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「バッターアウトッ!!」

 そこからも、楓と上原の投手戦だった。
 楓のチームは打てるメンバーと打てないメンバーがはっきりしており、なかなか連打にならず、得点できなかった。対して、野球部も楓のピッチングに悪戦苦闘していたがバットに当てると、エラーや内安打で何度もチャンスを作ったが、ピンチになるとギアが上がる楓を打ち崩せなかった。

「あいつ、上手すぎだろう」

 野球部の一人がベンチから呟く。

「いや、それよりも・・・」

 上原がキャッチャーをやっている遥人を見る。

「あいつか?でも、別に目立ったところなんてないだろ」

 野球部のキャッチャーが遥人を嘲笑しながら見る。

「お前は捕れるのか?」

「もちろん、だって球なら上原の方が・・・」

「あぁ、そりゃな。だが、楓の球は粗削りでコースもでたらめ、変化球も曲がったり曲がらなかったり、サインだって見ずに投げても来ている。俺がキャッチャーなら後逸だらけになるだろう」

「ううっ」

 野球部で一番運動神経がいい上原が捕れない球。
 そう言われると、野球部のキャッチャーは絶句して何も言えなくなった。

「チェンジッ!!」

 その言葉を聞いて立ち上がる上原。

「どうした?行くぞ?」

 なかなか立ち上がらないキャッチャーに振り返って声をかける上原。

「でも、勝つのは俺たちだ」

「あぁ」

 その言葉に嬉しそうに上原はマウンドへ向かった。



「はい、先輩」

「あぁ・・・ありがとう遥人」

 遥人が楓に飲み物を渡す。

(だいぶ、疲れているなぁ・・・楓先輩)

 回は8回裏。
 運動神経がいいとはいえ、普段から投球しているわけではない楓の腕にはかなりの負担がかかっている。

(楽にさせてあげたいけれど・・・)

 上原も今年3年生でもうすぐ大会が迫っており、ほぼ完成されたピッチング。
 身体ができあがっていないし、本職でない寄せ集めのチームで点を取るのは難しく、いまだに0点。

(逆に、0対0っていうのが奇跡みたいなもんだもんな)

 野球部にも野球部の意地があった。
 中盤にバント作戦を決行しようとした野球部員がいたが、上原が注意した。

(あれをやられたら、2,3点じゃ済まなかっただろうな)

 遥人はマウンドで堂々としている上原を見る。威風堂々。肩幅も広く筋肉質でかっこいい先輩。

(あんなかっこいい先輩ですら、一目置いている楓先輩って)

 呼吸が弾んでいる楓を見て、ドキッとしてしまった遥人は目線を逸らし、雑念を払う。

 ズバアアアアアアンッ

「ストライクッバッターアウトっ!!」

「ナイスピッチ!!!」

(俺を見ろ、嵐山っ)

 野球部のエース上原はグローブを楓に向けて、男としての強さをアピールした。

 遥人は楓の顔を見た。

「・・・っ」

 遥人は楓に声をかけるのを止めた。
 というより、上原を見つめる楓の横顔に声をかけることができなかった。


 



 




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