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「うううっ」
男が目を覚ますと、ぼんやりと女性の顔があった。瞬きをするとようやく目のピントが合ってきて、その女性が妻であることがわかった。
「あなたっ」
妻はその華奢な腕で男をぎゅっと抱きしめる。
男は一番知っている女性ではあったけれど、そんなに安堵した顔をした妻を見たことが無かったので驚きながらも、ゆっくりと妻の背中をさする。
「俺は・・・いったい・・・」
「あなたの傍に雷が落ちたのよ。よかったぁ、無事で」
抱きしめていた腕を緩めて、もう一度妻は男の顔を覗く。妻の目は涙で潤んでいた。男は外を見ると太陽の光が差し込んできており、昼間だと理解した。
「俺はどれくらい寝てたんだ?」
「大丈夫よ、一晩ぐっすり寝ていただけよ」
「そうか・・・」
男は額に手を当てながら、目を閉じて記憶を辿る。
「そう・・・そうだっ。あの子たちはっ!!?」
「痛いっ」
男は慌てて両手で妻の二の腕を掴むと、必死過ぎて加減を誤り、妻が苦悶の顔を浮かべたので慌てて謝りながら、手を緩める。
「それで・・・俺の近くにいた男の子たちはどうなった?」
妻が怪訝な顔で夫を見る。
「男の子なんていなかったわよ・・・?」
男は狐に頬を摘ままれたような顔をした。
「いや、でも人はいただろう?」
「いないわ。誰も、なんなら動物だっていなかったわよ」
「そんな・・・」
男は自分の記憶を思い返す。けれど、あんな血まみれの少年たちのすさまじい光景を、あんな血生臭い吐き気がする臭いが幻だったなんて思えない。
「夢でも見てたんじゃない?さて、お腹が減っているでしょ、スープを持ってきてあげるわ」
そう言って、妻は立ち上がり、台所へと向かう。
「あぁ・・・頼むよ」
男はぼーっと一点を見つめながら、どこから事実でどこから夢なのか頭を巡らせたけれど、どうしても全てが事実にしか思えなかった。男はしばらくの間、安静にしていたら、すぐに元気になった。
「あれはなんだったんだろうか・・・」
男は雷が落ちた場所に行ってみようと考え、妻に断りを入れて現場に行くことにした。街の様子は何事もなかったかのように変化はない。
(まぁ・・・俺ごときに何かあっても泣いてくれるのは、家族とわずかな友人くらいだろう)
そんなことを考えながら、男は雷に落ちた場所にたどり着いた。
「うーむっ」
男は腕を抱えながら、眉間にしわを寄せる。それもそのはず、そこにはなんの痕跡もなかった。血の跡も、なんなら雷が落ちたのだから少しくらい焦げ跡でも残っていてもいいと思ったが、よく見ても何にもない。
「はぁ、わからん」
男はお手上げだと言わんばかりに、腕を組みながらのけ反った。
「おっ・・・」
男は夜空を見て少し驚いた顔をした後、満足そうな顔をした。
「良かったなぁ・・・」
独り言を呟いた男は愛する妻に会いたくなって、小走りで家へと向かった。
Fin
男が目を覚ますと、ぼんやりと女性の顔があった。瞬きをするとようやく目のピントが合ってきて、その女性が妻であることがわかった。
「あなたっ」
妻はその華奢な腕で男をぎゅっと抱きしめる。
男は一番知っている女性ではあったけれど、そんなに安堵した顔をした妻を見たことが無かったので驚きながらも、ゆっくりと妻の背中をさする。
「俺は・・・いったい・・・」
「あなたの傍に雷が落ちたのよ。よかったぁ、無事で」
抱きしめていた腕を緩めて、もう一度妻は男の顔を覗く。妻の目は涙で潤んでいた。男は外を見ると太陽の光が差し込んできており、昼間だと理解した。
「俺はどれくらい寝てたんだ?」
「大丈夫よ、一晩ぐっすり寝ていただけよ」
「そうか・・・」
男は額に手を当てながら、目を閉じて記憶を辿る。
「そう・・・そうだっ。あの子たちはっ!!?」
「痛いっ」
男は慌てて両手で妻の二の腕を掴むと、必死過ぎて加減を誤り、妻が苦悶の顔を浮かべたので慌てて謝りながら、手を緩める。
「それで・・・俺の近くにいた男の子たちはどうなった?」
妻が怪訝な顔で夫を見る。
「男の子なんていなかったわよ・・・?」
男は狐に頬を摘ままれたような顔をした。
「いや、でも人はいただろう?」
「いないわ。誰も、なんなら動物だっていなかったわよ」
「そんな・・・」
男は自分の記憶を思い返す。けれど、あんな血まみれの少年たちのすさまじい光景を、あんな血生臭い吐き気がする臭いが幻だったなんて思えない。
「夢でも見てたんじゃない?さて、お腹が減っているでしょ、スープを持ってきてあげるわ」
そう言って、妻は立ち上がり、台所へと向かう。
「あぁ・・・頼むよ」
男はぼーっと一点を見つめながら、どこから事実でどこから夢なのか頭を巡らせたけれど、どうしても全てが事実にしか思えなかった。男はしばらくの間、安静にしていたら、すぐに元気になった。
「あれはなんだったんだろうか・・・」
男は雷が落ちた場所に行ってみようと考え、妻に断りを入れて現場に行くことにした。街の様子は何事もなかったかのように変化はない。
(まぁ・・・俺ごときに何かあっても泣いてくれるのは、家族とわずかな友人くらいだろう)
そんなことを考えながら、男は雷に落ちた場所にたどり着いた。
「うーむっ」
男は腕を抱えながら、眉間にしわを寄せる。それもそのはず、そこにはなんの痕跡もなかった。血の跡も、なんなら雷が落ちたのだから少しくらい焦げ跡でも残っていてもいいと思ったが、よく見ても何にもない。
「はぁ、わからん」
男はお手上げだと言わんばかりに、腕を組みながらのけ反った。
「おっ・・・」
男は夜空を見て少し驚いた顔をした後、満足そうな顔をした。
「良かったなぁ・・・」
独り言を呟いた男は愛する妻に会いたくなって、小走りで家へと向かった。
Fin
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