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「シズク、楽しんでおいで」
「はいっ、ありがとうございます。お父様」

 青空の下。
 
 先に馬車から降りた私はお父様に声を掛けられたので、振り返る。心を落ち着けて、優雅にスカートの袖を持ってお辞儀をすると、お父様は嬉しそうに頭を撫でてくださる。私の大大大好きな、かっこいい自慢のお父様。その大きくて優しい手で撫でられると、それがくすぐったくて、恥ずかしくて、思わず微笑んでしまう。お父様の目元が少し疲れているけれど、私たちを養うために頑張ってくださっていると思うと、それも胸キュンだ。

「王子様のハートを射止めてきちゃいなさい」

 お母様が胸のあたりで小さなガッツポーズをする。お母様だけれど、本当に可愛らしい。おっちょこちょいで普段は頼りないけれど、人の良いところをすぐに見つけて、褒めることのできる心優しい女性だ。私と弟のロロの2人を生んだとは思えないくらいスタイルがよくて羨ましい。私も彼女のようにスタイル良くなれるのかしら?

(って、自分の母親を彼女呼ばわりするなんてはしたないわね)

 私は自分を戒める。でも、どうも前世の記憶を引き継いだ私からしてしまうと、お母様は同い年かちょっと年下くらいに感じてしまうのだ。彼女みたいな女性が前世の私の身の回りにいたら、世界は変わっていただろうなと思ってしまう。

「なにをおっしゃっているんですか、お母様。私は年上がタイプなんです。なんなら、お父様みたいなかっこいい人がいいです」

 本当は年上がタイプという訳ではない。ドはまりしていた訳じゃないけれど、20歳前後の男性アイドルグループのコンサートに行ったことだってあるし、鍛え上げられた年下の胸板や、腹筋にドキッとしてしまうことだってあった。しかし、重ね重ねだが、私は前世の記憶が残っており、前世では享年30歳だ。まだ王子とお会いしたことはないけれど、さすが10歳の誕生日を迎える王子の顔や身体に惚れるような私ではない。

「ダーリンは渡さないんだからっ!!」
「はっはっはっはっ」

 お母様がお父様の腕をしがみつき、胸を当てている。お父様も私とお母様の両方から愛されていると言われて嬉しそうに笑っている。さっきより、ホッとしている顔をしている気がするのは気のせいだろうか。

「この子は本当におませさんなんだから」

(これでも、今の身体の年相応にしようと頑張っているんだけどなぁ)

 私は笑いながら、こめかみのあたりをポリポリと掻いた。さすがに、神様が特殊能力を与えて転生させてくれると言って喜んだけれど、「転生」って言葉の意味を深く考えていなくて、15歳くらいからリスタートだと思ってしまったけれど、がっつり生まれたところからスタートだったので結構焦った。

「じゃあ、行ってきますね。お父様、お母様」

 私が挨拶すると、二人は温かいまなざしで小さく頷いた。
 赤ちゃんだったときは言葉も上手く喋れなくて、ため息をつきたくなったけれど、こんな優しい二人の子どもとして、10年も一緒にいれて本当に良かったと思う。

(子どもらしく楽しもうっと)

 国内最大級のガーデンパーティー。

 イェーロー王国の長男、レイモンド・イェーロ―王子の10歳の誕生日を祝う盛大なパーティーだと私は認識していた。けれど、貴族の間ではレイモンド王子のいい相手を見つける会だと噂されていたとはこの時の私は全く知らなかった。
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