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(あぁ・・・尊い・・・っ)
こんなに美味しく感じるのは、数十年ぶりに食べるからなのだろうか。
(ううん、それだけじゃない・・・素材のレベルが違うっ!?)
私はコリコリした触感を楽しむ。この魚は綺麗な海で泳いできたのだろう。科学文明によって汚されていないう綺麗な海で、美味しいエサを食べて気持ちよく泳いできた違いない。歯ごたえもいいし、どこの海かはわからないけれど、広大な海が私のまぶたの裏に広がった。
ごくんっ
(魚さん。ありがとう・・・)
感激に思わず、身体が勝手に感謝の所作を行っていた。私は生命に感謝して、目を閉じて両手を合わせていた。その所作はこちらの世界の文化ではなく、ふとした瞬間は、まだ前世の感覚で行動してしまうようだ。
「だっ、大丈夫かい?キミ・・・っ?」
心配してくれる少年。
「ぷはぁ、美味しかったぁ」
私は思わず顔が綻んでしまう。
ほっぺが落ちそうになるのを満喫しながら、頬を抑える。
「あぁ、ありがとうね。えーっと・・・」
基本的には辺境の貴族の私。
私は“坊や”と呼ぼうとしてしまったけれど、良い服を着ている彼に坊やなんて呼んでしまったら、優しそうな本人に怒られなくても、それを聞いた大人たちに怒られてしまうに違いない。
「ボクの名前はミカエル。ミカエル・ドットだよ」
私がどう呼べばいいか悩んでいたのがわかったらしい。
ミカエルは誇らしげに答えてくれた。ドット家というのはあまり聞いたことがないけれど、自分の家名に誇りを持っている様子だし、やっぱりそれなりに身分がある御家のようだ。
「ミカエル、あなたも食べましょ?美味しいわよ」
この魚は私が調理したわけではないけれど、調味料を作ったのは私。つまりは私がこの料理を最高の料理へと昇華させたのだ。えっへん。
「ボッ、ボクはいいかな?あははは・・・っ」
乾いた笑いをするミカエル。
どうやら、この調味料に抵抗があるらしい。
私の人生の4分の3くらいお世話になってきた調味料。
醤油。
私の一番大好きな食品の恋人。
調味料の中では一番好きだけれど、前世の私にはある理由で作ることができなかった。
なので、この世界に来てから作れるようになってからは、大好きな食品と共に楽しく作らせてもらっている。ちょっと、恋人関係の食品と調味料の両方が私の手によって生み出されていることを考えると、近親婚をさせてしまっている親のような気持ちになってちょっとだけセンチメンタルになる私は変態なのかもしれない。
「えーーーっ、美味しいから・・・ねっ?」
私が上目遣いでミカエルを見ると、彼は頭を掻きながら困った顔をしている。
(あっ、やばいっ。いつもの癖が・・・)
私は彼を見るのを止めて、目線を落とす。自分が好きな物は相手も好きとは限らない。そういうのを強要すると、人は皆離れて行ってしまう。それで前世では痛い目を見たのに、また懲りずにやってしまった。
「ふーーーっ、仕方ない。ボクも男だ。いいよ、食べるよ」
そういって、彼はフォークで生魚を取ろうとする。
「ちょっと、待って」
私はさっと、もう一つお箸を出す。お箸文化まで広げるつもりは全くないけれど、私的に同じものでも、金属のフォークと木材のお箸だと味が変わる気がしている。こちらに来てお目にかかっていないけれど、プラスチックのフォークや木材のフォークならどうかと言われると、やっぱり「刺身」として食べるなら、箸で食べるのが一番美味しいと思う。なので、醤油のかかったこの生魚を最高の形で食べるなら、お箸で食べて欲しい。
「ありがとうね、ミカエル。はい、あーーーーんっ」
私は箸を彼の口に持って行く。
「それは・・・うーーん」
苦笑いするミカエル。けれど、さっき私がしょげていたのを気にしたのか、
「あーー」
ミカエルはちょっと照れているのか、大きい口ではないけれど口を開けてくれた。ぽっちゃりな坊やだけれど、心はとても紳士的だなと、年上目線で微笑ましくなってしまう。彼の口が汚れないように気を付けながら、生魚を掴んだお箸を彼の口の中にと運ぶ。ひな鳥にエサをやる親鳥の気分のような、子どもとは言え、初めてあーんっ、をするせいか、私の手は少し震えていた。
こんなに美味しく感じるのは、数十年ぶりに食べるからなのだろうか。
(ううん、それだけじゃない・・・素材のレベルが違うっ!?)
私はコリコリした触感を楽しむ。この魚は綺麗な海で泳いできたのだろう。科学文明によって汚されていないう綺麗な海で、美味しいエサを食べて気持ちよく泳いできた違いない。歯ごたえもいいし、どこの海かはわからないけれど、広大な海が私のまぶたの裏に広がった。
ごくんっ
(魚さん。ありがとう・・・)
感激に思わず、身体が勝手に感謝の所作を行っていた。私は生命に感謝して、目を閉じて両手を合わせていた。その所作はこちらの世界の文化ではなく、ふとした瞬間は、まだ前世の感覚で行動してしまうようだ。
「だっ、大丈夫かい?キミ・・・っ?」
心配してくれる少年。
「ぷはぁ、美味しかったぁ」
私は思わず顔が綻んでしまう。
ほっぺが落ちそうになるのを満喫しながら、頬を抑える。
「あぁ、ありがとうね。えーっと・・・」
基本的には辺境の貴族の私。
私は“坊や”と呼ぼうとしてしまったけれど、良い服を着ている彼に坊やなんて呼んでしまったら、優しそうな本人に怒られなくても、それを聞いた大人たちに怒られてしまうに違いない。
「ボクの名前はミカエル。ミカエル・ドットだよ」
私がどう呼べばいいか悩んでいたのがわかったらしい。
ミカエルは誇らしげに答えてくれた。ドット家というのはあまり聞いたことがないけれど、自分の家名に誇りを持っている様子だし、やっぱりそれなりに身分がある御家のようだ。
「ミカエル、あなたも食べましょ?美味しいわよ」
この魚は私が調理したわけではないけれど、調味料を作ったのは私。つまりは私がこの料理を最高の料理へと昇華させたのだ。えっへん。
「ボッ、ボクはいいかな?あははは・・・っ」
乾いた笑いをするミカエル。
どうやら、この調味料に抵抗があるらしい。
私の人生の4分の3くらいお世話になってきた調味料。
醤油。
私の一番大好きな食品の恋人。
調味料の中では一番好きだけれど、前世の私にはある理由で作ることができなかった。
なので、この世界に来てから作れるようになってからは、大好きな食品と共に楽しく作らせてもらっている。ちょっと、恋人関係の食品と調味料の両方が私の手によって生み出されていることを考えると、近親婚をさせてしまっている親のような気持ちになってちょっとだけセンチメンタルになる私は変態なのかもしれない。
「えーーーっ、美味しいから・・・ねっ?」
私が上目遣いでミカエルを見ると、彼は頭を掻きながら困った顔をしている。
(あっ、やばいっ。いつもの癖が・・・)
私は彼を見るのを止めて、目線を落とす。自分が好きな物は相手も好きとは限らない。そういうのを強要すると、人は皆離れて行ってしまう。それで前世では痛い目を見たのに、また懲りずにやってしまった。
「ふーーーっ、仕方ない。ボクも男だ。いいよ、食べるよ」
そういって、彼はフォークで生魚を取ろうとする。
「ちょっと、待って」
私はさっと、もう一つお箸を出す。お箸文化まで広げるつもりは全くないけれど、私的に同じものでも、金属のフォークと木材のお箸だと味が変わる気がしている。こちらに来てお目にかかっていないけれど、プラスチックのフォークや木材のフォークならどうかと言われると、やっぱり「刺身」として食べるなら、箸で食べるのが一番美味しいと思う。なので、醤油のかかったこの生魚を最高の形で食べるなら、お箸で食べて欲しい。
「ありがとうね、ミカエル。はい、あーーーーんっ」
私は箸を彼の口に持って行く。
「それは・・・うーーん」
苦笑いするミカエル。けれど、さっき私がしょげていたのを気にしたのか、
「あーー」
ミカエルはちょっと照れているのか、大きい口ではないけれど口を開けてくれた。ぽっちゃりな坊やだけれど、心はとても紳士的だなと、年上目線で微笑ましくなってしまう。彼の口が汚れないように気を付けながら、生魚を掴んだお箸を彼の口の中にと運ぶ。ひな鳥にエサをやる親鳥の気分のような、子どもとは言え、初めてあーんっ、をするせいか、私の手は少し震えていた。
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