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「ダハアーーーーーーッ」

 この人は・・・・・・今年もか。

 仕事中だと言うのに、隣の席から大きなため息が聞こえる。もうすぐ年の瀬だと言うのに全く勘弁していただきたい。

 私の名前は四宮梨乃。
 ため息をついたのは三田九郎。
 私の1つ上の先輩だ。

(あぁ、あぁ、あぁーーーーっ)

 腕をだらんとさせながら、机に顔を埋めている三田先輩のおでこがスペースキーに当たっていて、全然仕事をしない三田先輩の代わりに文末を表している矢印が師走らしく、全力疾走している。Alt+Deleteですぐに全消しできると言えど、無駄な電力が消費されているのが許せない。

「こほんっ」

 私は時計を見ながら、わざとらしい咳をする。始業開始からまだ1時間しか経っていない。

「おーー、四宮。風邪か?」

(やば、こっち見た)

 情けない顔の三田先輩がこちらを見た。

「気を付けろよーーー。年末に身体を壊したら、ちっとも楽しくないぞーーっ」

 せめて、目ぐらい開けろっての、と思った。

「平日に身体を壊して、みんなに迷惑かけるよりもましです。というか、仕事をしてください」

「バカだな、四宮。俺たち独り者は、具合悪くなっても、発見が遅れるから孤独死するかもしれないぞー」
 
 全然響かない三田先輩は、私をさらに煽ってくる。

「三田先輩と一緒にしないでください」

「おっ、もしかしていい人できたか?」

「・・・・・・」

 私は三田先輩を無視して、仕事を続ける。
 本人は煽る気がなく、悪意がないのがたちが悪い。

「ハァーーーーーッ」

 私が無視して、仕事をしていると、再び大きなため息をつく三田先輩。

「クリスマス前なのに・・・・・・またフラれでもしたんですか?」

 私は手を動かしながら、三田先輩に尋ねる。

「ふっ・・・・・・まぁ、そんなもんかな」

 三田先輩をちらっと見ると、首を回している三田先輩。

(早く仕事しろっ)

 私は心の中でツッコミを入れながら、仕事をする。

「なんかさ、計画を練ってるんだけど・・・・・・全然攻略できない感じ?」

「その人との付き合いは長かったんですか?」

「いや、みんなよ」

 (女ったらし)

「てか、「長かった」って過去形にすんなよーーっ。凹むーーーーっ」

「はい、はい」

(あっ、ここデータが間違っている)

 この人と話をしていても生産性がない。仕事に集中しないと、優雅な年末年始を迎えられない。

(年末年始に出勤なんて、ぜーーーったい嫌っ)

「やっぱり23日は日本人として休むべきだと思うが、四宮はどう思う?」

 こっちは忙しいのにまだ三田先輩は話しかけてきた。

「どう思うって・・・仕方ないじゃないですか。祝日じゃなくなったんですから」

「俺だったら、海外に合わせて、クリスマスは家族と過ごすために長めの長期休暇を用意するけどなぁー」

「日本人はどこへ行ったんですか?」

「ナイス、ツッコミ」

 笑顔になる三田先輩。
 ・・・・・・まったく、頭にくる。

 私は気分転換するために、席を外して給湯室でコーヒーでも入れようと決めて立ち上がる。それに、席を一回外せば、三田先輩も絡んでこないだろう。

「あっ、俺もコーヒー」

 いい笑顔で笑う三田先輩。
 先輩のくせに童顔で、その笑顔で言われると、怒る気も失せてくる。ただ、言われたままで済ませるのも嘗められる気がしたので、眼を飛ばして私は給湯室へ向かった。

「ミルクと砂糖もよろしくねっ」

 その言葉に私は振り返らなかった。
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