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孤独な旅、歓迎のニアメア王国
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回復師になる者。
それは、戦いが嫌いで戦闘に参加したくない者である。
そうであるがゆえに、エリス神は回復の力を彼女ら彼らに授ける。能力が高い回復師であれば回復師であるほど、戦闘の「せ」の字を聞いただけでも拒絶反応を示すと言われることもある。
(しかし、彼女……フローレンスはどうだ?)
アレキサンダー王子は辺りを見渡す。
魔王城に最も近い国で魔王軍の威嚇や牽制も多く、戦闘に発展することも多いニアメア国に残ってくれた勇気ある回復師たち。彼女ら彼らだって、そう言ったことがない比較的平和な国に行くことだって可能なのに、多くの人を救いたいという使命感からこの国に残っているのだ。それは王子として感謝でしかない。いわば、フローレンスが異常なのだ。
「戦場と言っても、最後方の安全な……」
「せっ、戦場に安全な場所なんてないと思います。そりゃ、アレキサンダー王子は優秀な方ですし、軍人さんたちも優秀なのは知っています。けれど、現にここには前の戦いで怪我した方々がいらっしゃるじゃないですか。傷ついた人を見るのも辛いのに、誰かが傷つく瞬間なんて見たくないです」
自分を抱きしめ、俯きながら震える回復師が王子が喋っている言葉を遮って自分の意見を喋る。無礼であることが分かっているがゆえに、王子の顔を彼女は見れなかった。そして、怪我した兵士たちも、怪我をしたがゆえに戦場の怖さを痛感しており、そんな場所に回復師を集めることに否定的で暗い顔で俯いていた。
「そうです。それに私たちは自分を回復できません。お互いを回復し合うことはできますが、回復師同士が密集していたら、格好の餌食ですし、そんな仕事まで増える可能性があるのは非効率ではないでしょうか」
優秀そうな細身の女性の回復師がアレキサンダー王子の目を見て訴える。「そうよ、そうよ」と回復師のみならず、その場にいた人たちがざわつき始める。「回復師を戦場へ」ということは、いくらアレキサンダー王子が善政を行ってきて、国民からの信頼があると言っても、国民がざわついて強く拒絶するほどのことだった。
「私めも……それは……」
フレイアはこの中でも一番アレキサンダー王子と付き合いが長く、アレキサンダー王子の聡明さを誰よりも分かっており、王子の案には裏があった、なんてことも度々経験してきており、アレキサンダー王子との主従関係から言っても、命令に背いたり、意見を反対することはないのだが、フレイアですら肯定できなかった。
(分かっている……それは私も)
「無理を承知でお願いしている、この通りだ。協力してくれっ」
アレキサンダー王子は多くを語らず、深々と頭を下げた。それが、誠心誠意を回復師に尽くすことだと思った。
すると、ざわついていた避難所がピタっと静かになった。
それは、戦いが嫌いで戦闘に参加したくない者である。
そうであるがゆえに、エリス神は回復の力を彼女ら彼らに授ける。能力が高い回復師であれば回復師であるほど、戦闘の「せ」の字を聞いただけでも拒絶反応を示すと言われることもある。
(しかし、彼女……フローレンスはどうだ?)
アレキサンダー王子は辺りを見渡す。
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「戦場と言っても、最後方の安全な……」
「せっ、戦場に安全な場所なんてないと思います。そりゃ、アレキサンダー王子は優秀な方ですし、軍人さんたちも優秀なのは知っています。けれど、現にここには前の戦いで怪我した方々がいらっしゃるじゃないですか。傷ついた人を見るのも辛いのに、誰かが傷つく瞬間なんて見たくないです」
自分を抱きしめ、俯きながら震える回復師が王子が喋っている言葉を遮って自分の意見を喋る。無礼であることが分かっているがゆえに、王子の顔を彼女は見れなかった。そして、怪我した兵士たちも、怪我をしたがゆえに戦場の怖さを痛感しており、そんな場所に回復師を集めることに否定的で暗い顔で俯いていた。
「そうです。それに私たちは自分を回復できません。お互いを回復し合うことはできますが、回復師同士が密集していたら、格好の餌食ですし、そんな仕事まで増える可能性があるのは非効率ではないでしょうか」
優秀そうな細身の女性の回復師がアレキサンダー王子の目を見て訴える。「そうよ、そうよ」と回復師のみならず、その場にいた人たちがざわつき始める。「回復師を戦場へ」ということは、いくらアレキサンダー王子が善政を行ってきて、国民からの信頼があると言っても、国民がざわついて強く拒絶するほどのことだった。
「私めも……それは……」
フレイアはこの中でも一番アレキサンダー王子と付き合いが長く、アレキサンダー王子の聡明さを誰よりも分かっており、王子の案には裏があった、なんてことも度々経験してきており、アレキサンダー王子との主従関係から言っても、命令に背いたり、意見を反対することはないのだが、フレイアですら肯定できなかった。
(分かっている……それは私も)
「無理を承知でお願いしている、この通りだ。協力してくれっ」
アレキサンダー王子は多くを語らず、深々と頭を下げた。それが、誠心誠意を回復師に尽くすことだと思った。
すると、ざわついていた避難所がピタっと静かになった。
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