6 / 6
6
しおりを挟む
グニャ
「あぁん」
ミカエルが生魚の切り身を持とうとするけれど、力が入り過ぎたお箸はひねられてしまって、生魚の切り身がエスの字っぽくなっている。
「ごめん・・・」
「謝ることなんてないわ。みんな始めはこんなものよ。どちらかと言えば、あなたはとても優秀な方よ」
「そうかい?」
ミスったせいか少し残念そうな顔をしていたミカエルの顔が少し明るくなった。
「そうよ、えーっと、逆にごめんなさいね。私の教え方が下手で。多分、先端に力を集中させて、そんなに力を入れすぎなくていいの、ふわっとって感じで・・・」
私の言葉を聞いたミカエルが再び、お箸に挑戦する。お箸をゆっくりと切り身に運ぶのを見て、私は彼の隣で密かにUFOキャッチャーをやっているのを応援していた時の感覚に似ているなと思っていた。
ピタっと、両方のお箸が切り身にふれて、生魚の脂身が箸に伝わっていく。徐々に箸を上げていくミカエル。下に滑り込ませたお箸と上で動かないように抑えるお箸。
(いけ・・・っ、そのままいけっ)
プルプル震える生魚。
それを集中してお箸で掴んでいるミカエル。
私も手に汗握って彼を見つめる。
「あむっ」
「よしっ!!」
生魚は彼の口に無事到着した。私は思わず、叫んでしまう。彼は味覚に集中していたせいか私の声も無視して、目を閉じて生魚を、醤油を味わう。
「・・・・・・うんっ、美味い・・・・っ。さっきよりもおいしく感じるよ」
満足そうな顔をしたミカエルが目を開く。
「ほんとっ、いぇーいっ」
自分の子どもが初めてお箸を使えるようになったような嬉しさがこみあげてきた私はハイタッチを求めるように手を出すと、彼も少し照れ臭そうな顔をしながらも両手を出してくれた。
「いぇーいっ」
ハイタッチと言うには、少し低かったけれど、パンッと心地よいクラップ音が鳴った。こんな風に一仕事を終えて喜びを分かち合ったのなんて、水戸市にいた頃以来だ。嬉しくなって何度もやってしまう。ミカエルも困った顔をしていたけれど、付き合ってくれた。
「キミは不思議な子だね」
ハイタッチを止めると、ミカエルがはにかみながらそう言った。私は思わず赤面してしまう。今まで、そういう青春みたいなことに疎遠で、遠くから学生同士でわちゃわちゃしているのを冷めた目で見ていた私。でも、羨ましかったんだろうと今さら気づかされた。精神の年齢はすでに大人な私が子どもの彼に言われて気づかされてしまった。
(恥ずかしい・・・というか)
「失礼いたしました。ミカエル様。ほんの少しだけ、身分をわきまえずはしゃいでしまいました」
私はスカートの袖を少し上げながらお辞儀する。
ちらっとミカエルの顔をみると「ほんの少し??」ともの言いたげな顔をしている。
「・・・どうしたの、急に。やめてくださいよ。ミカエルでいいよ。えーっと・・・」
「あぁ、自己紹介が遅れました。シズク・ミッドフォードです。シズクとお呼びください」
「うん、よろしく。シズク」
彼に名前を呼ばれるのは少し・・・心地よかった。
「あぁん」
ミカエルが生魚の切り身を持とうとするけれど、力が入り過ぎたお箸はひねられてしまって、生魚の切り身がエスの字っぽくなっている。
「ごめん・・・」
「謝ることなんてないわ。みんな始めはこんなものよ。どちらかと言えば、あなたはとても優秀な方よ」
「そうかい?」
ミスったせいか少し残念そうな顔をしていたミカエルの顔が少し明るくなった。
「そうよ、えーっと、逆にごめんなさいね。私の教え方が下手で。多分、先端に力を集中させて、そんなに力を入れすぎなくていいの、ふわっとって感じで・・・」
私の言葉を聞いたミカエルが再び、お箸に挑戦する。お箸をゆっくりと切り身に運ぶのを見て、私は彼の隣で密かにUFOキャッチャーをやっているのを応援していた時の感覚に似ているなと思っていた。
ピタっと、両方のお箸が切り身にふれて、生魚の脂身が箸に伝わっていく。徐々に箸を上げていくミカエル。下に滑り込ませたお箸と上で動かないように抑えるお箸。
(いけ・・・っ、そのままいけっ)
プルプル震える生魚。
それを集中してお箸で掴んでいるミカエル。
私も手に汗握って彼を見つめる。
「あむっ」
「よしっ!!」
生魚は彼の口に無事到着した。私は思わず、叫んでしまう。彼は味覚に集中していたせいか私の声も無視して、目を閉じて生魚を、醤油を味わう。
「・・・・・・うんっ、美味い・・・・っ。さっきよりもおいしく感じるよ」
満足そうな顔をしたミカエルが目を開く。
「ほんとっ、いぇーいっ」
自分の子どもが初めてお箸を使えるようになったような嬉しさがこみあげてきた私はハイタッチを求めるように手を出すと、彼も少し照れ臭そうな顔をしながらも両手を出してくれた。
「いぇーいっ」
ハイタッチと言うには、少し低かったけれど、パンッと心地よいクラップ音が鳴った。こんな風に一仕事を終えて喜びを分かち合ったのなんて、水戸市にいた頃以来だ。嬉しくなって何度もやってしまう。ミカエルも困った顔をしていたけれど、付き合ってくれた。
「キミは不思議な子だね」
ハイタッチを止めると、ミカエルがはにかみながらそう言った。私は思わず赤面してしまう。今まで、そういう青春みたいなことに疎遠で、遠くから学生同士でわちゃわちゃしているのを冷めた目で見ていた私。でも、羨ましかったんだろうと今さら気づかされた。精神の年齢はすでに大人な私が子どもの彼に言われて気づかされてしまった。
(恥ずかしい・・・というか)
「失礼いたしました。ミカエル様。ほんの少しだけ、身分をわきまえずはしゃいでしまいました」
私はスカートの袖を少し上げながらお辞儀する。
ちらっとミカエルの顔をみると「ほんの少し??」ともの言いたげな顔をしている。
「・・・どうしたの、急に。やめてくださいよ。ミカエルでいいよ。えーっと・・・」
「あぁ、自己紹介が遅れました。シズク・ミッドフォードです。シズクとお呼びください」
「うん、よろしく。シズク」
彼に名前を呼ばれるのは少し・・・心地よかった。
0
お気に入りに追加
11
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました
toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。
残酷シーンが多く含まれます。
誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。
両親に
「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」
と宣言した彼女は有言実行をするのだった。
一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。
4/5 21時完結予定。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

このやってられない世界で
みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。
悪役令嬢・キーラになったらしいけど、
そのフラグは初っ端に折れてしまった。
主人公のヒロインをそっちのけの、
よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、
王子様に捕まってしまったキーラは
楽しく生き残ることができるのか。

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく
霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。
だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。
どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。
でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる