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睡蓮の町(完)
無脳の爬虫類
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「和平交渉は決裂ね」
銃声の余韻が消える頃には聖堂内の全ての生物が次の動きへ移っていた。
マナの正面に立ち塞がる二匹のトカゲ、それぞれの元に光蟲が飛びつく。
光蟲はトカゲ頭部に備え付けられた管の中へと入り込んだ。
土管に似たその装置は光蟲が入る管の蓋が閉じ、ゆっくりとトカゲの頭の中へと入り込んでいった。管はすっぽりと埋め込まれ、トカゲの両眼が淡い光を放つ。その光は光蟲の放つ光に酷似していた。
「それが貴方達の武器かしら」
無脳処置。
脳を抜き取り、開いた空間に埋め込まれた機械と生体操作による肉体の支配。または、脳を欠いだ状態で生命を維持する手法。無脳処置と呼ばれる生物改造技術であった。
無脳処置により光蟲は、取り除いた脳の代わりとしてその生物を意のままに動かす事が出来る。攻撃能力を持たない光蟲は他の生物の肉体を使い、マナと戦うつもりなのだ。
「手足をもげ」
「動けなくするのだ」
トカゲが動く。両手両足をバタつかせまっすぐマナへと突っ込んでくる。
マナはその場から動かず、一匹に狙いを付けた。
無骨な機能美を体現したシンプルな機構で設計されたダブルアクション式。装填数は五発。銃身長は短く切り詰められ、指の長さほどであるが、その口径は鳥卵が入るのかと思うほど極端に大きい。
汎用性を捨て去った破壊力最重視の大口径リボルバーだ。放たれる弾丸は獰猛な獣も一撃で屠る程の威力を持っている。当然、その反動も重量もそれなり以上のものとなるが、マナはこれを片手で扱っている。
引き金を引く。
弾丸はまっすぐトカゲの頭部を捉え、そのまま胴を貫き、抉り引き裂いた。バランスを失ったトカゲは派手に転び、そのまま動かなくなった。
この威力だ。虫など掠っただけでバラバラだろう。
だが、当然リスクはある。片手で扱えるといっても、軽々しく使えている訳では無い。命中精度も、引き金を引く握力も、反動を引き受ける腕も、一発が限界だ。次にまともな射撃を行うには暫しの休息が必要であった。
故に、二匹目のトカゲは止められない。
大口を開けて飛びついてきたトカゲに対し、マナは身を翻し交わそうとする。
しかし、一匹目を確実に殺す為に引きつけすぎていた。躱しきれない。びっしりと歯が生え揃ったトカゲの口がマナの左腕を捉え、力任せに噛みちぎった。
勢いを殺しきれずにマナは吹き飛ばされ、傷口から鮮血が飛び散る。
「やったぞ。まずは腕だ」
「いいぞ、いいぞ」
「産み袋を捕らえるのだ」
倒れたままマナは起き上がらない。激しい出血。致命傷のはずた。しかし、マナの表情には諦めも絶望も無い。眉一つ動かず、儚げに微笑んでいる。
キィィィン!ぼんっ!
マナの腕を食らったトカゲが体内から爆ぜた。破裂した風船のようにその肉片を聖堂内に撒き散らす。
「なにが起きた?」
「魔術だ、魔術を使われた」
「何の魔術だ」
「魔術であれば我々が知り得ない筈がない」
「やはり魔女なのだ。魔女が我々を騙したのだ」
ふらふらとマナは立ち上がる。おびただしい量の出血はいつの間にか止まっていた。
「次は何を見せてくれるの? もう終わりではないのでしょう?」
血溜まりの上に立ち、挑発的にそう言ってリボルバーを構える。
「なぜ死なない?」
「致命傷だった筈だ」
「不死だ、不死の力を持っている!」
「やはり不死だ!死なない身体!」
「素晴らしい産み袋」
「必ず手に入れるのだ」
トカゲ二匹を瞬く間に倒したマナだったが、負ったダメージは大きい。周囲を飛び回り、ヤジを飛ばす光蟲は歓喜に酔っている。彼らにとってトカゲが破れた事など対した問題では無かった。
動く気配を感じる、何かが近くにいる。その存在を感じ取りマナは横へ飛んだ。壁を破壊し、轟音と共にそれは飛び出してきた。受け身も取らずに転げるマナの横を巨大な生物が通り過ぎた。
トカゲだ。しかし、その大きさは先程マナが倒したものより、一回りも二回りも大きい巨大なものであり、見た目も少し違っている。
ぶよぶよとした皮膚は鎧のように硬い甲皮へと変わり、腹部からはにょろにょろと蠢く寄生虫のような触手が生えていた。
うにょうにょと不規則に動きながら大トカゲの触手がマナへと伸びた。マナは咄嗟にリボルバーの引き金を触手を撃ち抜き身を守った。触手が引きちぎれ、トカゲが苦しそうに呻いた。
だが、これで残弾はもう無い。初めの一発は沼で使い、聖堂では光蟲に二発、トカゲに一発、そして最後の一発は今使用した。
銃撃により切り離された触手は鮮血を撒き散らしながらミミズのように蠢く。
大トカゲは次々に触手を放つ。銃撃という対抗手段を失ったマナは走って触手の攻撃範囲外へと逃げるしかなかった。
マナが触手の届かない位置まで逃げると、大トカゲは大口を開けマナに向かって突っ込んできた。マナは逃げようと走りだす。
逃げるマナの動きは愚直なもので、それは大トカゲへの対抗策をマナが持ち得ていないと思わせるに十分な光景であった。その様子を眺める蟲達は愉しそうにヤジを飛ばす。
「いいぞ、追い詰めろ」
「無駄だ。逃げられはしない」
大トカゲはバタバタと手足を動かして一心不乱にマナを追う。全力で逃げるマナだがサイズの差がありすぎる。
逃げ切れない。そして大トカゲの開いた口がマナの目前へ迫る。大トカゲの口から舌が伸びた。舌の先端には吸盤のような吸着性のあり、マナの身体を口の中へと引き摺り込んだ。
ガチン!
大トカゲの口が閉じる。隙間無く生えそろった大トカゲの歯が、マナの首をギロチンのように切り落とした。
ゴロンと、生首が地面を転がる。
ごくんっ。
首の無いマナの身体は丸呑みにされた。それは、あまりにも呆気ない光景であった。幾多の光蟲と二匹のトカゲと闘争を演じたマナは新たに現れた大トカゲには手も足も出なかった。
光蟲達の歓声が聖堂内に響き渡った。
「でも、勝ったのは私ね」
マナが喋る。地面に転がった生首では無い。それは別の場所から聞こえてきた。それは突然のことで、光蟲達は誰一匹としてそれに気づいて居なかった。魔女を腹に収めた大トカゲへの賞賛とこれからもたらされる種の栄光に酔い痴れていたのだ。
五体満足、傷一つ無い完璧な状態でマナは立っていた。着ていたコートは大トカゲの腹の中、マナの死体と共にある。
「これは貰うわ」
絹一糸纏わぬ姿でマナは聖堂の中心へ立つ。光の集う、祭壇の本へと手が伸びる。気付いた光蟲が悲痛な叫び声を上げた。
「何故そこに居る!」
「よせ!」
「それに触るな」
「ダメだ、ダメだ!」
マナが本を手にした途端、空気が凍り付いた。今まで教会を覆っていたぬくもりのようなものが失われていく。それは失って初めて自覚する事の出来る微弱なものであった。しかしそれは生命に必要な最低限のもの、言わば生命維持装置のようなものであった。
教会を守っていた加護が掻き消されたのだ。
マナは目の前が急に暗くなった。錯覚では無い、聖堂を空から照らしていた光が消えたのだ。
いまや、黒い霧が空を完全に塞いでいた。教会はその外の町と同じ暗闇に閉ざされた。暗闇の中で、光蟲の放つ光だけが頼りなく蠢いている。
「あぁ!なんて事を!」
「殺せ!こいつを殺せ!」
「産み袋などもはや良い。聖典を取り返すのだ!」
光蟲は激昂する。光を激しく点滅させ、荒々しく羽がばたつく。無数の憎しみが群れとなって渦巻いていた。彼らは一斉に飛び立ち、マナへ向かって突っ込んでくる。そこには打算も計画も無い、ただの怒りにまかせた突撃だった。身をぶつけ、その肉を打つのだ。
対して、マナは極めて淡々とした調子だった。教会に起きた異変に表情一つ変えず、本を手にしたまま自分に迫ってくる光蟲の大群と対峙する。
「さようなら」
キィィィィィィン!
大トカゲが内部から破裂した。その規模は小さいトカゲの比では無い。千切れ飛んだ肉片は勢い良く飛び散り、天井近くまで舞い上がる。
内臓が、触手が、手足が、ありとあらゆる部位の肉片が聖堂にばらまかれた。
キィィィィン!
キィィィィン!
キィィィィン!
今度は、飛び散った肉片が一斉に爆ぜた。それぞれが大きな衝撃波を生み出し、聖堂を、いや、教会そのものを破壊していく。それだけではない。爆破に巻き込まれ、死骸となった光蟲も同く爆ぜた。爆破は連鎖する。
爆破につぐ爆破。建物を支えていた支柱が破壊されていく。
教会が崩れ始める。光蟲達は何が起きているか理解することもなく爆破に巻き込まれて次々に死んでいった。肉片の爆発に巻き込まれ、瓦礫に押しつぶされ、運が良い者は壊れた屋根から外へ逃れ、そうで無い者は皆死んだ。
死にゆく光蟲達は口汚くマナを罵り、せめてもの報いとしてその名を呪った。
爆発と崩壊、死の連鎖が終わり、辺りに静寂が戻った時、そこにはもうマナ以外の誰も居なかった。
半壊。教会は聖堂を中心に崩れ去り、その大部分は沼に沈んだ。
瓦礫の中からコートを引っ張り出して羽織ると、周囲の状況を改めて確認したマナはため息をついた。
「ここはもうダメね」
マナは光の閉ざした教会を後にした。
銃声の余韻が消える頃には聖堂内の全ての生物が次の動きへ移っていた。
マナの正面に立ち塞がる二匹のトカゲ、それぞれの元に光蟲が飛びつく。
光蟲はトカゲ頭部に備え付けられた管の中へと入り込んだ。
土管に似たその装置は光蟲が入る管の蓋が閉じ、ゆっくりとトカゲの頭の中へと入り込んでいった。管はすっぽりと埋め込まれ、トカゲの両眼が淡い光を放つ。その光は光蟲の放つ光に酷似していた。
「それが貴方達の武器かしら」
無脳処置。
脳を抜き取り、開いた空間に埋め込まれた機械と生体操作による肉体の支配。または、脳を欠いだ状態で生命を維持する手法。無脳処置と呼ばれる生物改造技術であった。
無脳処置により光蟲は、取り除いた脳の代わりとしてその生物を意のままに動かす事が出来る。攻撃能力を持たない光蟲は他の生物の肉体を使い、マナと戦うつもりなのだ。
「手足をもげ」
「動けなくするのだ」
トカゲが動く。両手両足をバタつかせまっすぐマナへと突っ込んでくる。
マナはその場から動かず、一匹に狙いを付けた。
無骨な機能美を体現したシンプルな機構で設計されたダブルアクション式。装填数は五発。銃身長は短く切り詰められ、指の長さほどであるが、その口径は鳥卵が入るのかと思うほど極端に大きい。
汎用性を捨て去った破壊力最重視の大口径リボルバーだ。放たれる弾丸は獰猛な獣も一撃で屠る程の威力を持っている。当然、その反動も重量もそれなり以上のものとなるが、マナはこれを片手で扱っている。
引き金を引く。
弾丸はまっすぐトカゲの頭部を捉え、そのまま胴を貫き、抉り引き裂いた。バランスを失ったトカゲは派手に転び、そのまま動かなくなった。
この威力だ。虫など掠っただけでバラバラだろう。
だが、当然リスクはある。片手で扱えるといっても、軽々しく使えている訳では無い。命中精度も、引き金を引く握力も、反動を引き受ける腕も、一発が限界だ。次にまともな射撃を行うには暫しの休息が必要であった。
故に、二匹目のトカゲは止められない。
大口を開けて飛びついてきたトカゲに対し、マナは身を翻し交わそうとする。
しかし、一匹目を確実に殺す為に引きつけすぎていた。躱しきれない。びっしりと歯が生え揃ったトカゲの口がマナの左腕を捉え、力任せに噛みちぎった。
勢いを殺しきれずにマナは吹き飛ばされ、傷口から鮮血が飛び散る。
「やったぞ。まずは腕だ」
「いいぞ、いいぞ」
「産み袋を捕らえるのだ」
倒れたままマナは起き上がらない。激しい出血。致命傷のはずた。しかし、マナの表情には諦めも絶望も無い。眉一つ動かず、儚げに微笑んでいる。
キィィィン!ぼんっ!
マナの腕を食らったトカゲが体内から爆ぜた。破裂した風船のようにその肉片を聖堂内に撒き散らす。
「なにが起きた?」
「魔術だ、魔術を使われた」
「何の魔術だ」
「魔術であれば我々が知り得ない筈がない」
「やはり魔女なのだ。魔女が我々を騙したのだ」
ふらふらとマナは立ち上がる。おびただしい量の出血はいつの間にか止まっていた。
「次は何を見せてくれるの? もう終わりではないのでしょう?」
血溜まりの上に立ち、挑発的にそう言ってリボルバーを構える。
「なぜ死なない?」
「致命傷だった筈だ」
「不死だ、不死の力を持っている!」
「やはり不死だ!死なない身体!」
「素晴らしい産み袋」
「必ず手に入れるのだ」
トカゲ二匹を瞬く間に倒したマナだったが、負ったダメージは大きい。周囲を飛び回り、ヤジを飛ばす光蟲は歓喜に酔っている。彼らにとってトカゲが破れた事など対した問題では無かった。
動く気配を感じる、何かが近くにいる。その存在を感じ取りマナは横へ飛んだ。壁を破壊し、轟音と共にそれは飛び出してきた。受け身も取らずに転げるマナの横を巨大な生物が通り過ぎた。
トカゲだ。しかし、その大きさは先程マナが倒したものより、一回りも二回りも大きい巨大なものであり、見た目も少し違っている。
ぶよぶよとした皮膚は鎧のように硬い甲皮へと変わり、腹部からはにょろにょろと蠢く寄生虫のような触手が生えていた。
うにょうにょと不規則に動きながら大トカゲの触手がマナへと伸びた。マナは咄嗟にリボルバーの引き金を触手を撃ち抜き身を守った。触手が引きちぎれ、トカゲが苦しそうに呻いた。
だが、これで残弾はもう無い。初めの一発は沼で使い、聖堂では光蟲に二発、トカゲに一発、そして最後の一発は今使用した。
銃撃により切り離された触手は鮮血を撒き散らしながらミミズのように蠢く。
大トカゲは次々に触手を放つ。銃撃という対抗手段を失ったマナは走って触手の攻撃範囲外へと逃げるしかなかった。
マナが触手の届かない位置まで逃げると、大トカゲは大口を開けマナに向かって突っ込んできた。マナは逃げようと走りだす。
逃げるマナの動きは愚直なもので、それは大トカゲへの対抗策をマナが持ち得ていないと思わせるに十分な光景であった。その様子を眺める蟲達は愉しそうにヤジを飛ばす。
「いいぞ、追い詰めろ」
「無駄だ。逃げられはしない」
大トカゲはバタバタと手足を動かして一心不乱にマナを追う。全力で逃げるマナだがサイズの差がありすぎる。
逃げ切れない。そして大トカゲの開いた口がマナの目前へ迫る。大トカゲの口から舌が伸びた。舌の先端には吸盤のような吸着性のあり、マナの身体を口の中へと引き摺り込んだ。
ガチン!
大トカゲの口が閉じる。隙間無く生えそろった大トカゲの歯が、マナの首をギロチンのように切り落とした。
ゴロンと、生首が地面を転がる。
ごくんっ。
首の無いマナの身体は丸呑みにされた。それは、あまりにも呆気ない光景であった。幾多の光蟲と二匹のトカゲと闘争を演じたマナは新たに現れた大トカゲには手も足も出なかった。
光蟲達の歓声が聖堂内に響き渡った。
「でも、勝ったのは私ね」
マナが喋る。地面に転がった生首では無い。それは別の場所から聞こえてきた。それは突然のことで、光蟲達は誰一匹としてそれに気づいて居なかった。魔女を腹に収めた大トカゲへの賞賛とこれからもたらされる種の栄光に酔い痴れていたのだ。
五体満足、傷一つ無い完璧な状態でマナは立っていた。着ていたコートは大トカゲの腹の中、マナの死体と共にある。
「これは貰うわ」
絹一糸纏わぬ姿でマナは聖堂の中心へ立つ。光の集う、祭壇の本へと手が伸びる。気付いた光蟲が悲痛な叫び声を上げた。
「何故そこに居る!」
「よせ!」
「それに触るな」
「ダメだ、ダメだ!」
マナが本を手にした途端、空気が凍り付いた。今まで教会を覆っていたぬくもりのようなものが失われていく。それは失って初めて自覚する事の出来る微弱なものであった。しかしそれは生命に必要な最低限のもの、言わば生命維持装置のようなものであった。
教会を守っていた加護が掻き消されたのだ。
マナは目の前が急に暗くなった。錯覚では無い、聖堂を空から照らしていた光が消えたのだ。
いまや、黒い霧が空を完全に塞いでいた。教会はその外の町と同じ暗闇に閉ざされた。暗闇の中で、光蟲の放つ光だけが頼りなく蠢いている。
「あぁ!なんて事を!」
「殺せ!こいつを殺せ!」
「産み袋などもはや良い。聖典を取り返すのだ!」
光蟲は激昂する。光を激しく点滅させ、荒々しく羽がばたつく。無数の憎しみが群れとなって渦巻いていた。彼らは一斉に飛び立ち、マナへ向かって突っ込んでくる。そこには打算も計画も無い、ただの怒りにまかせた突撃だった。身をぶつけ、その肉を打つのだ。
対して、マナは極めて淡々とした調子だった。教会に起きた異変に表情一つ変えず、本を手にしたまま自分に迫ってくる光蟲の大群と対峙する。
「さようなら」
キィィィィィィン!
大トカゲが内部から破裂した。その規模は小さいトカゲの比では無い。千切れ飛んだ肉片は勢い良く飛び散り、天井近くまで舞い上がる。
内臓が、触手が、手足が、ありとあらゆる部位の肉片が聖堂にばらまかれた。
キィィィィン!
キィィィィン!
キィィィィン!
今度は、飛び散った肉片が一斉に爆ぜた。それぞれが大きな衝撃波を生み出し、聖堂を、いや、教会そのものを破壊していく。それだけではない。爆破に巻き込まれ、死骸となった光蟲も同く爆ぜた。爆破は連鎖する。
爆破につぐ爆破。建物を支えていた支柱が破壊されていく。
教会が崩れ始める。光蟲達は何が起きているか理解することもなく爆破に巻き込まれて次々に死んでいった。肉片の爆発に巻き込まれ、瓦礫に押しつぶされ、運が良い者は壊れた屋根から外へ逃れ、そうで無い者は皆死んだ。
死にゆく光蟲達は口汚くマナを罵り、せめてもの報いとしてその名を呪った。
爆発と崩壊、死の連鎖が終わり、辺りに静寂が戻った時、そこにはもうマナ以外の誰も居なかった。
半壊。教会は聖堂を中心に崩れ去り、その大部分は沼に沈んだ。
瓦礫の中からコートを引っ張り出して羽織ると、周囲の状況を改めて確認したマナはため息をついた。
「ここはもうダメね」
マナは光の閉ざした教会を後にした。
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