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「えっ?」

 びっくりした顔をする三田先輩。
 その表情を見て、私は急に恥ずかしくなる。

(っていうか、仕事中に口説くとか、私、ヤバっ)

 顔が急に暑く感じたのは、コーヒーのせいでないのはわかった。
 それに心臓が心地よく高鳴っている。自分はスリルを楽しむような人間じゃなくて、真面目に生きて生きたのになにをやっているのだろう。

「わりぃ・・・・・・」

 三田先輩の言葉で、一瞬、時が止まったんじゃないかと思った。
 私の心に咲き乱れた花があったとしたら、一瞬で絶対零度に包まれて、脆く粉々になった気分だった。いつもなら、文句を言いたい気分になっただろうけれど、熱い感情や温かい感情というものは一切なく、ただただ悲しかった。

「あっ・・・いえ・・・・・・。なんか、私こそ・・・えへへっ。すいません」

 下手糞な乾いた笑い方しかできなかった。
 ツーっと頬を冷たい物が流れる。

(やばっ、お化粧が)

「・・・」

 気の利いたことを言えたら良かったのだろうけれど、三田先輩の子犬のような切ない目を見たら何も言えず、私はそのままその場から立ち去る。歩いていると、情けなさで、何か良い言い訳はできなかったかと自分を問い詰める。

(いつもは裸眼で感謝していたけれど、こういう時はコンタクトレンズの人が羨ましい)

 そんなバカなことを考えて私はトイレへと駆け込む。運よく、トイレは誰もおらず、私は洗面台の鏡を見る。お化粧はそこまで乱れていなかったが、

「ふふっ」

 今度はちゃんと笑えた。
 だって、鏡の向こうには情けない私の顔があったから。

「・・・・・・さっ、仕事、仕事。年末、仕事をしたいの? 梨乃っ」

 私は頬を叩いて、自分を鼓舞する。
 どんどん悲しくなる気持ちと追い打ちをかける理性が、痛みでリセットされた。

 それから自席に戻ると、三田先輩は真面目に仕事をしていた。
 私も先輩と話したくなかったので、ほっとして、仕事に集中した。仕事に集中すればするほど、雑念は排除できたので、私は仕事を頑張った。けれど、飲みかけのコーヒーは冷たく苦いと思った。

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