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僕が話しかけようとして前に一歩踏み出そうとした瞬間、
「死ねやああああああああっ」
もう、戦いは終わり、拳闘大会も閉幕したのに、闘技場の外でダスティンは杖にしていた槍を構えて鬼の形相で僕の心臓目掛けて、渾身の突きを不意打ちでしてきた。
(あっ)
僕は無防備だった。
拳闘大会でかなり力を使い果たしてしまったようだ。それに加えて僕はすでに体重移動をしていて、地面に唯一接していた足から重心までの距離が遠くなってしまい、地面に接している足にはほとんど力が入らない状態だ。つまりは回避行動へ移行することも難しく、戦意も無くなっていた僕は、防御態勢も難しいということだ。
グチュッ
嫌な音がした。
「ぐっ・・・」
身体を貫いた。
「なんで・・・っ」
でも、僕の身体じゃない。僕とダスティンの間にルトゥスが割って入ってきたのだ。
「ちっ、違う・・・俺は・・・脅そうとして・・・」
槍を放して動揺するダスティンは、震える手を見て、叫びながらどこかへと立ち去る。
その姿はいつもの高慢な態度とは程遠く、ゴミ箱を漁りながら、人に怯えて暮らす野良犬のようだった。
「ルトゥスっ!ルトゥスっ!!しっかり・・・なんで・・・」
僕が彼を支えながら話しかけると、ルトゥスは何も言わずに、にこっと笑った。そして、笑顔が消えるのと同時に、急に支えていた身体が重くなり、まるで人から物へと変わってしまうような気がした。
「そんな・・・嫌だよ・・・っ。僕の・・・愛しいルトゥス・・・っ」
僕が声をかければいつも優しい笑顔で返事をしてくれるのに、今は何も言ってはくれない。
どうにかしたいのに、頭がくらくらして拳闘大会の疲れのせいか頭が回らない。
(これは、夢だ。夢であってくれ・・・っ)
そんな無意味なことだけ頭に浮かんでくるけれど、どうにもならないこともわかっている。今さらながら応急処置をとも思ったけれど、それすら無駄なことは明らかだ。オーバーヒートした僕の脳はもう手遅れだと悟ると、急に冷め切ったかのように何も考えなくなり冷静になった。
僕は彼の胸を貫いた槍をじーっと見る。
「キミがいない人生なんて・・・虚無だ」
僕は槍を彼から引き抜いた。
一気に引き抜くつもりだったけれど、ルトゥスの身体の傷が広がるのでは、と頭によぎり躊躇ったことで、血肉を割く感触が手に残り、吐き気がした。
引き抜いた後、彼が再び動き出すことを期待したけれど、血が出てくるだけでルトゥスは全然反応しなかった。
「死ねやああああああああっ」
もう、戦いは終わり、拳闘大会も閉幕したのに、闘技場の外でダスティンは杖にしていた槍を構えて鬼の形相で僕の心臓目掛けて、渾身の突きを不意打ちでしてきた。
(あっ)
僕は無防備だった。
拳闘大会でかなり力を使い果たしてしまったようだ。それに加えて僕はすでに体重移動をしていて、地面に唯一接していた足から重心までの距離が遠くなってしまい、地面に接している足にはほとんど力が入らない状態だ。つまりは回避行動へ移行することも難しく、戦意も無くなっていた僕は、防御態勢も難しいということだ。
グチュッ
嫌な音がした。
「ぐっ・・・」
身体を貫いた。
「なんで・・・っ」
でも、僕の身体じゃない。僕とダスティンの間にルトゥスが割って入ってきたのだ。
「ちっ、違う・・・俺は・・・脅そうとして・・・」
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その姿はいつもの高慢な態度とは程遠く、ゴミ箱を漁りながら、人に怯えて暮らす野良犬のようだった。
「ルトゥスっ!ルトゥスっ!!しっかり・・・なんで・・・」
僕が彼を支えながら話しかけると、ルトゥスは何も言わずに、にこっと笑った。そして、笑顔が消えるのと同時に、急に支えていた身体が重くなり、まるで人から物へと変わってしまうような気がした。
「そんな・・・嫌だよ・・・っ。僕の・・・愛しいルトゥス・・・っ」
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