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「はぁ!? なんで、お前を師匠なんて言わなきゃいけねぇんだよっ!?」

 ジンは朝日を背にして、朝日に照らされる爽やかなフェイロンの顔に文句を言った。

「えー、いいじゃないか。乗馬を教えるんだから師匠でしょ」

「ぜったい、嫌だっ」

 頑なに拒否するジンは舌を出して嫌がった。
 今までそれを父親のような温かい顔をしていたフェイロンは少しだけムスッとしていた。

「いいじゃないか。僕とキミで師弟の絆を結べるのだから」

 朝日が昇る前、薄暗い中ジンは自分一人の力で馬に乗ろうとしていた。
 けれど、一朝一夕で見つけられるほど、乗馬は簡単ではない。だから、ジンは傷だらけだった。その痛みと苛立ちをフェイロンにぶつけていた。

「いらねぇよ、そんなもん」

 その言葉にフェイロンの血管がプチンと切れる音がした。

「そうかい。あぁ、そうかいっ」

 フェイロンは顔は笑っていたけれど、語尾を強めてジンに背を向けて、馬に乗った。

「あっ・・・」

 ジンは思わず、甘えた声を出してしまう。なぜなら、ジンが多少ごねたとしてもフェイロンは自分に教えてくれる存在だと思っていたからだ。

 その声はフェイロンには届いていたはずだ。
 けれど、フェイロンは振り返ることなく、馬を歩かせる。
 それが、フェイロンの答えだった。

「ちょっと待てよ」

 ジンは駆け足でフェイロンの乗る馬の横を同じ速度で歩きながら声を掛ける。ただ、フェイロンは返事をせずにまっすぐ前を見ているし、馬は歩幅の小さいジンと比べて歩くスピードが速く、ジンは時々小走りをしながら馬に並走し、フェイロンの返事を待った。

「はっ」

 フェイロンは馬にたずなで合図をつけて走らせた。 

「おっこのっ・・・」

 ジンはすぐに反応して追いかけようとした。
 だが、ジンは馬の後ろになってしまい、馬の後ろ足がジンへと襲い掛かろうとした。
 両腕で頭部などを守ろうとするけれど、その逞しい両脚と蹄は大怪我を予感させた。

「くっ・・・っ」

 けれど、それに気が付いたフェイロン。ジンの悲惨な未来を変えるために、すぐさま自分の全身の体重と力を左側へ使って自分が乗っている馬を倒した。馬の体重がフェイロンの左足にのしかかった上に、落下の角度が悪かったためにフェイロンの足の骨と筋肉が嫌な音を立てた。

「ぐはああああぁっ」

 余裕などどこにもないフェイロンの叫び。
 そして、最高速度で無いもののそれなりに速度が出ていた馬とフェイロンは倒れながらも地面に擦られていく。

「フェッ、フェイロンっ!?」

 ジンの声に反応したのは馬の方だった。
 馬は痛がりながらも、立ち上がり草原を飛び跳ねながら走って動いていた。けれど、肝心のフェイロンからの返事はなく、フェイロンが倒れているだろう草むらは風でしか動かなかった。
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