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「「あーーー」」

 お箸で醤油付きの生魚を運ぶ私と、醤油を口に入れるのが初体験で恐る恐る口を開けて待つミカエル。二人の初めての共同作業。前世の友達の結婚式で、ケーキバイトをしていたのがちらっと頭をよぎった。

「「んっ」」

 彼が生魚をくわえたのを確認して、私はゆっくりと箸を自分の手元に引き寄せた。

「んっ」

 彼は口に入れて、一噛みした瞬間、目を見開く。

(どっちっ?)

 私は祈るように手を組んで彼を見つめる。

「うっ・・・」
「う?」
「・・・うまいっ!」

 彼は美味しそうにアゴを動かしていく。

「うん、塩とは違ったコクがあると言うか・・・舌触りが良くなったよ・・・。うん、美味しい」
「ほんとっ!?」

 私は嬉しくなって、すぐさまお皿とお箸を机に置いて、彼のそれぞれの手を恋人つなぎのように握って、彼の周りを飛び跳ねて彼を回す。彼はちょっと驚いた顔をしたけれど、感動も身体も嬉しすぎて止めることができない。

「はぁ・・・良かった」

 とはいえ、元から体力がない5周くらい?回ったら疲れてしまい、満足になった。

「ささっ、殿。もう一枚いかがでありんすか?」
「殿?」

 ドレスを着ているくせに、雰囲気を出すために殿なんて呼んでしまう。

「ささっ、どうぞ・・・あーーーん」

 私が再び、生魚を箸で掴んでミカエルの口に運ぶ。

「んっ」

 ミカエルは先ほどよりも素直に口を開けてくれた。
 私も自分のお箸で生魚を食べる。

 モグモグモグ・・・・・・ごくんっ

「「うまいっ」」

 私たちはそれぞれで醤油付の生魚を堪能し、同時に同じ感想を言ったので、お互いを見合わせて、顔が綻ぶ。

「ふふっ」
「ははっ」

 思わず声が出てしまった。こんな風に男の子と笑いあったのなんて、いつぶりだろうか。

「ねぇ、その2本の枝は何だい?」
「あっ、これは“お箸”って言って、食器?えーっと、フォークとか、ナイフの代わりに使うものよ」
「使ってみてもいい?」
「もちろん!!」

 おっと、嬉しすぎて食い気味に前のめりになってしまったら、また困らせてしまった顔をさせてしまった。ふくよかだし、なんとなく優しそうに見えてしまうからついつい調子に乗ってしまう。

「えーっと、こうやって親指の・・・あぁ、違う、こうで、こうっ・・・そうそうっ」

 箸の使い方なんて人に教えたことが無かったので、口で説明するのは私には難しいようだ。彼の手を取って使い方を教える。日本に暮らす人なら当たり前にできることでも、テレビなどで外国に暮らす人が難しそうにしているのを見たことがあるので、ミカエルにも難しいかなと思ったけれど、彼は繊細な作業が得意なのか、若干おぼつかない部ながらも、綺麗な手をうまく使ってそれなりに箸を使いこなせそうだった。

「じゃあ、生魚をお箸で持ってみて」
「よしっ、やってみるよ」

 男の子らしく元気よくチャレンジしようとするミカエル。

「うん、頑張って」

 私は胸のあたりに上げた両手でガッツポーズをすると、ミカエルが頷いた。
 そして、彼が生魚へとお箸を伸ばしていく―――
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