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エル・ヌーバ号(完)

第Ⅳ聖典

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 第Ⅳ聖典とは偉大なる主によって我々人類へ与えられた四番目の契約書である。
 全十三巻からなる原書と、一冊に編集された編纂書が存在する。
 編纂書は過去何度か作られれおり、その時代、編集者、翻訳によって収録されてる内容が異なる場合があるが、基本的には同じ内容であり三部で構成される。

第一部、律法。
 人類の現状について。統一教会の基礎理念、奇跡の大原則が書かれており、特に祈りについては深く言及されている。

第二部、予言。
 過去に予言されていたとされる黙示録についての記述で構成される。悪魔に関する情報も多く言及され、最初の悪魔と誘われし者共、契約の悪魔達について描写されている。

第三部、諸書。
 かつての聖人や天使が齎らした奇跡について。また、古い契約についても触れられている。
 

 下記に『レスの書』より、一文を引用する。

『冒頭文書、祈りの忘却』

 人類の総数はついに一億を切った。

 我々はもう、忘れてはならない。
 その日、黙示録は引き起こされた。
 長き禁則を破り、悪魔が現れた。悪魔は次々に世界の法則を歪め、人々を殺した。
 黒霧が空に満ち堕落の後に人々を殺した。
 戦争が始まり人々は人々を殺した。
 飢餓と病が蔓延し、人々を殺した。
 
 それらは古き予言で警告されていた通りであった。あまりにも長い時は、我々から警告の記憶を奪っていた。
 忘れる事。それは我々の犯した重大な罪であった。

 我々は赦しを求めた。

 長い時間、我々は耐えた。長い時間、人々は殺され続けていた。
 だが、我々が救われる事は無かった。それどころか、主がその日を長くした為、人々はより多く殺される事となった。

 主は何故、我々をお救いにならなかったのか。それは、あまりにも多くの人々が祈りを間違えていたからである。
 間違った信仰をしていた為である。

 長き年月の果てに、我々は祈りすら忘れていたのだ。祈り無くして我らの声が主へ届く事は無い。
 主はそれを嘆き、再び人々が祈りを取り戻すことを待った。

 我々は思い出さなければならない。正しい祈りが何であったかを。
 


 ※補足
 『レスの書』は統一教会以前の人類について書かれており、立法の章に分類されている。
 黙示録を生き延びた人類が信仰を再発見し、幾つかの分裂の後、正しい祈りにより統一を果たすまでの過程が記録されており、統一教会の歴史を示す重要な書籍である。
 編纂書では冒頭文書である祈りを忘れてしまった人類への嘆きと、大きく省略された統一教会誕生への歩みが載せられている。
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