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私は気づかなかった。
いや、頭のどこかには彼の存在はあった。
だって、今日は彼の生誕10周年なのだから。
シズクがふくよかな男の子と刺身について話して盛り上がっているのを横目で見ている少年がいた。
「どうされたんですか?レイモンド王子」
そう、彼こそがイェーロー・レイモンド王子。今回の主役だ。
彼は可憐な花々のような貴族や他国の王族の少女たちに囲まれながらも、精巧なクリスタルのような気高さと輝きを放っていた。少女たちは自分たちとは違う魅力を持つ彼に魅かれていた。
「ん・・・なんでもない」
「そっ、そうですか」
クリスタルは角度によって光の反射が異なる輝きを持つ。
尋ねた少女からはレイモンドは美しい彫刻のように見えた。レイモンドは少女たちに質問をされるけれど、彼の心を震わせるような言葉はなく、機械的に質問を返しながら、シズクを見ていた。そんな彼の目は少しだけ、いつもより輝いていた。
そんな視線に気づかず、シズクはノリノリで生魚の切り身を目の前に興奮していた。
「えっ・・・キミ・・・何をしているんだい?」
ふくよかな男の子はシズクがごそごそしているのを不安そうに見る。
「ちょっと、レディーを覗くなんてマナー違反よっ」
「あっ、ごめん・・・」
男の子はもじもじしながら、距離を取る。それを確認したシズクは満足そうな顔をしながら、ポーチからアルものを出す。貴族の少女が持つに相応しい、可愛いオシャレな白色の小さなポーチには全く似合わない、黒い液体のビン。拳二個分の大きさのビンは全くもってかわいくない。シズクは流れるように、フタのビンを開けて匂いを嗅ぎ、満足そうな顔をする。
「じゃあ、さっそく・・・」
「えっ、ちょっとっ!!あっ・・・」
急にその液体をさっとかけるシズク。少し距離を取っていた男の子が異変に気付いた時には、時すでに遅し。生魚の切り身には満遍なく黒い液体が降り注がれていた。男の子の顔はその液体に負けないくらい青ざめていた。けれど、そんなことはお構いなしに、少女は鼻息を荒くして、目を輝かせている。
「これっ、これっ」
少女は再び、摩訶不思議な道具を出す。といっても、先ほどのものほどインパクトはなく、ただの棒切れ2本。シズクの世界で「箸」と呼ばれた物・・・を子どものシズクが自分で作ろうとした物は、箸というには少しお粗末だった。
「いっただきまーすっ」
シズクは生魚の切り身に添えてある塩の山には目をくれず、そのまま自分のピンク色の薄い唇に運ぶ。
モグモグ・・・・・・っ
シズクはすぐにはゆっくりと歯ざわりを楽しむ。
男の子は謎の黒い液体を口に運んで食べているシズクにドン引きしている。
(塩を使わないなんて・・・なんて野蛮なんだ)
彼には塩に殺菌作用があるという知識はなかったけれど、彼の父や母からしっかり塩をつけて食べるように教育されてきた。そんな彼からすると、いくらシズクがおめかしをして、貴族としてきちんとした可愛らしいドレスを身に纏った美少女だったとしても、塩もつけずに生魚を食べるなんて野蛮な行動はありえないように感じた。そのギャップが彼にシズクに対してさらに気後れさせた。
いや、頭のどこかには彼の存在はあった。
だって、今日は彼の生誕10周年なのだから。
シズクがふくよかな男の子と刺身について話して盛り上がっているのを横目で見ている少年がいた。
「どうされたんですか?レイモンド王子」
そう、彼こそがイェーロー・レイモンド王子。今回の主役だ。
彼は可憐な花々のような貴族や他国の王族の少女たちに囲まれながらも、精巧なクリスタルのような気高さと輝きを放っていた。少女たちは自分たちとは違う魅力を持つ彼に魅かれていた。
「ん・・・なんでもない」
「そっ、そうですか」
クリスタルは角度によって光の反射が異なる輝きを持つ。
尋ねた少女からはレイモンドは美しい彫刻のように見えた。レイモンドは少女たちに質問をされるけれど、彼の心を震わせるような言葉はなく、機械的に質問を返しながら、シズクを見ていた。そんな彼の目は少しだけ、いつもより輝いていた。
そんな視線に気づかず、シズクはノリノリで生魚の切り身を目の前に興奮していた。
「えっ・・・キミ・・・何をしているんだい?」
ふくよかな男の子はシズクがごそごそしているのを不安そうに見る。
「ちょっと、レディーを覗くなんてマナー違反よっ」
「あっ、ごめん・・・」
男の子はもじもじしながら、距離を取る。それを確認したシズクは満足そうな顔をしながら、ポーチからアルものを出す。貴族の少女が持つに相応しい、可愛いオシャレな白色の小さなポーチには全く似合わない、黒い液体のビン。拳二個分の大きさのビンは全くもってかわいくない。シズクは流れるように、フタのビンを開けて匂いを嗅ぎ、満足そうな顔をする。
「じゃあ、さっそく・・・」
「えっ、ちょっとっ!!あっ・・・」
急にその液体をさっとかけるシズク。少し距離を取っていた男の子が異変に気付いた時には、時すでに遅し。生魚の切り身には満遍なく黒い液体が降り注がれていた。男の子の顔はその液体に負けないくらい青ざめていた。けれど、そんなことはお構いなしに、少女は鼻息を荒くして、目を輝かせている。
「これっ、これっ」
少女は再び、摩訶不思議な道具を出す。といっても、先ほどのものほどインパクトはなく、ただの棒切れ2本。シズクの世界で「箸」と呼ばれた物・・・を子どものシズクが自分で作ろうとした物は、箸というには少しお粗末だった。
「いっただきまーすっ」
シズクは生魚の切り身に添えてある塩の山には目をくれず、そのまま自分のピンク色の薄い唇に運ぶ。
モグモグ・・・・・・っ
シズクはすぐにはゆっくりと歯ざわりを楽しむ。
男の子は謎の黒い液体を口に運んで食べているシズクにドン引きしている。
(塩を使わないなんて・・・なんて野蛮なんだ)
彼には塩に殺菌作用があるという知識はなかったけれど、彼の父や母からしっかり塩をつけて食べるように教育されてきた。そんな彼からすると、いくらシズクがおめかしをして、貴族としてきちんとした可愛らしいドレスを身に纏った美少女だったとしても、塩もつけずに生魚を食べるなんて野蛮な行動はありえないように感じた。そのギャップが彼にシズクに対してさらに気後れさせた。
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