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「大丈夫かな。シズクは?」
「そうね・・・いつもの悪い癖が出なければいいけれど・・・。セバスチャン。例の物はちゃんと、回収したわよね?」

 お父様とお母様の二人がゆっくりと、少し後ろで身を引いていた執事のセバスチャンを見る。セバスチャンは落ち着いた雰囲気を崩さなかったものの、目を見開く。

「はい・・・?お嬢様からは、お二人から許可を得たと伺いましたが・・・」
「「なっ!!?」」

 私はするするっと人混みの中に入って逃げる。
 だって、こんなにも美味しそうな料理があるのだもの。を使わないと言う選択肢はない。

(なんならも・・・ふふっ)

 私は目を光らせながら、人混みをくぐっていくと、開けたところにたどり着いた。やっぱり、元の私もそんなに大きくはなかったけれど、さらに小さくなった私にとって人混みは苦しくて仕方なかったので、私は大きく深呼吸をする。

「う~~~んっ、良い香りっ」

 私は料理の置いてある机に吸い寄せられるように歩いて行く。私は和食が好きだったけれど、こっちの世界に来て、洋食?の良さがわかるようになった。というか、一流のシェフが作ればというのもあるかもしれないけれど、お母様が作るお菓子もとても美味しいし、郷土料理は現地の人が作る方が美味しいのかもしれない。だから、私も前世で海外旅行をしたことがないから、洋食の素晴らしさを知らずに死んでしまったのかもしれないと思った。


「えっ、嘘でしょ!?」


 私は運命の出会いにドキドキしてしまう。
 
 なんで、こんなに透明感があるのだろう。
 なんで、こんなに艶やかなんだろう。
 なんで、こんなにそそるのだろう。

(なんで・・・刺身があるのよっ!?)

 10年・・・。
 海から遠い貴族に生まれてしまった私は生魚になんかに出会える機会はほとんどなかった。というか、旅行で海に行った時も私が生魚を食べたいとお父様やお母様にお願いしても食べさせてもらえなかった。私の年齢が一桁というのもあったと思うけれど、大丈夫だと説得しても、聞いてくれない両親。文化の違いに涙し、成人になったら、自由に旅に出て刺身や色んな物を食べてやると誓っていたけれど、まさかこんなにも早く食べられるチャンスが来るなんて感動しかない。

「ふふっ、キミ。生魚は初めてかい?」

 近くにいたふくよかな男の子が私に笑顔で近づいてきた。この男の子は勘違いしているのだろう、私がお父様やお母様と同じように生魚を食べるなんてありえないっ、と思っていると。

「生き物は死んだときに呪いをかけるって言われているだろう?特に魚は呪いが強いから火によって浄化しなければならないとされているよね?」

(あー、語りたい系男子か~)

「あっうん・・・」

 本当は細菌や寄生虫のせいだと私は知っているけれど、満足そうに話す彼を見ていたら、そんな無粋なことは言えなかった。

(科学が全てじゃないし、この世界にはこの世界の理があるかもしれないし)

「こほんっ。なので、呪いを持てないくらい切り刻んでやるやれば、ごらんのとおり。もぐっ・・・うん。甘美なり」

 そのまま食べた。

「ちっがーーーーうっ!!」

 私はツッコミを入れた。
 なぜ、アレを使わない。いいえ・・・、これはチャンスだ・・・。

「ひっひっひっひ・・・っ」
「ちょっと、笑顔が怖いよ?キミ・・・っ」

 私は嬉しくなって、心の底から笑った。

 ―――の出番だ。
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