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「ははは・・・・・・っ、まさかキミにおぶってもらうようになるとはね」

 フェイロンは平静を保ったように喋ったつもりだったのだろうが、とても無理な話だった。
 少し肌寒いはずなのに、フェイロンから流れ落ちる汗が伝わるジンにもことの重大性が分かった。

「いつっ」

 ジンが急ごうとすると、フェイロンに怪我した左足に負荷がかかり声をあげる。

「あぁっ」

「・・・っ」

 そのことに気づいたジンが声をあげて反応し速度を落とすと、それもフェイロンの左足には負荷がかかり、フェイロンは奥歯を噛みしめる。

 ジンは自分が不器用なことを初めて恥じた。今まで一人で暮らしてきたジンは苦手なことがあってもそのまま放置してきた。苦手なことを克服するよりも得意なことを伸ばした方が効率的だし、迷惑がかかったとしても自業自得だったからだ。そんなことを考えるジンではなかったが、本能的にそういうロジックで動いてきた。

 人と接するときの気配りなんて、孤独のジンには経験のないことであり、かつガサツに生きてきたジンには苦痛であった。

(面倒くさい・・・・・・)

 同じ種族である人間のフェイロン。
 四本足で走る犬の方が足が速くて当然、その分二本足で立つ自分は知恵があって手が使えた。でも、フェイロンとは条件が一緒で、フェイロンの方が手先を器用に使っている。
 
 見てくれだってそうだ。
 
 見た目を気にしたことはなかったが、フェイロンの格好を見れば、身なりを整えるカッコよさと自分のみすぼらしさが分かった。それに、匂いもフェイロンから花の香りのようないい香りがして、自分はどんな匂いがするのか、最近水浴びをしたのがいつだったかなんてジンは考えていた。

 同じ条件で、頭が良くて、身のこなしもいい。
 比較すればするほど、自分の無能さが浮き彫りになる。
 フェイロンと出会うのが「運命」であったなら、せめて自分が彼を傷つけずに運べる四つ足の動物であれば良かったのにとさえ思った。

「ここかい? キミの家は」

 背中にいたフェイロンからホッとしたような声が聞こえてジンは我に返る。
 フェイロンを背負い足取りが重かったはずだが、もう家についてしまった。

 恥ずかしい。

 竪穴式住居。
 ススキやカヤで覆われたとても小さな山のような家には木で作った入り口をくぐって入り、段差を降りる。

「暖かいね」

 外気から遮断された家の中は冷気が入りずらく、空気が滞留していたので体感として温かった。中には外から見えたススキやカヤが壁になっており、四本の太い支柱とそれを支える木々と屋根の骨組みが見えた。

(ジロジロ見んなよな・・・)

「降ろすぞ」

 ジンは自分の恥ずかしい内側をさらけ出すような気分でちょっと嫌だったので、ぶっきらぼうに腰を下ろす。

「あっ、うん」

 目を輝かせながら家の中を見ていたフェイロンはゆっくりとジンがいつも寝ているだろう草で編んだござの上へと降りた。ジンから解放されたことでもっと自由に見えるようになったフェイロンはもっと露骨にジンの家の中を見渡していた。

「・・・火をつけるぞ」

 もうそこまでくると諦めになったジンは火を起こそうと木々を真ん中の炉に木々を集めると、

「あぁ、その木々2本・・・・・・あと、布か縄を貰えるかい?」

 と、フェイロンがジンの背中に声を掛けて、ジンが振り向く。ジンは不思議に感じたけれど、自分よりも物知りのフェイロンのことだから何か考えがあるのだろうと、言われた木2本と布を渡した。
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