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「だれか・・・、だれか・・・]

 レイラは扉を叩く。
 小さい頃は人に頼った。
 しかし、継母のマルガリータに頼っては叱られた。

 そして、自分のことをするのは当たり前。
 マルガリータの手伝いや、異母妹のデネブ、ボロネーゼの世話もすることも言いつけられて、心にしこりが残るもののレイラはそれを当たり前のようにやっていた。ただ、そんなレイラだって気持ちを押し込めながらも、ありがとうと言ってほしい、認めてほしい・・・そう願うときがあった。けれど、基本的には見返りを求めて来なかった。

 だが、この瞬間だけは違った。
 レイラにとって、何のために頑張ってきた人生なのかはわからないけれど、もしその努力が報われる日があるのであれば、今日であって欲しいと心の底から願った。

「お母さん、お父さん・・・っ」

 レイラは顔も浮かばない母親と父親の名前を思わず口に出していた。
 男は処理を確信した顔でレイラに近づいていく。その近づく足音がピタッと止まる。



 ―――静寂

 

 レイラはゆっくりと、後ろを振り返る。
 今まで見たものが幻であることを祈って。



「満足したか?」

 再びレイラの目の前に立った男はレイラにそう尋ねた。

「ひっ、卑怯者っ」

 レイラは足がすくんで扉に背中を預けながら男に弱々しい抵抗をぶつける。

「ふん、この我のどこが卑怯なんだ。申してみよ」

 赤い瞳がレイラの心を乱そうとする。レイラはそれは危険だと思って、彼の鎖骨のあたりで結ばれているマントの紐でできている赤い蝶結びを見ることにした。

「だってそうでしょ?みんなを王子だって騙して連れてきて・・・結婚するなんて言ってさらうなんて最低よっ」

 男は不思議そうな顔をする。

「何を言っているんだ?我は王子なるぞ?」

「えっ・・・ご冗談を・・・」

 もう一度、レイラはその男の顔を見る。男を見る機会もほとんどなかったレイラにはよくはわからなかったけれど、その男は確かに身なりが整っており、清潔感があり、背筋がぴんっとした姿は育ちの良さを感じた。

「我は魔界の王の息子、キュラドである。王よりこの世界の支配を託され、一人で生きるのも飽きた故、永遠の人生を共に歩む伴侶を探していた。何も嘘など言ってはおらぬ」

 眉毛を釣り上げて話すキュラドは威風堂々と仁王立ちしていた。

「そっそうですか・・・それは申し訳ございませんでした。キュラド様。じゃあ、私は結構ですので帰していただけませんか?」

 手を組みながら一生懸命笑顔を作るレイラ。
 怒っている人は継母のマルガリータで慣れているので、すぐに謝れるのはレイラの長所だ。

「嫌だ」

 即座にきっぱり断るキュラド。
 レイラの長所は残念ながら全く活かされなかった。

 
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