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黙諾の花嫁
六話 百足は回る
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「はーっ、はーっ」
気がつけばラウラは走っていた。
初めての町、知らない道を息を切らして走る。この日二度目の疾走だった。
日本人離れした容姿は目を惹く。両目を涙で腫らす姿は町の住民からの奇怪な眼差しを集めた。
その視線が厭だった。視線を振り切るようにラウラは走る。
町の地図なんてものは無い。しかしラウラは町を半日ほど連れまわされた。道そのものは覚えられかったが大まかな方向だけは分かっていた。
だから自然とその場所に戻って来ることが出来た。
肩を大きく上下させて呼吸するラウラの前には橙と白のストライプ。
喫茶店「初春」だ。
町に来て最初に来た場所だ。このまま真っ直ぐ進めば町の出口。橋を超えて山道を戻れば車がある。
山道。あそこでラウラを襲ったのはあの蠅だったのだろうか。
もう山道が怖いなんて言ってられなかった。出来るだけ早くこの町を出なければいけない。
この町には怪物がいる。現実にはありえないような惨事がここでは起きる。このままでは引き換えなくなる。そんな確信があった。
だからここで立ち止まるべきではなかった。
ラウラは喫茶店「初春」の前で立ち止まり、ドアノブを掴んでいた。
そこへぶら下がっている「Clause」の掛け看板。
だが中に乃杏がいる事をラウラは知っている。
締め切られたカーテンには気をつかぬままラウラは扉を押した。
鍵はかけられておらず、扉はあっさりと開いた。
「乃杏!」
むわっとした生暖かい空気がラウラを包み込んだ。
もう外は肌寒く感じる秋だというのに、まるで梅雨のような湿気だった。
勢いよく足を踏み入れたラウラだったが、カクンと不自然な動きで急停止した。
ドアは開いたまま片手でドアノブを握っている。
「乃杏?」
エアコンが甲高い音を立てて熱い空気を吐き出していた。
無機質なその音は耳鳴りのようにも感じられた。
「……ねぇ」
締め切られた窓とブラインドが室内の熱気を閉じ込めている。
ついさっき、ここに来た筈なのに喫茶店「初春」の印象はがらりと変わっていた。
暗い。カーテンは締め切られている。閉じこまった空気は澱んでいて不気味な洞窟のようだった。
椅子は部屋の片隅に押し込まれ、広くスペースが空いている。
床のフローティングには新聞紙がびっしりと敷かれていた。重なり合った記事はつぎはぎのモザイク模様のようにも見えて、薄暗い店内をより不気味な空間へと変貌させていた。
「何……してるんですか?」
何よりラウラの目を釘付けにしたのは、服を脱いだ織部乃杏とそれに巻きつく巨大な百足の姿だった。
輪のような節が連なった長い胴体に鋭く尖った脚が生え並び、それぞれが波のように蠢く。
ベルトのようにも見えるその体で乃杏を縛り上げ、肌の上を滑る。
乃杏は裸だった。
店の制服を着ているときには隠れていた乃杏の生肌。彼女の秘密。
布地の下に隠されていたのは夥しい量の傷跡だった。
足の先からお腹に腕や首元、恥部に至るまで全身に傷が無い箇所が見当たらぬ程に隅々まで。
すべすべの肌に浮かぶ何本もの縫いあと。太腿には帯状の痣が、刺し傷が斑点のような模様を残す。ふっくらと膨らんだ乳房にも咬み傷が絶えない。
それは引っ掻き、突き刺し、擦り、噛み、抉り広げられた加虐のアルバムだった。
全部あの虫がやったのだ。
なぜなら、それはまさに今行われていた。
アイスピックのような百足の脚が乃杏の腕を刺し赤い血を流していた。
「んっ……あぁん」
血と共に乃杏の喘ぎが漏れる。
「もっとっ……お願い」
よろめたラウラは新聞紙を踏み、かさついた足音を立てた。
「あらぁ」
ぐるぐると周りを囲む百足。その隙間から乃杏が瞳を覗かせた。うっとりと細められた目が開かれ妖しげな光をチラつかせる。
「もう帰って来ちゃったの?」
乃杏は妖艶な笑みを浮かべた。
それは捕食者が獲物を前に見せる、魅入るような表情だった。
巨大な百足に襲われているようにしか見えない乃杏だがそうではない。乃杏は百足を受け入れていた。
服は折り畳まれテーブルの上に置かれていた。
百足を嫌悪する素振りは一切なくそれどころか頬はほんのり赤くなって高揚しているように見える。
身体が傷付けられる度、乃杏は敏感に震え血液と共に愛蜜を垂らす。
百足はその全長を一目で把握できないほど長い。
乃杏の身体に絡まるだけでは収まらず、彼女を中心にフラフープのように囲っている。
それは絶えず動き回り乃杏の皮膚を引っ掻き、乳房を締め上げ上げ、恥部に触れる。
ラウラは見てしまった。巨大な百足の関節と関節の隙間から肉の塊が剥がれ落ちる。
無機質な骨格を持つ虫の中でそこだけが肉肉しい。出来損ないの串団子みたいな形をしている。
百足の男性器だった。
人間のものと大きくかけ離れたそれを乃杏を口を近づけた。
「んっ……」
舌を伸ばして迎え入れると口を窄めて扱きあげる。
百足のペニスは一本だけではなく何本もあった。
パキン、パキンと蟹の手を折るような音を立てて次々とペニスが出てくる。
身体に巻きついた百足のいたることから突き出したペニス乃杏は全身を使って奉仕する。
そして、足元に巻きついていた百足からペニスがむくりと起き上がった。
乃杏はそれに気づくと自分から腰を落として飲み込んだ。
艶かしい息遣い。
グロテスクなペニスの先端が濡れて水浸しになった乃杏の膣口に触れる。
その瞬間、乃杏はラウラに目線を送った。
「んっ………あああんっ」
虫と人間の交尾。それは正しく異常な光景だった。
「見るのは初めて?」
狼狽えるラウラに甘い声で吐息を漏らしながら乃杏は語りかける。
「虫神様よ。私達の神様……ああっ。この方はね八百万道って言うの」
乃杏が何を言っているのか理解でかなかった。
そもそもラウラに話を聞く余裕は無かった。
乃杏が腕を伸ばした。
店の奥にいる乃杏に対してラウラは入り口。その腕が決して届く事はないが、ラウラを掴もうとする意思を感じた。
それに捕まったらもうおしまいだ。
ラウラは後退りしようとするが身体がうまく動かなかった。
百足は乃杏の周囲をぐるぐると囲むように回っている。規則正しい円を描いていたその軌跡が大きく歪んだ。
「いぎっ?! ぎぃぃぃ!!」
伸ばされた腕に百足が巻き付き、勢いよく締め上げた。まるで人間じゃ無いみたいな声。
ごきん……。
そして、鈍い音。
強引に折り畳まれた腕は関節が無いところで曲がっていた。
折れた。
身体からはみ出た腕は陸に挙げられた魚のように跳ねている。乃杏の身体はまるで玩具のように扱われた。
「おおおおおおおっ?!」
ガクンと大きく海老反りになって乃杏が叫ぶ。股の結合部からは勢いよく潮を吹いて絶頂する。
「ああっ……ああんっ! 凄くいいよぉ…」
乃杏は喘いでいた。折られた腕をうっとりと眺めている。
「ひぃっ」
ラウラは尻餅をついてその場にへたり込んだ。目の前で起きている異様さに圧倒されていた。
「んっハァっ! あああああっ!」
乃杏の身体が発作のようにガクガクと痙攣した。
ベルトコンベアのように蠢く百足の身体。
通り過ぎる際に足が乃杏のお腹、へその下、胸、二の腕を傷つけていく。
流れる鮮血が汗に混じる。それを潤滑剤に百足は走る。
膣に差し込まれていた百足のペニスはいつの間にか抜かれていた。
どろりとした白い液体が乃杏の膣口から垂れ落ちていた。
股の間にも百足の身体は通り乃杏の性感帯を刺激し続けている。
「ちょっ………まっ! あぁああああああっ!」
回転。拷問機械のごとく百足は乃杏を責め立てた。膣口の敏感な外ビラを絶え間なく擦られ乃杏は連続で絶頂する。
「ゔぅ……ゔぇっ……あぅあぁぁ………」
ラウラは腰が抜けて動けなかった。目の前の光景は明らかに異常だ。今すぐ逃げろと本能が悲鳴を上げている。
ラウラは手を動かした。体を引きずり少しでも離れようと必死になってもがいた。
「何処へいくの?」
涎を垂らして乃杏が笑う。腕は折れたままあらぬ方向を向いている。
快楽に身を委ねてよがり狂おうともその目はラウラを捉えて離さなかった。
「あー、ここにいた」
がしっと肩を掴まれた。後ろから伸びてきた両腕がラウラの肩に乗せられている。柔らかい女の腕だ。
捕まった。
その時ラウラはそう思った。
「いやぁ! 離して!」
「あわわ。ラウラさん私ですよ」
思えばその声には聞き覚えがあった。首を捻ってその正体を見た。
「湖桃っ?!」
声の正体は路地裏で突然姿を消した織部湖桃だった。
見捨てて逃げたその姿。いや、本当は………。
しっとりとした汗に混じってひどく据えた臭いが鼻につく。
「お姉ちゃんは……あー。話せる状態じゃなさそう。外で話しましょうか」
自分の姉を見て湖桃がそう呟いた。驚きの声はなかった。もなくむしろ呆れているようにも感じる。
「またかぁ」と、何度もあった事のように。至って平然とした態度だった。
「しょうがないなぁ」
ラウラを引っ張って店の外へと連れ出すと湖桃はゆっくりと扉を閉めた。
外に出たラウラは足の力が抜けてしまいその場にへたり込んだ。
湖桃は困ったようにラウラを見た。
「えっと、大丈夫ですか?」
「……無理に決まってます! なんだんですかアレは?!」
自分でも強気な言葉が出て来た事に驚いた。
湖桃と無事に再会できたというのにラウラはちっとも嬉しさが込み上げてこなかった。
湖桃の身を案ずるより先に未知への恐怖がラウラを支配していた。
閉ざされた扉の向こうにはまだ巨大な百足が居る。
それだけでは無い。百足に犯されよがる乃杏もそうだが、湖桃もその正体を知っている様子だった。
ならばきっとあの巨大な蠅の事も知っているのだろう。路地で聞いたあの嬌声がラウラの脳内で再生される。
あの場に居たのはラウラと湖桃だけ。
それにあの声は……。
「こんなの……ありえないよ」
瑚桃も乃杏も虫の事は一言も言わなかった。
裏切られた。
ラウラの中で彼女達への信頼が音を立てて崩れていった。親切にしてくれた湖桃や乃杏の記憶が欺瞞に満ちたものに感じる。
それら全てが自分を安心させる為の罠のように思えた。
町の奥深くに足を踏み込ませ虫の餌食にさせようとしたのではないのか。
宿を紹介したのも寝込みを襲わせるつもりだったのではないだろうか。
自分達と同じようにラウラにも虫と交尾させるつもりに違いない。祖父の警告はこの事だったんだ。
ラウラの心中では猜疑心が渦巻き雷鳴を発していた。
「アレは何?!」
ラウラは怒鳴った。その答えにラウラ自身気づいていた。しかし聞かずにはいられなかった。
「………虫神です」
湖桃は一歩下がって言った。まっすぐ睨みつけるラウラの眼力に負けたのだ。
先祖譲りのライトグレーの瞳は純粋な日本人には出せない力強さを持っていた。
「神? あれが本当に神様だっていうのですか?!」
「えっとあの人達はこの町の神様で……お姉ちゃんがやってたのは蟲継って言ってこの町では……」
「そんな事は聞いてないです」
ちっとも頭に入ってこない説明をラウラは中断させた。
「一体アレは何で、人を……あんなものを見せて、私をどうする気ですか!」
「えぇっと、だから神様で……私たちは」
太陽はもう陰り始めていた。夕陽に照らされたラウラの表情は焦燥に歪んでいる。
夜になれば山道を越えられない。今ここで逃げ出しても山には蠅がいる。
「私をここから出してください」
「えっ?」
「出来ないんですか? それはあなた達に都合が悪いから?」
「落ち着いてください。今話しますから」
湖桃は泣きそうな顔になってた。
「落ち着ける訳……無い!」
ラウラは肩を震わせて呟いた。その目は怒りに燃えていた。握りしめらた拳は今にも振り上げられそうだった。
危険な緊張感が二人の間を駆ける。
巨大な虫はすぐ隣。扉一枚隔てた先にいる。とてもじゃないが冷静ではいられなかった。
「そのぐらいで勘弁してあげてよ?」
パンパンと手を鳴らす音。いつの間にか黒髪の女子高生が私達のすぐ後ろに立っていた。
一瞬呆気にとられたラウラだが直ぐに思い出す。最初に湖桃と一緒にいた子だ。
湖桃が「月花ちゃん」と呼んでいた少女。
この子も?
ラウラの疑惑は睨みつける眼差しとなった。
槍のように突き刺さる視線を黒髪の少女は涼しげに流した。
「大人がないなぁお姉さん。初見でそんだけ舌回る人初めてみたかも、普通泣いたりするのに。まぁ泣いてはいるね」
「なっ?!」
その言い分にラウラは面食らう。手慣れた言い草だ。ラウラの怒りの眼差しを少女は軽く受け流した。
「お待たせ。後は私に任せてくれていいよ」
湖桃を押しのけるようにして黒髪の少女が前に出る。
少女はラウラへ手を差し伸べた。
ラウラはその手を取らず自分の足で立ち上がった。
少女が不敵な笑みを浮かべた。
「はじめましてからやろうか」
黒髪を靡かせ丁寧にお辞儀をすると、少女は蛍原月花と名乗った。
気がつけばラウラは走っていた。
初めての町、知らない道を息を切らして走る。この日二度目の疾走だった。
日本人離れした容姿は目を惹く。両目を涙で腫らす姿は町の住民からの奇怪な眼差しを集めた。
その視線が厭だった。視線を振り切るようにラウラは走る。
町の地図なんてものは無い。しかしラウラは町を半日ほど連れまわされた。道そのものは覚えられかったが大まかな方向だけは分かっていた。
だから自然とその場所に戻って来ることが出来た。
肩を大きく上下させて呼吸するラウラの前には橙と白のストライプ。
喫茶店「初春」だ。
町に来て最初に来た場所だ。このまま真っ直ぐ進めば町の出口。橋を超えて山道を戻れば車がある。
山道。あそこでラウラを襲ったのはあの蠅だったのだろうか。
もう山道が怖いなんて言ってられなかった。出来るだけ早くこの町を出なければいけない。
この町には怪物がいる。現実にはありえないような惨事がここでは起きる。このままでは引き換えなくなる。そんな確信があった。
だからここで立ち止まるべきではなかった。
ラウラは喫茶店「初春」の前で立ち止まり、ドアノブを掴んでいた。
そこへぶら下がっている「Clause」の掛け看板。
だが中に乃杏がいる事をラウラは知っている。
締め切られたカーテンには気をつかぬままラウラは扉を押した。
鍵はかけられておらず、扉はあっさりと開いた。
「乃杏!」
むわっとした生暖かい空気がラウラを包み込んだ。
もう外は肌寒く感じる秋だというのに、まるで梅雨のような湿気だった。
勢いよく足を踏み入れたラウラだったが、カクンと不自然な動きで急停止した。
ドアは開いたまま片手でドアノブを握っている。
「乃杏?」
エアコンが甲高い音を立てて熱い空気を吐き出していた。
無機質なその音は耳鳴りのようにも感じられた。
「……ねぇ」
締め切られた窓とブラインドが室内の熱気を閉じ込めている。
ついさっき、ここに来た筈なのに喫茶店「初春」の印象はがらりと変わっていた。
暗い。カーテンは締め切られている。閉じこまった空気は澱んでいて不気味な洞窟のようだった。
椅子は部屋の片隅に押し込まれ、広くスペースが空いている。
床のフローティングには新聞紙がびっしりと敷かれていた。重なり合った記事はつぎはぎのモザイク模様のようにも見えて、薄暗い店内をより不気味な空間へと変貌させていた。
「何……してるんですか?」
何よりラウラの目を釘付けにしたのは、服を脱いだ織部乃杏とそれに巻きつく巨大な百足の姿だった。
輪のような節が連なった長い胴体に鋭く尖った脚が生え並び、それぞれが波のように蠢く。
ベルトのようにも見えるその体で乃杏を縛り上げ、肌の上を滑る。
乃杏は裸だった。
店の制服を着ているときには隠れていた乃杏の生肌。彼女の秘密。
布地の下に隠されていたのは夥しい量の傷跡だった。
足の先からお腹に腕や首元、恥部に至るまで全身に傷が無い箇所が見当たらぬ程に隅々まで。
すべすべの肌に浮かぶ何本もの縫いあと。太腿には帯状の痣が、刺し傷が斑点のような模様を残す。ふっくらと膨らんだ乳房にも咬み傷が絶えない。
それは引っ掻き、突き刺し、擦り、噛み、抉り広げられた加虐のアルバムだった。
全部あの虫がやったのだ。
なぜなら、それはまさに今行われていた。
アイスピックのような百足の脚が乃杏の腕を刺し赤い血を流していた。
「んっ……あぁん」
血と共に乃杏の喘ぎが漏れる。
「もっとっ……お願い」
よろめたラウラは新聞紙を踏み、かさついた足音を立てた。
「あらぁ」
ぐるぐると周りを囲む百足。その隙間から乃杏が瞳を覗かせた。うっとりと細められた目が開かれ妖しげな光をチラつかせる。
「もう帰って来ちゃったの?」
乃杏は妖艶な笑みを浮かべた。
それは捕食者が獲物を前に見せる、魅入るような表情だった。
巨大な百足に襲われているようにしか見えない乃杏だがそうではない。乃杏は百足を受け入れていた。
服は折り畳まれテーブルの上に置かれていた。
百足を嫌悪する素振りは一切なくそれどころか頬はほんのり赤くなって高揚しているように見える。
身体が傷付けられる度、乃杏は敏感に震え血液と共に愛蜜を垂らす。
百足はその全長を一目で把握できないほど長い。
乃杏の身体に絡まるだけでは収まらず、彼女を中心にフラフープのように囲っている。
それは絶えず動き回り乃杏の皮膚を引っ掻き、乳房を締め上げ上げ、恥部に触れる。
ラウラは見てしまった。巨大な百足の関節と関節の隙間から肉の塊が剥がれ落ちる。
無機質な骨格を持つ虫の中でそこだけが肉肉しい。出来損ないの串団子みたいな形をしている。
百足の男性器だった。
人間のものと大きくかけ離れたそれを乃杏を口を近づけた。
「んっ……」
舌を伸ばして迎え入れると口を窄めて扱きあげる。
百足のペニスは一本だけではなく何本もあった。
パキン、パキンと蟹の手を折るような音を立てて次々とペニスが出てくる。
身体に巻きついた百足のいたることから突き出したペニス乃杏は全身を使って奉仕する。
そして、足元に巻きついていた百足からペニスがむくりと起き上がった。
乃杏はそれに気づくと自分から腰を落として飲み込んだ。
艶かしい息遣い。
グロテスクなペニスの先端が濡れて水浸しになった乃杏の膣口に触れる。
その瞬間、乃杏はラウラに目線を送った。
「んっ………あああんっ」
虫と人間の交尾。それは正しく異常な光景だった。
「見るのは初めて?」
狼狽えるラウラに甘い声で吐息を漏らしながら乃杏は語りかける。
「虫神様よ。私達の神様……ああっ。この方はね八百万道って言うの」
乃杏が何を言っているのか理解でかなかった。
そもそもラウラに話を聞く余裕は無かった。
乃杏が腕を伸ばした。
店の奥にいる乃杏に対してラウラは入り口。その腕が決して届く事はないが、ラウラを掴もうとする意思を感じた。
それに捕まったらもうおしまいだ。
ラウラは後退りしようとするが身体がうまく動かなかった。
百足は乃杏の周囲をぐるぐると囲むように回っている。規則正しい円を描いていたその軌跡が大きく歪んだ。
「いぎっ?! ぎぃぃぃ!!」
伸ばされた腕に百足が巻き付き、勢いよく締め上げた。まるで人間じゃ無いみたいな声。
ごきん……。
そして、鈍い音。
強引に折り畳まれた腕は関節が無いところで曲がっていた。
折れた。
身体からはみ出た腕は陸に挙げられた魚のように跳ねている。乃杏の身体はまるで玩具のように扱われた。
「おおおおおおおっ?!」
ガクンと大きく海老反りになって乃杏が叫ぶ。股の結合部からは勢いよく潮を吹いて絶頂する。
「ああっ……ああんっ! 凄くいいよぉ…」
乃杏は喘いでいた。折られた腕をうっとりと眺めている。
「ひぃっ」
ラウラは尻餅をついてその場にへたり込んだ。目の前で起きている異様さに圧倒されていた。
「んっハァっ! あああああっ!」
乃杏の身体が発作のようにガクガクと痙攣した。
ベルトコンベアのように蠢く百足の身体。
通り過ぎる際に足が乃杏のお腹、へその下、胸、二の腕を傷つけていく。
流れる鮮血が汗に混じる。それを潤滑剤に百足は走る。
膣に差し込まれていた百足のペニスはいつの間にか抜かれていた。
どろりとした白い液体が乃杏の膣口から垂れ落ちていた。
股の間にも百足の身体は通り乃杏の性感帯を刺激し続けている。
「ちょっ………まっ! あぁああああああっ!」
回転。拷問機械のごとく百足は乃杏を責め立てた。膣口の敏感な外ビラを絶え間なく擦られ乃杏は連続で絶頂する。
「ゔぅ……ゔぇっ……あぅあぁぁ………」
ラウラは腰が抜けて動けなかった。目の前の光景は明らかに異常だ。今すぐ逃げろと本能が悲鳴を上げている。
ラウラは手を動かした。体を引きずり少しでも離れようと必死になってもがいた。
「何処へいくの?」
涎を垂らして乃杏が笑う。腕は折れたままあらぬ方向を向いている。
快楽に身を委ねてよがり狂おうともその目はラウラを捉えて離さなかった。
「あー、ここにいた」
がしっと肩を掴まれた。後ろから伸びてきた両腕がラウラの肩に乗せられている。柔らかい女の腕だ。
捕まった。
その時ラウラはそう思った。
「いやぁ! 離して!」
「あわわ。ラウラさん私ですよ」
思えばその声には聞き覚えがあった。首を捻ってその正体を見た。
「湖桃っ?!」
声の正体は路地裏で突然姿を消した織部湖桃だった。
見捨てて逃げたその姿。いや、本当は………。
しっとりとした汗に混じってひどく据えた臭いが鼻につく。
「お姉ちゃんは……あー。話せる状態じゃなさそう。外で話しましょうか」
自分の姉を見て湖桃がそう呟いた。驚きの声はなかった。もなくむしろ呆れているようにも感じる。
「またかぁ」と、何度もあった事のように。至って平然とした態度だった。
「しょうがないなぁ」
ラウラを引っ張って店の外へと連れ出すと湖桃はゆっくりと扉を閉めた。
外に出たラウラは足の力が抜けてしまいその場にへたり込んだ。
湖桃は困ったようにラウラを見た。
「えっと、大丈夫ですか?」
「……無理に決まってます! なんだんですかアレは?!」
自分でも強気な言葉が出て来た事に驚いた。
湖桃と無事に再会できたというのにラウラはちっとも嬉しさが込み上げてこなかった。
湖桃の身を案ずるより先に未知への恐怖がラウラを支配していた。
閉ざされた扉の向こうにはまだ巨大な百足が居る。
それだけでは無い。百足に犯されよがる乃杏もそうだが、湖桃もその正体を知っている様子だった。
ならばきっとあの巨大な蠅の事も知っているのだろう。路地で聞いたあの嬌声がラウラの脳内で再生される。
あの場に居たのはラウラと湖桃だけ。
それにあの声は……。
「こんなの……ありえないよ」
瑚桃も乃杏も虫の事は一言も言わなかった。
裏切られた。
ラウラの中で彼女達への信頼が音を立てて崩れていった。親切にしてくれた湖桃や乃杏の記憶が欺瞞に満ちたものに感じる。
それら全てが自分を安心させる為の罠のように思えた。
町の奥深くに足を踏み込ませ虫の餌食にさせようとしたのではないのか。
宿を紹介したのも寝込みを襲わせるつもりだったのではないだろうか。
自分達と同じようにラウラにも虫と交尾させるつもりに違いない。祖父の警告はこの事だったんだ。
ラウラの心中では猜疑心が渦巻き雷鳴を発していた。
「アレは何?!」
ラウラは怒鳴った。その答えにラウラ自身気づいていた。しかし聞かずにはいられなかった。
「………虫神です」
湖桃は一歩下がって言った。まっすぐ睨みつけるラウラの眼力に負けたのだ。
先祖譲りのライトグレーの瞳は純粋な日本人には出せない力強さを持っていた。
「神? あれが本当に神様だっていうのですか?!」
「えっとあの人達はこの町の神様で……お姉ちゃんがやってたのは蟲継って言ってこの町では……」
「そんな事は聞いてないです」
ちっとも頭に入ってこない説明をラウラは中断させた。
「一体アレは何で、人を……あんなものを見せて、私をどうする気ですか!」
「えぇっと、だから神様で……私たちは」
太陽はもう陰り始めていた。夕陽に照らされたラウラの表情は焦燥に歪んでいる。
夜になれば山道を越えられない。今ここで逃げ出しても山には蠅がいる。
「私をここから出してください」
「えっ?」
「出来ないんですか? それはあなた達に都合が悪いから?」
「落ち着いてください。今話しますから」
湖桃は泣きそうな顔になってた。
「落ち着ける訳……無い!」
ラウラは肩を震わせて呟いた。その目は怒りに燃えていた。握りしめらた拳は今にも振り上げられそうだった。
危険な緊張感が二人の間を駆ける。
巨大な虫はすぐ隣。扉一枚隔てた先にいる。とてもじゃないが冷静ではいられなかった。
「そのぐらいで勘弁してあげてよ?」
パンパンと手を鳴らす音。いつの間にか黒髪の女子高生が私達のすぐ後ろに立っていた。
一瞬呆気にとられたラウラだが直ぐに思い出す。最初に湖桃と一緒にいた子だ。
湖桃が「月花ちゃん」と呼んでいた少女。
この子も?
ラウラの疑惑は睨みつける眼差しとなった。
槍のように突き刺さる視線を黒髪の少女は涼しげに流した。
「大人がないなぁお姉さん。初見でそんだけ舌回る人初めてみたかも、普通泣いたりするのに。まぁ泣いてはいるね」
「なっ?!」
その言い分にラウラは面食らう。手慣れた言い草だ。ラウラの怒りの眼差しを少女は軽く受け流した。
「お待たせ。後は私に任せてくれていいよ」
湖桃を押しのけるようにして黒髪の少女が前に出る。
少女はラウラへ手を差し伸べた。
ラウラはその手を取らず自分の足で立ち上がった。
少女が不敵な笑みを浮かべた。
「はじめましてからやろうか」
黒髪を靡かせ丁寧にお辞儀をすると、少女は蛍原月花と名乗った。
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