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かがくが世界をつまらなくする

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「わぁ、海だきれい」

「すごいねっ」

 夏休み、お友だちのユーちゃんと海に着きました。
 海と空の境界線、水平線は光って見えます。

「ねぇねぇ、この海の向こうには何があるのかな。あっ、もしかしたら、宝島とかないのかな?」

 私は指を差しながら、ユーちゃんに話しかけます。

「そんなのないよ。マップで見たもん」

 ともだちのユーちゃんがスマートフォンを見せながら、私に教えてくれます。

「なんだ、つまんない」

 私はなんだか水平線の先にが急につまらないものに見えました。

「わぁ、大きい雲」

「すごいねっ」

 ユーちゃんと今度は空を見ます。

「ねぇねぇ、この雲の上に王国があったら面白くない?」

「そんなのないよ。衛星でそんなの映らないもん」

「なんでもスマホじゃつまらないよ」

「でも、楽だよ」

 雲も私の心も空中分解。
 分厚い入道雲はヒツジ雲になりました。

 ◇◇

「またねっ」

「うん・・・また」

 夕焼け小焼けでまた明日。
 ユーちゃんとバイバイした。

 なんで、夕焼けになるんだろう。
 
『それはね・・・』

 私は後ろを見た。
 ユーちゃんはもういない。
 もう一度、夕日を見ると、ぼやけて見えた。

「つまんない・・・けど」

 目から涙がこぼれた。
 私は笑った。
 
 ぼやけた世界の方が可能性が無限大で面白かった。
 
「悲しい世界の方が、おもしろいなぁ・・・」

 ◇◇

 夏休み明け。
 特別授業で、どこかの大学の科学者が来た。
 体育館で体操座りで笑顔で白髪のおじいさんを見上げます。

「みなさん、こんにちは。今日はみなさんに科学の楽しさを教えてにきました」

「かがくなんて、つまんないよっ!!!」

 笑顔だったみんながびっくりして、私を見る。
 おじいさんも困った笑顔をして私に尋ねます。

「どうして、キミはそう思うんだい?わたしに教えてくれないかい?」

 おじいさんはしゃがんで目線を合わせて、興味深々で私に尋ねました。
 科学なんてつまらないものを広めているおじいさんになんか教えたくないと思っていましたが、おじいさんは私をバカにしないで、真剣でわくわくしている目で私に聞いて来たので、私は答えました。

「だって、科学のせいで、海の向こうには宝島もないし、雲の上には王国もないし・・・全部全部。かがくが世界をつまらなくしているんだもん」

 私はおじいさんの表情を見ながら、伝えました。
 まわりのともだちは「なに子どもみたいなことを言ってんだよ」とか「そんなの1年生までだよ」とか私を笑います。私は恥ずかしくなりました。

「みんな、聞いて」

 おじいさんが「しーっ」とするとみんな静かになりました。

「キミは科学者になれるよ」

 おじいさんが私の目を見て、そう言い切りました。
 まわりのみんなは「えーーっ」と言います。
 嬉しくないんだけど、なんだか嬉しくなりました。

「科学者はね、今ないものにわくわくするんだ。そして、みんながそんなのあるわけないって言うんだ。今みたいにね」

 おじいさんは立ち上がりました。

「ねぇ、みんな。この空の向こうには何があるのかな」

「「「「宇宙」」」」

 みんなが答えます。

「ほんとうに?」

「当たり前じゃん」

 男の子が答えます。

「どうしてかな」

「えーっとね、お父さんもお母さんも言ってたし、本にも書いてあったしね、テレビでもやってた」

「自分で見たかな?」

「・・・ううん。でも、僕は宇宙飛行士になって見に行くんだ」

「すごい、いいじゃん!!」

 おじいさんはものすごい嬉しそうな顔をして親指を立てると、男の子も嬉しそうに親指を立てる。

「さっきのキミ。キミは宇宙の先になにがあるか興味はあるかい?」

「・・・少し」

 私はわくわくしているのを隠しながら答える。

「科学のおかげでみんなが新しいことを知ることができる、わたしは楽しい、みんなは楽。みんなを幸せにするのが科学だよ。もしかしたら、海の向こうに宝島がないのは調べ方が悪かっただけかもしれないよ?」

「科学者のおじいさんは知っているの?海の向こうを」

「知らないよ。自分で見つけるんだ。だから楽しい」

 なんでも正しいことがわかりきっている世界がきらいだ。
 そんな世界にしたかがくが嫌いだ。

 でも、わたしは科学者になってみようと思った。
 私を含めたみんなが「楽」になるんだ。
 

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