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「なんだ、どうした?」

 ローカス王子が私に尋ねてきます。けれど・・・

 ちらっ

 ギロッ

 あぁ、やっぱりリリスは睨んでいらっしゃいますね。私がリリスを見ていましたので、ローカス王子もリリスを見るとリリスはすぐさまそのピンクの瞳をうるうるさせておりました。そんなリリスを見て、ローカス王子は背中をさすって慰めてます。

(その慰めはいらないと思いますよ?だって・・・)

 私は思い出したのです。
 リリスと男性貴族が手を繋いで仲良く歩いていらっしゃるところ、普段大人しいはずのワンちゃん、ケルベルちゃんがリリスを見て唸ってました。リリスは最初一緒にいた殿方に助けを求めましたが、その殿方はワンちゃんが苦手のようでして、振り払って逃げてしまいました。必死に逃げていたせいでしょうね。リリスが握った手首のところにリリスの手形が付くくらい真っ赤になって大変痛そうでした。

 あぁ、そんな手形なんて些細な事です。その後です。リリスの目尻が吊り上がって、ケルベルちゃんを思いっきり蹴とばしたんです。そして、その後ケルベルちゃんを何度も何度も踏みつけておりました。何を言っていたか少しは覚えていますが・・・私の口からはちょっと言いたくありません。

 その時止めに入ろうとして近づいたんですが、リリスは私を睨んでどこかに行ってしまいました。私は注意したい気持ちもありましたけれど、目の前で弱っていたケルベルちゃんを見過ごすことなんかできません。急いで私は袖をちぎって、近くにあった木を使ってケルベルちゃんの足を固定してあげました。

(あの時は髪の色が青色でその印象が強かったからすぐにわからなかったですけれど、あの時の彼女ですわ)

 私はむーっと、彼女を睨みます。
 でも、あまり睨んだことがないので、目のあたりの筋肉がぴくぴくしてすぐ疲れてしまいます。

 くいくいっ

 リリスはローカス王子の袖を引きます。

「大丈夫だ、安心しろ。いいか、みんな。そいつは犬を蹴とばして重体を負わせたんだ」

「ええーーーっ」

 ビックニュースをみんなに提供できたと情報通ぶる顔をするローカス王子。

「違います、違いますよっ!?」

 みんながその女性を見る。

「あっ」

 私はまたしても声を漏らしてしまいました。
 その人は私がケルベルちゃんを運んだ病院の看護師さんでした。犬は分野外にも関わらず、元気なケルベルちゃんになったのは名も知らないその人のおかげです。私とその女性は目が合うとお互い会釈をしました。

「何が違うんだっ。そいつは犬とケンカして、袖を千切られた腹いせに犬をぼこぼこにしたんだぞっ、なぁ、ロディ」

「んっ、あぁ・・・っ」

 ロディという男性が上の空のようない相槌を打ち、その後リリスを見つめていましたが、リリスは決してロディを見なかったのが印象的でした。

「それも違いますよ?だって、アン様は自分の袖を切ってワンちゃんの手当てをされたんですよ」

 みんなが私を見ます。

「ええ・・・恥ずかしい話ではありますが・・・その時はハンカチを置いてきてしまったので・・・」

 令嬢として恥ずかしい限り。ハンカチを持たないなんて、なんてはしたない。私は顔が火照ったので、両手で隠すようにしながら下を向きました。みんなが汚い者を見るような目でみていらっしゃたらどうしましょう・・・。
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