上 下
4 / 15

4

しおりを挟む
「む?」

「アウトです。ベンチに戻ってください」

「卑怯だぞ、キサマっ」

「いやいや、集中していない方が悪い!!」

 上原がグローブで麗を指す。

「くっ」

 悔しがる麗は渋々ベンチに戻る。

「いやいや、バッターが構えてなかったらダメでしょ。マンガじゃないんだから」

 遥人が呆れた顔でベンチからフィールドを見る。

「リクエストよ!!ビデオ判定を要求するわっ」

 遥人のつぶやきを聞いて立ち上がり、ベンチから乗り出す楓。

「いやいや、ビデオとか撮ってないし」

 相手のキャッチャーが呆れる。

「まっ、審判は野球部ですからね、あっち贔屓なんでしょうね」

 遥人がだるそうにヘルメットを被り、ネクストサークルへ行く。

「きいいいいいっ」

 悔しがる楓。

(残念な人・・・だが、美人だ)

 遥人は後ろにいる楓をちらっと見ると、マネージャーに名乗りを上げた2年生の牛島優子に宥められていた。
 牛島はナイスバディ―でスポーツとは無縁の柔らかそうな肉付きでマシュマロのようだった。

「んんっ?」

 遥人がその牛島のふくよかさの象徴の揺れに目を奪われている視線。
 誰かの視線に違和感を覚えた楓に気づかれる寸前のタイミングで遥人は前を向く。

「ごるるらあああああっ」

 ブオオオオオオンッ

「おい、片手を離すなっ、こえええよ」

 上原よりもマッチョで体格のいい男、金剛猛(こんごうたける)。
 そのスイングは助っ人外国人も顔負けで、フォロースルーは野球部のキャッチャーの顔面スレスレまで来た。

「ん?ダメなのか?」

 ルール上はセーフ。
 バッターボックスから出ないで振っているのは。

 しかしながら、学生野球において、そんな風に見てくれに囚われずにスイングする人は少ない。
 キャッチャーはいい音をさせるため、ストライクを取ってもらうため前に座りたがる。
 取る位置を前めにしてバットが当たるとすればそれはキャッチャーの自業自得だ。

「だめだね」

 キャッチャーは嘘をついた。
 地区大会を目の前に怪我はしたくないし、こんな変な奴らにも負けたくないし、バッテリーの上原を負かしたくないと思ったキャッチャー。

「おっ、そうか」

 拍子抜けするくらい素直に金剛は答えた。

 ブウウウウンッ

「ストライク、バッターアウトっ!!」

「くっそおおおおっ」

「へへっ」

 キャッチャーが嬉しそうに上原へボールを返す。
 まるで、猛獣の隣にいてもへっちゃらさ、と言わんばかりのドヤ顔をしていた。

「なんで、窮屈なスイングにしちゃったの?」

 すれ違う際に遥人が金剛に尋ねる。

「んあっ?それがルールなんだろ?あぁ、全打席ホームランの計画があっ」

 悔しがりながらベンチへ帰る金剛を見て、ため息をつく遥人。

「だっさっ」

 遥人はぽつりと呟いた。
しおりを挟む

処理中です...