兄さまとぼくの20年の過去とこれからの未来

西東友一

文字の大きさ
上 下
7 / 10

しおりを挟む
 馬に乗って、草原を縦横無尽に駆け巡ったジンとフェイロン。
 興奮するジンと見づらい状態で馬を操っていたフェイロン。
 夕日が山に沈む頃、一番最初に疲れてしまったのは、二人より遥かにでかい馬の方だった。

「よっと」

 馬から先に降りたのはフェイロン。
 ジンはそのまま置いてけぼりになるんじゃないかと不安な顔をする。

(ふふっ。かわいいな・・・)

 フェイロンは、ジンを安心させるような穏やかな笑顔でジンに手を差し伸べると、ジンは安堵の顔をして馬から降りるのを助けて貰った。

「・・・んっ」

 地面に降りたジンは、さっきまで馬の上で散々揺れていたのが無くなり、身体が揺れを求めているのか、地面がぐらつくような錯覚を味わった。ジンはその酔ったみたいな面白い感覚を噛みしめた。

「どうだい、楽しかったかい?」

 フェイロンに話しかけられて、ジンは自分一人で盛り上がっていたのが少し気恥ずかしくなりながら、

「うん、ああ・・・」

 ジンは少し歯切れが悪かった。
 というのも、ジンはフェイロンと出会った時よりも仲良くなりたいと思った。

 でも、自分よりも優れているであろうフェイロンにため口で良いのか、丁寧語がいいのか少し悩んでいたからだ。
 
 ジンはフェイロンがどんな反応をするのか、心配そうに見ていたけれど、

「それは良かった」

 フェイロンはジンの言い方など少しも気にせず、得意げな顔で嬉しそうに笑った。それを見てホッとしたジンはフェイロンと対等に胸が張れそうなのが嬉しくて、ニヤけるのを堪えた。

 キューーーーっ。

 初めての乗馬はとても興奮したが、緊張もしていた。安堵したジンのお腹は貰った桃なんてあっという間に消化は済んでいて、催促の警報音を鳴らした。

「ふふっ。ジンはお腹だけは正直だね」

「うっ、うるせー」

(やっぱり、嫌な奴だ)

 フェイロンにしてみれば、ちょっとしたかわいがりだったけど、ジンは意地悪に慣れていなかった。

「なんだよ・・・?」

「いや」

 ただ、フェイロンから敵意を感じなくなったジンは、フェイロンの笑顔が喧嘩を売っているわけではないと分かり、先ほどよりは少しだけ嫌な気はしなかった。

「火は起こせる?」

「馬鹿にすんな、当然だろ」

「じゃあ、お願いするよ」

「はぁ!? なんで、俺が」

 ジンは大きな声を出した。別に火を起こすのなんて、造作もないことだ。けれど、お願いであっても命令されることを反射的に拒んでしまった。

「うん、じゃあそこら辺にいてくれるかな?」

 そんなジンの態度に動じることなく、フェイロンは命令でもお願いでもなく、提案してみた。

「・・・分かった」

「うん、ありがとう」

 フェイロンはジンの返事にお礼を言って「さて・・・」と言いながら手を擦り合わせて周りを確認し、何かを始めようとする。

「おい・・・」

「ん? なんだい?」

 ジンはバツが悪そうに頬を掻きながら、

「・・・どこに火を作ればいいんだ」

 と、ジンは初めてフェイロンに歩み寄ってみた。

  
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

当て馬系ヤンデレキャラになったら、思ったよりもツラかった件。

マツヲ。
BL
ふと気がつけば自分が知るBLゲームのなかの、当て馬系ヤンデレキャラになっていた。 いつでもポーカーフェイスのそのキャラクターを俺は嫌っていたはずなのに、その無表情の下にはこんなにも苦しい思いが隠されていたなんて……。 こういうはじまりの、ゲームのその後の世界で、手探り状態のまま徐々に受けとしての才能を開花させていく主人公のお話が読みたいな、という気持ちで書いたものです。 続編、ゆっくりとですが連載開始します。 「当て馬系ヤンデレキャラからの脱却を図ったら、スピンオフに突入していた件。」(https://www.alphapolis.co.jp/novel/239008972/578503599)

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

僕はお別れしたつもりでした

まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!! 親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。 大晦日あたりに出そうと思ったお話です。

悪役Ωは高嶺に咲く

菫城 珪
BL
溺愛α×悪役Ωの創作BL短編です。1話読切。

物語のその後

キサラギムツキ
BL
勇者パーティーの賢者が、たった1つ望んだものは……… 1話受け視点。2話攻め視点。 2日に分けて投稿予約済み ほぼバッドエンドよりのメリバ

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

前世である母国の召喚に巻き込まれた俺

るい
BL
 国の為に戦い、親友と言える者の前で死んだ前世の記憶があった俺は今世で今日も可愛い女の子を口説いていた。しかし何故か気が付けば、前世の母国にその女の子と召喚される。久しぶりの母国に驚くもどうやら俺はお呼びでない者のようで扱いに困った国の者は騎士の方へ面倒を投げた。俺は思った。そう、前世の職場に俺は舞い戻っている。

処理中です...