上 下
17 / 24

17

しおりを挟む
「やめて・・・お母様」

「レイラでございます」

 マルガリータはキュラドの質問に二つ返事で答えてしまう。

「くっくっく・・・っ。こいつは貴様の母親なのか?それにしては・・・うーん、全く似ていない。それに娘の名前をこんなにもあっさり売る奴は初めてだぞ。多分こいつは貴様のことを全く大事に思っていないぞ。はっはっはっ」

 大喜びするキュラド。
 それを聞いて傷ついたレイラ。
 冷たいのは期待の表れ・・・そう信じようとしていたレイラはその言葉を聞いてショックだったが、全く疑うことはなかった。

「さぁ、自己紹介を知ろ。レイラ・・・王子に無礼を働く民がいてはならぬ、そうだろ?」

 再び赤い瞳が光るキュラド。

「私の・・・名前は・・・レ・・・」

(くっくっくっ、そうだレイラ。名乗るんだ)

 キュラドは心の中で笑う。
 レイラの読んだ本の内容は真実であり、名乗らせればキュラドの支配力が強くなる。それは魔除けのペンダントに守られていて、かつ心が真っすぐなレイラであっても抗いようがない。

 ギイイッ

「えっ」

 レイラは急に寄りかかっていた扉がなくなり、身体が後ろへ倒れそうになって、我に返った。
 しかし、我に返ったところで、もう体勢を直すという心の余裕もなければ、身体に力もないレイラは重力に従う。

 バサッ

 しかし、レイラを待っていたのは、固い大理石と汚れた絨毯ではなく、頼れる胸板だった。

「おっと、大丈夫ですか?」

 ドックンッ

 レイラの止まっていた何かが芽吹き始めた。
 
 キュラドとその男は対照的だった。
 サラサラの黒髪をピシッと整えているキュラドに対して、その男は金髪の猫っ毛。
 キュラドが赤い瞳ならば、その男は碧い瞳。
 真っ白なキュラドに対して、男も肌は白めだが、ほんのり朱が入っており、キュラドが釣り目なら、男は少したれ目で優しそうにレイラには感じた。

 また、キュラドの美しさが絵画的だとすれば、その男の表情は豊かで流動的美しさだった。レイラは初めて人に心配されて、にこっと微笑まれた。

「誰だ貴様はっ!?」

 赤い瞳を再び光らせるキュラド。
 その瞳は殺意と嫌悪に満ち溢れていた。

「くっ・・・俺の名は・・・シュナ・・・」

 男の青い瞳に朱が混ざり、不安定な紫色になる。

「ダメっ。答えては!!」

 レイラが必至に言うと、男の瞳は元の青色に戻り、男は頭痛に悩まされるように目をぎゅっとしていた。

「ちっ、貴様・・・聖なる加護を受けているな?」

「ふふっ、どうだろうね?・・・ありがとうね」

 キュンッ

 ニコっとレイラに微笑んで感謝する男。こんな素直に自分のことにありがとうを言ってくれる人がいなかったレイラは顔が真っ赤になってしまう。

「かわいいね」

 ポッ

 そんなレイラを見て、再び笑う男。レイラは顔から火が出るんじゃないかと思うくらい顔が火照った。 
しおりを挟む

処理中です...