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「さぁ、おいで。バルト」
筋肉隆々の足腰。
鋭い眼光。
発汗して黒光りする肌。
そんなダークホースのボルスの上から、いつも通り優しく声をかけてくれた優しいルトゥス。相反する人馬を見て、僕は乗りたいけれど、ボルスの上に怖くて乗れない。
「どう、どうっ」
そんな僕の臆病さを見て、ボルスが後ろ足を蹴り上げたり、前足を上げたり暴れるので、ルトゥスが手綱でボルスを落ち着かせる。ボルスと言えば、1年前に騎乗した兵士が気に食わなかったらしく、2日間引きずりまわしたこともある荒馬。僕は驚いて、距離を取ってしまうけれど、ルトゥスが手なずけると徐々にボルスは冷静さを取り戻していった。
「俺とボルスを信じて、ほらっ」
もう一度、手を差し伸べてくれるルトゥス。
(キミのことは信用できるけれど・・・)
「ボルスは頭のいい子だ。馬鹿にするとまた怒るぞ?」
僕は考えるのを止めて、その手を急いで手に取った。僕は運動神経が良くない方だけれど、タイミングを合わせてルトゥスが引っ張ってくれると、すっと騎乗することができた。
「さっ、行こう。草原の彼方へ」
ルトゥスはそう言って、足でボルスに合図を出す。
ボルスは逞しく走り出す。他の馬よりも力強く走るけれど、ボルスの背中は他の馬よりも大きく、また足腰が強いので多少のことではよろけることも無かったので、案外乗りやすい。
「うわっ」
安定感のある背中だったけれど、走りはやはり豪快で前へと加速しながら飛んだ時に僕は空間に取り残されそうになる。
(あっ、これ・・・死ぬやつだ)
前へ進むボルスとしっかりと乗りこなしているルトゥスは前に行こうとするのに、油断した僕はふわっとボルスとの接点が無くなり、推進力を失いそうになる。
バシッ
前に乗っていたルトゥスが身体をよじりながら、僕の胸ぐらを掴んで再びボルスの上に座らせ、今度は僕の腕を自分の腰に回させるルトゥス。
「離れるなよ、バルト」
僕は心臓がバクバクしていた。
ルトゥスの背中にしっかりとくっつけた心臓音は彼に届いてしまっているのだろうか。
ギュッ
「・・・うんっ」
でも、彼にくっついていたかった僕は身体全体でルトゥスにしがみつく。少しお兄さんのルトゥスの身体はボルスには負けるけれど、筋肉質でかっこいい。
「ヒヒンッ」
ボルスが少し興奮して地面を蹴る。僕の表情なんて絶対見えないけれど、何かを感じ取ったのであれば、本当に敏感な馬だ。
「でも、この景色を見逃すなよ?」
楽しそうなルトゥスの声。
僕は彼の背中に左耳を当てながら、世界を見た。
心が和む青々とした草原、スカっとする青空、どんな宝石にも負けずに輝く太陽。
揺れている草原の姿は僕らを羨望する観客のようだった。
「さいっこーーーーーーっ!!!!」
僕は柄にもなく叫ぶ。
「うおぉーーーーーーっ!!!!」
僕に合わせてくれるルトゥスも叫ぶ。ちょっと、嬉しくなって腕を緩めてルトゥスの顔が見たいなって思っていると、ルトゥスはちらっと後ろを見ながら、得意げな横顔を見せてくれた。
「「うおぉーーーーーーーっ!!!!」
二人で叫ぶと、ボルスも呼応するようにより高く、より速く、より力強く地面を支配した。
この素晴らしい世界は、自分たちだけのもので。
自分たちは、無敵だと思った。
筋肉隆々の足腰。
鋭い眼光。
発汗して黒光りする肌。
そんなダークホースのボルスの上から、いつも通り優しく声をかけてくれた優しいルトゥス。相反する人馬を見て、僕は乗りたいけれど、ボルスの上に怖くて乗れない。
「どう、どうっ」
そんな僕の臆病さを見て、ボルスが後ろ足を蹴り上げたり、前足を上げたり暴れるので、ルトゥスが手綱でボルスを落ち着かせる。ボルスと言えば、1年前に騎乗した兵士が気に食わなかったらしく、2日間引きずりまわしたこともある荒馬。僕は驚いて、距離を取ってしまうけれど、ルトゥスが手なずけると徐々にボルスは冷静さを取り戻していった。
「俺とボルスを信じて、ほらっ」
もう一度、手を差し伸べてくれるルトゥス。
(キミのことは信用できるけれど・・・)
「ボルスは頭のいい子だ。馬鹿にするとまた怒るぞ?」
僕は考えるのを止めて、その手を急いで手に取った。僕は運動神経が良くない方だけれど、タイミングを合わせてルトゥスが引っ張ってくれると、すっと騎乗することができた。
「さっ、行こう。草原の彼方へ」
ルトゥスはそう言って、足でボルスに合図を出す。
ボルスは逞しく走り出す。他の馬よりも力強く走るけれど、ボルスの背中は他の馬よりも大きく、また足腰が強いので多少のことではよろけることも無かったので、案外乗りやすい。
「うわっ」
安定感のある背中だったけれど、走りはやはり豪快で前へと加速しながら飛んだ時に僕は空間に取り残されそうになる。
(あっ、これ・・・死ぬやつだ)
前へ進むボルスとしっかりと乗りこなしているルトゥスは前に行こうとするのに、油断した僕はふわっとボルスとの接点が無くなり、推進力を失いそうになる。
バシッ
前に乗っていたルトゥスが身体をよじりながら、僕の胸ぐらを掴んで再びボルスの上に座らせ、今度は僕の腕を自分の腰に回させるルトゥス。
「離れるなよ、バルト」
僕は心臓がバクバクしていた。
ルトゥスの背中にしっかりとくっつけた心臓音は彼に届いてしまっているのだろうか。
ギュッ
「・・・うんっ」
でも、彼にくっついていたかった僕は身体全体でルトゥスにしがみつく。少しお兄さんのルトゥスの身体はボルスには負けるけれど、筋肉質でかっこいい。
「ヒヒンッ」
ボルスが少し興奮して地面を蹴る。僕の表情なんて絶対見えないけれど、何かを感じ取ったのであれば、本当に敏感な馬だ。
「でも、この景色を見逃すなよ?」
楽しそうなルトゥスの声。
僕は彼の背中に左耳を当てながら、世界を見た。
心が和む青々とした草原、スカっとする青空、どんな宝石にも負けずに輝く太陽。
揺れている草原の姿は僕らを羨望する観客のようだった。
「さいっこーーーーーーっ!!!!」
僕は柄にもなく叫ぶ。
「うおぉーーーーーーっ!!!!」
僕に合わせてくれるルトゥスも叫ぶ。ちょっと、嬉しくなって腕を緩めてルトゥスの顔が見たいなって思っていると、ルトゥスはちらっと後ろを見ながら、得意げな横顔を見せてくれた。
「「うおぉーーーーーーーっ!!!!」
二人で叫ぶと、ボルスも呼応するようにより高く、より速く、より力強く地面を支配した。
この素晴らしい世界は、自分たちだけのもので。
自分たちは、無敵だと思った。
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