異常姦見聞録

黄金稚魚

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排水溝の男

排水溝の男

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 早朝、いつもの通学路を尚美は歩いていた。閑静な住宅街だ。

 視線を感じてふと足を止めた。

 まただ。

 一ヶ月ほど前から尚美は、正体不明の視線に悩まされていた。染み付いて取れなくなるような粘り気のある視線。
 悪意と性欲に塗れたそれの正体を尚美は知っていた。

 三年ほど前の事だ。
 尚美が中学生だった頃、ストーカー被害にあていた。犯人は中年の男。伸びた餅のような脂肪まみれのその顔をまだ覚えている。

 ストーカー男は自分を尚美の恋人であると思い込み、尚美は記憶を失っていると言っていた。自分の妄想を本当の事だと思い込んでいるのだ。
 その執念は病的で何度両親や警察が追い払っても諦めることは無かった。

 ストーカーの被害はエスカレートを続け、最後には部屋に押入られた。

 ストーカー男は突然窓を割って入って来た。
 発作と思えるほど息を激しく荒げ、血走った目で尚美を見つめるとじりじりと迫ってきたのだ。
 ストーカー男の狙いは肉体的だった。身体を触り、唇を重ね、愛を確かめる。
 それこそが尚美の記憶を取り戻す行為であるとストーカー男は信じていたのだ。

 異変に気づいた家族が駆けつけた為、事なきを得たが、あのまま誰も来てくれなかったと思うとゾッとする。

 それ以降は、出来るだけその事を思い出さないよう努めてきたがそれは不可能だった。

 排水溝の蓋が開いていた。蓋が開けられ、斜めにずれている。その隙間だ。
 その隙間から覗いていた。

 目だ。

 排水溝の暗闇に人間の目が、それだけが外の明かりを受けてギラリと光る。その目は尚美を見ていた。
 あのストーカー男と同じぬめりとした這うナメクジのような視線が尚美を絡めとった。

 「………」

 それと目が合う。合ってしまった。小さく悲鳴を上げ、尚美は後ずさる。
 道は狭く直ぐに近所の塀へ直美の背が当たった。

 逃げなければ。そう思った時には既に遅かった。

 男の手が伸びた。這い出してきたのはそう表現できてしまうほどに異様に長い手。それは迷いなく尚美の足を掴むと力強く引っ張った。

 恐怖で固まっていた尚美は呆気なくバランスを崩し、転んでしまった。

「嫌……!」

 地面を掴もうと手を伸ばすも引っかからず、虚しく虚空を掴む。
 
 もう一本の腕が直美の脚をなぞりながら登っていく。水に濡れた手がベタつく粘液を擦り付けながら進む。
 腕がスカートの中へ入り込んだ。太い芋虫のような手が下着を掴んだ。

「やっ」

 尚美が着けていた下着は腕が含む水分を吸い、べっとりとした不快な感触が下半身を包み込んだ。

 腕はぐいぐいと下着を引っ張り脱がそうとしてくる。尚美は足に力を入れて抵抗するも片足を抑えられている為か踏ん張らず下着を取られてしまった。

 その時、尚美の片足を掴んでいた手がパッと離された。

 腕は引き剥がした下着をその体が潜む排水溝の前まで引き寄せると、両端を摘んで広げた。排水溝の底から視線が覗く。

 そいつは手に入れた下着をまじまじと鑑賞している。
 ピンクのリボンが付いたレースのパンツだ。それはべっとりと濡れて本来の色より濃く見えた。

 長い腕の持ち主はうっとりと魅力されたかのように尚美のパンツに魅入っている。
 その隙は尚美が立ち直るには十分な時間だった。

「誰か!誰か助けて!」

 尚美は逃げながら叫び助けを呼ぼうとした。民家に逃げ込もうと考えた直美だが周りの家は頑丈な門に覆われている。乗り越えるのは難しい。

 まだ朝早いとは言え、外はもう明るい。朝練へ向かう学生、出社するサラリーマン。誰でもよかった。とにかく誰か、人に会いたい。

 だが、尚美の声は誰にも届かなった。その口が塞がれる。
 足元から伸びた二本の腕が尚美の顔を抑えたのだ。

「んー!んんんー!」

 恐ろしい力で尚美は引き摺られ、用水路に連れ込まれた。





 肌に突き刺さる寒さに尚美は目を覚ました。気づけば尚美は裸であった。身体が水で濡れている。

「ここは?」

 周囲を見渡すも真っ暗で何も見えない。流れる水音と辺りを包む異臭。
 ここが下水道の中である事を尚美は理解した。

 目が少し慣れる。尚美は暗闇に動くその存在を目にした。
 
 そいつは一目で異形と分かる悍ましい姿をしていた。

 まず目を引くのは異常に長く発達した腕だ。手に五本の指を持っている所は人間と同じだがその腕は平べったく帯のような形をしていた。数メートルを超える長い腕は肩の所で巻尺のように渦を巻いて収まっている。

 胴体や足も同じように長く平べったい。まるで人がその形のまま引き延ばされたような印象を受ける。
 全体的に正気のない色白であるが、男の顔、そこだけが生々しくギラギラとした生気に溢れていた。

 妖怪。

 まだぼぅっとしていた尚美の頭は目の前の存在にその言葉を思い浮かべた。

「夢なの?」

 そうでは無い事は身体の冷たさと鼻が曲がりそうな異臭が証明した。
 意識が覚醒すると尚美は一もニもなく叫んだ。下水道の中でその声が喧しく響いた。

 悲鳴を合図に妖怪は動き始めた。

 長い腕が伸びて尚美の腰を掴んだ。妖怪の腕は表面がスポンジのようになっていて、水分が漏れ出している。妖怪の腕が持ち上がり、尚美の身体が呆気なく宙に浮いた。

「嫌っ止めて!離して!」

 バタバタと足を暴れさせるが、妖怪の両手はびくともしない。抵抗する尚美に気を悪くしたのか妖怪が手に力を込める。
 万力のようにじわじわと力が増して尚美の腰をメキメキと締め上げていく。その痛み、覆しようの無い力の差が尚美の心を折った。

「ごめんなさいッごめんなさい!」

 尚美は泣いていた。もはや抵抗できず泣きじゃぐるしかなかった。
 大人しくなって尚美に妖怪は顔を近づけた。頭髪の禿げが目立つ中年の顔だ。顔からは汚水の臭いがした。

「ずっと見てたよ」

 顔が喋る。黄ばんだ歯を覗かせ満面の笑みを見せる。

「毎日見てたよ。かわいい尚美ちゃん。好きだよ、好き」

 妖怪の顔がぐいっと近づく。思わず目を瞑る尚美。
 唇にしわがれた渋柿のような苦味が押し寄せる。妖怪の舌が乱暴に入り込む。それは生き物のようにうねり、尚美の舌を探し当てると逃さぬように巻きつき舌と舌が絡み合う。

 妖怪の舌は長く絡みついたままちゅーちゅーと尚美の唾液を吸う。

 妖怪の顔は目を三日月状に歪ませ、うっとりと恍惚の表情を浮かべている。
 押し寄せる生理的嫌悪に尚美は失神し間際の様相だ。
 
 いつの間にか尚美を拘束していた腕は一つとなっていた。もう一本の腕が尚美の胸に当てがわれた。雑巾を絞るような荒い手つきで尚美の胸が揉みしごかれる。

「んんんんん」

 けして小さくはなく形の整った尚美の乳房が妖怪の手によってひっぱられ拗られる。どろどろと妖怪の手から染み出した水が垂れ落ちた。
 引きちぎれんばかりの痛みが尚美を襲い声にならない悲鳴をあげる。激しい痛みは意識を失いかけていた尚美を悪夢の如き現実へ引き戻した。
 妖怪は尚美から気絶という逃避を奪った。

 長い接吻が終わり妖怪が口を離す。尚美の唾液を吸った長い舌が名残惜しそうに糸を引いた。

「おいちいね尚美ちゃん。きもちいね尚美ちゃん。もっときもちよくなろうね」

 妖怪の視線が下を向に向けられる。曝け出された尚美の女性器。柔らかい太腿の間に、薄い毛に覆われたピンク色の割れ目が覗く。
 妖怪の剥き出しのペニスが長く伸び、まっすぐ尚美の割れ目に向けられた。それは一見すると人間のそれによく似ていたがより自在に動かせるようで動き蛇のようにうねっていた。

「やっ嫌ぁ」

 勃起したペニス。それを見た瞬間、尚美はこれから自分に待ち受ける恐ろしい考えを連想た。わなわなと恐怖が湧き上がる。
 最後の力を振り絞り尚美は妖怪へ懇願する。

「お願いします。それだけは……ッ!」

 再び妖怪が接吻し、尚美の口が塞がれる。流れ込んでくる汚物の如き妖怪の唾液。
 同時に別の感触が尚美に訪れる。無視できぬ不快感は下半身に触れる妖怪のペニスだ。
 先走り汁を擦り付けるように太腿から大陰唇の縁をなぞっていく。

 尚美は今すぐ叫び出したい衝動に駆られたが口を塞がれた今それすらも叶わない。今の尚美に出来ることは「これは夢だ」と心の中で念じる事だけだった。

 ピタリと妖怪のペニスが膣口に密着した。

 ぶちゅり。果実を潰したような音を立て妖怪のペニスが尚美の膣内へと押し入る。
 拒絶したい尚美とは裏腹に柔らかいヒダが妖怪のペニスを包み快楽を生んだ。ぷるぷると妖怪は全身を震わせ喜びを表現する。

「ぷはっ……はぁはぁ。気持ちいね、気持ちいね」
「抜いて……下さい……」

 狭い膣をこじ開け、妖怪のペニスが尚美の一番奥、子宮口へと当たる。

「分かる?尚美ちゃんの一番深くて大事なとこボクのおちんちん当たってるよ」

 妖怪がペニスを動かした。ピリピリと痛みが走る。
 だがそれは次に押し寄せる快楽の波に押し流された。妖怪のペニスが含む水分が潤滑剤の役割を果たしていたのだ。

「嫌ぁ……ヤメて!んッ?!……動かさないで」

 妖怪は腰を一切動かしていない。ぴったりと腰と腰を密着させたまま、ペニスだけを動かしていた。
 妖怪のペニスはグニャグニャと波打つように動く。横へ横へ膣を広げれるような未知の感覚が尚美を襲う。

「気持ちいい?ねぇ気持ちいいでしょ?」
「違ッ……んッ……イヤッ」

 妖怪の言う通り、直美は感じていた。人間ですら無い化物に犯され、感じているという事実が尚美の自尊心を蝕んでいく。だが、認めてたくは無かった。

「嘘だ。きもちいいよね?ね?」

 妖怪が尚美の乳房を掴み乱暴に引っ張った。

「痛い痛い!やめてください!」
「気持ちいよね?ね?」
「気持ちいいです!嘘じゃないです。感じてます?」

 痛みに耐えることが出来ず尚美が正直に言う。だが妖怪の手は止まらずより強く引っ張った。

「ぁぁぁぁあああああ!」

 絶叫する尚美の耳元で妖怪が囁く。

「本当に?あいつより?あの男より?」

 尚美の脳裏に妖怪の言葉がフラッシュバックする。
 ーーーずっと見てたよ。

 気づけばペニスの動きが止まり、乳房を掴んでいた手も離れている。尚美の言葉を待っているのだ。

「はい……気持ちいです。ゆう君のより気持ちいいです」

 俯きそう言う尚美の頬を涙が伝う。絶望や痛みとは違うその涙を妖怪の長い舌が舐めとった。

「好きだよ尚美ちゃん」
「あんッ!」

 妖怪が再び動き出した。先ほどよりも激しく膣壁を叩くようにペニスが暴れる。

「あぁッ、やッ……はぅああッ」

 もう喘ぎ声を我慢する事は出来なかった。下水道に尚美の嬌声がこだまする。

「あっ……出すよ」
「へ?」

 妖怪が射精した。どろどろの妖怪の精液が尚美の子宮口に吐き出される。
 どっくんどっくんと脈打ちながら止めどなく溢れ、膣内を熱い精液が満たしていく。

 妖怪の射精は異常に長くまた、妖怪の体自体に変化を齎した。
 妖怪の全身から滝のような汗が流れる。否、それは汗では無い。妖怪のスポンジ質の身体が含んだ水分だ。それが今、射精に合わせて放出されていた。

「ふぅ~きもちぃ」
「あ……あぁ……そんな」
 
 射精は数分間に渡って続いた。
 一度射精したペニスは萎えたもやしのように成り果てた。妖怪はこの一度の射精に全ての力を使ったかのようにも見えた。

 ペニスが萎んだことで隙間が生まれ、尚美の膣から白く濁った妖怪の精液が流れ出る。

 妖怪は尚美を拘束した手を放した。解放された尚美が地面に倒れる。

 だが尚美は自由になった訳では無かった。
 尚美の両足を掴み握りしめた。メキメキメキと骨が軋む音がしたかと思えば筆舌に尽くし難い壮絶な痛みが尚美を襲った。妖怪は尚美の両足の骨をへし折ったのだ。

「これでずっと一緒だね」

 それは尚美が逃げ出さないた為の措置であった。のたうちまわる尚美を見て妖怪は満足そうに笑った。

「もう嫌ッ嫌ッ嫌!家に返してよぉ!」

 仄暗い下水道の中で、尚美の絶叫が響き渡った。その叫びが地上に届くことは無かった。


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