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「・・・もしもし」

 私は恐る恐る電話に出る。

「へぇ・・・俺の声ってこう聞こえるんだ」

 私の声・・・と思わる声がスマホ越しに聞こえる。
 録音した自分の声を聞くあの恥ずかしい感じが、リアルタイムで私の予想外の言葉で話す。

(私は、歌劇団の男役かっ!!)

 思わず心の中で、ツッコミを入れる。

「ってか、震えてんじゃん。ダサっ」

 私が心の中でツッコミを入れていると、普通にスマホ越しの私はツッコミを入れてくる。

「・・・あなたは二階堂流星くん?」

 大人だから、というかちょっと毒舌気味な彼に対して主導権を渡すのは危険だと判断した私は先に質問する。

「もう知ってんだ・・・、木村春奈さん」

 彼も私の名前を知っていると思うと、弱みを握られたような気持ちや、自分の声で脅されているような気持ち、そして、私の声なのに鏡の前の男の子の声で呼ばれたような、変な感覚になる。

「春奈さん。この身体、すごいね。無意識にあんなこと次第しちゃうなんて・・・」

「えぇっ?」

 私は焦る。
 仕事のために朝は早く起きているけれど、寝起きが悪い私。意識が朦朧として自分でも何をしでかしているか、わからない。

「・・・ごくんっ」

 私は生唾を飲む。

「ねぇ、お姉さん。もうトイレ入った?」

「えっ?」

 私は顔を赤らめて、さっきのことを思い出す。

「・・・入ったの?」

 ちょっと強めの私の声が電話越しに聞こえる。自分に詰問されるってなんだか不思議な感覚だ。

(なんなのこの子?もしかして、自分のアレを誇示しようとしてるの?勉強のストレスで思春期こじらせてるんじゃないの?)

 私は彼がふへへへへっ、と笑って、パオーンしている姿を想像してぶるっと震えた。腕を見ると鳥肌も立っている。

(変なおじさんにならないように私がちゃんと言ってあげないと)

「行ったわよ!二階ど・・・」

「じゃあ、僕も行ってもいいよね」

 被せ気味に焦った私の声が聞こえる。

「へっ?」

 私は予想外の言葉に間抜けな声を出してしまう。

「早く・・・回答しろよ・・・っ」

 なぜだろうか、もじもじしている私の姿が想像できてしまった。
 
「トイレ・・・我慢してくれてたの?」

「当たり前だろ・・・なぁっ、早く」

 私は反省した。
 彼は変態ではなく、どちらかというと紳士だったようだ。
 私はそこまで我慢することなく、会社でストレスが溜まっていたのもあったし、夢だと思っていた私は興味本位な気持ちもありながら、彼の許可なく、彼の秘められた部分を見てしまった。しかし、彼は正義感から背徳行為をすることができず、試行錯誤の上、私に連絡を取ってきたようだ。

「いいわ、行って。でも、あんまり見ないでね」

「ああっ。じゃっ」

 ツーツー・・・

 無事にトイレに行けただろうかと心配しながら、私は窓の外を眺めて彼・・・もとい私の身体からの連絡を待つことにした。
 
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