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2-2 天国への疑心

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「おやすみ」

「おやすみ」

 澪を寝かしつけて、私と怜王はおやすみの挨拶をして目を閉じる。
 私は目を閉じて、じーっとしていたが再び目を開けると、怜王はもう寝ていた。
 暗い天井をぼーっと見ながら、小学校の頃、先生が話してくれた天国と地獄の長い箸の話を思い出した。
 
 天国と地獄の観光ツアーをしていた幽霊たち。
 地獄を見に行くと、食事の時間で、地獄にいた人たちは、自分の腕よりも長い、とても長い箸を使っていて喧嘩をしながらご飯に食べられずにいた。そして、次に天国を見に行くと、こちらも食事の時間で、天国にいた人たちは、地獄にいた人たち同様にとても長い箸を使っていた。けれど、天国の人たちはお互いに食事を食べさせあって、仲良く食事をしていたという。そんな話だった。

 天国にいる人たちはみんな心優しく、幸せな世界。
 
 夫の箸は豪華な料理を掴める箸。私は彼にありがとう、と言う。

 私の箸、もしくは私は力が無くて、前菜しか掴めない箸かもしれない。彼は私の行為が彼の行為に対してのお礼に過ぎない、当然の行為だと思っていそう・・・なんて、疑心暗鬼になるのは私が地獄側の人間のせいかもしれない。

 私は向こう側の世界にならないように、心を殺し笑っている。

(って、なんだそれ。違う違う。これは幸せなんだ)

 私は寝ている体制を変える。

(というか、久々になんでこんなこと思い出しているんだろう?それに、今考えると、神様や、閻魔大王様はどんな気持ちでこんな舞台を用意したんだろう?)

 どうして、神様たちはわざわざ人が不幸にするような環境を用意したのだろう、と思考を巡らせる。

(いやいや、神様たちを批判するなんて罰当たりなことはしない、しない。これは、神様の名前を拝借して、人がお互いを思いやるようになるように考えた人の創作よ、きっと・・・)

 お互いがお互いなしでは生きられない、だから、良い人でなくてはならない。そうした世の中を創ったのは、神なのか、それとも人なのか。

 その夜、私は猫になる夢を見た。

 身体は軽く、物凄いジャンプだってできるし、着地も全然痛くない。
 日中を尻尾を振りながら、自由に歩く。
 スーツ姿でせわしなく歩くサラリーマンやOL、子どもの送り迎えや買い物に急いでいる主婦。
 とぼとぼ歩くお年寄り。
 
 私はドヤ顔をしながら、軽やかに、澄まし顔で歩く。
 だって、私は肉体的にも、精神的にも自由なのだから。

 そんな私に下校中の小学生たちが笑顔で近寄ってくる。
 私と同じ、自由な子たち。
 優しそうな子たちだから撫でてさせてあげよう。

 ゴロロロロッ

 私は喉を撫でてくるのに合わせて喉を鳴らすと、小学生の女の子たちは喜ぶ。

(そういえば、あの頃は良かったなぁ・・・)

 私は彼女たちに顔を見ようとする。

「ニャーーーーッ!!!!」

 二人とも昔の私の顔をしていた。

 
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