兄さまとぼくの20年の過去とこれからの未来

西東友一

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 夜の魅力。
 暗闇の魅力。

 そんな暗闇を穢すことは誰であっても許されない。
 あの誰よりも輝き、誰よりも大きな恒星ですら、互いに距離を取って暗闇の大切さを分かっている―――
  
「さっ、召し上がれ」

 日が暮れて、ジンが起こした焚火で料理を行ったフェイロンが、ジンへと差し出す。
 手のひらサイズの満月のような白いまん丸の食べ物。

「ん? どうかしたかい?」

 そのまま、焼く、煮る。
 それくらいしか調理方法を知らないジンにとって、いくつかの行程を経たであろうその料理は、とても珍しいもので、その料理に興味を持った。けれど、それ以上に焚火に照らされたフェイロンの顔は魅力的で、同性にも関わらず見惚れてしまった。

 爽やかな笑顔。
 でも、それは明るい場所での話。
 暗闇には爽やかさを魅惑的に変える力がある。

「いや・・・なんでもない」

 そう言って、笹の葉でくるまれた食べ物を手に取るジン。
 反抗していた態度。
 でも、それは明るい場所での話。
 暗闇には反抗心を穏やかな気持ちにさせる力がある。

「あむっ」

 なぜ素直に食べられるんだとジンが誰かに聞かれたら、あまりにも美味しそうな匂いだったからと言ったかもしれない。けれど、本心ではフェイロンと同じ釜の飯を食うのが、なんかいいと思ったのだ。

 旨い。 

 小麦粉を何度も噛んだ時に味わえる甘みが凝縮して口の中に広がる。
 しかし、それは序の口。
 噛み応えがあった白い部分を噛み切ると、白い部分より熱く、濃厚で刺激的な野性味あふれる味が広がる。
 
「饅頭っていうんだ」

(まんじゅう・・・・・・)

「んっ」

 ジンは気が付くと、口の中の饅頭が溶けて無くなっていた。
 今までが簡素的な料理だったがゆえに、その初めて食べた刺激的な料理。

「うっ」

 味を思い出しただけで、思いっきり唾液が出るのを慌ててジンは抑える。

「まだ、あるけれど食べるかい?」

 ジンはフェイロンから饅頭を奪うようにして食べる。
 フェイロンはびっくりしたけれど、饅頭を頬張り天を仰ぐジンを見て、アゴに手を当てながら嬉しそうに微笑んだ。

 夜は人を解放的にさせる。
 夜は多くの動物が穏やかな気持ちになれる。
 夜は眠る時間。
 昼間とは違う。

 シャーーーーッ

 暗闇からの刺客―――

 シュッ

「ん?」

 ジンが食べるのに夢中になっていたが、フェイロンが暗闇に針状の物を投げた。

「ん? まぁ、元の持ち主かな?」

「持ち主ってなんだ?」

「やっぱり、奪うのは良くないよね」

「えっ、あっ・・・・・・」

 ジンはフェイロンが饅頭を取ったことを怒って、八つ当たりで投げたのかと思って慌てた。

「あぁ、違うんだ」

 暗闇を確認するフェイロン。
 そこには闇の住民、蛇がいた。闇を奪われ、そして命を奪われた蛇がいた。

「でも、ごめんね。僕はこの光を消したくはないんだ」

 フェイロンはそう言いながら、炎・・・・・・の向こうにある小さくも眩しい光を見ていた―――
 
 

 
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