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「たのもーーーっ」

 楓が陽気に野球部の練習しているグラウンドへと入っていく。

 ゴオオオオオオッ

 野球部の部員たちが自分たちの神聖な場所に異端児が入ってくるのを睨みつける。
 体格のいい生徒も多くて威圧感がある。

(って、僕を睨んでいる人多くないっ!!?)

 自称美少女の楓は、残念ながらまごうことなき美少女だった。
 一瞬彼女を睨んだ野球部員も楓の魅力に照れて、表情を柔らかくし、その後ろに着いてきている1年生で新品の体操着でひ弱そうな少年である遥人を格好の餌食だと判断して睨んだ。
 まだ新品の体操着の半袖は真っ白で、名前の文字がはっきりと遠くからでも分かるようで、部員達はその忌々しい名前を心に刻んでいた。

「おい、嵐山」

 中学生にして身長が180センチを超える体格のいい部員が楓に話しかける。

「あっ、上原キャプテン。チーッス」

 楓はにやにやしながら、二本指で敬礼して、敬礼を飛ばすが如く手首でスナップを利かせる。

(なにやってんすかっ!!)

 後ろにいた遥人は心の中でツッコミを入れて、ビクビクしながら、上原の顔色を伺う。

「・・・おうっ」

(えーーーっ、セーフなの!!?)

 遥人は心の中で「アウト、セーフよよいのよいっ」と踊りながら上原を再び観察すると、上原は顔を赤らめていた。そして、後ろの野球部員も見ると、みんな心を打ちぬかれたような仏のような顔をしていた。

「じゃあ、さっそく勝負よ」

(えー、こっちまだ二人しか揃ってないんですけどっ!!)

「約束は・・・覚えているな、嵐山」

「ええ、もちろん。私たちが負けたら私があなたにキスをするわ」

「おおおおおっ」

 部員たちが茶化すように声を出す。
 その返事を聞いて、顔を赤らめてドヤ顔をする上原は右手の人差し指で鼻を擦る。

(ええええええええっ。聞いてないんですけど!!!?)

 遥人は上原と楓を交互に見る、というか見まくる。

「大丈夫よ、安心しなさい。私たちが勝つんだから」

「いやいや、だってこっちのメンバーは・・・」

「おーい」

 遥人が自軍の戦力について触れようとしていると、呑気な声が後ろの方から聞こえてきた。

「来たみたいね、私の精鋭部隊たちが」

 身長も体格も性別もばらばらのシルエットが現れた。

「いやいや・・・どう考えたって烏合の衆でしょ。それに「部隊たち」って達がいらない気がしますけど」

 遥人はため息をつきながらも、楓に気づかれないように、楓の薄く桃色の唇に瞳が奪われていた。

 ニコッ

 バレないつもりだった遥人だったが、まじまじと見ていた遥人の視線に楓が満面の笑みで笑った。

(・・・全力でやってやるっ)

 顔には出さなかったが、遥人はその笑顔を見て絶対に負けたくないと気合いを入れ直した。

 
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