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「さぁ、お願いします。ブレンダ様」

 気品のある黒いドレスを身にまとい、胸元のには大きな赤い宝石を着た綺麗な女性に対して、二人の召使いの女性たちが深々と頭を下げた。

 彼女らの前に立っていたのは、地球からの転生者、白川桜。彼女はある強い意志と、数奇なるめぐり合わせで異世界に転生し、気が付いたらウィリアム家の令嬢、サクラ・ブレンダ・ウィリアムとして絶賛目を覚ましたばかりだ。

 虫も殺したことがない彼女は、せっかくの綺麗な顔立ちなのに、顔を引きつかせながら、さらに前にいる「奴」を指さした。

 GYAAAAAAAAAAAA

 サクラが見たどんな鉱石や金属よりも固そうな漆黒のウロコ。観覧車ぐらい大きい黒竜はオスのヤギのような角を左右に生やし、口には鋭い牙がぎらついている。その叫び声だけで数百万の人を殺せるんじゃないかと思うくらい激しい息吹と、大きな翼を威嚇するように羽ばたかせるので、サクラはその突風を防ぐように防御態勢を取る。

 暴れ出した黒竜だったが、鎖に縛られており、地団駄を踏むように暴れるけれど、鎖がどんどんきつくなり、動きが弱まった。とはいえ、その圧倒的な力の前にいつ鎖がちぎれてもおかしくない状況だ。

「ブレンダ様、お願いします!!」

 サクラの後ろに召使いの女性たちが一生懸命頭を下げる。
 サクラには記憶がほとんどなかったけれど、彼女には天才的なテイム(モンスターを手なずける力)があった。竜を手なずけることができる人間はこの世界では数えるほどしかおらず、彼女はその一人であり、まだ誰も手なずけたことがない最悪の天災の一つ、漆黒の竜ブラックカオスを捕まえることに成功し、使役するモンスターとするために数日をかけてテイムしようとしていたのだ。
 捕まえることですら、奇跡に近い御業。なので、召使いたちも怯えながらも彼女にお願いしたのだ。

 けれど、中身は白川桜だ。
 サクラは必死に首を横に何度も振る。

「お戯れは、どうか、どうか許してくださいませっ!!!」

 召使いは何度も深々と頭を下げる。召使いはサクラの精神に変化があったことなど知らないので、今回も自分たちが怖がる姿を見るためにふざけていると思ったのだ。このサクラ・ブレンダ・ウィリアムは白川桜と異なり、残虐な女性であり、動物も人間もいたぶり、虐げるのが大好きだった。しかし、まだ目を覚ましてわずかしか経ってないサクラもブラックカオスの威圧感にそんなことを考える暇も無かったのだった・・・。
 

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