家柄が悪いから婚約破棄? 辺境伯の娘だから芋臭い? 私を溺愛している騎士とお父様が怒りますよ?

西東友一

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本編2 エガスト王国編

30 ディエゴ王視点

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(何を緊張しているのだ・・・・・・俺様は)

 決意と覚悟を持ってここまで生きてきた俺様がミシェルごときに物怖じしてどうすると、ノックをした自分に問いかける。

『また、手を繋ごうね!!』

 昔見たミシェルの天使のような顔を思い出す。すると自然に表情が緩んだ。

(おっと、いけない、いけない。王として一領主の娘の前では毅然とせねば)

 俺様は気持ちを戒めて、扉を開け・・・・・・ようとしたが、部屋の中の雰囲気が淀んでいるのを感じる。

(緊張と敵意・・・だが、一番は戸惑いと言ったところか・・・・・・)

 恐怖政治を強いていた父上と、優秀で狡猾な兄を持った俺様は人の放つ気がなんとなくわかる。それは扉一枚隔てていても。そうでなければ、今日まで生き残ってこれなかっただろうし、王にもなれていない。

「入るぞ」

 カギを開けて、扉を開けた瞬間、ミシェルがすぐ目の前にいたが視線で一蹴する。

「おお、お出迎えとは殊勲だな。ミシェル」

 俺様は扉を閉め、彼女の肩を抱き、部屋の奥へと歩く。ミシェルのあの気迫で武力行使されたら女の従者だけでなく、男の従者であっても不意を衝くことができ、彼女はまんまと逃げることに成功していたかもしれない。だが、来たのは俺様だ。

(運命なのだよ、ミシェル)

「さて・・・・・・話をしようか。ミシェル」

 ミシェルをテーブルの椅子に座らせて、俺様もその向かいに座る。

「・・・・・・」

 そうか、話す気はないのか。

「赤鬼・・・いや、アーサーだったか?」

 俺様がアーサーの名前を出すと、まるでわが子のことを想うように憂うミシェル。だが、俺様はそれ以上は教えてやらん。交渉とはそういうものだ。俺様がアーサーについての情報を教えるというカードを切ってしまえば、それに応じて、ミシェルに作戦を考えさせてしまう。俺様にとってミシェルは温室育ちの兎のようなものだが、それでも昔のようなあどけなさは薄れ、聡明そうな顔になっていたので、一応警戒はする。

「まず、名前を教えてくださるかしら?」

 賢明な判断だ。
 馬鹿な奴なら、それでも問いただして来ただろう。ミシェルは話を進める姿勢になっていた。

(ふっ・・・・・・お互い歳をとって、さらに背負うものが大きくなってしまったな)

 あの時の天使のようなミシェルはいない。
 歳を重ねることは当たり前のことで、ミシェルの成長も風の噂で聞いていたから聡くなっていることは想定していた。でも、どこか寂しく思っている俺様がいた。ミシェルはずーっと天真爛漫で敵対する俺様にまで前みたいに無邪気に笑ってくれるんじゃないかと心の隅で想っていたようだ。

(いや・・・・・・、それも最近のことか?)

 彼女は覚悟を持てるようになっているが、表情からは不安や自信のなさなどが容易に読み取れ、未熟さを感じる。俺様に会う前に何か彼女から天使の翼を奪った奴がいるのでは・・・? 俺様は俺様以外にミシェルから奪う者がいると思うと怒りが湧いてきた。

「ミシェル、お前は俺様のものだ」

 俺様は言おうとしていた言葉を忘れ、そう宣言していた。
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