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グニャ
「あぁん」
ミカエルが生魚の切り身を持とうとするけれど、力が入り過ぎたお箸はひねられてしまって、生魚の切り身がエスの字っぽくなっている。
「ごめん・・・」
「謝ることなんてないわ。みんな始めはこんなものよ。どちらかと言えば、あなたはとても優秀な方よ」
「そうかい?」
ミスったせいか少し残念そうな顔をしていたミカエルの顔が少し明るくなった。
「そうよ、えーっと、逆にごめんなさいね。私の教え方が下手で。多分、先端に力を集中させて、そんなに力を入れすぎなくていいの、ふわっとって感じで・・・」
私の言葉を聞いたミカエルが再び、お箸に挑戦する。お箸をゆっくりと切り身に運ぶのを見て、私は彼の隣で密かにUFOキャッチャーをやっているのを応援していた時の感覚に似ているなと思っていた。
ピタっと、両方のお箸が切り身にふれて、生魚の脂身が箸に伝わっていく。徐々に箸を上げていくミカエル。下に滑り込ませたお箸と上で動かないように抑えるお箸。
(いけ・・・っ、そのままいけっ)
プルプル震える生魚。
それを集中してお箸で掴んでいるミカエル。
私も手に汗握って彼を見つめる。
「あむっ」
「よしっ!!」
生魚は彼の口に無事到着した。私は思わず、叫んでしまう。彼は味覚に集中していたせいか私の声も無視して、目を閉じて生魚を、醤油を味わう。
「・・・・・・うんっ、美味い・・・・っ。さっきよりもおいしく感じるよ」
満足そうな顔をしたミカエルが目を開く。
「ほんとっ、いぇーいっ」
自分の子どもが初めてお箸を使えるようになったような嬉しさがこみあげてきた私はハイタッチを求めるように手を出すと、彼も少し照れ臭そうな顔をしながらも両手を出してくれた。
「いぇーいっ」
ハイタッチと言うには、少し低かったけれど、パンッと心地よいクラップ音が鳴った。こんな風に一仕事を終えて喜びを分かち合ったのなんて、水戸市にいた頃以来だ。嬉しくなって何度もやってしまう。ミカエルも困った顔をしていたけれど、付き合ってくれた。
「キミは不思議な子だね」
ハイタッチを止めると、ミカエルがはにかみながらそう言った。私は思わず赤面してしまう。今まで、そういう青春みたいなことに疎遠で、遠くから学生同士でわちゃわちゃしているのを冷めた目で見ていた私。でも、羨ましかったんだろうと今さら気づかされた。精神の年齢はすでに大人な私が子どもの彼に言われて気づかされてしまった。
(恥ずかしい・・・というか)
「失礼いたしました。ミカエル様。ほんの少しだけ、身分をわきまえずはしゃいでしまいました」
私はスカートの袖を少し上げながらお辞儀する。
ちらっとミカエルの顔をみると「ほんの少し??」ともの言いたげな顔をしている。
「・・・どうしたの、急に。やめてくださいよ。ミカエルでいいよ。えーっと・・・」
「あぁ、自己紹介が遅れました。シズク・ミッドフォードです。シズクとお呼びください」
「うん、よろしく。シズク」
彼に名前を呼ばれるのは少し・・・心地よかった。
「あぁん」
ミカエルが生魚の切り身を持とうとするけれど、力が入り過ぎたお箸はひねられてしまって、生魚の切り身がエスの字っぽくなっている。
「ごめん・・・」
「謝ることなんてないわ。みんな始めはこんなものよ。どちらかと言えば、あなたはとても優秀な方よ」
「そうかい?」
ミスったせいか少し残念そうな顔をしていたミカエルの顔が少し明るくなった。
「そうよ、えーっと、逆にごめんなさいね。私の教え方が下手で。多分、先端に力を集中させて、そんなに力を入れすぎなくていいの、ふわっとって感じで・・・」
私の言葉を聞いたミカエルが再び、お箸に挑戦する。お箸をゆっくりと切り身に運ぶのを見て、私は彼の隣で密かにUFOキャッチャーをやっているのを応援していた時の感覚に似ているなと思っていた。
ピタっと、両方のお箸が切り身にふれて、生魚の脂身が箸に伝わっていく。徐々に箸を上げていくミカエル。下に滑り込ませたお箸と上で動かないように抑えるお箸。
(いけ・・・っ、そのままいけっ)
プルプル震える生魚。
それを集中してお箸で掴んでいるミカエル。
私も手に汗握って彼を見つめる。
「あむっ」
「よしっ!!」
生魚は彼の口に無事到着した。私は思わず、叫んでしまう。彼は味覚に集中していたせいか私の声も無視して、目を閉じて生魚を、醤油を味わう。
「・・・・・・うんっ、美味い・・・・っ。さっきよりもおいしく感じるよ」
満足そうな顔をしたミカエルが目を開く。
「ほんとっ、いぇーいっ」
自分の子どもが初めてお箸を使えるようになったような嬉しさがこみあげてきた私はハイタッチを求めるように手を出すと、彼も少し照れ臭そうな顔をしながらも両手を出してくれた。
「いぇーいっ」
ハイタッチと言うには、少し低かったけれど、パンッと心地よいクラップ音が鳴った。こんな風に一仕事を終えて喜びを分かち合ったのなんて、水戸市にいた頃以来だ。嬉しくなって何度もやってしまう。ミカエルも困った顔をしていたけれど、付き合ってくれた。
「キミは不思議な子だね」
ハイタッチを止めると、ミカエルがはにかみながらそう言った。私は思わず赤面してしまう。今まで、そういう青春みたいなことに疎遠で、遠くから学生同士でわちゃわちゃしているのを冷めた目で見ていた私。でも、羨ましかったんだろうと今さら気づかされた。精神の年齢はすでに大人な私が子どもの彼に言われて気づかされてしまった。
(恥ずかしい・・・というか)
「失礼いたしました。ミカエル様。ほんの少しだけ、身分をわきまえずはしゃいでしまいました」
私はスカートの袖を少し上げながらお辞儀する。
ちらっとミカエルの顔をみると「ほんの少し??」ともの言いたげな顔をしている。
「・・・どうしたの、急に。やめてくださいよ。ミカエルでいいよ。えーっと・・・」
「あぁ、自己紹介が遅れました。シズク・ミッドフォードです。シズクとお呼びください」
「うん、よろしく。シズク」
彼に名前を呼ばれるのは少し・・・心地よかった。
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