと男から逃げれば良いの…?
「逃げないで…はやくこちらへおいで。愛しい君」
子供をあやすように頭を撫でられる。
「覚えておくといい。わたしはいつでも君の傍にいる」
ここにいるからね?
強い力で抱き寄せられて頭部に口付けされる。
「やめて…はなして!」
子供のように、腕を振り乱して抵抗して暴れる。
それなのに男はびくともしない。
「さあ、良い子だからもう一度お眠り」
初めて会った時のように男の手が私の目を覆った。
視界が真っ暗になって、意識が持っていかれる。
意識が遠退く最後の瞬間、男の声がした。
「次は、誰が死んだかな?」
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