4 / 6
4
しおりを挟む
(あぁ・・・尊い・・・っ)
こんなに美味しく感じるのは、数十年ぶりに食べるからなのだろうか。
(ううん、それだけじゃない・・・素材のレベルが違うっ!?)
私はコリコリした触感を楽しむ。この魚は綺麗な海で泳いできたのだろう。科学文明によって汚されていないう綺麗な海で、美味しいエサを食べて気持ちよく泳いできた違いない。歯ごたえもいいし、どこの海かはわからないけれど、広大な海が私のまぶたの裏に広がった。
ごくんっ
(魚さん。ありがとう・・・)
感激に思わず、身体が勝手に感謝の所作を行っていた。私は生命に感謝して、目を閉じて両手を合わせていた。その所作はこちらの世界の文化ではなく、ふとした瞬間は、まだ前世の感覚で行動してしまうようだ。
「だっ、大丈夫かい?キミ・・・っ?」
心配してくれる少年。
「ぷはぁ、美味しかったぁ」
私は思わず顔が綻んでしまう。
ほっぺが落ちそうになるのを満喫しながら、頬を抑える。
「あぁ、ありがとうね。えーっと・・・」
基本的には辺境の貴族の私。
私は“坊や”と呼ぼうとしてしまったけれど、良い服を着ている彼に坊やなんて呼んでしまったら、優しそうな本人に怒られなくても、それを聞いた大人たちに怒られてしまうに違いない。
「ボクの名前はミカエル。ミカエル・ドットだよ」
私がどう呼べばいいか悩んでいたのがわかったらしい。
ミカエルは誇らしげに答えてくれた。ドット家というのはあまり聞いたことがないけれど、自分の家名に誇りを持っている様子だし、やっぱりそれなりに身分がある御家のようだ。
「ミカエル、あなたも食べましょ?美味しいわよ」
この魚は私が調理したわけではないけれど、調味料を作ったのは私。つまりは私がこの料理を最高の料理へと昇華させたのだ。えっへん。
「ボッ、ボクはいいかな?あははは・・・っ」
乾いた笑いをするミカエル。
どうやら、この調味料に抵抗があるらしい。
私の人生の4分の3くらいお世話になってきた調味料。
醤油。
私の一番大好きな食品の恋人。
調味料の中では一番好きだけれど、前世の私にはある理由で作ることができなかった。
なので、この世界に来てから作れるようになってからは、大好きな食品と共に楽しく作らせてもらっている。ちょっと、恋人関係の食品と調味料の両方が私の手によって生み出されていることを考えると、近親婚をさせてしまっている親のような気持ちになってちょっとだけセンチメンタルになる私は変態なのかもしれない。
「えーーーっ、美味しいから・・・ねっ?」
私が上目遣いでミカエルを見ると、彼は頭を掻きながら困った顔をしている。
(あっ、やばいっ。いつもの癖が・・・)
私は彼を見るのを止めて、目線を落とす。自分が好きな物は相手も好きとは限らない。そういうのを強要すると、人は皆離れて行ってしまう。それで前世では痛い目を見たのに、また懲りずにやってしまった。
「ふーーーっ、仕方ない。ボクも男だ。いいよ、食べるよ」
そういって、彼はフォークで生魚を取ろうとする。
「ちょっと、待って」
私はさっと、もう一つお箸を出す。お箸文化まで広げるつもりは全くないけれど、私的に同じものでも、金属のフォークと木材のお箸だと味が変わる気がしている。こちらに来てお目にかかっていないけれど、プラスチックのフォークや木材のフォークならどうかと言われると、やっぱり「刺身」として食べるなら、箸で食べるのが一番美味しいと思う。なので、醤油のかかったこの生魚を最高の形で食べるなら、お箸で食べて欲しい。
「ありがとうね、ミカエル。はい、あーーーーんっ」
私は箸を彼の口に持って行く。
「それは・・・うーーん」
苦笑いするミカエル。けれど、さっき私がしょげていたのを気にしたのか、
「あーー」
ミカエルはちょっと照れているのか、大きい口ではないけれど口を開けてくれた。ぽっちゃりな坊やだけれど、心はとても紳士的だなと、年上目線で微笑ましくなってしまう。彼の口が汚れないように気を付けながら、生魚を掴んだお箸を彼の口の中にと運ぶ。ひな鳥にエサをやる親鳥の気分のような、子どもとは言え、初めてあーんっ、をするせいか、私の手は少し震えていた。
こんなに美味しく感じるのは、数十年ぶりに食べるからなのだろうか。
(ううん、それだけじゃない・・・素材のレベルが違うっ!?)
私はコリコリした触感を楽しむ。この魚は綺麗な海で泳いできたのだろう。科学文明によって汚されていないう綺麗な海で、美味しいエサを食べて気持ちよく泳いできた違いない。歯ごたえもいいし、どこの海かはわからないけれど、広大な海が私のまぶたの裏に広がった。
ごくんっ
(魚さん。ありがとう・・・)
感激に思わず、身体が勝手に感謝の所作を行っていた。私は生命に感謝して、目を閉じて両手を合わせていた。その所作はこちらの世界の文化ではなく、ふとした瞬間は、まだ前世の感覚で行動してしまうようだ。
「だっ、大丈夫かい?キミ・・・っ?」
心配してくれる少年。
「ぷはぁ、美味しかったぁ」
私は思わず顔が綻んでしまう。
ほっぺが落ちそうになるのを満喫しながら、頬を抑える。
「あぁ、ありがとうね。えーっと・・・」
基本的には辺境の貴族の私。
私は“坊や”と呼ぼうとしてしまったけれど、良い服を着ている彼に坊やなんて呼んでしまったら、優しそうな本人に怒られなくても、それを聞いた大人たちに怒られてしまうに違いない。
「ボクの名前はミカエル。ミカエル・ドットだよ」
私がどう呼べばいいか悩んでいたのがわかったらしい。
ミカエルは誇らしげに答えてくれた。ドット家というのはあまり聞いたことがないけれど、自分の家名に誇りを持っている様子だし、やっぱりそれなりに身分がある御家のようだ。
「ミカエル、あなたも食べましょ?美味しいわよ」
この魚は私が調理したわけではないけれど、調味料を作ったのは私。つまりは私がこの料理を最高の料理へと昇華させたのだ。えっへん。
「ボッ、ボクはいいかな?あははは・・・っ」
乾いた笑いをするミカエル。
どうやら、この調味料に抵抗があるらしい。
私の人生の4分の3くらいお世話になってきた調味料。
醤油。
私の一番大好きな食品の恋人。
調味料の中では一番好きだけれど、前世の私にはある理由で作ることができなかった。
なので、この世界に来てから作れるようになってからは、大好きな食品と共に楽しく作らせてもらっている。ちょっと、恋人関係の食品と調味料の両方が私の手によって生み出されていることを考えると、近親婚をさせてしまっている親のような気持ちになってちょっとだけセンチメンタルになる私は変態なのかもしれない。
「えーーーっ、美味しいから・・・ねっ?」
私が上目遣いでミカエルを見ると、彼は頭を掻きながら困った顔をしている。
(あっ、やばいっ。いつもの癖が・・・)
私は彼を見るのを止めて、目線を落とす。自分が好きな物は相手も好きとは限らない。そういうのを強要すると、人は皆離れて行ってしまう。それで前世では痛い目を見たのに、また懲りずにやってしまった。
「ふーーーっ、仕方ない。ボクも男だ。いいよ、食べるよ」
そういって、彼はフォークで生魚を取ろうとする。
「ちょっと、待って」
私はさっと、もう一つお箸を出す。お箸文化まで広げるつもりは全くないけれど、私的に同じものでも、金属のフォークと木材のお箸だと味が変わる気がしている。こちらに来てお目にかかっていないけれど、プラスチックのフォークや木材のフォークならどうかと言われると、やっぱり「刺身」として食べるなら、箸で食べるのが一番美味しいと思う。なので、醤油のかかったこの生魚を最高の形で食べるなら、お箸で食べて欲しい。
「ありがとうね、ミカエル。はい、あーーーーんっ」
私は箸を彼の口に持って行く。
「それは・・・うーーん」
苦笑いするミカエル。けれど、さっき私がしょげていたのを気にしたのか、
「あーー」
ミカエルはちょっと照れているのか、大きい口ではないけれど口を開けてくれた。ぽっちゃりな坊やだけれど、心はとても紳士的だなと、年上目線で微笑ましくなってしまう。彼の口が汚れないように気を付けながら、生魚を掴んだお箸を彼の口の中にと運ぶ。ひな鳥にエサをやる親鳥の気分のような、子どもとは言え、初めてあーんっ、をするせいか、私の手は少し震えていた。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

わたしを捨てた騎士様の末路
夜桜
恋愛
令嬢エレナは、騎士フレンと婚約を交わしていた。
ある日、フレンはエレナに婚約破棄を言い渡す。その意外な理由にエレナは冷静に対処した。フレンの行動は全て筒抜けだったのだ。
※連載

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

君を愛することは無いと言うのならさっさと離婚して頂けますか
砂礫レキ
恋愛
十九歳のマリアンは、かなり年上だが美男子のフェリクスに一目惚れをした。
そして公爵である父に頼み伯爵の彼と去年結婚したのだ。
しかし彼は妻を愛することは無いと毎日宣言し、マリアンは泣きながら暮らしていた。
ある日転んだことが切っ掛けでマリアンは自分が二十五歳の日本人女性だった記憶を取り戻す。
そして三十歳になるフェリクスが今まで独身だったことも含め、彼を地雷男だと認識した。
「君を愛することはない」「いちいち言わなくて結構ですよ、それより離婚して頂けます?」
別人のように冷たくなった新妻にフェリクスは呆然とする。別人のように冷たくなった新妻にフェリクスは呆然とする。
そして離婚について動くマリアンに何故かフェリクスの弟のラウルが接近してきた。
絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました
toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。
残酷シーンが多く含まれます。
誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。
両親に
「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」
と宣言した彼女は有言実行をするのだった。
一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。
4/5 21時完結予定。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる