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 ―――未来を見よう。

 ジンをまっすぐ見つめるフェイロン。
 その瞳は汚れなく純粋で、ジンには眩しく感じて、劣等感を認めたくないジンは怒りに変換する。

「俺に見えるのは、てめぇの苛つく顔だっ」

 再び拳を振るうジン。けれど、武術でも何でもない大ぶりの拳はフェイロンには当たらない。

「はぁ・・・・・・」

 毅然としていたフェイロンも思わずため息をつき、服の襟を正した。

「そんなだから、キミは三度も冬に死にかけているんだよ?」

 フェイロンの言葉をきっかけに、ジンは冬の朝に起きた時、雪の上に食べ物が置いてあったことを思い出した。その顔を見て、フェイロンが「ようやく、気づいたようだね」とニコッと笑った。

「まったく、冬場にマンモスを捕ろうとしたって、一人で捕まえられるわけないだろ?」

 ジンの言い方は柔らかかったけれど、ジンをおちょくっているのは間違いなかった。
 けれど、ジンは先ほどのように殴りかかる様なことはできなかった。

 ジンは何度かマンモスを捕まえたことがある。
 自分の身体の何十倍もの大きさのマンモスを倒す。
 それはとても誇らしいことで、誰かに自慢したいと思っていたくらいだった。

 その成果が目の前にいる奴のおかげと言われたら、恥ずかしさがお腹のあたりから顔のあたりまでぶわっと吹き出そうになりながら押し上がってきた。自分の嬉しい思い出が汚された気持ちを殴ろうとすることで、決して悟られたくなかった。

(そういえば・・・・・・っ)

 ジンは今までの人生で時々視線を感じていた。
 それもいろんな場所から。
 茂みの中、木々の中、大地、山、川、海・・・・・・
 けれど、視線の主はいつも見つからない。
 不思議に思ったことをそのまま放っておくのもなんだか気持ちが悪くて、ジンはこう結論付けた。

『神様が主人公である俺を見ている』

 今はお腹が減って気が立っているジンだし、本能に従って生きるジンは一見動物的だが、ジンは様々な物に神が宿っている思って、感謝する信仰心や敬虔な態度をとることもあった。

「素敵だと思うよ、手を合わせて感謝することは」

 自分は目の前の少年の名前すら知らず初めて認識したのに、その少年は自分の全てを知っている―――
 その事実はとても気持ち悪くて、そして雄として認めたくなかった。
 ジンはフェイロンを殺して、その血で過去を塗りつぶして消し去りたいと思った。
 けれど、何度も攻撃しても、簡単に交わしてしまうフェイロン。ジンは殺気を込めて睨んで殺せるならば、殺してしまいたいと思い、充血するくらい殺気を込めた目でフェイロンを睨んだ。あまり好きではなく、関わらないようにさけてきたものだったけれど、呪い殺せるならば、初めて呪いに頼ってもいいと思うくらいフェイロンを憎んだ。

 そんなジンが取った次の行動。
 それは―――

「えっ」

 フェイロンはジンの行動に驚いた。
 それは三年間ジンを陰から観察し、援助してきたフェイロンですら読めない行動だった。

 ジンは逃げた。
 ジンは逃げたのだ。

 さきほどまでジンの傍にいた犬のように、尻尾を巻いて逃げた。
 ジンの情けないこの行動が皮肉にも、初めてフェイロンを出し抜いた。
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